クロストリジウム,主にウェルシュ菌(Clostridium perfringens)は,内臓破裂または骨盤内炎症性疾患に起因する腹腔内混合感染症でよく検出される。腹腔内感染症の症状としては発熱,腹痛,圧痛などが,骨盤内感染症の症状としては悪臭を伴う分泌物などがある。診断はグラム染色と培養による。治療はペニシリンと外科的デブリドマンによる。
(嫌気性細菌の概要およびクロストリジウム感染症の概要も参照のこと。)
腹腔内および骨盤内のクロストリジウム感染症は重篤化し,ときに死に至ることがある。
Clostridium属細菌は消化管に常在しており,腹部の多くの感染巣で(一般に他の腸内微生物とともに)認められる。クロストリジウムは,しばしば以下の病態の主因となる:
気腫性胆嚢炎
子宮のガス壊疽(分娩後に起こることがあり,かつては敗血症性流産を来した患者でよくみられた)
その他特定の女性生殖器感染症(卵管卵巣,骨盤,および子宮膿瘍)
結腸癌における穿孔後の感染
そのうち最も重要な微生物は,ウェルシュ菌(C. perfringens)と結腸癌症例でのC. septicumである。クロストリジウムは壊死を引き起こす外毒素(レシチナーゼ,ヘモリシン,コラゲナーゼ,プロテアーゼ,リパーゼ)を産生する。ガス産生がよくみられる。レシチナーゼ(α毒素)が赤血球膜を破壊するため,クロストリジウム敗血症は溶血性貧血につながることがある。重度の溶血と筋壊死に加え,毒素の作用が同時に発生することで,急性腎不全を来す可能性もある。
症状と徴候
クロストリジウム感染症の症状は他の腹腔内感染症と同様である(例,疼痛,発熱,腹部の圧痛,重症感[toxic appearance])。子宮感染が起きた患者では,腐敗臭を伴う血性帯下がみられることがあり,ときに頸管からガスが漏れることもある。まれに,急性尿細管壊死が発生する。
敗血症
腹腔内または子宮のクロストリジウム感染症の合併症として,敗血症が起こることがある。初期症状としては,発熱,悪寒,嘔吐,下痢,腹痛,低血圧,頻脈,黄疸,チアノーゼ,乏尿などがある。
ウェルシュ菌(C. perfringens)による敗血症患者の7~15%で,急性の血管内溶血が起こる。そのような患者では,黄疸がみられ,血清および尿が赤色化する。染色後の血液塗抹標本では,球状赤血球,ghost cell,ウェルシュ菌(C. perfringens)を認めることがある。血液培養ではウェルシュ菌(C. perfringens)が陽性となる。
クロストリジウム敗血症は多臓器不全につながる可能性があり,その場合はしばしば(多くは入院後24時間以内に)死に至る。
診断
グラム染色および培養
クロストリジウム感染症を早期に診断するためには,強く疑うことが必要である。感染部位,膿汁,悪露,および血液のグラム染色と培養を早期から反復して行う必要がある。創傷からの分泌物のグラム染色ではグラム陽性桿菌がみられ,α毒素による破壊のため,多形核細胞はみられない。
ウェルシュ菌(C. perfringens)は正常な腟および悪露からもときに分離されることから,培養は特異的ではない。
X線撮影では,局所のガス産生を認めることがある(例,胆道系,胆嚢壁,子宮)。
治療
外科的デブリドマン
高用量のペニシリン(またはカルバペネム系,β-ラクタム系/β-ラクタマーゼ阻害薬,メトロニダゾール,もしくはクリンダマイシン)
クロストリジウムによる腹腔内および骨盤内感染症の治療は外科的デブリドマンとベンジルペニシリン(500万単位,静注,6時間毎)の最低1週間の投与である。あるいは,カルバペネム系,β-ラクタム系/β-ラクタマーゼ阻害薬(例,ピペラシリン/タゾバクタム),メトロニダゾール,またはクリンダマイシンが使用されることもある。クリンダマイシンには毒素産生を抑制する効果があるため,しばしばペニシリンとの併用で使用される。複数の嫌気性菌による感染症が懸念される場合は,カルバペネム系薬剤またはβ-ラクタム系/β-ラクタマーゼ阻害薬の合剤を使用する。臓器摘出(例,子宮摘出術)が必要になる場合もあり,デブリドマンが不十分でも,これにより救命可能となる。
急性尿細管壊死が発生した場合は,透析が必要になる。
高気圧酸素治療の有用性は確立されていない。
要点
クロストリジウムによる腹腔内および骨盤内感染症は重篤であり,ときに死に至る。
その他の腹腔内感染症と同様に,クロストリジウムによる腹腔内感染症は疼痛,発熱,腹部圧痛を引き起こし,患者は重症感(toxic appearance)を呈する。
クロストリジウムによる子宮感染が起きた患者では,腐敗臭を伴う血性帯下がみられることがあり,ときに頸管からガスが漏れることもある。
クロストリジウム感染症を早期診断するには,この疾患を強く疑い,病巣からの検体ならびに膿,悪露,および血液検体に対してグラム染色および培養を早期から繰り返し行う必要がある。
治療は外科的デブリドマンと高用量のペニシリンまたはその他の抗菌薬(カルバペネム系,β-ラクタム系/β-ラクタマーゼ阻害薬,メトロニダゾール,もしくはクリンダマイシン)による。