後鼻出血は多くの場合,バルーンタンポナーデでコントロールできる。
鼻出血は,鼻腔前部または後部からの出血に起因する。前部の出血の方がはるかに頻度が高いが,後部の出血はより危険であり,管理方法が異なるため,出血部位の同定が極めて重要である。明らかな鼻腔前部の出血源がなく持続する鼻出血は,ほとんどの場合,後部の出血部位が原因である。
後部の出血はときに血管収縮薬の外用剤によりコントロールされる。コントロールされなければ,通常は鼻腔パッキングによる治療が必要となる。歴史的にはガーゼパッキングが用いられていたが,バルーンタンポナーデの方が施行が容易であり,患者にとってもより快適であるため,通常は好まれる。鼻腔の前部と後部の両方を同時に閉塞できるバルーンもある。(Clinical Practice Guideline: Nosebleed (Epistaxis)を参照のこと。)
鼻腔後部のパッキングは非常に強い不快感を伴う。静注による鎮静および鎮痛が必要になることが多く,入院が必要である。心臓モニタリングとパルスオキシメトリーの使用が強く推奨される。
(鼻出血,焼灼による鼻出血の治療,および鼻腔パッキングによる前鼻出血の治療を参照のこと。)
バルーンによる後鼻出血の治療の適応
後部の出血源が疑われる鼻出血
バルーンによる後鼻出血の治療の禁忌
絶対的禁忌
頭蓋底骨折の可能性があるか,同定された場合
顎顔面または鼻骨の重大な外傷
コントロール不良の気道または血行動態の不安定性
ここで述べる処置法は,自然発生した後鼻出血を対象としたものである。重大な顔面外傷がある患者の鼻出血は,専門医が管理すべきである。
相対的禁忌
出血側への重度の鼻中隔弯曲症(バルーン機器の挿入が困難になる)
バルーンによる後鼻出血の治療の合併症
損傷(例,圧迫壊死)
鼻腔パッキングの移動および気道内への誤嚥または気道障害
感染症(副鼻腔炎,中耳炎,まれに毒素性ショック症候群など)
カテーテルが頭蓋底を越えて脳実質に侵入する(既存の頭蓋底の外傷がなければ可能性は低い)
嚥下困難
耳管閉塞に続発する中耳炎
鼻翼の壊死
ときに低酸素血症(特に鎮静も行う場合)
三叉神経心臓反射の活性化(不整脈や心停止にさえ至ることがある)*
*このような心合併症は文献で報告されているものの,依然として議論がある。
バルーンによる後鼻出血の治療で使用する器具
手袋,マスク,ガウン
患者用のガウンまたはドレープ
心電図モニター,パルスオキシメーター
静脈内投与用の器具:18G(またはそれ以上)の留置針と等張の電解質輸液(例,0.9%生理食塩水)1L
必要であれば鎮静薬/鎮痛薬(例,フェンタニル0.5~1.0μg/kg,最大用量100μg;65歳以上ではより低用量とし効果が出るまで漸増することを考慮)
滅菌ガーゼ
膿盆
吸引装置とFrazier型吸引管付き吸引カテーテル
ヘッドレスト付きの椅子または耳鼻咽喉科用の椅子
光源と額帯鏡または調節可能な細い光線のヘッドランプ
鼻鏡
舌圧子
バイオネット型鑷子
12~16Frのバルーンカテーテル(例,フォーリーカテーテル)または市販の鼻出血用バルーン(シングルバルーンまたはダブルバルーン)
麻酔薬/血管収縮薬の混合外用剤(例,4%コカイン,1%テトラカイン,または4%リドカイン + 0.5%オキシメタゾリン),または血管収縮薬のみの外用剤(例,0.5%オキシメタゾリンスプレー)
水溶性の潤滑剤または麻酔ゼリー(例,リドカインビスカス)
綿球または綿棒
ときに,ガーゼ片を用いた鼻腔前部のパッキング用の備品および器具
バルーンによる後鼻出血の治療に関するその他の留意事項
鼻出血を治療する前に,循環血液量減少またはショックがあれば,それに対する治療を開始する。
抗凝固薬または抗血小板薬の使用について問診する。
出血性疾患の症候がみられるか,重度または反復性の鼻出血がある場合は,血算,プロトロンビン時間(PT),および部分トロンボプラスチン時間(PTT)の結果を確認する。
鼻腔後部のパッキングで鼻出血がコントロールされない場合は,専門医による以下のような侵襲的処置が必要になることがある:
内視鏡的SPA結紮術は,耳鼻咽喉科医が施行するもので,SPA血管内塞栓術と比較して,重大な合併症(例,脳卒中,失明)のリスクが低く,全身麻酔に安全に耐えられる患者や塞栓術が容易に施行できない状況では,より適切となる可能性がある。
SPA血管内塞栓術は,IVR専門医(interventional radiologist)が局所麻酔下で施行し,安全な全身麻酔を不可能にする併存症が複数ある患者,抗凝固療法を受けている患者,および過去に内視鏡的SPA結紮術の施行後に出血がみられた患者では,より好ましい可能性がある。
バルーンによる後鼻出血の治療における重要な解剖
重度または難治性の後鼻出血は,しばしば蝶口蓋動脈またはその近位枝に由来する。
バルーンによる後鼻出血の治療での体位
患者を座位にし,頭部を伸展させてスニッフィングポジションをとらせる(耳鼻咽喉科用の椅子が望ましい)。患者の後頭部を支え,突然後方に動かないようにすべきである。患者の鼻が医師の眼と同じ高さに来るようにすべきである。
持続する出血や嚥下した血液の嘔吐があった場合に受け止めるために,患者に膿盆を持たせておくべきである。
バルーンによる後鼻出血の治療のステップ-バイ-ステップの手順
最初のステップ:
静脈内投与を開始し,必要な臨床検査があればオーダーする。
患者に心電図モニターとパルスオキシメーターを装着する。
患者に鼻をかむよう指示して血栓を除去するか,愛護的に鼻腔を吸引する。
出血部位の同定(およびおそらく止血)に役立てるために,血管収縮薬/麻酔薬の混合剤を塗布する:4%コカイン溶液または4%リドカイン + オキシメタゾリン約3mLを小さな薬杯に入れ,綿球2~3個をそれに含浸させ,縦に重ねるように鼻に挿入する(あるいは,オキシメタゾリンなどの血管収縮薬の外用剤を噴霧し,表面麻酔薬のみを含浸させた綿球を挿入する)。
止血または出血の軽減,麻酔,および粘膜腫脹の軽減のために,外用剤を10~15分間塗布したままにする。
患者の鼻または頬に示指を当て,鼻鏡を柄が床と平行になるように(ブレードが縦に開くように)挿入する。
明るいヘッドランプまたは額帯鏡(片手が空き吸引または器具を操作できる)を使用して,ゆっくりと鼻鏡を開き鼻を診察する。
鼻腔前部に出血部位が視認できない場合は,舌圧子を用いて中咽頭を観察する。持続する出血は後部の出血源を示唆する。
バルーンカテーテルを留置して,後部の活動性出血に対してタンポナーデを行う:
鎮痛薬を静脈内投与する(例,フェンタニル0.5~1.0μg/kg,最大用量100μg;65歳以上ではより低用量とし効果が出るまで漸増することを考慮)。
バルーンカテーテルを鼻に挿入し,鼻腔底と平行に愛護的に前進させる。口から見たときに先端が中咽頭にあるのが見えるまで,カテーテルを進める。
市販の鼻出血用バルーンでは,膨張に関する説明書の記載に従う。フォーリーカテーテルを使用する場合は,5~7mLの水でバルーンを部分的に膨張させる。カテーテルが鼻腔後部にしっかり固定されるまで,カテーテルを愛護的に前方に牽引する。さらに5~7mLの水を徐々に加える。
軟口蓋の疼痛または下方偏位が生じた場合は,疼痛が消失するか軟口蓋の偏位がなくなるまで,バルーンを収縮させる。
カテーテルを牽引しながら,ワセリンガーゼを重ねたパッキングを鼻腔前部に留置する。
鼻中隔弯曲を回避するために,対側の鼻腔前部のパッキングを考慮する。
鼻翼を保護するために鼻孔の位置でカテーテルをガーゼで包み,バルーンが後方へ滑って鼻腔後部から外れないように,カテーテルにクランプを取り付ける。
ダブルバルーンカテーテルを使用する場合は,シングルバルーンカテーテルの場合と同様の一般的な手技を用いて,まず後方のバルーンを膨らませる。その後,前方のバルーンを膨らませる(典型的には30mL)。ダブルバルーンカテーテルを使用する場合は,ガーゼを重ねた鼻腔前部のパッキングは不要である。
バルーンによる後鼻出血の治療のアフターケア
バルーンによる後鼻出血の治療の注意点とよくあるエラー
鼻鏡を側面に向かって開いたり,支えなしで使用したりしてはならない。(鼻鏡を持つ手の指を患者の頬または鼻に当てて支える。)
カテーテルのバルーンを充填しすぎると顕著な疼痛を引き起こすことがある。
バルーンによる後鼻出血の治療のアドバイスとこつ
術者がかがむよりも,患者の椅子を眼の高さまで上げた方が,術者の腰にかかる負担が軽くなる。
鼻腔後部のパッキングの留置後は,フォローアップを確実にするため,必ず耳鼻咽喉科医へのコンサルテーションを行う。
鼻腔後部のパッキングを留置した後,口から観察してさらなる出血が喉へ流れていないことを確認する。出血がある場合は,カテーテルのバルーンにさらに液体を注入する。これで出血をコントロールできない場合は,直ちに耳鼻咽喉科医へのコンサルテーションを行う。
参考文献
1.Rudmik L, Smith TL: Management of intractable spontaneous epistaxis.Am J Rhinol Allergy 26(1):55-60, 2012.doi:10.2500/ajra.2012.26.3696
2.Christensen NP, Smith DS, Barnwell SL, et al: Arterial embolization in the management of posterior epistaxis.Otolaryngol Head Neck Surg 133:748-753, 2005.doi: 10.1016/j.otohns.2005.07.041