基底細胞癌は,特定の表皮細胞に由来する腫瘍であり,緩徐に増殖する表在性の丘疹または結節として発生する。基底細胞癌は,ときにbasaloid keratinocyte(類基底角化細胞)と呼ばれる基底層付近の角化細胞から生じる。転移はまれであるが,局所での増殖により強い破壊性を示すことがある。診断は生検による。治療法は腫瘍の特徴に応じて異なり,具体的には掻爬術および電気乾固術,外科的切除,凍結療法,外用化学療法,ときに放射線療法または薬物療法を行う。
(皮膚がんの概要も参照のこと。)
基底細胞癌は最も頻度の高い皮膚がんであり,米国では毎年400万例を超える新規症例が発生している。日光曝露歴を有する皮膚の色の薄い人々に好発し,皮膚の色の濃い人では非常にまれである。
基底細胞癌は遺伝性症候群との関連もみられ,脂腺母斑の中に発生することもある。色素性乾皮症は,遺伝性のDNA修復欠損を反映した疾患で,非黒色腫皮膚がんや黒色腫の発生につながる可能性がある。基底細胞母斑症候群(Gorlin症候群)は,多発性基底細胞癌のほか,髄芽腫,髄膜腫,乳癌,非ホジキンリンパ腫,卵巣がんが発生する常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患である。Bazex症候群は,多発性基底細胞癌の早期発症に至る可能性がある,まれな遺伝性皮膚疾患である。
基底細胞癌の症状と徴候
基底細胞癌の臨床像と生物学的挙動には非常に大きな幅がみられる。最も頻度の高い病型は以下のものである:
結節型(基底細胞癌の約60%):ほぼ透明からピンク色【訳注:日本人の場合は基本的に黒色】の光沢のある小さな硬い結節で,毛細血管拡張を伴い,通常は顔面に発生する。潰瘍および痂皮形成がよくみられる。
表在型(約30%):乾癬または限局性皮膚炎との鑑別が困難な境界明瞭で紅色またはピンク色【訳注:日本人の場合は基本的に黒色】の薄い丘疹または局面で,一般的には体幹に発生する。
斑状強皮症型(5~10%):平坦で硬結した瘢痕様の局面で,色は皮膚常色または淡赤色で,境界は不明瞭である。
その他:他の病型もありうる。結節型および表在型基底細胞癌は,色素を産生することがある(ときに色素性基底細胞癌と呼ばれる)。
基底細胞癌は,典型的には緩徐に増殖する表在性の丘疹または結節として生じ,潰瘍を形成することもある。
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この病変は通常,真珠様の硬いドーム状結節として出現し,しばしばその境界に沿って拡張血管が複数認められる。
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この基底細胞癌は,著明な毛細血管拡張を伴う蝋様の平坦かつ境界不明瞭な局面を呈している。
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色素性基底細胞癌はまれである。その病変は,ときに誤って色素性母斑や悪性黒色腫と診断される。
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最も一般的な経過をとれば,この癌腫は光沢のある丘疹として始まって徐々に増大し,数カ月後から数年後には辺縁に光沢のある真珠様の変化を認めるようになり,その表面には著明に怒張した血管(毛細血管拡張)が,中央部には陥凹または潰瘍形成がみられる。痂皮形成または出血を繰り返すことがまれではない。一般的に,基底細胞癌は痂皮形成と治癒を交互に繰り返すことがあり,このため患者も医師もこの病変の重大さを不当に軽視しがちである。
基底細胞癌の診断
生検
基底細胞癌の診断は生検と組織学的検査による。
基底細胞癌の予後
基底細胞癌が転移することはまれであるが,健常組織に浸潤することがある。基底細胞癌は皮下の重要構造物や開口部(例,眼,耳,口,骨,硬膜)に浸潤ないし侵入することがあるため,まれに死に至ることもある。
基底細胞癌の既往を有する患者の約25%は,最初の発症から5年以内に新たな基底細胞癌を発症する。このため,基底細胞癌の既往がある患者には,年1回の頻度で皮膚診察を受けさせるべきである。
基底細胞癌の治療
通常は局所的な方法による
基底細胞癌の治療は専門医が行うべきである。
治療法の選択肢は,臨床的な外観,大きさ,部位,および組織型に応じて異なり,具体的には掻爬術および電気乾固術,外科的切除,凍結療法,外用化学療法(イミキモドまたはフルオロウラシル),光線力学療法,ときに放射線療法などを行う。
再発したがん,治療が不完全で終わったがん,大きながん,再発が多い部位(例,頭頸部)のがん,および境界不明瞭な斑状強皮症型のがんには,しばしばMohs顕微鏡手術が施行されるが,この手技では,切除標本に腫瘍が認められなくなるまで(術中に顕微鏡検査で判断する)腫瘍の辺縁組織を逐次切除していく。
手術および放射線療法の適応がともにない(例,病変が大きい,再発,転移あり)転移例または局所進行例には,ビスモデギブ(vismodegib)とソニデギブ(sonidegib)を投与してもよい。どちらの薬剤もヘッジホッグシグナル伝達経路を阻害するが,これは一部の腫瘍で放射線療法や化学療法に対する反応に影響を与える経路であり,基底細胞癌患者の大半でこの経路に異常変異が認められる。PD-1(programmed death 1)阻害薬であるセミプリマブは,ヘッジホッグ経路阻害薬に耐えられない患者に対する選択肢である(1)。
治療に関する参考文献
1.Stratigos AJ, Sekulic A, Peris K, et al: Cemiplimab in locally advanced basal cell carcinoma after hedgehog inhibitor therapy: An open-label, multi-centre, single-arm, phase 2 trial.Lancet Oncol 22(6):848–857, 2021.doi: 10.1016/S1470-2045(21)00126-1
基底細胞癌の予防
基底細胞癌には紫外線曝露が関連しているとみられるため,曝露を抑えるためのいくつかの対策が推奨される。
日光の回避:普段から日陰にいるようにし,午前10時から午後4時まで(日光が最も強い時間帯)の戸外活動を最小限とし,日光浴や日焼けマシーンの使用を控える
防護用の衣服の着用:長袖シャツ,ズボン,つばの広い帽子
サンスクリーン剤の使用:UVA/UVBに対する広域の防御効果がある紫外線防御指数(SPF)30以上のものを指示通りに使用する(すなわち,2時間毎および水泳後または発汗後に塗布し直す);日光曝露の時間を延長させるために使用すべきではない
要点
基底細胞癌は最も頻度の高い皮膚がんであり,特に皮膚の色の薄い人々の露光部の皮膚で多くみられる。
典型的な病変(例,緩徐に増大する光沢のある丘疹で,しばしば境界部に光沢のある真珠様の変化を伴う)に加えて,容易に出血を起こす病変または痂皮形成と治癒を交互に繰り返す病変を認めた場合は,本症の診断を考慮する。
通常は破壊的方法による局所治療を受けさせるため,患者を専門医に紹介する。