患者による筋力低下の訴えは,疲労,巧緻運動障害,真の筋力低下の3つの可能性がある。したがって,正確な局在,発症時期,増悪または軽快因子,合併する症候などを含め,症状の細かな特徴を把握しなければならない。
四肢を視診して,筋力低下(脱力がある肢を伸展させると下垂する),振戦,その他の不随意運動がないか確認する。特定の筋群の筋力は抵抗を加えて検査し,右側と左側を比較する。ただし,疼痛があると筋力検査の際に患者が全力を出せない場合がある。
ヒステリー性または作為性の筋力低下では,運動に対する抵抗が最初は正常でも,突然耐えられなくなったり,患者が支持筋を適切に使用しなかったりする。例えば,三角筋に真の筋力低下がある患者は,検者が加える抵抗に負けまいとして補助筋を使うため,体幹と頸部が患側の三角筋から遠ざかる。対照的に,三角筋の筋力低下が作為性のものである患者では(例,詐病による),検者が加える抵抗に屈して肩と頭部が患側の三角筋の方へと傾くため,患者が努力していないことがわかる。
軽微な筋力低下は,歩行中の腕振りの減少,伸ばした腕の回内傾向,1肢の自発的使用の減少,下肢の外旋,急速な交互運動の遅延,または巧緻運動(例,ボタンをかける,安全ピンをはずす,マッチ箱からマッチを取り出すなどの能力)の障害によって明らかになることがある。
筋力は段階に分けて評価すべきである。現在では,Medical Research Council of the United Kingdomが開発した以下のスケールが普遍的に用いられている:
0:筋の収縮を認めない
1:筋の収縮を認めるが,運動はないか微小である。
2:四肢を動かせるが,重力に抗して動かすことはできない
3:重力に抗して四肢を動かせるが,抵抗を加えると動かせない
4:少なくともある程度の抵抗に逆らって四肢を動かせる
5:完全な筋力がある
このスケールや類似のスケールの難点は,グレード4とグレード5との間で筋力に大きな幅がみられることである。
遠位筋力はハンドグリップエルゴメーターを使用するか,膨らませた血圧カフを患者に強く握らせることによって,半定量的に測定できる。
機能検査を用いることで,しばしば筋力と障害との関係がより詳細に明らかになる。患者に様々な動作を行わせ,機能障害に注目して動作を行えた量(例,スクワットの回数または登った階段の数)を測定する。蹲踞位から立ち上がらせる,または椅子の上に登らせることで,下肢近位筋の筋力を検査できる;踵歩きおよびつま先歩きをさせることで,遠位筋の筋力を検査できる。椅子から立ち上がる際に椅子に手をついて体を押し上げなければならない場合は,大腿四頭筋の筋力低下が示唆される。腕を動かすために身体を揺り動かす場合は,肩甲帯の筋力低下が示唆される。仰臥位から立ち上がる際に,まず腹臥位に向きを変え,次いで膝をつき,手を大腿部に当ててゆっくりと上体を押し上げる場合(ガワーズ徴候)は,骨盤帯の筋力低下が示唆される。
(運動系の評価方法および神経学的診察に関する序論も参照のこと。)