脳卒中の概要

執筆者:Andrei V. Alexandrov, MD, The University of Tennessee Health Science Center;
Balaji Krishnaiah, MD, The University of Tennessee Health Science Center
レビュー/改訂 2023年 7月
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脳卒中とは,神経脱落症状を引き起こす突然の局所的な脳血流遮断が生じる多様な疾患群である。脳卒中には以下の種類がある:

明らかな急性脳梗塞の所見(MRIの拡散強調画像に基づく)を伴わない一過性(典型的には1時間未満)の脳卒中症状は,一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれる。

米国では,脳卒中は5番目に多い死亡原因となっており,成人における神経学的障害の原因としては最も頻度が高い。

脳卒中には脳の動脈系(脳の動脈系の図を参照),すなわち前方循環系(内頸動脈の分枝)と後方循環系(椎骨および脳底動脈の分枝)のいずれかが関与する。

脳の動脈系

前大脳動脈は,前頭葉および頭頂葉の内側部と脳梁に血液を供給する。中大脳動脈は,前頭葉,頭頂葉,および側頭葉の外側表面の大部分に血液を供給する。前大脳動脈の分枝と中大脳動脈の分枝(レンズ核線条体動脈)は,基底核および内包前脚に血液を供給する。

椎骨および脳底動脈は,脳幹,小脳,後大脳皮質,および側頭葉内側部に血液を供給する。後大脳動脈は脳底動脈から分岐して,側頭葉(海馬を含む)および後頭葉の内側部,視床,ならびに乳頭体および膝状体に血流を供給する。

前方循環系と後方循環系は,後交通動脈を介してウィリス動脈輪の中で連絡している。

危険因子

脳卒中のリスク増大に寄与する是正可能な危険因子を以下に示す:

是正できない危険因子としては以下のものがある:

  • 脳卒中の既往

  • 高齢

  • 脳卒中の家族歴

  • 人種,民族

  • 遺伝因子

脳卒中の症状と徴候

脳卒中の初期症状は突然現れる。症状は梗塞部位によって異なる(機能別に見た脳の領域の図を参照)。

そのため,症状としては四肢または顔面のしびれや脱力,失語,錯乱,片眼または両眼の視覚障害(例,一過性黒内障,複視),浮動性めまいまたは平衡および協調運動障害,頭痛などがみられる。

機能別に見た脳の領域

神経脱落症状から脳卒中の部位を同定する(主な脳卒中症候群の表を参照)。前方循環系の脳卒中は典型的には片側性の症状を引き起こす。後方循環系の脳卒中で生じる障害は片側性のこともあれば両側性のこともあり,意識障害が生じる可能性が高く,特に脳底動脈が侵された場合にその傾向が強い。

表&コラム
表&コラム

ときに全身症状または自律神経症状(例,高血圧,発熱)が生じる。

神経脱落症状よりも,その他の臨床像から脳卒中の病型が示唆される場合が多い。例えば以下のものがある:

  • 突然の重度の頭痛はくも膜下出血を示唆する。

  • 意識障害や昏睡(しばしば頭痛,悪心,および嘔吐を伴う)は頭蓋内圧亢進を示唆するが,これは大きな虚血性脳卒中では48~72時間後に,多くの出血性脳卒中ではこれよりも早く起こる可能性があり,結果として致死的な脳ヘルニアを来すこともある。

合併症

脳卒中の合併症には,睡眠障害,錯乱,抑うつ,失禁,無気肺,肺炎,嚥下障害などがあり,嚥下障害は誤嚥,脱水,低栄養の原因となりうる。不動状態から血栓性疾患,デコンディショニング,サルコペニア,尿路感染症,褥瘡,および拘縮を来すことがある。

日常機能(歩く,見る,感じる,記憶する,考える,話すなどの能力)が低下することがある。

脳卒中の評価

評価の目的は以下の項目を明らかにすることである:

  • 脳卒中はいつ発生したか

  • 脳卒中は虚血性出血性

  • 緊急治療は必要かどうか

  • 脳卒中の再発を予防するための最善策は何か

  • リハビリテーションを行うか否か,またその方法

以下のうち1つでも該当する項目があれば,脳卒中が疑われる:

  • ある動脈支配領域の脳損傷と矛盾しない突然の神経脱落症状

  • 特に突然生じた重度の頭痛

  • 突然かつ原因不明の昏睡

  • 突然の意識障害

脳卒中が疑われる場合,医師は標準化された基準を用いて重症度を分類し,経時的な変化を追跡することがある。この方法は,有効性試験における評価項目として特に有用である。多くの場合,NIH脳卒中スケール(National Institutes of Health Stroke Scale:NIHSS)が用いられる。これは15項目の尺度で,患者への質問と身体的および精神的な課題実行の指示によって患者の意識レベルおよび言語機能を評価するとともに,運動・感覚障害を同定する。このスケールは,適切な治療を選んだり,予後を予測したりする上でも有用である。

検査

低血糖を除外するためにベッドサイドで血糖値を測定する。血糖測定は,血栓溶解薬を投与する前に全ての患者に行わなければならない唯一の臨床検査である。ただし,患者が抗凝固薬を使用している場合は,血小板数,国際標準化比(INR),および部分トロンボプラスチン時間も測定する。

脳卒中が疑われる場合は,出血性脳卒中と虚血性脳卒中を鑑別して頭蓋内圧亢進の徴候を検出するため,直ちに脳画像検査を行う必要がある。CTは頭蓋内出血に対する感度が高いが,前方循環系の虚血性脳卒中では,症状出現後最初の数時間は何の異常もみられないか,あっても微妙な変化に限られることがある。またCTでは,後方循環系の小さな脳卒中の一部が見逃される。MRIは頭蓋内出血に対する感度が高く,CTで見逃された虚血性脳卒中の徴候を検出できることがあるが,通常はCTの方がより迅速に施行できる。臨床的に疑われた脳卒中がCTで確認できない場合には,通常はMRIの拡散強調画像によって虚血性脳卒中を同定できる。

虚血性脳卒中の画像
亜急性中大脳動脈梗塞(CT)
亜急性中大脳動脈梗塞(CT)

この画像では,右中大脳動脈の分布域に,亜急性虚血性脳卒中と一致する低吸収域が認められ,虚血領域には出血が広がっている。

© 2017 Elliot K.Fishman, MD.

急性虚血性脳卒中(MRI)
急性虚血性脳卒中(MRI)

このMRI画像では,急性虚血性脳卒中と一致する拡散の制限された領域が左側の島皮質および前頭葉に認められる。

Image courtesy of Ji Y.Chong, MD.

左中大脳動脈の虚血性脳卒中(CT)
左中大脳動脈の虚血性脳卒中(CT)

この頭部単純CTでは,左中大脳動脈に高吸収域が認められる。この所見は左中大脳動脈の局所的な血栓(矢印)を示唆する。

Image courtesy of Ji Y.Chong, MD.

意識障害がみられ,片側優位の徴候がないか曖昧である場合は,脳卒中以外の原因(例,発作後朦朧状態,代謝性脳症)に対するさらなる検査を行う:

  • 血液検査:包括的な生化学検査(少なくとも血清電解質,血中尿素窒素[BUN],クレアチニン,およびカルシウムを含める),白血球分画および血小板数を含めた血算,肝機能検査,およびアンモニア値を測定すべきである。

  • 動脈血ガス

  • 血液・尿培養およびルーチンの薬毒物検査

  • 心電図検査により心筋梗塞や新たな不整脈がないか確認する

  • 胸部X線検査により,脳の酸素化に影響を及ぼす新たな肺疾患がないか確認する

  • 画像検査により,腫瘤,出血,浮腫,骨外傷の所見,および水頭症がないか確認する(まず頭部単純CT,その後診断に必要であればMRIまたは造影CT)

  • 心エコー検査により,心臓に血栓,ポンプ機能または構造上の異常,弁膜症がないか確認する

  • 脳波検査

脳卒中が虚血性と出血性のどちらであるかを特定できたら,原因同定のための検査を行う。併存する急性の全身性疾患(例,感染症,脱水,低酸素症,高血糖,高血圧)についても評価を行う。脳卒中後には抑うつがよくみられるため,患者に抑うつがないかどうか尋ねる。摂食嚥下チームが嚥下困難の評価を行うが,ときに食道造影が必要になることがある。

脳卒中の治療

  • 状態の安定化

  • 一部の虚血性脳卒中に対する再灌流療法

  • 支持療法および合併症の治療

  • 脳卒中の再発を予防するための戦略

  • リハビリテーション

完全な評価を行う前に状態の安定化が必要になることがある。昏睡を含む意識障害のある患者(例,グラスゴーコーマスケール[Glasgow Coma Scale] 8)には,気道確保が必要になることがある。頭蓋内圧亢進が疑われる場合は,頭蓋内圧のモニタリング脳浮腫を軽減するための処置が必要になることがある。

具体的な急性期治療は脳卒中の病型により異なる。一部の虚血性脳卒中に対する再灌流療法(例,経静脈的血栓溶解療法,機械的血栓除去術)もその1つである。

急性期および回復期には,支持療法を行い,併存する異常(例,発熱,低酸素症,脱水,高血糖,ときに高血圧)を是正し,合併症を予防および治療することが極めて重要であり(脳卒中合併症を予防および治療するための戦略の表を参照),これらの対策により,臨床的な転帰に明らかな改善がみられる(1)。回復期には,誤嚥深部静脈血栓症尿路感染症褥瘡,および低栄養を予防するための対策が必要になることがある。他動運動訓練(特に麻痺のある四肢の運動)と呼吸訓練を早期に開始することにより,拘縮,無気肺,および肺炎を予防する。

表&コラム
表&コラム

脳卒中後は,機能の回復を最大限高めるためのリハビリテーション(作業療法および理学療法)が必要になる。さらなる治療法(例,言語療法,食事制限)が必要になる場合もある。リハビリテーションには集学的アプローチが最善である。

脳卒中後の抑うつに対して抗うつ薬が必要になることがあり,多くの患者ではカウンセリングが有益となる。

生活習慣の改善(例,禁煙)と薬剤(例,高血圧に対するもの)によって危険因子を是正することが,脳卒中再発の遅延または予防に役立つ可能性がある。患者が有する危険因子に応じて,その他の脳卒中予防策を選択する。虚血性脳卒中を予防するための戦略としては,各種処置(例,頸動脈内膜剥離術,ステント留置術),抗血小板療法,抗凝固療法などが用いられる。

治療に関する参考文献

  1. 1.Powers WJ, Rabinstein AA, Ackerson T, et al:Guidelines for the early management of patients with acute ischemic stroke: 2019 update to the 2018 guidelines for the early management of acute ischemic stroke: A guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association.Stroke. 50 (12):3331–3332, 2019. doi: 10.1161/STROKEAHA.119.027708 Epub 2019 Oct 30.

脳卒中の予後

脳卒中の治療が早ければ早いほど,脳への損傷は軽度で済む可能性が高く,回復の可能性が高い。

特定の因子は予後不良を示唆する。意識障害を来した脳卒中と左脳の大部分を侵している脳卒中は,特に深刻な状態になることがある。

通常は,脳卒中発生後数日間の改善が速ければ速いほど,最終的に大きな改善が期待できる。改善は一般的には脳卒中後6~12カ月間続く。虚血性脳卒中を起こした成人では,12カ月以降も持続する問題は永続化する可能性が高いが,小児では何カ月もかけて緩徐な改善が持続する。高齢者では,若年者より経過が不良である。すでに他の重篤な疾患(例,認知症)に罹患している患者では,回復はより限定的となる。脳卒中の様々な原因の中で,最も予後良好であるのはラクナ梗塞である。

出血性脳卒中が広範囲に及んでおらず,頭蓋内圧亢進がなければ,同様の症状を伴う虚血性脳卒中後よりも予後良好となる可能性が高い。血液(出血性脳卒中による)は,虚血ほどには脳組織を損傷しない。

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