ZAP-70(ζ-associated protein 70)欠損症は,シグナル伝達の異常によって起こるT細胞活性化障害が関与する免疫不全疾患である。
(免疫不全疾患の概要および免疫不全疾患が疑われる患者へのアプローチも参照のこと。)
ZAP-70欠損症は,細胞性免疫不全が関与する原発性免疫不全症である。遺伝形式は常染色体潜性(劣性)である。
ZAP-70は,T細胞のシグナル伝達および胸腺におけるT細胞選別に重要である。ZAP-70欠損症は,T細胞活性化の異常をもたらす。
ZAP-70欠損症の患者は,乳児期または幼児期に重症複合免疫不全症(SCID)でみられるものと同様の反復性感染症を呈する;しかし,比較的長く生存し,ある程度の年齢になるまでZAP-70欠損症と診断されないことがある。
ZAP-70欠損症の診断
T 細胞受容体遺伝子再構成断片(TREC)検査によるルーチンの新生児スクリーニング
白血球数
マイトジェンおよびワクチン抗原刺激試験
ZAP-70欠損症の診断はSCIDに対する診断と同様に行う。
反復性感染症または他の特徴的な症状の病歴がある年長の小児では,ZAP-70欠損症が疑われる場合がある。白血球数および白血球分画を含めた血算を行うとともに,免疫グロブリン濃度を測定する。マイトジェンおよび標準的なワクチン抗原に対する応答を判定して,白血球および抗体の機能を評価する。
以下がみられる患者では,本疾患を考慮する:
リンパ球減少症
T細胞数の低値または欠如
マイトジェンに対するリンパ球増殖反応の欠如
他の検査を行う場合もあり,これにはT細胞,B細胞,およびNK細胞の数を調べるフローサイトメトリーが含まれる。白血球,赤血球,および線維芽細胞におけるアデノシンデアミナーゼ(ADA)およびプリンヌクレオシドホスホリラーゼの量を測定する。
血清免疫グロブリン濃度は正常,低値,または高値のいずれもあり,循環CD4陽性T細胞の数は正常または高値であるが,本質的にCD8陽性T細胞が欠如している。
CD4陽性T細胞はin vitroでマイトジェンまたは同種異系細胞に応答せず,CD8細胞傷害性T細胞を産生しない。対照的に,ナチュラルキラー細胞(大半がCD16またはCD56細胞)の活性は正常である。
臨床的に重要であれば,家系員の検査を考慮してもよい。
ZAP-70欠損症の治療
造血幹細胞移植
ZAP-70欠損症の治療では一般に,感染予防,急性感染症の管理,および欠損している免疫グロブリンの補充を行う。
ZAP-70欠損症は,治癒が得られる可能性がある造血幹細胞移植によって治療しない限り致死的である。