アフェレーシスとは,機器を用いて血液中の血球と水溶性成分を分離する処理のことを指す。アフェレーシスは,供血者に対してしばしば行われ,様々な患者の輸血に用いるべく全血を遠心分離して個々の血液成分(例,特定の重力に応じて赤血球,血小板,および血漿)を分取する。アフェレーシスは様々な疾患に対する治療目的でも用いられる(1)。
治療目的のアフェレーシスとしては,血漿交換や血球除去などがある。
健康な供血者は総じてアフェレーシスに耐えられる。ただし,軽微なリスクが多くあり,重大なリスクもわずかに存在する。
アフェレーシスに必要な大径の静脈カテーテルの挿入により,合併症(例,出血,感染症,気胸)が生じることがある。
クエン酸抗凝固薬により,血清イオン化カルシウムが減少することがある。
患者の血漿をコロイド溶液(例,5%アルブミン)または新鮮凍結血漿で補充しても,IgGおよび凝固因子は補充されない。
大半の合併症は,患者および処置の操作に厳重な注意を払うことで管理可能であるが,ある程度は重度の反応がみられることがあり,わずかに死亡例も発生している。
総論の参考文献
1.Padmanabhan A, Connelly-Smith L, Aqui N, et al: Guidelines on the Use of Therapeutic Apheresis in Clinical Practice: Evidence-Based Approach from the Writing Committee of the American Society for Apheresis: The Eighth Special Issue.J Clin Apheresis 34:171–354, 2019.doi: 10.1002/jca.21705
プラズマフェレーシス
プラズマフェレーシスとは,血液から血漿を分離する処理のことを指し,典型的には遠心分離または濾過によって行われる。プラスマフェレーシスは,血漿のみを得るために健康な供血者に対してしばしば行われ,得られた血漿は患者への輸血用として,または多数の供血からプールした血漿より分画精製する血漿分画製剤(例,アルブミン,凝固因子)の供給源として用いられる。供血する血漿の典型的な量は1単位(約500mL)であり,供血者は健康であるはずなため,採取した血漿を補充する必要はない。
プラズマフェレーシスは,血漿中を循環する特定の有害物質(例,自己抗体,免疫複合体)を除去するために治療目的で行われることもある。大量の血漿を除去する必要があるため,患者には健康な供血者からの血漿が輸血され,そのため,この処置は血漿交換と呼ばれる。
血漿交換
血漿交換療法では,血液から血漿成分を除去する。血球分離装置は,患者の血漿を抜き取るとともに,血漿中の赤血球および血小板または血漿代替液を患者に戻す装置である;この用途には,5%アルブミンの方が,反応が少なく感染伝播がないことから,新鮮凍結血漿よりも望ましい(ただし,血栓性血小板減少性紫斑病患者を除く)。血漿交換療法は透析に似ているが,さらにタンパク質と結合した毒性物質を除去することができる。このような成分の約65%が1回の交換量で取り除かれる。
血漿交換が有益となるためには,血漿に既知の病原性物質が含まれている疾患に用いるべきであり,この物質が体内で産生されるよりも速く取り除く必要がある。例えば,急速に進行する自己免疫疾患では,血漿交換を用いて既存の有害な血漿成分(例,クリオグロブリン,抗糸球体基底膜抗体)を迅速に取り除くと同時に,その後の産生を免疫抑制薬または細胞傷害性薬剤により抑制する。
多数の複雑な適応がある。医師は一般的にGuidelines on the Use of Therapeutic Apheresis from the American Society for Apheresisに従う(1)。血漿交換の頻度,除去する容量,代替液,および他の項目については,患者毎に個別に決定する。
低比重リポタンパク質(LDL)コレステロールは,カラムに吸着させることで血漿から選択的に除去可能である(LDLアフェレーシスと呼ばれる)。
フォトフェレーシスでは,単核球を遠心分離し,光活性化薬(例,8-methoxypsoralen)で処理したのち,紫外光で活性化する;これは免疫調節療法の1つである。
免疫吸着では,標的とする抗体または抗原と選択した抗原または抗体をカラムで吸着させることにより抗体または抗原を血漿から除去する。
血漿交換の合併症は,血球除去による治療の合併症と同様である。
血球除去
血球除去では,血液の血球成分(例,赤血球,白血球,血小板)を分離する。これは多くの場合,各成分を別の受血者に投与できるようにするために献血血液に対して行われる。血球除去はまた,過剰な血漿成分や欠陥がある血球成分を除去するために治療目的で行われることもある。
治療としての血球除去
治療としての血球除去では,血液から血球成分を除去した後,血漿を体内に戻す。
血球除去療法は,鎌状赤血球症の患者において,急性胸部症候群,脳卒中,妊娠中,または重度の鎌状赤血球症の疼痛発作(sickle-cell crisis)が頻回にみられる場合,欠陥のある赤血球を除去し,正常な赤血球と置き換えるために最も頻用されている。赤血球交換輸血を行うことで,単純輸血により上昇するヘマトクリットのために生じる可能性のある粘稠度増加のリスクなしに,ヘモグロビンSの値が30%未満になる。
さらに,治療としての血球除去は,急性白血病や移行期または急性転化期の慢性骨髄性白血病において,出血,血栓症,または極度の白血球増多による肺または脳合併症(白血球停滞)のリスクがある場合に,重度の血小板増多症または白血球増多症を軽減(腫瘍縮小)するために用いられることもある。
血小板は白血球のように急速に補充されないため,本態性血小板血症では血小板除去療法(血小板アフェレーシス)が効果的である。1回または2回の処置で血小板数が減少することがあるが,この効果は一時的であり,血小板数は正常にはならない。
白血球除去療法(白血球アフェレーシス)では,処置を数回施行することで,数キログラムのバフィーコートを除去可能であり,多くの場合,白血球停滞が軽減される。ただし,白血球数自体の減少は軽度で,一時的でしかない可能性がある。
血球除去療法のその他の用途としては,自家または同種骨髄再構築のための末梢血幹細胞(骨髄移植の代替法として)の採取や,がんの免疫調節療法(養子免疫療法)に使用するリンパ球の採取などがある。