多発性内分泌腫瘍症2B型(MEN 2B)は,甲状腺髄様癌,褐色細胞腫,多発性粘膜神経腫および腸管神経節腫(intestinal ganglioneuroma)を特徴とする常染色体顕性(優性)の症候群で,しばしばマルファン症候群様体型およびその他の骨格異常を呈する。症状は生じている腺の異常に依存する。診断は遺伝子検査によって確定する。ホルモン検査および画像検査が腫瘍の局在診断に役立ち,可能なときは腫瘍を外科的に切除する。
(多発性内分泌腫瘍症の概要も参照のこと。)
MEN 2B症例の95%は,RETタンパク質の918番目のアミノ酸残基の単一アミノ酸置換に起因する。MEN 2Aおよび家族性甲状腺髄様癌と同様,この変異はがん原遺伝子RETを介する細胞プロセスを活性化する。50%超がde novo変異であるため,家族性ではなく孤発性であると考えられる。
MEN 2Bの症状と徴候
症状および徴候は存在する内分泌腺異常を反映したものである(多発性内分泌腫瘍症に伴う病態の表を参照)。約50%の患者は,粘膜神経腫,褐色細胞腫,および甲状腺髄様癌を伴う完全な症候群を呈する。10%未満の患者が神経腫と褐色細胞腫のみを発症し,残りの患者は褐色細胞腫を伴わずに神経腫と甲状腺髄様癌を発症する。
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しばしば粘膜神経腫が初発徴候であり,これは大半または全ての患者に生じる。神経腫は光沢のある小腫瘤として口唇,舌,および頬粘膜に出現する。
神経腫は眼瞼,結膜,および角膜にもよくみられる;乳児は涙を産生できないことが多い。肥厚した眼瞼およびめくれ上がった,びまん性に肥大した口唇が特徴である。
消化管の運動性の変化に関連する異常(便秘,下痢,およびときに巨大結腸症)はよくみられ,びまん性腸管神経節腫(intestinal ganglioneuromatosis)が原因とされている。
患者はほぼ常にマルファン症候群様体型を呈する。骨格異常がよくみられ,具体的には脊椎変形(前弯,後弯,側弯),大腿骨頭すべり症,長頭症(舟状頭とも呼ばれる),凹足,内反尖足などがある。
甲状腺髄様癌および褐色細胞腫はMEN 2Aの対応疾患に類似しており,いずれも両側性かつ多中心性の傾向にある。しかし,甲状腺髄様癌はMEN 2Bでは特に進行が速い傾向にあり,非常に年少の小児に現れることもある。
神経腫,顔貌の特徴,および消化管疾患は若年期に生じるが,甲状腺髄様癌または褐色細胞腫が後年に発症するまで本症候群が認識されないこともある。
MEN 2Bの診断
血清カルシトニン濃度
血漿遊離メタネフリンおよび尿中カテコラミンの濃度
頸部CTまたはMRI
MRIまたはCTによる褐色細胞腫の局在診断
遺伝子検査
MEN 2Bの家族歴,褐色細胞腫,多発性粘膜神経腫,または甲状腺髄様癌を有する患者ではMEN 2Bが疑われる。遺伝子検査は精度が高く,診断確定に使用される。MEN 2Aと同様,MEN 2B患者の第1度近親者および症状のある家族にも遺伝子検査によるスクリーニングを施行する。
褐色細胞腫は臨床的に疑われることがあり,血漿遊離メタネフリンまたは尿中カテコラミンの測定によって確定される。
甲状腺髄様癌に対する臨床検査を血清カルシトニン値の測定とともに行うべきである。
MRIまたはCTを用いて褐色細胞腫および甲状腺髄様癌を検索する。
MEN 2Bの治療
同定された腫瘍の外科的切除
予防的甲状腺切除術
罹患者には,診断が確定し次第,甲状腺全摘出術を行うべきである。褐色細胞腫があるならば,甲状腺切除術を施行する前に切除すべきである。
遺伝子キャリアには1歳以前に予防的甲状腺切除術を行うべきである。
要点
多発性内分泌腫瘍症2B(MEN 2B)はMEN 2Aと同じ遺伝子変異を伴い,同様の症候を呈するが,副甲状腺機能亢進症がみられない点,進行がより速い甲状腺髄様癌がみられる点,ならびに多発性粘膜神経腫およびマルファン症候群様体型がみられる点で異なる。
がん原遺伝子RETの変異を調べる遺伝子検査,血清カルシトニン値の測定,褐色細胞腫に対する血液または尿検査,ならびに頸部および副腎の画像検査を行うべきである。
褐色細胞腫を切除し,予防的甲状腺切除術を施行する。