急性リンパ芽球性白血病(ALL)

(急性リンパ性白血病)

執筆者:Ashkan Emadi, MD, PhD, West Virginia University School of Medicine, Robert C. Byrd Health Sciences Center;
Jennie York Law, MD, University of Maryland, School of Medicine
レビュー/改訂 2022年 6月
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急性リンパ芽球性白血病(ALL)は,最も頻度の高い小児がんであるが,あらゆる年齢の成人にもみられる。異常に分化して長い寿命をもつ造血前駆細胞の白血化とその無秩序な増殖により,循環血液中の芽球数が増加し,悪性細胞による正常な骨髄の置換,中枢神経系および精巣への白血病細胞浸潤の可能性が生じる。症状としては,易疲労感,蒼白,感染,骨痛,中枢神経系症状(例,頭痛),紫斑ができやすい状態,出血しやすい状態などがある。通常は,末梢血塗抹標本と骨髄の検査で診断に至る。典型的な治療としては,寛解達成を目的とする多剤併用化学療法,中枢神経系予防のための髄腔内および全身への化学療法および/またはコルチコステロイドなどがあり,ときに白血病細胞の脳内浸潤に対する脳への放射線照射,場合により造血幹細胞移植を伴う地固め化学療法,再発予防のための最大3年間の維持化学療法なども用いられる。

白血病の概要も参照のこと。)

American Cancer Societyは,米国で2022年に急性リンパ芽球性白血病(ALL)の新規症例が6600例以上となり,1600例近くの死亡が発生すると予測している。全ALL症例の60%が小児で発生しており,発生率のピークは2~5歳にあり,2番目のピークは50歳以降にみられる。ALLは小児で最も多くみられるがんで,15歳未満の小児における白血病の約75%を占める。15歳未満の小児における死亡原因の第2位である。20歳台半ばまでリスクが徐々に低下するが,50歳以降にまた徐々に増加し始める。ALLは,成人における急性白血病の約20%を占める。男女ともALLの平均生涯リスクは約0.1%(米国人1000人に1人)である。ヒスパニック系集団では,ALLの発生率が他の人種/民族集団より高いが,この原因の1つはARID5B遺伝子における多型のためである。

ALLの病態生理

急性骨髄性白血病と同様に,急性リンパ芽球性白血病は,一連の後天性遺伝子異常により発生する。白血化は,自己複製能が少し制限された造血前駆細胞レベルで生じることもあるが,通常は多能性幹細胞の段階で発生する。異常な増殖,クローン性増殖,異常な分化,およびアポトーシス(プログラム細胞死)の低下により,正常な血液成分が悪性細胞へ置き換えられてしまう。

ALLの分類

急性リンパ芽球性白血病における前駆状態のリンパ系腫瘍は,その細胞系列に基づいて以下のように大別される:

  • Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫(B-ALL/LBL)

  • Tリンパ芽球性白血病/リンパ腫(T-ALL/LBL)

以上の疾患は,腫瘍細胞(リンパ芽球)が血液および骨髄に浸潤した場合(骨髄中の芽球割合が20%を超える場合と定義)に白血病として現れ,芽球が主に骨髄外組織に浸潤した場合にリンパ腫として現れる。

世界保健機関(World Health Organization:WHO)による2016年のリンパ系腫瘍分類には,遺伝学的データ,臨床的特徴,細胞形態,および免疫表現型が組み込まれており,その全てが疾患の予後および管理に重要な意味をもっている。

ALLの症状と徴候

急性リンパ芽球性白血病の症状および徴候は,診断の数日前から数週間前にならないと現れないことがある。

初診時に最も多くみられる症状は,造血障害によるもので,続いて以下の症状が現れる:

  • 貧血

  • 血小板減少症

  • 顆粒球減少症

貧血は,疲労,脱力,蒼白,倦怠感,労作時呼吸困難,頻脈,および労作時胸痛として現れることがある。

血小板減少症は,粘膜出血,紫斑ができやすい状態,点状出血/紫斑,鼻出血,歯肉出血,および過多月経を引き起こすことがある。血尿および消化管出血はまれである。頭蓋内または腹腔内血腫などの自然出血がみられることがある。

顆粒球減少症または好中球減少症は,細菌性,真菌性,およびウイルス性のものを含めた,高い感染リスクにつながる可能性がある。発熱と重度または反復性の感染がみられる場合もある。

白血病細胞による臓器浸潤では,肝臓,脾臓,およびリンパ節の腫大に至る。白血病細胞の骨髄および骨膜浸潤により,骨痛および関節痛が生じ,特にALLの小児に多くみられる。中枢神経系への移行と髄膜への浸潤がよくみられ,それにより脳神経麻痺,頭痛,視覚または聴覚症状,精神状態の変化,および一過性脳虚血発作/脳卒中が生じる可能性がある。

ALLの診断

  • 血算および末梢血塗抹検査

  • 骨髄検査

  • 組織化学検査,細胞遺伝学的検査,および細胞表面マーカー検査

急性リンパ芽球性白血病は,リンパ系臓器の芽球が骨髄有核細胞の20%以上を占める場合に診断され,赤血球成分が50%を超えるときは,赤血球以外の細胞が20%以上の場合に診断される。骨髄細胞が不十分または得られない場合は,末梢血検体を用いて同じ基準により診断できる。

血算および末梢血塗抹検査が最初に行う検査であり,汎血球減少症および末梢血芽球は急性白血病を示唆する。末梢血塗抹標本中の芽球が白血球数の90%近くになることがある。重度の汎血球減少症の鑑別診断においては,再生不良性貧血伝染性単核球症などのウイルス感染症,ならびにビタミンB12欠乏症および葉酸欠乏症を考慮に入れるべきである。AMLと異なり,急性リンパ芽球性白血病でアウエル小体(芽球の細胞質におけるアズール顆粒を含む線状の封入体)がみられることは決してない。

骨髄検査(穿刺および針生検)がルーチンで実施される。典型的にはALL患者の骨髄中では芽球が全細胞の25~95%を占める。

組織化学検査,細胞遺伝学的検査,および細胞表面マーカー検査は,ALLの芽球とAMLまたはその他の疾患過程の芽球との鑑別に有用である。組織化学検査には,末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ(TdT)の染色が含まれ,リンパ系起源の細胞で陽性となる。急性白血病の分類では,CD3(T細胞由来のリンパ系細胞)ならびにCD19,CD20,およびCD22(B細胞由来のリンパ系細胞)などの特定の免疫表現型マーカーの検出が不可欠である。 ALLで頻度の高い細胞遺伝学的異常としては,成人におけるt(9;22)や,小児におけるt(12;21)と高度の高二倍体などがある(急性骨髄性白血病でよくみられる細胞遺伝学的異常の表を参照)。

表&コラム
表&コラム

頻度が低い細胞遺伝学的異常には以下のものがある:

  • t(4;11)/KMT2A-AF4を含むt(v;11q23) /MLLまたはKMT2A再構成

  • t(1;19)/E2A-PBX1TCF3-PBX1

  • t(5;14)/IL3-IGH

  • t(8;14),t(8;22),t(2;8)/C-MYC再構成

BCR-ABL様急性リンパ芽球性白血病は,フィラデルフィア染色体[9番と22番染色体の均等型相互転座,t(9;22)]を認めるALL(Ph陽性ALL)と遺伝的に重複している。

その他の臨床検査所見として,高尿酸血症,高リン血症高カリウム血症低カルシウム血症,乳酸脱水素酵素(LDH)高値(腫瘍崩壊症候群が示唆される)などがみられる。血清肝トランスアミナーゼまたはクレアチニンの上昇や低血糖がみられることもある。Ph陽性ALLの患者とMLL再構成を伴うt(v;11q23)を有する患者は,しばしば白血球増多で発症する。

中枢神経系症状がみられる患者では,頭部CTを施行する。縦隔腫瘤およびリンパ節腫脹を検出するために胸部および腹部のCTを実施すべきであり,肝脾腫が検出される場合もある。ベースライン(心毒性のアントラサイクリン系薬剤の投与前)の心機能を評価するために心エコーまたはマルチゲートスキャン(MUGA)による画像検査を実施する。

ALLの予後

予後因子は,治療プロトコルおよび治療強度を決定するのに役立つ。

予後良好因子としては以下のものがある:

  • 年齢が3~9歳

  • 白血球数が25,000/μL(25 × 109/L)未満(小児では50,000/μL[50 × 109/L]未満)

  • 白血病細胞核型で,高度の高二倍体(染色体数が51~65),t(1;19),およびt(12;21)

  • 診断時に中枢神経系疾患がみられない

予後不良因子としては以下のものがある:

  • 白血病細胞核型で,染色体数が23(半数体),染色体数が46未満(低二倍体),または染色体数が66~68(近三倍体)

  • 白血病細胞核型で,t(4;11)/KMT2A-AF4を含むt(v;11q23) MLLKMT2A)再構成

  • 白血病細胞核型で,t(5;14)/IL3-IG

  • 白血病細胞核型で,t(8;14),t(8;22),t(2;8) C-MYC再構成

  • フィラデルフィア(Ph)染色体t(9;22)BCR-ABL1の存在

  • 成人で高齢

  • BCR/ABL様の遺伝子異常

予後因子にかかわらず,初回寛解導入成功の可能性は小児で95%以上,成人で70~90%である。小児では,5年連続無病生存率が80%を超え,治癒するようである。成人では,長期生存率が50%未満である。成人での臨床成績が小児と比べて不良であることに関与している因子としては以下のものがある:

  • 強力な化学療法に耐える能力が低い

  • 併存症の頻度が高く,より重度である

  • 化学療法耐性をもたらすALLの遺伝学的特性のリスクが高い

  • 頻回(しばしば毎日または週1回)の外来化学療法および通院を含むALL治療レジメンはアドヒアランスがより不良である

  • 小児向けに考案された治療レジメンの使用頻度が低い

多くの探索的プロトコルは,より強力な治療でも予後不良となってしまう因子を有する患者で適応とされ,その理由は,治療に伴うリスク増加および治療による毒性を,治療が不成功に終わることで死亡するという,より重大なリスクが上回るからである。

ALLの治療

  • 全身化学療法

  • 予防的な中枢神経系に対する化学療法およびときに中枢神経系に対する放射線療法

  • Ph陽性ALLにはチロシンキナーゼ阻害薬も使用する

  • 支持療法

  • ときに免疫療法,分子標的療法,造血幹細胞移植,および/または放射線療法

新たに診断された急性リンパ芽球性白血病の治療は一般に,最初の9~12カ月間に交差耐性のない化学療法薬による化学療法ブロックを3~4サイクル行い,その後2.5~3年間にわたり維持化学療法を行うというものである。

化学療法

急性リンパ芽球性白血病に対する化学療法には,大きく分けて以下の4つの段階がある:

  • 寛解導入期

  • 寛解後地固め期

  • 中間維持期と強化期

  • 維持療法期

導入療法の目標は完全寛解であり,これは骨髄芽球割合 < 5%,好中球数 > 1000/μL(1 × 109/L),血小板数 > 100,000/μL(100 × 109/L),かつ輸血を必要としない場合と定義される。完全奏効が得られた患者では,測定可能な残存病変が少ないこと(微小残存病変[MRD]としても知られる)が最も重要な予後因子である(1)。測定可能または微小残存病変は顕微鏡的病変であり,標準的な検査法では検出できないが,より高感度の検査法で測定できる。測定可能な残存病変が少ないこと(すなわちMRD陰性)は,骨髄中の白血病細胞の割合が(用いる測定法に応じて)0.01%~0.1%未満と変動的に定義されている。

導入療法では以下の薬剤が使用される:

  • 高用量コルチコステロイド(例,デキサメタゾン,プレドニゾン)

  • アントラサイクリン系薬剤(例,ダウノルビシン,ドキソルビシン,イダルビシン)

  • ビンクリスチン

一部のレジメンでは,強力な導入療法の前に疾患による負担を軽減するためにコルチコステロイドを使用する。若年成人では,小児で使用される治療プロトコルに類似したアスパラギナーゼおよび/またはシクロホスファミドを含むレジメンを導入療法に使用することで,奏効率が高まり,微小残存病変が検出不能な状態を達成できる可能性がある。導入療法後に完全寛解に達しない場合,一部のレジメンでは,地固め期の前に完全寛解の患者を増やすことを目指して,2回目の導入コースを推奨している。

フィラデルフィア染色体(Ph)陽性のALL患者では,チロシンキナーゼ阻害薬(例,イマチニブ,ダサチニブ)を薬物療法レジメンに追加できる。CD20陽性のBリンパ芽球性白血病患者では,リツキシマブが追加できる。

地固めの目標は,白血病の再発を予防することである。地固め療法は,通常数カ月にわたって継続し,作用機序の異なる交差耐性のない薬剤によるレジメン固有のコースを組み合わせる。Ph陽性ALLの成人患者では,同種造血幹細胞移植が地固め療法として推奨される。

中間維持療法および後期/遅延強化療法は地固め療法後に使用される。これらの治療期には,様々な化学療法薬が組み込まれ,導入期および地固め期よりも強度の低い異なる用量および投与スケジュールが用いられる。

大半のレジメンには,月1回のビンクリスチン,週1回のメトトレキサート,1日1回のメルカプトプリン,および月に5日のコルチコステロイドによる維持療法が含まれる。治療期間は通常2年半から3年である。

中枢神経系予防は導入期に開始し,全ての治療期を通して継続する。リンパ芽球はしばしば脊髄液と髄膜に浸潤するため,全てのレジメンに中枢神経系予防と併用または単剤療法としてのメトトレキサート,シタラビン,およびヒドロコルチゾンの髄腔内投与が含まれている。高用量のメトトレキサートおよび/またはシタラビンを全身投与すると,中枢神経系に移行するため,これらの薬剤がレジメンに含まれていれば,さらなる中枢神経系予防につながる。脳神経系または全脳への放射線照射は,中枢神経系白血病のリスクが高い患者(例,白血球数高値,血清乳酸脱水素酵素高値,B細胞表現型)に対して以前にしばしば施行されたが,近年では施行数が減少してきている。

医学的に脆弱(フレイル)なALL患者

急性リンパ芽球性白血病患者の約3分の1は高齢者(65歳以上)である。高齢のALL患者は,前駆B細胞ALLである可能性が高く,またリスクがより高く,フィラデルフィア染色体(Ph)やt(v;11q23) MLLKMT2A)再構成などのより複雑な細胞遺伝学的所見が認められる可能性も高い。

高齢でも一部の患者は,標準の導入療法に耐えることができる。その後の治療レジメン(中枢神経系予防,寛解後の地固めまたは強化療法,および維持療法)は,個々の患者の併存症およびPS(performance status)に依存する。例えば,いくつかの併存症があり,PSが不良な高齢患者では,より穏やかな導入療法を実施し,地固めおよび維持療法を実施しない場合がある。Ph陽性ALLの高齢患者では,強度の低い化学療法との併用または化学療法の併用なしでチロシンキナーゼ阻害薬(例,イマチニブ,ダサチニブ) + コルチコステロイドを投与することにより,完全奏効率95~100%,2年無再発生存率45~50%,2年全生存率約70%という成績が得られている。 第一完全寛解期にある高齢のALL患者では,骨髄非破壊的または強度縮小前処置による同種造血幹細胞移植が選択肢となる。

再発または難治性ALLの治療に使用可能な分子標的薬としての免疫療法薬は,臨床試験や実診療において高齢ALL患者の治療に使用されることが増えてきている。

高齢のALL患者はおそらく,若年患者よりもアスパラギナーゼに耐えられる可能性が低い。

再発または難治性ALL

白血病細胞は,骨髄,中枢神経系,精巣,その他の部位に再び出現することがある。骨髄再発は特に好ましくない前兆である。新たな化学療法を追加することで,小児の大多数および成人の約3分の1で再寛解へ誘導できる可能性があるが,それに続く寛解期間は短くなる傾向がある。早期に骨髄再発がみられる患者で,化学療法により2回目の長期無病状態での寛解に導入できる例や治癒が得られる例はほんのわずかである。

新しい免疫療法のアプローチについて,ALLの再発/難治例で目覚ましい結果が示されている。T細胞を白血病芽球に接近させるブリナツモマブなどの抗体は,ALLの再発例で活性を示している。患者のT細胞から作製されるキメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-T)は,再発ALL患者の寛解導入に使用され,重大な毒性を伴うにもかかわらず,顕著な効力が認められる(2)。

再発または難治性ALLに対して利用可能な免疫療法には以下のものがある:

  • ブリナツモマブ

  • イノツズマブ オゾガマイシン

  • チサゲンレクルユーセル

ブリナツモマブは,CD19を標的とする二重特異性CD3 T細胞誘導抗体(bispecific CD19-directed CD3 T-cell engager)であり,再発または難治性のB前駆細胞性ALLの小児および成人では,Ph陽性例とPh陰性例の両方で全生存期間を延長する。生命を脅かす毒性として,サイトカイン放出症候群および神経毒性(例,痙攣発作,意識変容を伴う脳症,会話障害,協調障害,および/または平衡障害)がみられることがある。高用量デキサメタゾンを使用するかどうかにかかわらず,ブリナツモマブの中断または中止が必要になる場合がある。ブリナツモマブ使用後に最もよくみられる神経症状は,頭痛と振戦である(3)。

イノツズマブ オゾガマイシンは,CD22を標的とする抗体にカリケアマイシンを結合させた抗体薬物複合体であり,これも再発または難治性のB前駆細胞性ALLの成人患者に使用できる。ある研究では,イノツズマブ オゾガマイシンによる1~2サイクルの治療後に,標準化学療法より有意に高い寛解率が認められた(4)。イノツズマブは,致死性または生命を脅かす静脈閉塞症などの肝毒性を引き起こす可能性があり,それに伴い移植後の非再発死亡率が高い。

チサゲンレクルユーセルは,CD19を標的とする遺伝子改変自己T細胞免疫療法製品であり,25歳以下で難治性または2回目以降の再発に該当するB前駆細胞性ALL患者の治療に使用できる。生命を脅かす毒性として,サイトカイン放出症候群および神経毒性がみられることがある(5)。

ブレクスカブタジーン オートルユーセル(brexucabtagene autoleucel)は,FDAの承認を取得したCD19を標的とする遺伝子改変自己T細胞免疫療法製品であり,再発または難治性B前駆細胞性ALLの成人患者の治療に使用できる。合併症としてサイトカイン放出症候群や神経毒性などがあり,生命を脅かす可能性がある。

その他の薬剤として,すでに使用可能になっているものの,臨床的に意味のあるアウトカムが説得力をもって実証されていない(すなわち,奏効率に基づいて承認が与えられたものの,疾患関連症状の改善や生存期間の延長を検証した試験は実施されなかった)ものもある。具体例として以下のものがある:

  • ビンクリスチン(ビンカ・アルカロイド)のリポソーム製剤:2回目以降の再発または2種類以上の抗白血病療法にもかかわらず増悪したPh- ALLの成人が対象(販売は中止されている)

  • クロファラビン(プリンヌクレオシドアナログ):2レジメン以上の前治療後に再発または難治性ALLを有する1~21歳の患者が対象

  • グアノシンアラビノシドのネララビン(プリンヌクレオシド)類似体プロドラッグ:2種類以上の前治療レジメンで効果がみられなかったか,その後に再発したT細胞ALLが対象

再寛解導入化学療法または免疫療法後の造血幹細胞移植では,長期寛解に対する最大の希望が得られ,HLA適合の同胞が得られる場合は治癒が望める。ときに同胞以外の血縁者またはHLA適合非血縁ドナーからの造血幹細胞を使用することがある。65歳以上の患者に対する移植は,成功の可能性が大幅に下がり,有害作用が致死的となる可能性がはるかに高いことから,まれにしか施行されない。

中枢神経系再発の治療としては,メトトレキサートの髄腔内投与(場合によりシタラビンまたはコルチコステロイドを併用)を週2回の頻度で,全ての徴候が消失するまで継続する。髄腔内への薬剤の持続投与または中枢神経系への放射線照射の役割については,明らかになっていない。

精巣での再発は,精巣の無痛性の硬い腫脹で臨床的に明らかになることもあれば,生検で同定されることもある。片側の精巣で臨床的に浸潤が明らかであれば,外見上は浸潤がみられない他方の精巣について生検を行うべきである。治療は,患側精巣への放射線療法および全身投与する再寛解導入療法である。

支持療法

急性白血病において,支持療法は同様であり,具体的には以下のものがある:

  • 輸血

  • 抗微生物薬

  • 補液および尿アルカリ化

  • 心理的支援

出血または貧血がみられる患者には,必要に応じて赤血球輸血のほか,ときに血小板輸血も行う。予防的な血小板輸血は,血小板数が10,000/μL(10 × 109/L)未満まで低下した場合に行う。貧血(ヘモグロビンが7または8g/dL[70~80g/L]未満)がある場合は,濃厚赤血球を輸血する。顆粒球輸血はルーチンで使用しない。

患者は免疫抑制状態にあるため,予防および治療のために抗微生物薬が必要になることが多く,そのような患者では,臨床的に前兆となる症状がほとんどみられずに,感染症が急速に進行することがある。適切な検査および培養試験を施行した後で,好中球数が500/μL(0.5 × 109/L)未満で発熱がみられる患者に対しては,グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して効果的な広域殺菌性抗菌薬(例,セフタジジム,ピペラシリンとタゾバクタム,メロペネム)による治療を開始すべきである。真菌感染症,特に肺炎が起きることがあり,それらは診断が難しいことから,真菌性肺炎を検出するために早期に(すなわち,疑いの程度に応じて,好中球減少性発熱を認めてから72時間内に)胸部CTを施行する。72時間内に抗菌治療の効果がみられない場合は,経験的な抗真菌療法を行うべきである。全てのALL治療レジメンで一般的に使用されるビンクリスチンとアゾール系抗真菌薬の間には重大な薬物間相互作用がある。難治性肺炎の患者では,Pneumocystis jirovecii感染またはウイルス感染を疑い,気管支鏡検査および気管支肺胞洗浄により確認し,適切に治療すべきである。

ポサコナゾールは,第2世代のトリアゾール系抗真菌薬であり,免疫抑制(例,移植片宿主病を起こした造血幹細胞移植レシピエント)のために侵襲性のアスペルギルス(Aspergillus)感染症およびカンジダ(Candida)感染症の発生リスクが高くなっている13歳以上の患者における一次予防に適応となる。薬物による免疫抑制(例,ALL治療でコルチコステロイドの使用歴が長い)のある患者では,P. jirovecii肺炎の予防に対してトリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP/SMX),ジアフェニルスルホン,アトバコン,またはペンタミジンが適応となる。全ての患者に対してアシクロビルまたはバラシクロビルの予防投与が一般的に推奨される。

補液,炭酸水素ナトリウム静注による尿アルカリ化,およびアロプリノールまたはラスブリカーゼにより,ALLの初期治療中に白血病細胞の急速な崩壊によって引き起こされる高尿酸血症,高リン血症,低カルシウム血症,および高カリウム血症(すなわち腫瘍崩壊症候群)の予防および治療が可能である。高尿酸血症は,化学療法開始前にアロプリノール(キサンチン酸化酵素阻害薬)またはラスブリカーゼ(組換え尿酸オキシダーゼ)を投与することで,キサンチンから尿酸への変換を抑制することにより,最小限に抑えられる。G6PD欠損症患者では,ラスブリカーゼにより重度の溶血が生じることがあるため,ラスブリカーゼはG6PD欠損症患者では禁忌である。

心理的支援は,患者とその家族が病気になったショックや,生命を脅かす可能性がある疾患に対する過酷な治療を克服する助けとなる。

治療に関する参考文献

  1. 1.Berry DA, Zhou S, Higley H, et al: Association of minimal residual disease with clinical outcome in pediatric and adult acute lymphoblastic leukemia: A meta-analysis.JAMA Oncol 3(7): e170580, 2017.doi:10.1001/jamaoncol.2017.0580

  2. 2.Lee DW, Kochenderfer JN, Stetler-Stevenson M, et al: T cells expressing CD19 chimeric antigen receptors for acute lymphoblastic leukaemia in children and young adults: a phase 1 dose-escalation trial.Lancet 385(9967) :517–528, 2015.

  3. 3.Kantarjian H, Stein A, Gökbuget N, et al: Blinatumomab versus chemotherapy for advanced acute lymphoblastic leukemia.N Engl J Med 376(9):836–847, 2017.

  4. 4.Kantarjian HM, DeAngelo DJ, Stelljes M, et al: Inotuzumab ozogamicin versus standard therapy for acute lymphoblastic leukemia.N Engl J Med 375(8):740–753, 2016.

  5. 5.Maude SL, Laetsch TW, Buechner J, et al: Tisagenlecleucel in children and young adults with B-cell lymphoblastic leukemia.N Engl J Med 378(5):439–448, 2018.

要点

  • 急性リンパ芽球性白血病(ALL)は,小児で最も多くみられる悪性腫瘍であるが,成人でもみられる。

  • 中枢神経系白血病はよくみられる;大半の患者に対して,化学療法薬およびコルチコステロイドの髄腔内投与を行うが,ときに中枢神経系への放射線療法を行うこともある。

  • 小児では治療に対する反応が良好で,80%を超える小児で治癒の可能性があるが,成人では50%を下回る。

  • 再発に対しては,再寛解導入化学療法,免疫療法,および造血幹細胞移植が助けになる場合がある。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Leukemia and Lymphoma Society: Resources for Healthcare Professionals: Provides information on education programs and conferences and resources for referrals to specialty care

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