薬剤関連顎骨壊死については,一致して受け入れられている定義や病因がないものの,一般には薬剤に関連して8週間以上存在する下顎骨または上顎骨の露出を伴う口腔病変と考えられている。疼痛が生じることもあれば,無症状のこともある。診断は骨の露出が8週間以上みられることによる。治療は限局的掻爬,抗菌薬,および含嗽液による。
かつてはビスホスホネート関連顎骨壊死(BPONJ)と呼ばれていた薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)は,まれであり,消耗性の病態となる可能性がある。MRONJは,ビスホスホネート(特に,高用量の静脈内投与による),骨吸収抑制薬(例,デノスマブ),または血管新生阻害薬の使用歴があるか,これらの薬剤を継続的に使用していて,頭頸部への放射線曝露歴がない患者において露出骨が治癒しないことを特徴とする。非常にまれであるが,ビスホスホネート,骨吸収抑制薬,血管新生阻害薬による治療をいずれも受けていない患者において,MRONJと同じ臨床像を呈する顎骨壊死(ONJ)が発生することがある。
MRONJは自然発生することもあれば,抜歯または外傷の後に発生することもある。下顎への血液供給の経路から,下顎に好発する(全症例の75%)。MRONJは真の骨壊死ではなく難治性の骨髄炎であることがあり,特にビスホスホネートの使用後に発生した場合その可能性が高い。
MRONJ症例の大半は高用量のビスホスホネート静注による治療を受けたがん患者で発生しており,閉経後骨粗鬆症に対するビスホスホネートの投与では,投与期間が4年を超える患者でも発生例はごく少数しか報告されていない。転移性骨疾患に対して骨吸収抑制薬の投与を受けている患者では,骨粗鬆症に対してそのような薬剤の投与を受けている患者と比べて,MRONJの発生リスクが高い(< 5%[1] vs < 0.05%[2])。
経口のビスホスホネートは比較的脂溶性が低く,骨への蓄積が少ない。経口ビスホスホネートを服用している骨粗鬆症患者におけるMRONJのリスクは極めて低く,一般集団における有病率(10万人年当たり約1人[3])と同程度である。4年未満の経口ビスホスホネートによる長期治療を受けた患者におけるMRONJの有病率は0.1%であり,4年以上にわたり経口ビスホスホネートを使用する場合でも0.21%を超えることはないようである(4)。現在のところ,その他の点で適切なビスホスホネートの使用を妨げるべきではない。ただし,ビスホスホネートの静注による治療を開始する前には必要な口腔外科手術を行い,ビスホスホネートの服用中は口腔衛生を良好にし,定期的な口腔ケアをするよう勧めるのが妥当と考えられる(5, 6)。
参考文献
1.Saag KG, Petersen J, Brandi ML, et al: Romosozumab or alendronate for fracture prevention in women with osteoporosis. N Engl J Med 377(15):1417-1427, 2017.doi:10.1056/NEJMoa1708322
2.Hallmer F, Andersson G, Götrick B, et al: Prevalence, initiating factor, and treatment outcome of medication-related osteonecrosis of the jaw-a 4-year prospective study. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol 126(6):477-485, 2018.doi:10.1016/j.oooo.2018.08.015
3.Masoodi NA: Oral bisphosphonates and the risk for osteonecrosis of the jawBJMP 2(2):11-15, 2022.
4.Ruggiero SL, Dodson TB, Aghaloo T, et al: American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons' Position Paper on Medication-Related Osteonecrosis of the Jaws-2022 Update. J Oral Maxillofac Surg 80(5):920-943, 2022.doi:10.1016/j.joms.2022.02.008
5.Hellstein JW, Adler RA, Edwards B, et al: Managing the care of patients receiving antiresorptive therapy for prevention and treatment of osteoporosis: Executive summary of recommendations from the American Dental Association Council on Scientific Affairs.J Am Dent Assoc 142(11):1243−1251, 2011.doi: 10.14219/jada.archive.2011.0108
6.Khan A, Morrison A, Cheung A, et al: Osteonecrosis of the jaw (ONJ): Diagnosis and management in 2015.Osteoporos Int 27(3):853–859, 2016.doi: 10.1007/s00198-015-3335-3
MRONJの症状と徴候
MRONJは長期間にわたり無症状の場合がある。症状は徴候ととともに発生する傾向があるが,疼痛が徴候に先行することがある。後期になると,MRONJは通常,疼痛および下顎(またはより頻度ははるかに低いが上顎)の露出骨から生じる膿性分泌物で発症する。歯および歯肉が侵されることがある。口腔内または口腔外の瘻孔が生じることがある。
MRONJの診断
臨床的評価
MRONJは,上顎または下顎に露出壊死骨が8週間以上みられる場合に診断される。
MRONJの治療
限局的掻爬,抗菌薬,および含嗽液
MRONJは,一度発症すると治療が困難であり,MRONJの治療経験がある口腔外科医が管理すべきである。MRONJの治療には,限局的掻爬,抗菌薬,および抗菌含嗽液が典型的に含まれる(例,クロルヘキシジン[1])。
病変部の外科的切除は,状態をさらに悪化させることがあり,初期治療とするべきではない。
治療に関する参考文献
1.Hellstein JW, Adler RA, Edwards B, et al: Managing the care of patients receiving antiresorptive therapy for prevention and treatment of osteoporosis: Executive summary of recommendations from the American Dental Association Council on Scientific Affairs.J Am Dent Assoc 142(11):1243−1251, 2011.doi: 10.14219/jada.archive.2011.0108