骨壊死(ON)

(阻血性骨壊死;無菌性壊死;骨の虚血性壊死)

執筆者:Stuart B. Goodman, MD, PhD, Stanford University
レビュー/改訂 2023年 3月
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骨壊死は,限局性の骨の梗塞であり,特異的な病因因子によって引き起こされることもあれば,特発性のこともある。疼痛,運動制限,関節の圧潰,および二次性変形性関節症を引き起こすことがある。診断はX線検査およびMRIによる。早期には,外科的手技によって進行を予防ないし遅らせることができる。後期には,疼痛の緩和と機能の維持のために人工関節置換術が必要になることがある。

米国では,年間約20,000人が新たに骨壊死を発症している。股関節(大腿骨頭)が侵されることが最も多く,膝関節および肩関節(上腕骨頭)がそれに続く。手関節および足関節が侵されることは比較的まれである。骨壊死では,股関節が侵されることなく肩関節または他の罹患頻度の低い部位が侵されることはまれである。薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)について骨粗鬆症に対する骨吸収抑制療法との関連がまれに報告されている。MRONJには他の部位の骨壊死とは異なる特徴がみられる。

骨壊死の病因

骨壊死の最も一般的な原因は外傷であり,非外傷性骨壊死の最も一般的な原因はコルチコステロイドの使用である。

外傷性骨壊死

外傷性骨壊死の最も一般的な原因は,転位を伴う大腿骨近位部の骨頭下骨折であり,転子間骨折後の骨壊死はまれである。股関節脱臼後の骨壊死の発生率は,主に最初の外傷の重症度と関連するが,脱臼が迅速に整復されない場合は高くなる可能性がある。骨折または脱臼によって近くの血管が大きく破壊または圧迫されることで,骨壊死が引き起こされることがある。

非外傷性骨壊死

非外傷性骨壊死は,女性より男性に発生することが多く,60%以上の症例が両側性で,主として30歳から50歳までで発生する。

非外傷性骨壊死の原因または寄与因子として最も一般的なものは以下の通りである:

  • コルチコステロイドの使用(特に長期使用または高用量の場合)

  • 過度の飲酒

これら以外で骨壊死に対する非外傷性の危険因子としては以下のものがある:

コルチコステロイドの用量が数週間ないし数カ月間にわたりプレドニゾン換算で20mg/日を超え,その結果として累積投与量が通常2000mgを超えると,骨壊死のリスクに対するコルチコステロイド使用の寄与が大きくなるが,これよりはるかに少ない量のコルチコステロイド曝露後に骨壊死が発生した症例も報告されている。注意すべき点として,コルチコステロイド関連骨壊死はしばしば多発性であり,荷重関節と肩関節などの非荷重関節の両方を侵す可能性がある。

骨壊死のリスクは,1日当たり3ドリンクを超える(1週間当たりエタノール500mLを超える)飲酒を数年間続ける場合にも高くなる【訳注:1ドリンクはエタノール量14g】。

一部の遺伝因子は骨壊死への感受性を高める。プロテインC,プロテインS,もしくはアンチトロンビンIIIの欠乏による,または抗カルジオリピン抗体(血栓性疾患の概要を参照)によるごく軽度の凝固異常が骨壊死患者で高率に検出される。

骨壊死によくみられる併存症の一部はコルチコステロイドで治療する(例,全身性エリテマトーデス)。エビデンスからは,これらの疾患の多くにおける骨壊死のリスクは疾患よりもむしろコルチコステロイドの使用に主に関連するということが示唆される。骨壊死症例の約20%は特発性である。ビスホスホネートによる治療(特に静脈内投与によるもの)と他の骨吸収抑制薬(例,デノスマブ)の投与を受けた患者において,薬剤関連顎骨壊死が報告されている。股関節に生じる非外傷性骨壊死は約60%の患者で両側性である。

「特発性膝骨壊死(SONK)」という用語は誤った名称である。この病態は高齢患者で正常な現象として発生し,大腿骨顆部または脛骨高原に限局する。SONKは脆弱性骨折(insufficiency fracture)(骨粗鬆症の骨に骨強度の低下に起因して直接的な外傷なしに起こる脆弱性による骨折の一種)によって引き起こされると考えられている。真の膝骨壊死は,外傷によって,あるいは外傷以外の骨壊死の危険因子によって起こることがある。

骨壊死の病態生理

骨壊死では骨髄の細胞要素が死滅する。非外傷性骨壊死の機序としては,血栓または脂肪滴による塞栓,血管内血栓形成,血管外の圧迫などがある。

血管傷害の後,修復プロセスにより壊死した骨および骨髄の除去と健全な組織への置換が試みられる。例えば,股関節に生じた梗塞が小さければ(特に大きな荷重がかかる部位でない場合),これらのプロセスが成功裏に進行することがあり,大腿骨頭は円形が維持される。しかしながら,約80%の患者では,特に梗塞が荷重部位に起きている場合,梗塞部位の圧潰が修復を上回り,梗塞部位が圧潰する。そうなると大腿骨頭はもはや円形ではなくなる。

骨壊死は通常は長管骨の末端部(骨端および骨幹端)に生じるため,患部を覆う関節軟骨の表面が扁平化して不整になり,圧潰から最終的に変形性関節症および疼痛の増強につながる。

骨壊死の病態生理に関する詳細については,Osteonecrosis: Overview of New Paradigms in the Etiology and Treatmentを参照のこと。

骨壊死の症状と徴候

全身症状

骨壊死の患部は,血管傷害が起きても数週から数カ月の間,無症状のままのことがある。通常は疼痛がその後徐々に現れてくるが,急性に発生することもある。疼痛は,進行する関節の圧潰に伴って増強し,動作および荷重負荷により増悪し,安静により緩和する。

骨壊死発生の危険因子の多くは全身的に作用するため(例,コルチコステロイドの使用,過度の飲酒,鎌状赤血球症),骨壊死は多発性のことがある。鎌状赤血球症では,骨壊死が複数の長管骨の全体に生じ,突然の発作性疼痛を引き起こすことがある。

関節特異的な症状

股関節の骨壊死は,大腿を下方にまたは殿部内に放散することがある鼠径部痛を引き起こす。運動が制限され,通常は跛行が生じる。

SONKは通常,先行する外傷なしに突然の膝関節痛を引き起こす;突然の発症および疼痛の部位が古典的な骨壊死との鑑別に役立つ。この疼痛は大腿骨顆部の内側部または脛骨高原に生じることが最も多く,圧痛,非炎症性の関節液貯留,疼痛を伴う動作,および跛行が生じる。

上腕骨頭の骨壊死では通常,股関節および膝関節の病変に比べて生じる疼痛および障害が軽いことが多いが,体重を支えるために松葉杖を使用している患者では疼痛と運動障害が有意になる場合がある。

骨壊死の進行例では,疼痛および可動域の減少がみられるものの,他動可動域は自動可動域に比べて影響が小さい。症状を伴う関節液貯留が生じることがあり(特に膝関節において),貯留液は非炎症性である。

骨壊死の診断

  • X線

  • MRI

以下がみられる患者では骨壊死を疑うべきである:

  • 骨折の既往(例,転位を伴う大腿骨頭下骨折),関節脱臼(例,股関節脱臼),またはその他の危険因子(例,コルチコステロイドの使用,異常ヘモグロビン症)(特に疼痛が持続または悪化する場合)

  • 自然に発症する持続的な股関節,膝関節,または肩関節の疼痛(特に骨壊死の危険因子がある場合)

単純X線を最初に行うべきである。単純X線では数カ月の間異常がみられないことがある。最も早期の所見は局所的な硬化部および透亮部である。後に,骨端の骨折により軟骨下のcrescent signが現れることがある。その後,関節面の全体的な圧潰および平担化がみられ,進行した退行性変化が続く。原因が全身性の場合,病変が複数生じることがある。

臨床的に疑いは高いが,X線が正常であるか診断に至らない場合には,関節温存手術の成功を制限することとなる荷重関節への持続的な損傷を回避するために,診断過程の早い段階でMRI(感度および特異度がはるかに高い)を行うべきである(1)。両側の股関節を撮影すべきである。CTを要することはまれであるが,ときに関節の圧潰(単純X線上では出現せず,ときにMRI上で出現しないことがある)の検出に有用なことがある。骨シンチグラフィーは,MRIと比べて感度および特異度が低いため,一般にMRIおよびCTの禁忌があるか,これらの検査が行えない場合にのみ施行される。

骨壊死の分類には病期分類を用いることがある。例えば,大腿骨頭骨壊死のAssociation Research Circulation Osseous(ARCO)分類は,病変の大きさおよび位置,大腿骨頭の球形性,ならびに軟骨下骨の圧潰または股関節の関節炎の有無に基づいている(2, 3)。

臨床検査は通常は正常であり骨壊死の検出にはほとんど役に立たない。しかし,基礎疾患(例,凝固障害,異常ヘモグロビン症,脂質異常)の検出に役立つことがある。

診断に関する参考文献

  1. 1. Boontanapibul K, Steere JT, Amanatullah DF, et al: Diagnosis of osteonecrosis of the femoral head: too little, too late, and independent of etiology.J Arthroplasty 35(9):2342-2349, 2020.doi: 10.1016/j.arth.2020.04.092

  2. 2.Yoon BH, Mont MA, Koo KH, et al: The 2019 Revised Version of Association Research Circulation Osseous Staging System of Osteonecrosis of the Femoral Head. J Arthroplasty 35(4):933-940, 2020.doi:10.1016/j.arth.2019.11.029

  3. 3.Koo KH, Mont MA, Cui Q, et al: The 2021 Association Research Circulation Osseous Classification for Early-Stage Osteonecrosis of the Femoral Head to Computed Tomography-Based Study. J Arthroplasty 37(6):1074-1082, 2022.doi:10.1016/j.arth.2022.02.009

骨壊死の治療

  • 対症療法(例,安静,理学療法,非ステロイド系抗炎症薬[NSAID])

  • 治癒を促す外科的減圧または他の手技

  • 人工股関節置換術

非外科的治療

無症状の小さな病変は,特に荷重部位にない場合,自然に治癒することがあり,治療が必要ないこともある。しかしながら,症状を伴う病変または中等大以上の病変には,関節の圧潰を生じることなく病変が治癒する可能性を高めるために,しばしば治療が行われる(例,core decompressionなどの単純な手技による)。他の治療の有無にかかわらず,治癒を促進するために寄与因子の影響を軽減すべきである(例,コルチコステロイドの使用を制限する)。

より大きな病変は,無症状および症状がある場合のいずれでも,無治療では予後不良である(特に大腿骨頭の場合)。したがって,進行の遅延または予防および関節の保護のための早期治療が望ましい。完全に効果的な治療法はまだない。薬物療法(例,経口のビスホスホネート)および物理療法(例,電磁場および音波)は限られた研究で有望な結果が示されているが,現在のところ一般には用いられていない。荷重負荷の制限または免荷が単独で長期転帰を改善することは証明されていない。

骨折は時間とともに治癒するため,SONKは通常,手術なしで治療する。疼痛をコントロールするための鎮痛薬および松葉杖の使用,徐々に荷重負荷をかけること,ならびに筋力および可動域を維持するための理学療法は補助療法として有用である。

外科的治療

骨壊死に対する外科的治療は,関節が圧潰する前に行うと最も効果的である。外科的治療は股関節の骨壊死(無治療の場合の予後が他の部位の骨壊死よりも悪い)の治療で最もよく行われている。

Core decompressionが最も頻用される手技であり,骨内圧を低下させて修復を促すために,ドリルを用いて骨壊死領域に1つまたは複数の小さな溝ないし穿孔を作製する。core decompressionは技術的に単純で,正しく行われれば合併症発生率は非常に低い。免荷(荷重負荷は耐えられるだけにして,松葉杖,歩行器,杖などの移動補助具を用いる)は約4~6週間必要である。大半の報告では,全患者の65%と股関節に小さな病変があって早期に対処された患者の80%で満足または良好な結果が示されているが,報告されている転帰や,ひいては人工股関節全置換術の必要性には大きなばらつきがみられる。一般に,約20~35%の患者で人工股関節全置換術が必要となる。

手術時に,腸骨稜から採取した濃縮自家細胞をcore decompression時の穿孔部に注入することで,大腿骨頭骨壊死の臨床転帰および画像所見が改善する可能性がある(1-4)。

他の確立した手技には様々な大腿骨近位部の骨切り術および骨移植(血管柄付きの骨と骨のみのもの)などがある。これらの手技には高度な技術を要し,免荷が最長で6カ月間必要であり,米国ではあまり行われていない。これらの適応と有効性に関する報告は様々である。最適な結果を得るため,これらは主に手術経験および設備を有する選択されたセンターで行うべきである。

大腿骨頭の広範囲の圧潰と寛骨臼の変性性変化が強い疼痛と機能障害を引き起こしている場合,通常は関節形成術が,疼痛を効果的に緩和し,可動域を広げる上で最も信頼できる方法である。従来からのアプローチは人工股関節全置換術である。良好ないし極めて良好な結果が人工股関節全置換術例および人工膝関節全置換術例の95%で得られ,合併症発生率は低く,患者は大半の日常生活動作を3カ月以内に再開する。大半の人工股関節および人工膝関節は15年から20年より長くもつ。

膝骨壊死および肩関節の骨壊死は,股関節の骨壊死に比べて非外科的に管理できることが多い。core decompressionおよび骨移植の経験は限られているが,有望である。進行期には,人工関節の部分置換術または人工関節全置換術が適応となることがある。ただし,SONKは通常,外科的治療なしで消失する。

治療に関する参考文献

  1. 1.Atilla B, Bakırcıoğlu S, Shope AJ, et al: Joint-preserving procedures for osteonecrosis of the femoral head.J.EFORT Open Rev 4(12):647-658, 2020.doi: 10.1302/2058-5241.4.180073 

  2. 2.Hernigou P, Dubory A, Homma Y, et al: Cell therapy versus simultaneous contralateral decompression in symptomatic corticosteroid osteonecrosis: A thirty-year follow-up prospective randomized study of one hundred and twenty-five adult patients.Int Orthop 42(7):1639−1649, 2018.doi: 10.1007/s00264-018-3941-8

  3. 3.Zhang C, Fang X, Huang Z, et al: Addition of bone marrow stem cells therapy achieves better clinical outcomes and lower rates of disease progression compared with core decompression alone for early stage osteonecrosis of the femoral head: A systematic review and meta-analysis.J Am Acad Orthop Surg, 2020.doi: 10.5435/JAAOS-D-19-00816

  4. 4.Mont MA, Salem HS, Piuzzi NS, et al: Nontraumatic osteonecrosis of the femoral head: where do we stand today?A 5-year update.J Bone Joint Surg Am 102(12):1084-1099, 2020.doi: 10.2106/JBJS.19.01271

骨壊死の予防

コルチコステロイドにより生じる骨壊死のリスクは,コルチコステロイドを必要なときにだけ使用することにより,また必要な最小用量をできるだけ短期間投与することにより,最小限に抑えることができる。コルチコステロイドの長期または高用量の使用が予想される場合には,合併症について患者に説明すべきである。

減圧症により生じる骨壊死を予防するため,潜水中および高圧環境下での労働に際した減圧に関する公認の規則に従うべきである。

過度の飲酒および喫煙は控えさせるべきである。高リスク患者における骨壊死予防に用いられる様々な薬剤(例,抗凝固薬,血管拡張薬,脂質低下薬)については,効力を示したエビデンスは限られており,決定的ではない。

要点

  • 骨壊死は転位を伴う大腿骨頸部骨頭下骨折の合併症であることが最も多いが,骨の血流を障害する因子(例,鎌状赤血球症)は非外傷性骨壊死のリスクを高める。

  • 股関節,膝関節,または肩関節(ときに手関節または足関節)に説明のつかない非外傷性の疼痛がある患者,および特定の骨折の後に疼痛が持続または増悪する場合では,骨壊死を疑うべきである。

  • X線が診断に有用なことがあるが,MRIの方がより感度および特異度が高い。

  • 比較的小さい病変は自然に治癒することがあるが,大きな病変の大半(特に股関節)は無治療の場合進行する。

  • 非外科的治療は効果が明確に証明されていないため,広くは用いられていない。

  • 進行を制限するためおよび/または症状を緩和するために外科的治療が適応となることが多い(特に股関節の骨壊死に対して)。

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