門脈肺高血圧症は,ほかに二次的な原因がない状況で門脈圧亢進症に伴って肺動脈性肺高血圧症が生じる病態である。
肺高血圧症は,肝硬変の有無にかかわらず,門脈圧亢進症に関わる様々な病態を有する患者に生じる。慢性肝疾患の患者において,門脈肺高血圧症は肝肺症候群よりも発生頻度が低い(発生率はそれぞれ3.5%,12%)。
BMP9(bone morphogenetic protein 9)シグナルの異常に肺高血圧症の発生との関連が報告されている。BMP9およびBMP10は肝臓で産生され,BMP2受容体のリガンドである。門脈肺高血圧症の患者では,進行した肝疾患を有する対照患者と比べて,BMP9の値が有意に低下していることがわかっている。門脈肺高血圧症の患者を門脈肺高血圧症のない進行した肝疾患患者と比較したところ,BMP10の値に差は認められなかった(1)。
主症状は呼吸困難と疲労である。胸痛および喀血も生じうる。患者は肺高血圧症に一致する身体所見および心電図異常を有し,肺性心の所見(頸静脈拍動部位の上昇,浮腫)を呈しうる。三尖弁逆流がよくみられる。
肺高血圧症は心エコー所見から疑い,右心カテーテル検査により確定する。
門脈肺高血圧症の治療は肝毒性のある薬剤および抗凝固薬の投与を避けるべきという点を除き,肺動脈性肺高血圧症の治療と同じである。β遮断薬は門脈圧亢進症でしばしば使用されるが,門脈肺高血圧症では血行動態不安定を招くため,これも使用を避けるべきである(2)。患者によっては血管拡張療法が有益となる。基礎にある肝疾患は転帰を決定する主な要因である。門脈肺高血圧症は肝移植の相対的禁忌であるが,これは処置に伴う合併症の発生率および死亡率が高いためである。しかしながら,移植を受けた患者の一部では,特に肺高血圧が軽度である場合に肺高血圧が改善する。血管拡張薬による治療の試行後,平均肺動脈圧が35mmHg未満の患者で肺移植を考慮する施設もある。
総論の参考文献
1.Rochon ER, Krowka MJ, Bartolome S, et al: BMP 9/10 in pulmonary vascular complications of liver disease.Am J Respir Crit Care Med 201 (11):1575–1578, 2020.doi: 10.1164/rccm.201912-2514LE
2.Galiè N, Humbert M, Vachiery JL, et al: 2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension: The Joint Task Force for the Diagnosis and Treatment of Pulmonary Hypertension of the European Society of Cardiology (ESC) and the European Respiratory Society (ERS): Endorsed by: Association for European Paediatric and Congenital Cardiology (AEPC), International Society for Heart and Lung Transplantation (ISHLT).Eur Heart J 37(1): 67-119, 2016.doi: 10.1093/eurheartj/ehv317