抜歯後の問題

執筆者:Michael N. Wajdowicz, DDS, Veterans Administration
レビュー/改訂 2022年 10月
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    抜歯後の問題は,歯科的緊急事態の一種であり迅速な治療を必要とする。具体的には以下のものがある:

    • 腫脹および疼痛

    • 抜歯後歯槽骨炎

    • 骨髄炎

    • 顎骨壊死

    • 出血

    腫脹および疼痛

    口腔外科手術後に生じる腫脹は正常であり,手技や侵襲の程度に比例する。アイスパック(または顔面に沿うような冷凍グリーンピースやコーンの袋)を初日に使用すべきである。冷却は1時間または2時間毎に25分間行う。もし腫脹が術後3日目までに軽減し始めなければ感染の可能性が高く,症状が治まって72時間後まで抗菌薬を投与してもよい(例,ペニシリンVK500mgを経口で6時間毎,またはクリンダマイシン300mgを経口で6時間毎)。

    術後の疼痛は中等度から重度まで様々であり,鎮痛薬により処置する(疼痛の治療を参照)。

    抜歯後歯槽骨炎(ドライソケット)

    抜歯後歯槽骨炎は,抜歯窩の血餅が溶解した場合に,むき出しの骨から生じる疼痛である。この状態は自然治癒するが,かなり強い痛みが生じ,通常は何らかの介入が必要となる。喫煙者と経口避妊薬使用者においてはるかに高頻度にみられ,主に下顎大臼歯,通常は智歯の抜歯後に生じる。典型例では,疼痛は術後2日または3日目に始まり,耳にまでおよび,数日から何週間にもわたって続く。

    抜歯窩は生理食塩水または0.12%クロルヘキシジンで洗浄し,何らかの緩和材を入れておくべきである。古くから行われている手法としては,ユージノール(鎮痛薬)をしみ込ませた,または2.5%リドカインあるいは0.5%テトラカインなどの麻酔軟膏をつけた1~2インチ(2.54~5.08cm)のヨードホルムのガーゼ片を抜歯窩におくことである。ガーゼを除去して2~3時間経過しても症状が再発しなくなるまで,ガーゼを1~3日毎に交換する。最近では,市販のブタンベン(麻酔薬),ユージノール,およびヨードホルム(抗菌薬)の配合剤が,より一般的に使用されるようになってきている。この配合剤は吸収されないが,数日後に抜歯窩から自然に洗い流される。これらの処置により通常は鎮痛薬の全身投与の必要性が無くなるが,さらなる痛みの緩和が必要な場合は,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を投与することがある。24時間以内に歯科医師によるフォローアップが必要である。

    骨髄炎

    まれに歯槽骨炎と混同される骨髄炎,は,発熱,局所の圧痛,腫脹の有無で鑑別する。もし症状が1カ月続けば,骨髄炎の診断に有用である腐骨(すなわち,限局した領域の壊死骨)をX線上で探索すべきである。骨髄炎には,グラム陽性菌とグラム陰性菌に効果的な抗菌薬の長期投与と根治ケアのための専門家への紹介が必要である。

    顎骨壊死(ONJ)

    顎骨壊死とは持続性の上顎骨または下顎骨の露出を伴う口腔病変であり,疼痛,歯の動揺,そして排膿が通常生じる(1)。ONJは抜歯後に発生する可能性があるが,外傷または頭頸部の放射線療法により起きることもある。

    薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)は,骨吸収抑制薬の使用とONJ間に発見された関連性を指す。これらの薬剤にはビスホスホネート,破骨細胞阻害薬,そしてカテプシンK阻害薬が含まれる。ビスホスホネートの静注を受けているがん患者では,おそらく静注ビスホスホネートの生物学的利用能が高いことにより,ONJのリスクが4倍に上昇する(2)。しかしながら,がん以外の患者で経口ビスホスホネート療法がもたらすONJのリスクは非常に低いようであり,最近の推計によると,この集団における有病率は約0.1%である。経口ビスホスホネート療法の中止により,このすでに低い有病率が下がる可能性は低く,歯科処置を前に経口ビスホスホネートを中止するよりも,口腔衛生を良好に保つことが効果的な予防法となる。骨吸収抑制療法の長期にわたる(2年以上)高用量投与はONJの発生率が高いことに関連している。ONJの発生率上昇と関連があるその他の薬剤としては,破骨細胞阻害薬であるデノスマブや,ベバシズマブやスニチニブといった,がんに対する一部の分子標的薬などがある。

    顎骨壊死の治療は困難であり,通常,緩和療法,限局的掻爬,抗菌薬投与,および含嗽などを施す。

    出血

    抜歯後出血は,通常,小血管に生じる。抜歯窩から外へ出ている血餅は全てガーゼで除去し,4インチ(10.16cm)のガーゼのパッド(折りたたんだもの)またはティーバッグ(これはタンニン酸を含んでいる)を抜歯窩上に置く。その後,患者にそれを1時間ほど噛んで継続的な圧をかけるように指示する。この処置は2回または3回繰り返さなければならないことがある。患者には血餅の形成が妨げられないように,最低1時間は待ってから抜歯部位を確認するよう指示する。また,数滴の血液が口中の唾液で希釈されると,実際の出血より多量に感じられると伝える。

    もし出血が続くならば,抜歯部位に1:100,000で希釈したアドレナリン添加2%リドカインによる神経ブロックまたは局所浸潤麻酔で処置を行う場合がある。次に抜歯窩を掻爬し既存の血餅を除去して骨をきれいにし,生理食塩水で洗浄する。そして適度な張力で抜歯部位を縫合する。酸化セルロース,ゼラチンスポンジに含ませた局所トロンビン,または細線維コラーゲンなどの局所止血薬を縫合前に抜歯窩に入れることもある。

    ほとんどの場合,抗凝固薬(例,アスピリン,クロピドグレル,ワルファリン,直接作用型経口抗凝固薬)を服用している患者は,歯科手術前にそれらを中止する必要はない(3)。併存疾患により出血のリスクが高い患者またはより広範な処置を受ける患者では,抗血小板薬または抗凝固薬の投与タイミングまたは24~48時間の短期間の治療中断について主治医と相談する必要がある。

    参考文献

    1. 1.American Dental Association (ADA) Science and Research Institute, LLC: Antibiotic Prophylaxis Prior to Dental Procedures.Accessed September 16, 2022.https://www.ada.org/resources/research/science-and-research-institute/oral-health-topics/antibiotic-prophylaxis.

    2. 2.Yarom N, Shapiro CL, Peterson DE, et al: Medication-related osteonecrosis of the jaw: MASCC/ISOO/ASCO clinical practice guideline.J Clin Oncol 1;37(25):2270-2290, 2019. doi: 10.1200/JCO.19.01186

    3. 3.American Dental Association (ADA) Science and Research Institute, LLC: Oral Anticoagulant and Antiplatelet Medications and Dental Procedures.Accessed September 16, 2022.https://www.ada.org/resources/research/science-and-research-institute/oral-health-topics/oral-anticoagulant-and-antiplatelet-medications-and-dental-procedures

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