扁桃咽頭炎

(扁桃炎;咽頭炎)

執筆者:Alan G. Cheng, MD, Stanford University
レビュー/改訂 2022年 3月
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扁桃咽頭炎とは,咽頭,口蓋扁桃,またはその両方の急性感染症である。症状としては,咽頭痛,嚥下痛,頸部リンパ節腫脹,発熱などある。診断は臨床的に行い,培養または迅速抗原検査により補完する。治療は症状に基づいて行い,A群β溶血性レンサ球菌の症例では抗菌薬を投与する。

扁桃は全身の免疫監視に携わっている。さらに,扁桃の局所の防御には抗原処理を行う扁平上皮の被膜(BおよびT細胞応答が関与する)などがある。

全ての種類の扁桃咽頭炎が,プライマリケア医受診例の約15%を占める。

レンサ球菌感染症も参照のこと。)

扁桃咽頭炎の病因

通常,扁桃咽頭炎はウイルス性であり,一般的な感冒ウイルス(アデノウイルス,ライノウイルス,インフルエンザ,コロナウイルス,およびRSウイルス)に起因することが最も多いが,ときにエプスタイン-バーウイルス,単純ヘルペスウイルス,サイトメガロウイルス,またはHIVによる。

約30%の患者において,原因は細菌性である。A群β溶血性レンサ球菌(GABHS)が最も一般的である(レンサ球菌感染症を参照)が,ときに黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus),肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae),肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae),および肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)が関与する。まれな原因としては,百日咳,Fusobacterium,ジフテリア,梅毒,淋菌感染症などがある。

GABHSは5~15歳で好発し,3歳未満ではまれである。

扁桃咽頭炎の症状と徴候

嚥下に伴う疼痛が扁桃咽頭炎の特徴であり,しばしば耳に関連痛が生じる。咽頭痛を訴えることができない非常に年少の小児は,しばしば食べることを拒む。高熱,倦怠感,頭痛,および消化管障害がよくみられ,口臭およびくぐもった声も同様である。扁桃は腫脹および発赤し,しばしば膿性滲出液がある。圧痛を伴う頸部リンパ節腫脹が認められることがある。GABHSによる扁桃咽頭炎では発熱,リンパ節腫脹,口蓋の点状出血,および滲出液が,ウイルス性扁桃咽頭炎と比べ,いくぶん頻度が高いが,重複所見は多い。GABHSの場合,猩紅熱様発疹(猩紅熱)がみられることがある。

GABHSは,通常7日以内に消失する。未治療のGABHSは,局所の化膿性合併症(例,扁桃周囲膿瘍または蜂窩織炎)およびときにリウマチ熱または糸球体腎炎に至ることがある。

扁桃咽頭炎の診断

  • 臨床的評価

  • ルーチンまたは選択的に迅速抗原検査,培養,またはその両方を行うことでA群β溶血性レンサ球菌(GABHS)を除外する

咽頭炎自体は,臨床的に容易に認識される。しかしながら,原因の同定は容易ではない。通常,鼻漏および咳嗽はウイルス性の原因を示唆する。後頸部または全身性のリンパ節腫脹,肝脾腫,疲労,および倦怠感が1週間以上続くこと,軟口蓋の点状出血を伴う頸部全体の腫脹,ならびに粘稠な扁桃滲出物からは,伝染性単核球症が示唆される。剥離すると出血する暗灰色で厚く,丈夫な膜は,ジフテリアを示す(米国ではまれ)。

GABHSには抗菌薬が必要となるため,早期に診断する必要がある。検査の基準については議論がある。多くの専門医は,迅速抗原検査または培養による検査を全ての小児に行うことを推奨している。迅速抗原検査の特異度は高いが,感度は低く,特異度約90%かつ感度90%である培養を引き続き行わなければならない場合がある。成人では,多くの専門医が以下4項目の修正センタースコア(Centor score)の基準を使用することを推奨している(1):

  • 発熱の既往

  • 扁桃滲出物

  • 咳嗽がない

  • 圧痛を伴う前頸部のリンパ節腫脹

該当する基準が1項目または0項目の患者は,GABHSを有する可能性が低く,検査すべきではない。2項目の基準を満たす患者は検査してもよい。3~4項目の基準を満たす患者には,検査またはGABHS感染症に対する経験的治療を行うことができる。

診断に関する参考文献

  1. 1.Fine AM, Nizet V, Mandl KD: Large-scale validation of the Centor and McIsaac scores to predict group A streptococcal pharyngitis.Arch Intern Med 172(11):847-852, 2012.doi: 10.1001/archinternmed.2012.950

扁桃咽頭炎の治療

  • 対症療法

  • GABHSに対しては抗菌薬

  • 再発性のGABHSに対しては扁桃摘出術を考慮

扁桃咽頭炎の支持療法としては,鎮痛,水分補給,安静などがある。鎮痛薬は全身投与でも,局所投与でもよい。通常,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は効果的な全身性鎮痛薬である。コルチコステロイドの単回投与(例,デキサメタゾン10mg筋注)も行う医師もおり,これは再発率または有害作用発生率に影響を及ぼすことなく症状持続期間を短縮するのに役立つことがある(1)。局所鎮痛薬はトローチおよびスプレーとして利用できる;成分には,ベンゾカイン,フェノール,リドカイン,および他の薬物などがある。これらの局所鎮痛薬は疼痛を緩和する可能性があるが,繰り返し使用する必要があり,しばしば味覚に影響を及ぼす。咽頭炎に対して使用されるベンゾカインは,まれにメトヘモグロビン血症を引き起こしている。ときに局所鎮痛薬の用量を制限する必要がある。

通常,GABHSによる扁桃咽頭炎に対してはペニシリンVが選択すべき薬剤と考えられている;用量は,27kg未満の患者には250mg,1日2回経口にて10日間,27kgを超える患者には500mg,1日2回経口にて10日間である。液体製剤が必要な場合,アモキシシリンは効果的であり,味がよりよい。内服の遵守(アドヒアランス)に懸念がある場合,ベンジルペニシリンベンザチン120万単位(27kg以下の小児には60万単位)の筋肉内単回投与が効果的である。他の経口薬には,ペニシリンアレルギーの患者に対するマクロライド系薬剤,第1世代セファロスポリン系薬剤,およびクリンダマイシンなどがある。OTC医薬品の過酸化水素を1:1の割合で水で希釈し,それでうがいをすると,菌等の除去が促され,中咽頭の衛生が促進される。

治療は直ちに開始する場合も,培養の結果が判明するまで延期する場合もある。推測に基づき治療を開始した場合,培養が陰性であれば治療を中止すべきである。フォローアップとしての咽頭培養はルーチンには行わない。GABHS感染が何度も再発する患者や,家庭または学校で咽頭炎が濃厚接触者に伝播している場合に有用である。

扁桃摘出術

GABHSによる扁桃炎が繰り返し再発する場合(> 6回/年,> 4回/年が2年間,または > 3回/年が3年間)または抗菌薬の投与にもかかわらず,急性感染症が重症でかつ持続する場合,扁桃摘出術がしばしば考慮されている。扁桃摘出術に対する他の基準としては,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,再発性の扁桃周囲膿瘍,がんの疑いなどがある。(American Academy of Otolaryngology–Head and Neck Surgery Clinical Practice Guideline: Tonsillectomy in Children [Update]も参照のこと。)決定は,患者の年齢,多数の危険因子,および感染再発率に対する反応に基づき,個別になされるべきである(2)。

扁桃摘出を行うために,電気メスによる切開法,マイクロデブリッダー,ラジオ波を用いたコブレーション,および鋭的な剥離など,多数の効果的な手術手技が用いられている。術中または術後の多量の出血が2%未満の患者に発生し,通常は術後24時間以内,または術後7日以降で痂皮が剥がれたときに起こる。出血している患者は来院すべきである。来院時に出血が続いている場合,一般的には手術室で診察し,止血する。扁桃窩に凝血塊があれば除去し,患者を24時間観察する。3%以下の患者において術後の輸液による水分補給が必要となり,おそらく術前の至適な水分補給,周術期の抗菌薬,鎮痛薬,およびコルチコステロイドを用いた患者においてはより少ない。

重度の閉塞性睡眠障害が判明している2歳未満の小児,病的肥満の患者,神経疾患もしくは頭蓋顔面形成異常のある患者,または術前に著明な閉塞性睡眠時無呼吸症候群がみられる患者では,術後の気道閉塞が高い頻度で発生する。合併症は一般的に成人でより多く,かつ重篤である。蓄積されたエビデンスによると,扁桃切除術(tonsillotomy)(扁桃組織の被膜内で部分切除する)は,様々な疾患の治療として施行された場合,従来の扁桃摘出術(tonsillectomy)と同等の効果があり,疼痛,術後合併症,および患者満足度に関連するアウトカムが良好であることから,より望ましいことが示唆されている(3)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Hayward G, Thompson MJ, Perera R, et al: Corticosteroids as standalone or add-on treatment for sore throat.Cochrane Database Syst Rev., 2012.doi: 10.1002/14651858.CD008268.pub2

  2. 2.Ruben RJ: Randomized controlled studies and the treatment of middle-ear effusions and tonsillar pharyngitis: how random are the studies and what are their limitations?Otolaryngol Head Neck Surg.139(3):333-9, 2008.doi: 10.1016

  3. 3.Wong Chung JERE, van Benthem PPG, Blom HM: Tonsillotomy versus tonsillectomy in adults suffering from tonsil-related afflictions: a systematic review.Acta Otolaryngol 138(5):492-501, 2018.doi: 10.1080/00016489.2017.1412500

要点

  • 咽頭炎自体は臨床的に容易に認識されるが,25~30%の症例では,レンサ球菌感染症によるもの(レンサ球菌咽頭炎)かどうか確認するために検査が必要になる可能性が高い。

  • 迅速抗原検査およびときに培養を用いて全ての小児を検査することを推奨する専門医もいるが,臨床基準(改変センタースコア[modified Centor score])が,さらなる検査または経験的な抗菌薬療法を受ける患者の選定に役立つ可能性がある。

  • レンサ球菌咽頭炎に対しては依然としてペニシリンが第1選択薬であるが,ペニシリンアレルギーがある患者に対しては,セファロスポリン系またはマクロライド系薬剤が代替薬となる。

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