手関節の関節穿刺

執筆者:Alexandra Villa-Forte, MD, MPH, Cleveland Clinic
レビュー/改訂 2023年 6月
意見 同じトピックページ はこちら

手関節の関節穿刺は,橈骨手根関節を針で穿刺して関節液を吸引する処置である。

関節症状を有する患者の評価および手関節の評価も参照のこと。)

手関節の関節穿刺の適応

  • 関節液貯留の原因の診断(例,感染症結晶誘発性関節炎

  • 疼痛緩和を兼ねた治療の一環としての関節液の除去および/または薬剤の注入

手関節の関節穿刺の禁忌

絶対的禁忌

  • 針の挿入が予想される部位の皮膚または深部組織の感染症

可能であれば,感染のない別の部位で穿刺すべきである。しかしながら,急性炎症を起こした関節は一般に熱感,圧痛,および発赤を呈するため,関節外の感染と酷似することで,刺入点とする正常部位を見つけるのが困難になることがある。超音波検査が役立つことがあり,超音波により関節液貯留を可視化することで,周囲に発赤がある状況でも関節穿刺を行うべきかどうかの判断を補強することができる。注:感染性関節炎が強く疑われる場合は,関節の感染を見逃してはならないため,発赤があっても,超音波検査の結果が陰性であっても,関節穿刺を行うべきである。

相対的禁忌

  • 重度の出血性素因(関節穿刺の前に是正が必要な場合がある);ルーチンの抗凝固療法は禁忌ではない(特に感染症が疑われる場合)

手関節の関節穿刺の合併症

合併症はまれであるが,以下のものがある:

  • 感染症

  • 腱,神経,または血管の損傷(traumatic tap)

手関節の関節穿刺で使用する器具

  • 消毒液(例,クロルヘキシジン,ポビドンヨード,イソプロピルアルコール),滅菌ガーゼ,手袋

  • 処置用シーツ(非滅菌)

  • 局所麻酔薬(例,1%リドカイン,25~30G針,3~5mLシリンジ)

  • 関節液の吸引用に25mm(1インチ)の22~20G針と10mLシリンジ

  • 臨床検査(例,細胞数,結晶,培養)の検体液採取用の適切な容器

  • 治療目的の関節内注射では,必要に応じてコルチコステロイド(例,トリアムシノロンアセトニド40mgまたは酢酸メチルプレドニゾロン40mg)および/または長時間作用型麻酔薬(例,0.25%ブピバカイン)を入れたシリンジ,22G針,およびシリンジ交換を補助するための止血鉗子

手関節の関節穿刺のその他の留意事項

  • 関節腔と吸引した関節液の両方の微生物汚染を防ぐために,無菌操作が必要である。

手関節の関節穿刺における重要な解剖

  • 刺入部は,Lister結節(橈骨背側結節)のすぐ遠位,長母指伸筋腱の尺側とする。

  • 刺入部を長母指伸筋腱の橈側(すなわち,タバコ窩)とすると,神経血管損傷が生じることがある。

手関節の関節穿刺

橈骨手根関節から関節液を吸引する。長母指伸筋腱の同定を容易にするために,患者に能動的に手関節および母指を伸展させるべきである。関節を穿刺するために,手関節を屈曲し,尺側に約20~30度偏位させる。手に牽引をかける。刺入部は,Lister結節のすぐ遠位,長母指伸筋腱の尺側とする。

手関節の関節穿刺での体位

患者を座位または仰臥位にし,手関節をベッドサイドのテーブルに乗せる。

手関節の関節穿刺のステップ-バイ-ステップの手順

  • 手関節背側を触診してLister結節を同定するが,これは橈骨遠位端背側にある触知可能な骨隆起部である。患者に母指を伸展するよう指示して,長母指伸筋腱を分離および同定する。刺入部は結節の遠位,腱の尺側とする。皮膚ペンを使用するか,皮膚にくぼみを作る(より望ましい)ことで,刺入部をマーキングしてもよい(皮膚の消毒前)。

  • 前腕と手の下に処置用シーツを敷く。処置部位にクロルヘキシジンまたはポビドンヨードなどの消毒剤を塗布した後,アルコールワイプで薬剤を拭き取る。

  • 25~30G針を使用して,刺入部皮下に局所麻酔薬を注入して膨疹を作る。続いて,予想される穿刺針の進路(約0.5~1cm)に沿ってさらに麻酔薬を注入していくが,関節腔に進入してはならない。

  • 10mLシリンジと接続した22Gまたは20G針で関節の穿刺吸引を行う。

  • 針を関節腔内に挿入しやすくするために,助手に軸方向に牽引させ,軽く屈曲させ(20~30度),手を尺側屈曲させる。

  • 針を皮膚に垂直に,Lister結節のすぐ遠位,長母指伸筋腱の尺側に刺入する。針先の方向を掌側,関節腔に向けて,プランジャーを愛護的に引きながら進めていく。関節内に進入すると,関節液がシリンジに入ってくる。

  • 針が骨に当たった場合は,皮膚表面の近くまで引き抜いてから,別の角度に方向を変える。

  • 関節から関節液を全て吸引する。

  • 関節内に薬剤(例,麻酔薬,コルチコステロイド)を注入する場合は,止血鉗子で針のハブを動かないように保持しながら,関節液の入ったシリンジを取り外し,薬剤の入ったシリンジを接続する。針が関節腔内から出ていなければ,薬剤を注入する際に抵抗を感じない。橈骨手根関節への注入は,液量1mLを超えてはならない。

  • コルチコステロイドの注入を終えたら,関節を可動域全体にわたって動かすことで,薬剤を関節全体に行き渡らせる。

  • 関節液検査に供するために関節液を試験管や他の輸送用培地に移す。採取した液を観察して,血液や脂肪の混入がないか確かめる。

  • 絆創膏または滅菌ドレッシング材を貼付する。

手関節の関節穿刺のアフターケア

  • 氷冷,挙上,および経口非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が痛みの緩和に役立つことがある。

  • 関節内麻酔を投与した場合は,4~8時間の関節の活動制限を処方すべきである。

  • コルチコステロイドの関節内注射を行った場合は,関節を約24~48時間安静にすべきである。

  • 処置後12時間以上経過してから発赤,痛み,および/または腫脹が増強した場合は,関節を診察して感染の可能性がないか確認すべきである。

手関節の関節穿刺の注意点とよくあるエラー

  • 関節穿刺の前に,慎重に最適な体位を確保する。

  • 局所麻酔の効果が現れるのに十分な時間をとってから処置を進める。

  • 滑膜および関節軟骨の損傷を避けるため,抵抗に逆らって針を前進させたり,関節液の吸引が始まった後に針を動かしたりしてはならない。

  • 針先の位置を変えなければならない場合は,まず針を皮膚表面の近くまで引き抜いてから,方向を変える;針が組織内に深く入っている状態で刺入角度を変えようとしてはならない。

手関節の関節穿刺のアドバイスとこつ

明らかな大量の液貯留がなければ,超音波検査の施行を考慮する。

急性に炎症を起こした関節の上に熱感,圧痛,および発赤が生じて関節外感染症に類似する場合があることにも注意する。

感染性関節炎と,その上にある構造の感染症(関節穿刺の禁忌)の鑑別を試みる際に,以下の特徴がみられれば感染性関節炎の可能性がより高くなる:

  • 関節液貯留

  • 関節の全周にわたる関節痛および関節包の圧痛

  • 愛護的な他動関節運動および自動関節運動の両方による痛み

関節液を観察する際には,以下の点を考慮する:

  • Traumatic tapによる関節血腫は,不均一な血性を示し凝固する傾向がある。

小関節からの吸引では,視認できる液体が認められないことがある。それでも,顕微鏡による評価を行うため,たとえごく少量の液体でも,シリンジを用いて針からスライドガラス上に滴下すべきである。これは結晶に関連した関節炎を立証したり,感染の疑いを強めたりするのに十分である。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS