副腎性器症候群は,過剰な副腎アンドロゲンが男性化を引き起こす症候群である。診断は臨床的に行い,アンドロゲン値の上昇によって確定するが,原因の特定に副腎の画像検査が必要になる場合がある。治療は原因に応じて異なる。
(副腎機能の概要も参照のこと。)
副腎性器症候群は以下によって引き起こされる:
アンドロゲン産生副腎腫瘍
副腎過形成
悪性の副腎腫瘍は過剰なアンドロゲン,エストロゲン,コルチゾール,またはミネラルコルチコイド(もしくはこれら4つのうち複数)を分泌する可能性がある。コルチゾールの過剰分泌があると,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌抑制および対側副腎の萎縮ならびに高血圧を伴うクッシング症候群が生じる場合がある。アンドロゲンを分泌する副腎腫瘍は男性化を引き起こす。
副腎過形成は通常先天性であり,遅発性の男性化をもたらす副腎過形成は先天性副腎過形成症の亜型である。どちらもコルチゾール前駆体の水酸化における異常(最も頻度が高いのは21-水酸化酵素欠損症,重症度がはるかに低い病態として11β-水酸化酵素欠損症)を原因とし,コルチゾール前駆体が蓄積してアンドロゲン産生経路に流入する。遅発性の男性化をもたらす副腎過形成では欠陥は部分的であるため,臨床疾患が成人期まで発生しないこともある。
副腎性器症候群の症状と徴候
影響は患者の性別と発症年齢によって異なり,男性よりも女性で顕著である。
先天性副腎過形成症を有する女子乳児では,陰唇陰嚢融合と陰核肥大がみられることがあり,それらが男性の外性器と類似するため,性分化の異常として受診することがある。
思春期前の小児では成長が加速することがある。無治療では,早期骨端線閉鎖と成人期の低身長がみられる。思春期前の男児が罹患すると,性的成熟を早期に経験する可能性がある。
成人女性では,無月経,子宮萎縮,陰核肥大,乳房縮小,ざ瘡,男性型多毛症,声低音化,頭部脱毛,性欲亢進,および筋肉増大が生じうる。
JOHN RADCLIFFE HOSPITAL/SCIENCE PHOTO LIBRARY
成人男性では,過剰な副腎アンドロゲンが性腺機能を抑制して不妊を引き起こす可能性がある。精巣の異所性副腎組織が増大して腫瘍様になる場合がある。
副腎性器症候群の診断
テストステロン
その他の副腎アンドロゲン(デヒドロエピアンドロステロン[DHEA],デヒドロエピアンドロステロン硫酸[DHEAS],アンドロステンジオン)
17-ヒドロキシプロゲステロン
デキサメタゾン抑制試験
ときに副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)刺激試験
副腎の画像検査
副腎性器症候群は臨床的に疑われるが,過少月経や血漿テストステロン上昇を伴う軽度の男性型多毛症と男性化は多嚢胞性卵巣症候群(Stein-Leventhal症候群)でも生じることがある。副腎性器症候群の診断は,副腎アンドロゲンの高値を認めることで確定される。
副腎過形成では,尿中デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)およびその硫酸塩(DHEAS)が上昇し,プレグナントリオール(17-ヒドロキシプロゲステロンの代産物)排泄がしばしば増加し,尿中遊離コルチゾールは正常であるか,または減少する。血漿DHEA,DHEAS,17-ヒドロキシプロゲステロン,テストステロン,およびアンドロステンジオンは上昇することがある。テトラコサクチド(合成ACTH)0.25mgを筋肉内投与した30分後に17-ヒドロキシプロゲステロン値が30nmol/L(1000ng/dL)を上回った場合は,最も一般的な型の副腎過形成が強く示唆され,これは21-水酸化酵素欠損症である。
デキサメタゾン0.5mgを6時間毎に48時間経口投与することにより過剰なアンドロゲン産生が抑制された場合は,男性化腫瘍は除外される。過剰なアンドロゲン分泌が抑制されない場合は,副腎のCTまたはMRIおよび卵巣の超音波検査を施行して腫瘍を検索する。
副腎性器症候群の治療
副腎過形成に対するグルココルチコイドの経口投与
腫瘍の切除
副腎過形成に対してはグルココルチコイドを使用する(典型的には,経口ヒドロコルチゾンを起床時に10mg,正午に5mg,夕方に5mg)。あるいは,デキサメタゾン0.5~1mgを就寝時に経口投与してもよいが,この程度の低用量でもクッシング症候群の徴候が引き起こされる場合がある;そのため,この種のグルココルチコイドは一般に推奨されていない。就寝時の投与が,ACTH分泌を抑制するという観点では最も適切であるが,不眠症を引き起こす可能性がある。酢酸コルチゾン(25mg,経口,1日1回)またはプレドニゾン(5mgまたはときに最大10mg,経口,1日1回)で代用してもよい。ヒドロコルチゾンの徐放性製剤も使用可能であり,生化学的コントロールを改善することがある。
男性化の症候は治療により大半が消失するが,男性型多毛症と禿頭の回復は緩徐であり,声は低いままとなったり,妊孕性が障害されたりする場合もある。
腫瘍には副腎摘出術が必要である。コルチゾール分泌腫瘍を有する患者では,非腫瘍部の副腎皮質が萎縮し抑制されているため,ヒドロコルチゾンを術前後に投与する。
要点
副腎性器症候群は,アンドロゲン分泌性の副腎腫瘍,または副腎過形成による。
男性化は女性でより顕著であり,男性は性腺機能の抑制により不妊となる可能性がある。
尿中および血漿中のデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)とその硫酸塩(DHEAS)に加え,しばしば血漿中のテストステロン値が上昇する。
アンドロゲン産生副腎腫瘍を検索するため,デキサメタゾン抑制試験と副腎画像検査を行う。
先天性副腎過形成症を検索するために,副腎ホルモンの中間代謝物を測定するとともに,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)刺激試験を行う。
副腎過形成はコルチコステロイド療法により治療し,腫瘍には副腎摘出術が必要である。