鼠径リンパ肉芽腫(LGV)

執筆者:Sheldon R. Morris, MD, MPH, University of California San Diego
レビュー/改訂 2023年 1月
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鼠径リンパ肉芽腫(LGV)は,Chlamydia trachomatisの3種類の株によって引き起こされる疾患であり,小さな,しばしば症状を伴わない皮膚病変を特徴とし,それに続いて鼠径部または骨盤の所属リンパ節腫脹を生じる。あるいは,肛門性交で感染した場合は,重度の直腸炎を呈することがある。無治療の場合,LGVはリンパの流れを閉塞し,性器組織の慢性的腫脹を引き起こすことがある。診断は臨床徴候によるが,血清学的検査または蛍光抗体法を用いた臨床検査による確認も通常可能である。治療は,テトラサイクリン系薬剤またはエリスロマイシンの21日間投与による。

性感染症の概要クラミジアも参照のこと。)

LGVは,細菌であるChlamydia trachomatisの血清型 L1,L2,およびL3によって引き起こされる。これらの血清型は,トラコーマ封入体結膜炎クラミジア尿道炎および子宮頸管炎を引き起こす血清型のクラミジアとは異なり,所属リンパ節内に侵入して増殖することができる。

LGVは米国で散発的に発生しているが,アフリカの一部,インド,東南アジア,南米,およびカリブ海諸国では風土病である。女性よりも男性に診断されることの方がはるかに多い。LGVは,北米,欧州,オーストラリアの男性と性行為をする男性(men who have sex with men:MSM)の間で報告される機会が増えている。

LGVの症状と徴候

鼠径リンパ肉芽腫は3つの段階を経て発生する。

第1期は,約3日間の潜伏期間の後に始まり,侵入部位に小さな皮膚病変ができる。被覆する皮膚を破壊(潰瘍を生じる)することがあるが,非常に早く治癒するため,気づかれないうちに消失する場合がある。

第2期は通常,男性では2~4週間後に始まり,片側または両側の鼠径リンパ節腫脹を来し,大きな,圧痛を伴う,ときに動揺性の腫瘤または膿瘍(横痃)を形成する。横痃はより深部の組織に付着し,被覆する皮膚の炎症を引き起こし,ときに発熱および倦怠感を来す。女性では背部痛または骨盤痛がよくみられる;最初の病変は子宮頸部または腟の上部に生じる可能性があり,その結果より深部の直腸周囲および骨盤リンパ節の腫脹および炎症を来す。瘻孔が複数形成され,そこから膿または血液が排出されることがある。

第3期には,病変が瘢痕を残して治癒するが,瘻孔は遺残または再発する。未治療の感染症による持続性の炎症は,リンパ管を閉塞し,腫脹および皮膚のただれを引き起こす。

肛門性交の受け側の人は,第1期に重度の直腸炎または直腸結腸炎を発症することがあり,血性かつ膿性の直腸分泌物を伴う。慢性期には,クローン病に類似した大腸炎から,しぶり腹と直腸狭窄や,骨盤リンパ節の炎症による疼痛が引き起こされる可能性がある。直腸鏡検査により,びまん性の炎症,ポリープ,および腫瘤または粘液膿性の滲出液を同定できることがあり,これは炎症性腸疾患に類似した所見である。

LGVの診断

  • 抗体の検出

  • ときに核酸増幅検査(NAAT)

鼠径リンパ肉芽腫は,陰部潰瘍,鼠径リンパ節腫脹,または直腸炎を有する患者や,この感染症がよくみられる地域に在住しているか訪問した患者,それらの地域から来た人と性的接触をもつ患者において疑われる。横痃を有する患者でもLGVが疑われるが,横痃は他の細菌によって引き起こされる膿瘍と間違われることがある。

診断には通常,クラミジア内毒素に対する抗体の検出(補体結合抗体価 > 64倍またはmicroimmunofluorescence[MIF]法による抗体価 > 256倍)か,PCR法をベースとするNAATによる遺伝子型判定が用いられてきた。抗体値は通常発症時またはその後まもなくして上昇し,高値を維持する。

免疫測定法(例,酵素結合免疫吸着測定法[ELISA])もしくはモノクローナル抗体を用いて膿を染色する蛍光抗体法によるクラミジア抗原の直接検査,またはNAATが,基準となる検査施設(例,米国では疾病予防管理センター[Centers for Disease Control and Prevention])を通して実施できる場合がある。

全てのセックスパートナーを診断すべきである。

治療が成功したと思われる場合は,その後6カ月にわたりフォローアップを継続すべきである。

LGVの治療

  • 経口のテトラサイクリン系薬剤またはエリスロマイシン

  • 場合により,症状の緩和のために横痃のドレナージ

ドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,21日間が望ましい治療である。あるいは,エリスロマイシン500mg,経口,1日4回,21日間の投与を行ってもよい。アジスロマイシン1g,経口,週1回,3週間も別の代替選択肢である。

後期に生じた損傷組織の腫脹は,細菌を排除しても消退しないことがある。症状緩和に必要であれば,穿刺または外科的手技により横痃をドレナージするが,大半の患者は抗菌薬に速やかに反応する。横痃および瘻孔は手術を要することがあるが,直腸狭窄は通常は拡張できる。

発症前の60日間に鼠径リンパ肉芽腫の患者と性的接触があった人は,曝露部位に応じて尿道,子宮頸部,または直腸のクラミジア感染症に関する診察および検査を受けるべきである。このような人では,LGVを示唆する所見の有無を問わず,推定的に治療(アジスロマイシン1g,経口,単回投与またはドキシサイクリン100mg,経口,1日2回,7日間)を開始すべきである。

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