顎下隙の感染症は口腔の下にある軟部組織の急性の蜂窩織炎である。症状としては,疼痛,嚥下困難,死に至る場合もある気道閉塞などがある。通常,診断は臨床的に行う。治療法としては,気道管理,外科的排膿,抗菌薬の静脈内投与などがある。
顎下隙の感染症は,急速に拡大する,両側性で,硬結性の蜂窩織炎であり,膿瘍形成を伴うことなく,舌骨上の軟部組織,口底,ならびに舌下隙および顎下隙の両方に生じる。真の膿瘍ではないが,臨床的には膿瘍に類似し,膿瘍と同様に治療する。
通常,本疾患は歯性感染症(特に下顎第2および3大臼歯からの感染)により出現する。誘因には,歯の衛生不良,抜歯,および外傷(例,下顎骨骨折,口底の裂傷)などがある。
症状と徴候
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顎下隙の感染症の初期臨床像は罹患歯の歯痛であり,圧痛を伴う限局性で重度のオトガイ下および舌下の硬結を伴う。口底の板状硬結および舌骨上の軟部組織の肥厚性の硬結が急速に発生することがある。流涎,開口障害,嚥下困難,喉頭浮腫により引き起こされる吸気性喘鳴,および舌根部の口蓋側への挙上がみられることがある。通常,発熱,悪寒,および頻脈もみられる。本疾患は数時間以内に気道閉塞を引き起こしうるが,他の頸部感染症より頻度が高い。全死亡率は約0.3%となっている(1)。
総論の参考文献
1.McDonnough JA, Ladzekpo DA, Yi I, et al: Epidemiology and resource utilization of ludwig angina ED visits in the United States 2006-2014.Laryngoscope129(9):2041–2044, 2019.doi: 10.1002/lary.27734
診断
臨床的評価およびときにCT
顎下隙の感染症は通常,臨床的評価の際に明らかとなる。明らかでない場合は,診断を確定するためにCTを施行する。
治療
気道の開存性の保持
外科的な切開排膿
口腔細菌叢に対して有効な抗菌薬
気道の開存性の保持が最優先である。腫脹により経口気管挿管が困難であるため,ファイバースコープによる経鼻気管挿管を手術室または集中治療室で,患者の意識下に表面麻酔下で施行するのが望ましい。気管切開を必要とする患者もいる。即時の挿管を要しない患者では,注意深い観察が必要であり,経鼻エアウェイ(nasal trumpet)により一時的な便益が得られる。
顎舌骨筋深部へのドレーン留置を伴う切開排膿により,圧迫が緩和される。抗菌薬は,口腔内の嫌気性菌および好気性菌の両方をカバーするように選択すべきである(例,クリンダマイシン,アンピシリン/スルバクタム,および/または高用量ペニシリン)。