腰椎穿刺

執筆者:John E. Greenlee, MD, University of Utah Health
レビュー/改訂 2021年 5月
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腰椎穿刺では,針を腰椎くも膜下腔に刺入して,臨床検査用の髄液を採取し,髄液圧を測定するほか,ときに診断薬または治療薬を髄腔内に投与する。

ランドマークが触知困難である場合(例,肥満のため)は,神経放射線科医がX線透視下で腰椎穿刺を行うことが可能である。ランドマークの同定には超音波検査も利用でき,あまり一般的ではないが,器具と人員が準備できるなら,リアルタイムで針の位置をガイドすることもできる。しかしながら,教育施設以外では超音波検査はまだ一般的には用いられていない。

腰椎穿刺髄膜炎の概要,およびくも膜下出血も参照のこと。)

適応

診断上の適応*

* 腰椎穿刺でどのような情報を得る必要があるかと,どのような検査をオーダーする必要があるかを事前に決定しておくこと。手技を開始する前に,通常外の検査に適用される要件を臨床検査室に確認する。

治療上の適応

  • 特発性頭蓋内圧亢進症における頭蓋内圧の低減

  • 薬剤の髄腔内投与(例,脊髄または硬膜外麻酔,髄腔内化学療法)

禁忌

絶対的禁忌

  • 針の刺入部位またはその付近で感染(例,蜂窩織炎,膿瘍)が疑われる:可能であれば,感染のない別の部位で刺入する。これには後頭下(脳槽)または頸部(C1-C2)アプローチが含まれ,常にX線透視下で行われる。

相対的禁忌

  • 腰椎穿刺後にテント切痕ヘルニアまたは小脳ヘルニア*を誘発する可能性がある頭蓋内腫瘤(例,腫瘍,脳膿瘍,または血腫)による頭蓋内圧亢進の疑い。示唆的な所見(例,局所神経脱落症状,精神状態の変化,乳頭浮腫,ヘルニアの徴候)がみられる場合は,腰椎穿刺の前にCTまたはMRIを施行する。(ただし,CTまたはMRIでヘルニアのリスクを常に予測できるとは限らない。)

  • 腰椎穿刺から脊髄血腫に至る可能性がある凝固障害(例,国際標準化比[INR]>1.5[抗凝固療法を含む];血小板減少[<50,000/μL,50×109/L],または病的な活性化部分トロンボプラスチン時間延長):手技開始前の是正を考慮する。†

  • 腰椎穿刺時の臥位で悪化する可能性がある心肺機能不全または呼吸窮迫

  • 刺入部位の解剖学的異常(例,脊椎固定術,椎弓切除術,先天異常)

菌血症が腰椎穿刺後の髄膜炎の素因になる懸念は証明されておらず,したがって菌血症は禁忌ではない。

* 腰椎穿刺を延期した場合は,急性細菌性髄膜炎またはくも膜下出血が疑われた時点で直ちに治療を開始する。髄膜炎に対しては,直ちに血液培養も行う。

† 抗凝固療法(例,肺塞栓症に対する)は腰椎穿刺に伴う出血リスクを高めるが,抗凝固療法を中止した場合の血栓症のリスク増加(例,脳卒中)とのバランスを考慮する必要がある。中止の検討については,時間が許せば,患者の抗凝固療法による管理を行っている医師と話し合うこと。

合併症

  • 腰椎穿刺後頭痛

  • 硬膜外腔への出血(脊髄血腫)

  • 下肢に放散することがある腰部の不快感または疼痛(自然に軽快する)

  • 類表皮腫瘍,腰椎穿刺の数年後に発生する;スタイレットがない状態で腰椎穿刺針を刺入または抜去するとリスクが増大する(まれ)

  • 脳ヘルニア(まれ)

  • 皮質盲(まれ)

  • 頸髄梗塞(まれ)

  • 一過性または永続性の難聴(まれ)

  • 医原性感染症(まれ)

  • 一過性の悪心および/または耳鳴

腰椎穿刺後には約10%の患者で頭痛がみられ,通常は数時間から1~2日後に起き,重度になる可能性がある。体格が小さい若年患者で最もリスクが高い。Noncuttingタイプの細い針を使用することでリスクが低下する。これらの針は,ベベル面を患者の右側または左側(側腹部)に向けて刺入する。髄液の採取量や腰椎穿刺後の臥床時間は発生率に影響しない。

器具

多くの施設では,包装済みの腰椎穿刺キットが使用可能である。そうでない場合に必要になる器具としては,以下のものがある。

  • 滅菌手袋,ガウン,マスク,およびキャップ

  • 滅菌ドレープおよび/またはタオル

  • 消毒液(例,クロルヘキシジン,ポビドンヨード,アルコールワイプ)

  • 滅菌ガーゼ(例,10cm[4インチ]四方)

  • 局所麻酔薬(例,アドレナリン無添加の1%リドカイン,25Gおよび20G針,10mLシリンジ)

  • 表面麻酔薬(小児では標準):リドカインの噴射式注入機器(針なし注射器)(needle-free lidocaine gas-injector),リドカイン-アドレナリン-テトラカイン(LET)混合剤,またはリドカイン-プロピトカインクリーム

  • スタイレット付きの腰椎穿刺針:Cuttingタイプ(先端にベベルがある)またはnoncuttingタイプ(組織を傷つけない)の針*(先端がペンシルポイント);20または22*ゲージ;長さは成人で9cm,小児で6cm,乳児で4cm

  • 臨床検査用の髄液採取チューブ4本(1~4とラベルを貼る);大量の髄液採取(例,30~40mL)または特殊な追加検査が必要な場合はチューブを追加する。慢性髄膜炎(例,結核性または真菌性髄膜炎)またはがん性髄膜炎が疑われる場合は,30~40mLの大量の髄液採取が必要になることがある。正常圧水頭症の診断のために大量の腰椎穿刺を予定している場合にも,追加のチューブ(30~40mLの髄液が十分に入る容量)が必要になることがある。

  • 圧力計および活栓;場合により短い延長チューブ

  • 絆創膏

* Noncuttingタイプの針や小口径(22ゲージ)の針を使用することで,腰椎穿刺後頭痛のリスクが低下する。

超音波検査用:

  • 高周波リニアアレイプローブを備えたベッドサイド用超音波診断装置

その他の留意事項

  • 必要であれば,髄液糖の測定値と比較するための血糖値測定用に採血を行う;同時にオリゴクローナルバンド測定用の血液を採取してもよい。

  • 小児および不安がみられる成人には,短時間の鎮静(例,プロポフォールまたはフェンタニルおよび/またはミダゾラムによる)が必要になることがある。

重要な解剖

  • 針の望ましい刺入点はL3-L4間またはL4-L5間である;そのため,針は脊髄レベルより下に刺入されることになる。

  • L4の棘突起は,左右の上後腸骨稜の上端を結ぶ仮想の線に沿った位置にある。

  • 正中線上からの刺入(最も一般的なアプローチ)では,腰椎穿刺針はまず脊椎棘突起間にある棘上靱帯と棘間靱帯を通過した後,黄色靱帯に達する。

    側方からの刺入(例,正中線上の刺入点から1cm外側かつ1cm尾側)は,正中線上の靱帯を迂回するため,靱帯が石灰化および硬化している高齢患者で腰椎穿刺が容易になる場合がある。

  • 黄色靱帯は厚い結合組織であり,針が黄色靱帯を通過する際には明瞭なポップが触知できることがある(できないこともある)。

  • その後,針は硬膜外腔(脂肪組織と内部の椎骨静脈叢)を通り,そこから硬膜を通過して(同時に隣接するくも膜下膜を通って)くも膜下腔(髄液腔)に入る際に,再びポップが触知されることがある。「ポップ」は多くの症例で知覚できないことに注意すること。

    小児または乳児では,線維組織に貫通に対する抵抗がほとんどないため,針が黄色靱帯または硬膜を通過する際にポップを触知できないことがある。

体位

腰椎を屈曲させて椎間腔を拡大することが目標である。側臥位または座位をとらせる。一般には側臥位が好まれ,髄液内圧測定が望まれる場合は側臥位を選択すべきである。座位は肥満患者で助けになることがあり,また乳児では望ましい。

  • 側臥位:患者を横向きに寝かせて胎児様の姿勢をとらせ,股関節を耐えられる範囲で最大限屈曲させる。骨盤,背部,および肩がベッドに対して垂直になっていることを確認する。必要に応じて,枕を頭の下に置いて頭部を脊椎に沿わせ,また不快感を軽減するために膝の間にも枕を置く。患者が可能な限り体を丸めるのを介助者に補助させてもよい。開始する前に,患者の近くで快適な姿勢をとる。

  • 座位:患者をベッドの端に座らせ,足をスツールまたは椅子に乗せて股関節を屈曲させ,上体を前傾させて,頭部および肩をベッドサイドのテーブルで支える。

    乳児の場合は,介助者が上肢および下肢を前から把持して,胎児様の姿勢でベッドに座らせた状態を維持する。頸部の屈曲による窒息を予防するために頭部も支える。

ステップ-バイ-ステップの手順

部位の同定および準備

  • 必要に応じて介助者の手を借りて,患者に適切な体位をとらせる。

  • 針の刺入部位を臨床的に同定する:腰椎棘突起を触診して,左右の上後腸骨稜の上端を結ぶ仮想の線に最も近い棘突起を同定する;最も近い棘突起は通常L4(女性ではときにL3)である。刺入点は,その棘突起のすぐ尾側(すなわち,L4突起ならL3-L4間)にある陥凹部である。皮膚ペンで刺入部をマーキングしてもよい。通常の挿入部位はL3-L4間であるが,L4-L5間またはL2-L3間も許容可能である。

  • 小児では,皮膚表面麻酔薬を適用して,効果が現れるまで待期する。

  • 直径約20cmまでの一連の同心円状に拡大するように,スワブで消毒液を刺入部位に塗布する。

  • 少なくとも1分間置いて消毒液を乾燥させる。ヨウ素またはクロルヘキシジンを使用する場合は,腰椎穿刺針によりくも膜下腔に導入されないように,アルコールで拭き取る。

  • 滅菌済みの器具を滅菌済みの器具トレイに置き,滅菌ドレープをかける。

  • 滅菌手袋を装着する。術者に呼吸器症状がみられる場合は,マスクを着用する。隔離プロトコルが導入されている場合は,ガウン,マスク,およびキャップを着用する。

  • 圧力計,活栓,および連結チューブを組み立てる。連結チューブはある程度自由に動かせるようにすると,接続された器具の予期しない動き(例,予期しない患者の体動)で針が外れる事態を防止するのに役立つ。

  • 活栓,腰椎穿刺針,およびスタイレットが円滑に作動することを確認する。

  • 滅菌ドレープを穿刺部位の周囲にかける。

  • 針の刺入部に25G針で麻酔薬の膨疹を作り,予想される針の挿入経路に沿って軟部組織内の深部を麻酔していく。

腰椎穿刺針の刺入

  • 針を進めたり引き抜いたりするときは常に,スタイレットを腰椎穿刺針に完全に挿入する。

  • ベベルのある腰椎穿刺針をベベル面が患者の右側または左側を向くようにして(すなわち,側臥位の患者では上を向くようにして)保持する。針は片手で把持できるが,患者の体動やぴくつきに備えて,針は両手で把持した方がコントロールが良好になる。

  • 腸骨稜および棘突起を触知して,刺入部位を再確認する。

  • 臍に向けて針を刺入し,およそ15°頭側に向けて,約2~3mmずつ小刻みに針を進める。針が黄色靱帯を貫通する瞬間(硬膜外腔に入るため)のほか,ときに針が硬膜を貫通する瞬間(くも膜下腔に入るため)にも,ポップを触知できることがある。小児では,そのようなポップは通常あまり明確でない。くも膜下腔に到達するには,針をその全長のかなりの部分まで進める必要がある場合も多い。針を少しずつ進めていく間にスタイレットを取り外し,髄液の流れを確認する(くも膜下腔へのアクセスを意味する);針を進め続ける前にスタイレットを再び挿入する。

    針が骨に接触した場合は,針を皮下レベルまで引き抜き,より頭側に向けてから挿入を再開する。針が側方に外れず,脊柱管に向いていることを確認する。

    深く挿入した際に血液の逆流がみられた場合は,針が脊髄の腹側にある静脈叢に入っている可能性がある。針を小刻みな操作(例,1mmずつ)で引き抜き,各ステップで髄液の逆流がないか確認する。

  • ときに神経根や他の組織によって針の先端が塞がれることがある。くも膜下腔への挿入が成功したように思えても髄液を採取できない場合は,針の方向を90°変えて再確認する。

  • くも膜下腔に達したら,スタイレットを再び挿入し,それ以上は針を進めない。

腰椎穿刺

この腰椎穿刺は,側臥位にした患者で腰椎穿刺針をL3-L4間に刺入して行われたものでる。

髄液圧の測定

通常は内圧検査を行うが,患者の状態が重症(critically ill)の場合は省略することができ,また座位で穿刺を行った場合は,測定結果が信頼できないため,省略すべきである。

  • スタイレットを腰椎穿刺針から取り外す。

  • 組み立てた圧力計/活栓/延長チューブを針に取り付ける。

  • 腰椎穿刺針で圧力計のレベルを保持する。

  • 三方活栓を開ける。

  • 髄液がマノメーターのチューブを上がっていき,初圧に対応する高さに達するため,それをチューブの目盛りで読み取る。髄液の液面の高さは呼吸に伴いわずかに変動するはずである。正常な髄液柱の高さ(髄液圧)は7~18cmである。

    圧が低い場合は,髄液の流れを改善するために,患者に少しずつ下肢を伸展するよう指示する。呼吸に伴う圧変化がみられない場合,特に圧が低い場合は,針の向きを90°変えることで,神経による閉塞があればそれを軽減するか,針がくも膜下腔に完全に入っていない場合は,針を少しだけ進める。

髄液の採取

  • 髄液は絶対に吸引してはならない。

  • 髄液圧測定を行った場合は,髄液を圧力計から最初の採血管に排出する。圧力計が空になったら,圧力計を取り外す。

  • 番号順に,約1~2mLの髄液を4本の採取管のそれぞれに滴下する。抗酸菌,真菌(例,Cryptococcus neoformansCoccidioides immitis),またはがん性髄膜炎の検出など,一部の検査用により大量の検体(30~40mLまで)の採取が有用になる場合もある。

  • 1本目と3本目の採取管で細胞数および細胞分画を測定し,赤血球がみられる場合にはその数を比較できるようにする。(1本目から3本目にかけての赤血球数の急激な減少は,穿刺時の外傷と一致する。)

  • 2本目のほか,必要であれば1本目および/または3本目の残った髄液検体を用いて,タンパク値,糖値,オリゴクローナルバンド(必要に応じて),微生物学的検査などの他の検査を行う。

  • 予期しない追加検査が後から必要になる場合に備えて,4本目の凍結を考慮する。検査室に確認して検体の保管期間を確認し,必要であれば検体の保管期間を延長するよう依頼する。

手技の終了

  • スタイレットを針に再挿入する。

  • 針を愛護的に抜去する。

  • 閉鎖性ドレッシング材を貼付する。

アフターケア

  • 腰椎穿刺後の安静臥床は不要であり,それで腰椎穿刺後頭痛の発生率が低下することはない;しかしながら,腰椎穿刺後頭痛の治療で臥位が助けになることに変わりはない。

  • 処置後の頭痛を治療するために水分の経口摂取量を増やすことが提唱されているが,比較試験では効果が認められていない。カフェインは処置後の頭痛の予防に役立つ可能性がある。

  • 遷延または悪化する背部痛(腰椎穿刺の数日後までに起こることがある)に注意するよう患者に指示するが,その場合は血腫を除外するために迅速な評価が必要になる。

注意点とよくあるエラー

  • 患者の股関節,背部,および肩がベッドに対して正確に垂直に保たれるようにする。

  • 側臥位を選択する場合は,患者に脊柱を屈曲させた胎児様の体位を維持させる。

  • 針は必ず正中線に向け(側方に傾けない),やや頭側に進める。

ここでのエラーは脊柱管への挿入を困難にする。

  • スタイレットを再挿入せずに針を引いてはならない。

  • 針が脊柱管に入らない場合に,先端を左右に動かして針の位置をずらそうとしてはならない;組織が損傷する可能性がある。そうではなく,針を皮膚表面の近く(すなわち,脊柱靭帯より外)まで引き抜いてから,挿入の角度と方向を変える。

アドバイスとこつ

  • 側臥位で行う場合は,患者の近くに快適な姿勢で座ってから手技を開始する。

  • コントロールをより良好にするために,針を両手で把持することを考慮する。

  • 刺青がある患者では,そのインクが髄液中に移行して刺激や毒性を引き起こす可能性があるため,刺青がある皮膚を介しての腰椎穿刺は避けること。必要であれば,隣接する椎間を用いるか,刺青のある表皮にメスで小さな刺傷を入れて,そこから針を挿入する。

  • 針が皮膚を貫通して棘靱帯に入ったら,さらに進める前に患者の姿勢(股関節がベッドに対して垂直)と針の方向(脊椎に対して垂直)を再確認する。

  • 腰椎穿刺の前(例,30分前まで)に血糖値測定用の採血を行っておき,髄液糖の測定値と正確に比較できるようにする。このタイミングで,血清および髄液のオリゴクローナルバンドも比較することができる。

  • 臥位での腰椎穿刺が不成功に終わった場合は,座位での穿刺を試みるが,脊椎の屈曲が増して椎間腔が開くため,成功する可能性がある。

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