身体醜形症(body dysmorphic disorder)は,他者には明らかではないか軽微にしか見えないが,本人は重大と認識している身体的な欠点にとらわれることを特徴とする。この外見についてのとらわれは,臨床的に意味のある苦痛または社会的機能の障害を引き起こすものでなければならない。患者はまた,外見へのとらわれに対する反応としての反復行動(例,鏡での確認)が反復的かつ過剰に行う。診断は病歴に基づく。治療は薬剤(具体的には選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI]またはクロミプラミン),精神療法(具体的には認知行動療法),またはその併用で構成される。
通常,身体醜形症は青年期に発症し,女性において若干頻度が高い可能性がある。本症の時点有病率は約1.7~2.9%である(1)。
総論の参考文献
1.Hartmann AS, Buhlmann U: Prevalence and Underrecognition of Body Dysmorphic Disorder.In Body Dysmorphic Disorder: Advances in Research and Clinical Practice, edited by Phillips KA.New York, NY, Oxford University Press, 2017.
身体醜形症の症状と徴候
身体醜形症の症状の出現は,緩徐または突然である。重症度は一定しないことがあるが,患者が適切に治療されない限り,通常,この疾患は慢性に経過すると考えられる。
一般的に,患者の悩みは顔面または頭部に関するものであるが,身体のどの部位も可能性があり,時間経過とともに部位が変わることもある。例えば,患者は認識している頭髪の薄さ,ざ瘡,しわ,瘢痕,浮き出た血管,顔色,顔毛また体毛の濃さなどを気にすることがある。あるいは,鼻,眼,耳,口,乳房,殿部,下肢,または他の部位の形または大きさを気にすることもある。男性では(まれに女性でも)筋肉醜形症と呼ばれる病型を呈することがあるが,これは自身の体が十分に引き締まった筋肉質でないという考えにとらわれるものである。患者は嫌っている部位を醜い,魅力がない,変形している,忌まわしい,奇形的などと表現することがある。
通常,患者は思い込んでいる欠点について1日に何時間も悩んで過ごし,その欠点のために他者が自分に注目している,あるいは自分を嘲笑していると誤って信じ込んでいる場合も多い。大部分の患者は自分の姿を頻繁に鏡で確認するが,鏡を避ける患者もおり,この2つの行動を交互に行う患者もいる。
ほかによくみられる強迫行動としては,自分の外見と他者の外見の比較,過剰な身づくろい,皮膚をむしる(欠点と思い込んでいる部分の皮膚を除去または治療するため),毛を引っ張ったり引き抜いたりする,再保証を求める(自分が欠点と考えているものについて),着替えなどがある。大半の患者は自分が欠点と考えている点をカモフラージュしようと試みる;例えば,顎髭を伸ばすことにより自分が欠点と考えている瘢痕を隠したり,または帽子をかぶることによりわずかに薄くなった頭髪を隠す。多くは自分が欠点と考えている点を治そうと皮膚科,歯科,外科,または他の美容関連科の治療を受けるが,通常,そのような治療は不成功に終わり,とらわれが強化されることもある。筋肉醜形症のある男性は,筋肉を増やしたり脂肪を減らしたりするために,タンパク質同化ステロイドを始めとする様々なサプリメントを使用することがあり,それらが危険となる可能性がある。
身体醜形症の患者は,自らの外見に対する自意識が強いため,公衆の面前に出るのを避けることがある。大半の患者では,外見に関する悩みのために,社会的,職業的,学業的機能および他の機能が(しばしば著しく)障害される。夜間しか外出しない患者もいれば,全く外出しない患者もいる。社会的孤立,抑うつ,精神科入院,および自殺行動がよくみられる。非常に重症の症例では,身体醜形症のために日常生活が困難になる。
病識の程度は様々であるが,通常は乏しいか欠如している。すなわち,大半の患者は嫌っている部位について,おそらく(病識が乏しい)または確実に(病識なしまたは妄想的確信)異常,醜い,または魅力がないように見えると心から信じている。
身体醜形症患者の約80%が生涯を通じて希死念慮を経験し,約4分の1から30%近くが自殺を試みる(自殺行動を参照)。身体醜形症は,他の精神疾患と比較して自殺傾向が有意に高いことを特徴とする(1, 2)。
徴候と症状に関する参考文献
1.Angelakis I, Gooding PA, Panagioti M: Suicidality in body dysmorphic disorder (BDD): A systematic review with meta-analysis.Psychol Rev 49:55-66, 2016. doi: 10.1016/j.cpr.2016.08.002
2.Snorrason I, Beard C, Christensen K, et al: Body dysmorphic disorder and major depressive episode have comorbidity-independent associations with suicidality in an acute psychiatric setting.J Affect Disord 259:266-270, 2019. doi: 10.1016/j.jad.2019.08.059
身体醜形症の診断
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision(DSM-5-TR)の診断基準
多くの患者は症状を明らかにすることを嫌がり,恥に思うことから,身体醜形症は何年にもわたり未診断のまま放置されることがある。とらわれは時間の浪費につながり,かつ有意な苦悩,機能障害,またはその両方を引き起こすため,本症は外見に対する正常な悩みと鑑別される。
身体醜形症の診断は病歴に基づく。悩みが体型と体重のみで,摂食行動に異常がみられる場合は,摂食症がより正しい診断である可能性があり,また悩みが身体的・性的特徴としての外見に限られている場合は,性別違和の診断も考慮してよい。
身体醜形症の診断基準には以下が含まれている:
他者には認識できないか軽微にしか見えない外見上の欠点にとらわれている
本症の経過中のいずれかの時点で,外見の懸念に対する反応として反復的な行動(例,鏡での確認,過剰な身づくろい)がみられる
そのとらわれにより,有意な苦痛が生じているか,社会的機能,職業的機能,またはその他の領域の機能が障害されている
身体醜形症の治療
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)またはクロミプラミンと一部の症例で増強療法
認知行動療法
身体醜形症患者では,SSRIまたはクロミプラミン(強力なセロトニン作動性の作用を有する三環系抗うつ薬)がしばしば非常に効果的となる。初期薬物療法としては,一般的にクロミプラミンよりもSSRIの方が望ましい。うつ病や大半の不安症群に対して一般的に必要とされるより高用量を必要とすることが多い。データは限られているものの,これらの薬剤を十分に試しても実質的な改善がみられない一部の患者では,非定型抗精神病薬(例,アリピプラゾール),ブスピロン,グルタミン酸調節薬(例,N-アセチルシステインまたはメマンチン)などの増強療法の追加が有益となる可能性がある。
身体醜形症の具体的な症状に合わせて個別化した認知行動療法が第1選択の精神療法である。認知的アプローチ(例,認知再構成法)と曝露反応妨害法が治療の必須要素となる。医師は患者に対し,鏡による確認,過剰な身づくろい,自分の外見を他人と比較するなどの儀式行為を控えつつ,恐れたり避けたりする状況(通常は社会的状況)に徐々に直面していくよう奨励する。
認知行動療法には,皮膚むしり(表皮剥離)または抜毛がある場合,それに対する認知面の再訓練や習慣逆転法など,他の要素も含まれる。習慣逆転法には以下が含まれる:
気づきの訓練(例,セルフモニタリング,行動の引き金になる因子の特定)
刺激統制法(行動を始める可能性を低下させるために状況を変化させる手法―例,誘因の回避)
競合反応訓練(過剰な行動の代わりに,こぶしを握りしめる,編み物をする,手の上に座るなど別の行動を行うよう指導する)
大半の患者は病識が乏しいか欠如しているため,治療に参加して継続する意欲を高めるために,しばしば動機づけの手法が必要となる。
多くの専門医は,重症例に対して,認知行動療法と薬剤の併用が最良の治療法であると考えている。
美容治療は推奨されない。ほぼ常に無効に終わり,また,そのような治療を行った医師が不満を抱く患者から法的または身体的な脅迫ないし行動を受けるリスクが生じる場合もある。
要点
患者は他者には明らかではないか軽微にしか見えない身体の外見的な欠点にとらわれている。
本症の経過中のある時点で,患者は外見的な悩みに対して反復行動(例,鏡による確認,過剰な身づくろい)を実行することで反応するようになる。
大半の患者は,欠点と思い込んでいる部分をカモフラージュするか取り除くための対策を講じる。
典型的には病識が乏しいか欠如している。
身体醜形症の具体的な症状に合わせて個別化した認知行動療法および/またはSSRIまたはクロミプラミンによる薬物療法(しばしば比較的高用量)により治療する。
美容治療はほぼ常に無効であり,避けるべきである。