皮膚蝿蛆症

執筆者:James G. H. Dinulos, MD, Geisel School of Medicine at Dartmouth
レビュー/改訂 2020年 5月
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    皮膚蝿蛆症は,特定種のハエの幼虫が皮膚に寄生した状態である。

    蝿蛆症は2枚の羽根を有する(双翅目)ハエの幼虫(ウジ)が原因となる。原因となる種に応じて,以下の3種類の皮膚寄生がみられる:

    • せつ性(furuncular)

    • 創傷(wound)

    • 移行性(migratory)

    ときに他の臓器が侵されることもある(例,上咽頭,消化管,泌尿生殖器)。寄生は通常,熱帯諸国で生じるため,米国における症例の大半は流行地域から渡航して来て間もない人々である。

    せつ性蝿蛆症(furuncular myiasis)

    一般的な感染源の多くはbot flyとして知られる。中南米原産種のヒトヒフバエ(Dermatobia hominis)は,米国に帰国する旅行者で最も頻度の高い原因生物である。その他の種としては,ヒトクイバエ(Cordylobia anthropophaga,サハラ以南アフリカ),ウサギヒフバエ(Cuterebra)属の様々な種(北米),Wohlfahrtia属のクイバエ(北米,欧州,およびパキスタン)などがある。ハエの多くはヒトに卵を産みつけることはなく,他の昆虫(例,蚊)や,皮膚に接触する物体(例,干された洗濯物)に産みつける。皮膚に付着した虫卵は孵化して幼虫となり,これが皮膚に潜り込み,連続的な段階(齢)を経て成長し,成熟幼虫となる;成熟幼虫の体長は,種によって異なるが,1~2cmである。寄生が放置されると,やがて幼虫が皮膚から出て,地面に落ち,生活環を継続する。

    典型的な症状としては,そう痒,うごめく感覚,ときに電撃様の疼痛などがある。初期病変は虫刺症や細菌性のせつに類似することがあるが,漿液血性の分泌物を伴う中心点の存在により鑑別できる場合がある;ときに幼虫の端の部分がわずかに見えることがある。ヒトヒフバエ(D. hominis)による病変は顔面,頭皮,および四肢に生じることが多いのに対し,ヒトクイバエ(C. anthropophaga)による病変は衣服に覆われた部位に生じ,頭部,頸部,および背部に現れる傾向がある。

    幼虫は大気中の酸素を必要とするため,皮膚の開口部を閉塞することで幼虫を追い出せるか,少なくとも皮膚表面に近づかせ,用手的に除去しやすくなることがある。閉塞の方法は多数あり,ワセリン,マニキュア液,ベーコン,タバコのペーストを使用する方法などがある。しかしながら,閉塞中に死んだ幼虫は除去することが難しくなり,しばしば強い炎症反応を誘発する。小さな切開で幼虫を摘出できる場合もある。イベルメクチンの内服(200μg/kg,単回)または外用により,幼虫を殺すか,移動を誘発できる場合がある。

    創傷蝿蛆症(wound myiasis)

    開放創や粘膜には(典型的にはホームレス,アルコール依存症患者,貧しい社会環境に置かれたその他の人々において),ハエの幼虫(最も多いのはヒロズキンバエまたはクロキンバエの幼虫)が寄生することがある。一般的なイエバエの幼虫とは異なり,創傷蝿蛆症の原因となるハエの大部分は,壊死組織のみならず,健康な組織にも侵入する。

    創傷蝿蛆症の治療は通常,洗浄と用手的なデブリドマンによる。

    移動性蝿蛆症(migratory myiasis)

    最も頻度の高いハエは,ウマバエ(Gasterophilus intestinalis)とヒフバエ(Hypoderma)属である。これらのハエは,典型的にはウマおよびウシに寄生する;ヒトでは,寄生動物との接触,または頻度は低いが皮膚への直接の産卵によって寄生が生じる。これらのハエの幼虫は皮膚の下に潜り込んでそう痒を引き起こし,病変を広げるが,これが皮膚幼虫移行症と誤診されることがある;ただし,ハエの幼虫は線虫よりはるかに大きく,ハエの幼虫により生じた病変はより長期間持続する。

    移行性蝿蛆症の治療は,せつ性蝿蛆症の場合と同様である。

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