肺動脈弁狭窄症(PS)は,肺動脈流出路が狭小化することによって,収縮期の右室から肺動脈への血流が妨げられる病態である。大半の症例が先天性であり,多くは成人期まで無症状である。徴候としては漸増漸減性の駆出性雑音などがある。診断は心エコー検査による。症状がみられる患者と圧較差が大きい患者には,バルーン弁形成術が必要である。
(心臓弁膜症の概要も参照のこと。)
肺動脈弁狭窄症の病因
肺動脈弁狭窄症の症状と徴候
肺動脈弁狭窄症を有する小児の多くは,長年にわたり無症状のまま経過し,成人期まで医師を受診しない。その時点でも,多くの患者が無症状である。肺動脈弁狭窄症の症状が出現する場合には,大動脈弁狭窄症の症状に類似する(失神,狭心症,呼吸困難)。
視診および触診で認められる徴候は右室肥大の影響を反映するもので,頸静脈の著明なa波(肥大した右室に対抗する強い心房収縮に起因する),右室による前胸部の挙上または拍動,第2肋間胸骨左縁の収縮期振戦などがある。
聴診
II音の分裂開大およびII音肺動脈弁成分の遅延(P2)
粗い漸増漸減性駆出性雑音
聴診では,I音は正常であるが,肺動脈駆出の延長によりII音の正常な分裂が開大する(P2が遅延する)。右室不全と右室肥大があると,まれに第4肋間胸骨左縁でIII音およびIV音が聴取可能になる。先天性PSで聴取されるクリックは,心室壁にかかる異常な張力によって生じると考えられている。クリックは収縮早期(II音に非常に近い時相)に発生し,血行動態の変化から影響を受けない。粗い漸増漸減性の駆出性雑音が聴取されるが,これは患者に前傾姿勢をとらせ,膜型の聴診器を使用することにより,第2(弁狭窄)または第4(漏斗部狭窄)肋間胸骨左縁で最もよく聴取される。
大動脈弁狭窄の雑音とは異なり,肺動脈弁狭窄雑音は放散せず,狭窄が進行するにつれて漸増部分が延長する。この雑音はバルサルバ手技の解除や吸気により直ちに増強するが,この効果は患者に立位をとらせないと聴取できない場合がある。
肺動脈弁狭窄症の診断
肺動脈弁狭窄症の治療
ときにバルーン弁形成術
肺動脈弁狭窄症の予後は無治療でも概ね良好であり,適切な介入により改善する。
肺動脈弁狭窄症の治療はバルーン弁形成術であり,弁狭窄が中等度または高度で症状がみられる患者と狭窄が高度で無症状の患者において適応となる。
開心術の回数を減らすため,重度に選択された先天性心疾患の専門施設において経皮的弁置換術を施行してもよい(特に若年または複数の手術の既往を有する患者の場合)。外科的弁置換術が必要な場合には,右心系の機械弁は血栓症の発生率が高いことから,生体弁の使用が望ましく,一時的に抗凝固療法が必要とされる(人工弁置換患者に対する抗凝固療法を参照)。
要点
肺動脈弁狭窄症は一般に先天性であるが,症状(例,失神,狭心症,呼吸困難)は成人期まで現れないのが通常である。
聴診では,大きく分裂したII音のほか,粗い漸増漸減性の駆出性雑音が聴取されるが,これは患者に前傾姿勢をとらせることで第2および第4肋間胸骨左縁で最もよく聴取され,バルサルバ手技の解除と吸気により直ちに増強する。
症状のある患者と収縮機能が正常で最大圧較差が40~50mmHgを上回る無症状の患者には,バルーン弁形成術を施行する。