アテローム性動脈硬化

執筆者:George Thanassoulis, MD, MSc, McGill University;
Haya Aziz, MD, McGill University
レビュー/改訂 2022年 4月
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アテローム性動脈硬化は,中型および大型動脈の内腔に向かって成長する斑状の内膜プラーク(アテローム)を特徴とする。そのプラークの中には脂質,炎症細胞,平滑筋細胞,および結合組織が認められる。危険因子には,脂質異常症,糖尿病,喫煙,家族歴,座位時間の長い生活習慣,肥満,高血圧などがある。症状はプラークの成長または破綻により血流が減少ないし途絶したときに現れ,みられる症状は罹患動脈により様々である。診断は臨床的に行い,血管造影,超音波検査,またはその他の画像検査により確定する。治療法としては,危険因子,生活習慣,および食習慣の改善や運動,抗血小板薬,抗動脈硬化薬などある。

非アテローム性動脈硬化症も参照のこと。)

アテローム性動脈硬化(atherosclerosis)は,動脈硬化症(arteriosclerosis)の最も一般的な形態であり,動脈硬化症とは動脈壁の肥厚および弾性喪失を引き起こすいくつかの疾患の総称である。アテローム性動脈硬化は,冠動脈疾患脳血管疾患を引き起こすことから,動脈硬化症の中で最も重篤で臨床的に重要な病態でもある。アテローム性以外の動脈硬化症(非アテローム性動脈硬化症)としては,細動脈硬化メンケベルグ型動脈硬化症 などがある。

アテローム性動脈硬化は冠動脈,頸動脈,脳動脈,大動脈,大動脈分枝,四肢の主要動脈をはじめとして,あらゆる大型および中型動脈に発生しうる。アテローム性動脈硬化は,米国および大半の先進国において疾患発生および死亡の主な原因となっている。アテローム性動脈硬化に起因する加齢関連の死亡は減少しているが,それでも2019年には,全世界でおよそ1800万人(全ての死亡の30%を超える[1])が冠動脈および脳血管のアテローム性動脈硬化を主とする心血管疾患により死亡した。米国では,2019年に約558,000人が心血管疾患で死亡した(2)。低および中所得国ではアテローム性動脈硬化の有病率が急増しており,寿命の延長とともに発生率は上昇する。アテローム性動脈硬化は現在,世界中で最大の死因となっている。

総論の参考文献

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アテローム性動脈硬化の病態生理

脂肪線条は,アテローム性動脈硬化で最初に視認可能となる病変で,脂質を多く含有した泡沫細胞が動脈の内膜層に蓄積したものである。

アテローム性プラークは,アテローム性動脈硬化の大きな特徴であるが,脂肪線条が進展したもので,主に以下の3つの成分で構成される:

  • 脂質

  • 炎症細胞および平滑筋細胞

  • 結合組織基質:器質化の様々な段階にある血栓やカルシウム沈着物を含有することがある

アテローム性プラークの形成

アテローム性動脈硬化については,その全ての段階,すなわちプラークの形成と成長から合併症(例,心筋梗塞,脳卒中)の発生に至るまでの過程が損傷に対する特定のサイトカインによる炎症反応であると考えられている。形成または促進段階では内皮損傷が主な役割を担っていると考えられる。

層流でない血流や乱流(例,動脈の分枝点で生じるもの)は内皮機能障害につながり,強力な血管拡張物質であり抗炎症分子である一酸化窒素の内皮での産生を阻害する。そうした血流は内皮細胞による接着分子の産生も亢進させ,接着分子に炎症細胞が動員されて結合する。

アテローム性動脈硬化の危険因子(例,脂質異常症糖尿病,喫煙,高血圧),酸化ストレス因子(例,スーパーオキシドラジカル),アンジオテンシンII,ならびに全身性の感染および炎症もまた,一酸化窒素の産生を阻害し,接着分子,炎症性サイトカイン,走化性タンパク質,および血管収縮物質の産生を刺激するが,正確な機序は不明である。正味の影響としては,単球およびT細胞の内皮への結合,それらの細胞の内皮下への遊走,さらに局所的な血管炎症反応の開始と持続がある。

内皮下層の単球はマクロファージに分化する。血中脂質,特に低比重リポタンパク質(LDL)コレステロールと超低比重リポタンパク質(VLDL)コレステロールも内皮細胞に結合し,内皮下層で酸化する。酸化脂質が取り込まれ,マクロファージが脂質を貪食した泡沫細胞に変化すると,脂肪線条と呼ばれる典型的な初期のアテローム性動脈硬化病変が形成される。栄養血管の破綻やプラーク内出血によって赤血球膜の分解が生じるが,これはプラーク内脂質の重要な追加供給源となりうる。

マクロファージは炎症性サイトカインを産生し,それらにより中膜から平滑筋細胞が動員されるとともに,マクロファージがさらに誘引され,増殖が刺激される。様々な因子により平滑筋細胞の増殖が促進され,密な細胞外基質の産生が亢進する。その結果,内皮下層に線維性被膜で覆われた線維性プラークが形成され,その被膜は結合組織と細胞内外の脂質に取り囲まれた内膜平滑筋細胞から構成される。骨形成に似た過程により,プラーク内で石灰化が生じる。

感染とアテローム性動脈硬化の間に関連性が認められており,特に特定の感染症(例,肺炎クラミジア[Chlamydia pneumoniae],サイトメガロウイルス)の血清学的所見と冠動脈疾患(CAD)との関連が示されている。想定されている機序としては,血流中の慢性炎症による間接的影響,交差反応性抗体,動脈壁に対する感染性病原体の炎症作用などがある。しかしながら,このような関連を支持するエビデンスは相反しており,感染がアテローム性動脈硬化に果たす役割は小さいと考えられる。

プラークの安定性と破綻

アテローム性プラークは,安定プラークと不安定プラークに分けられる。

安定プラークは退縮するか,変化なく経過するか,数十年かけてゆっくり成長して最終的に狭窄または閉塞を引き起こすことがある。

不安定プラークは自然に生じるびらん,亀裂,破綻に対して脆弱であり,血行動態的に有意な狭窄を引き起こすかなり前から,急性の血栓症,閉塞,および梗塞をもたらす。臨床的な事象の大半は,血管造影上で血行動態的に有意でないことが多い不安定プラークによって引き起こされものであり,そのため,プラークの安定化は疾患発生率と死亡率を低減する方法の1つになると考えられる。

線維性被膜の強度と破綻に対する抵抗性は,コラーゲンの沈着と分解の相対的なバランスに依存する。プラークの破綻には,プラーク内で活性化したマクロファージによるメタロプロテアーゼ,カテプシン,およびコラゲナーゼの分泌が関与している。これらの酵素は線維性被膜(特に辺縁部)を消化し,被膜を菲薄化させ,最終的には破綻を引き起こす。プラーク内のT細胞はサイトカインを分泌して破綻を助長する。正常ではコラーゲンによりプラークの強度が高まるが,サイトカインが平滑筋細胞によるコラーゲンの合成および沈着を阻害する。

一旦プラークが破綻すると,プラーク内容物が循環血中に露出し,これが血栓形成の引き金となる;マクロファージはin vivoのトロンビン産生を促進する組織因子を有しているため,マクロファージも血栓形成を促進する。次の5つの結果のうちいずれかが発生する:

  • 生じた血栓が器質化してプラークに統合され,プラークの形状を変化させ,急速な成長をもたらす。

  • 血栓が血管内腔を急速に閉塞し,急性虚血イベントを誘発する。

  • 血栓により塞栓が生じる。

  • プラークに血液が充満して膨張し,動脈が直ちに閉塞する。

  • プラークの内容物(血栓ではない)により塞栓が生じ,下流の血管が閉塞する。

プラークの安定性は,プラークの組成(脂質,炎症細胞,平滑筋細胞,結合組織,および血栓の相対比率),壁応力(被膜の疲労),コアの大きさと位置,血流との関連におけるプラークの構造など,複数の因子に依存する。プラーク内出血は,急速な成長と脂質沈着に寄与することで,安定プラークから不安定プラークへの転換で重要な役割を果たすことがある。

一般に,冠動脈の不安定プラークはマクロファージが豊富で,厚い脂質コアと薄い線維性被膜を有し,血管内腔の狭小化は50%未満で,予期せず破綻する傾向にある。頸動脈の不安定プラークも組成は同じであるが,典型的には高度狭窄や閉塞あるいは血小板血栓の沈着(破綻よりむしろ塞栓を起こす)によって問題を引き起こす。低リスクのプラークは被膜が厚く脂質含有量が少なく,しばしば50%を上回る血管内腔の狭小化をもたらし,予測可能な労作性安定狭心症を引き起こす場合がある。

冠動脈でのプラーク破綻の臨床的な結果は,プラークの解剖学的な位置だけでなく,血液中の凝固促進活性と抗凝固活性の相対的なバランス,および不整脈に対する心筋の脆弱性にも依存する。

アテローム性動脈硬化の危険因子

アテローム性動脈硬化には数多くの危険因子がある(1アテローム性動脈硬化の危険因子の表を参照)。ある種の危険因子はメタボリックシンドロームとして集約される傾向にある。この症候群には,座位時間の長い生活習慣を送っている患者における腹部肥満,アテローム誘発性の脂質異常症,高血圧,インスリン抵抗性,血栓形成促進状態,および前炎症性状態などが含まれる。インスリン抵抗性はメタボリックシンドロームと同義ではないが,その病因において重要となりうる。

表&コラム
表&コラム

脂質異常症(総コレステロール高値,LDL高値,または高比重リポタンパク質[HDL]コレステロール低値),高血圧,および糖尿病は,血管内皮の機能障害と炎症経路を増幅ないし増強することにより,アテローム性動脈硬化を促進する。

脂質異常症では,LDLの内皮下への取込みおよび酸化が亢進する;酸化脂質は接着分子および炎症性サイトカインの産生を刺激するほか,抗原性を示すことでT細胞を介した免疫応答と動脈壁内の炎症を惹起することがある。HDLには,コレステロールの逆輸送と抗酸化酵素(酸化脂質を分解して中和することができる)の輸送を介したアテローム性動脈硬化症に対する保護作用があると以前は考えられていたが,ランダム化試験および遺伝学の知見によるエビデンスからは,HDLがアテローム形成に果たす役割はかなり小さいと示唆されている。アテローム形成で高トリグリセリド血症が果たす役割は複雑であるが,わずかながらの独立した影響を及ぼすと考えられる(2)。動脈硬化性心血管疾患のリスクを規定する主な因子は動脈硬化惹起性リポタンパクの濃度であり,これはアポリポタンパクB(apoB)濃度(またはapoBを測定できない場合はnon-HDL-C濃度)に最もよく反映される。

高血圧は,アンジオテンシンIIを介する機序により血管炎症をもたらす可能性がある。アンジオテンシンIIは内皮細胞,血管平滑筋細胞,マクロファージを刺激して,炎症性サイトカイン,スーパーオキシドアニオン,血栓促進因子,成長因子,レクチン様酸化LDL受容体などのアテローム誘発性の媒介物質を産生させる。

糖尿病は終末糖化産物の形成につながり,これにより内皮細胞による炎症性サイトカインの産生が増加する。糖尿病において生じる酸化ストレスおよび反応性酸素ラジカルは,直接的に内皮を損傷し,アテローム形成を促進する。

慢性腎臓病は,高血圧およびインスリン抵抗性の悪化,アポリポタンパク質A-I値の低下,リポタンパク質(a),ホモシステイン,フィブリノーゲン,およびC反応性タンパク(CRP)濃度の上昇など,いくつかの経路を介して動脈硬化の発生を促進する。

血栓形成促進状態血栓性疾患の概要を参照)はアテローム血栓症の発生可能性を増大させる。

タバコ煙には血管内皮に対して毒性を示すニコチンやその他の化学物質が含まれている。受動喫煙を含む喫煙は,血小板の反応性(おそらく血小板性血栓症を促進させる),血漿フィブリノーゲン濃度,およびヘマトクリット(血液粘稠度を上昇させる)を増加させる。喫煙はLDLの増加とHDLの減少をもたらし,さらに血管収縮も促進するが,これはアテローム性動脈硬化によりすでに狭小化した動脈では特に危険である。HDL値は禁煙開始後1カ月以内に速やかに上昇する。

リポタンパク質(a)[Lp(a)]は,アテローム形成を誘導する作用があり,心筋梗塞,脳卒中,大動脈弁狭窄症などの心血管疾患の独立した危険因子である(3, 4)。LDLと構造が類似しているが,同時に疎水性アポリポタンパク質B100と共有結合した親水性アポリポタンパク質(a)の要素も有している(5)。Lp(a)の血中濃度は遺伝的に規定されており,生涯を通じてかなり安定して推移する。Lp(a)値が50mg/dLを上回る場合は,病的とみなされる。

アポリポタンパク質(B)(apoB)は,肝臓で合成されるapoB-100と腸管で合成されるapoB-46の2つのアイソフォームが存在する粒子である。apoB-100はLDL受容体と結合することができ,コレステロールの輸送を担っている。また,酸化リン脂質の輸送も担っており,炎症を促進する性質がある。動脈壁内のapoB粒子の出現は,動脈硬化病変が発生する発端となる事象と考えられている。

糖尿病の特徴であるsmall dense LDL高値は,アテローム誘発性が高い。機序としては,酸化に対する感受性の増大や非特異的な内皮結合などが考えられる。

C反応性タンパク(CRP)高値は,アテローム性動脈硬化の程度を確実には予測できないものの,虚血イベントの可能性が高まっていることは予測できる。他の炎症性疾患が存在しない場合の高値は,アテローム性プラークが破綻するリスクの増加,進行中の潰瘍形成もしくは血栓症,またはリンパ球およびマクロファージの活動性亢進を示唆している可能性がある。CRP自体はアテローム形成に直接関与しないとみられている。

心臓移植後には,しばしば冠動脈のアテローム性動脈硬化が亢進するが,これは免疫を介した内皮傷害に関連している可能性が高い。また冠動脈硬化の亢進は胸部放射線療法の施行後にも認められ,放射線により誘発された血管内皮傷害に起因する可能性が高い。

肺炎クラミジア感染症などの感染症(例,ウイルス,Helicobacter pylori)は,直接感染,内毒素への曝露,または全身もしくは内皮下の炎症の促進を通じて,内皮機能障害を引き起こすことがある。

いくつかの高頻度およびまれな遺伝的変異(例,near 9p21,LPAおよびLDLR遺伝子)について,アテローム性動脈硬化および心血管イベントとの関連が確かに認められている。個々の多様体単体での影響は小さいものの,リスクのある多様体を全て合計した遺伝学的リスクスコアは,より進行したアテローム性動脈硬化のほか,原発性および再発性の心血管イベントとも強く関連することが示されている。

高ホモシステイン血症(例,葉酸の欠乏または遺伝性の代謝異常による)の患者ではアテローム性動脈硬化のリスクが高い。しかしながら,ホモシステイン値を低下させる治療法のランダム試験で得られた結果によると,動脈硬化性疾患の減少は認められず,メンデルランダム化試験のエビデンスも同様であったことから,現在では高ホモシステイン血症自体がアテローム性動脈硬化の原因であるとは考えられていない。ホモシステイン高値とアテローム性動脈硬化の間に関連が認められる理由は不明である。

血管疾患の既往

1つの血管領域にアテローム性動脈硬化性疾患が存在すると,他の血管領域にも病変が存在する可能性が高くなる。冠動脈以外のアテローム性動脈硬化性血管疾患を有する患者では,心イベントの発生率がCADが判明している患者と同程度であることから,これらの患者は現在ではCADと同等のリスクを有しているとみなされており,積極的に治療されるべきである。

危険因子に関する参考文献

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アテローム性動脈硬化の症状と徴候

アテローム性動脈硬化は初期には無症状で,しばしば数十年も無症状のまま経過する。症状および徴候は,病変により血流が妨げられた場合に出現する。安定プラークが増大して動脈内腔を70%以上減少させると,一過性の虚血症状(例,安定労作性狭心症一過性脳虚血発作,間欠性跛行)が生じることがある。血管収縮により,血流を制限しない病変が高度または完全狭窄に変化する可能性がある。

不安定プラークが破綻して主要動脈を急性に閉塞させ,さらに血栓症または塞栓症が重複すると,不安定狭心症もしくは心筋梗塞虚血性脳卒中,または四肢の安静時痛の症状が生じうる。アテローム性動脈硬化は,安定または不安定狭心症の先行を伴わずに突然死につながることもある。

動脈壁のアテローム性硬化病変は動脈瘤や動脈解離につながる可能性があり,これらは疼痛,拍動性腫瘤,無脈,または突然死として現れることがある。

アテローム性動脈硬化の診断

アテローム性動脈硬化の診断アプローチは症状の有無に依存する。

症状がみられる患者

虚血の症状および徴候がみられる患者では,罹患臓器に応じて,様々な侵襲的および非侵襲的検査により血管閉塞の量および部位を評価する(本マニュアルの別の箇所を参照)。このような患者では,以下の手段を用いてアテローム性動脈硬化の危険因子についても評価すべきである:

  • 病歴聴取および身体診察

  • 空腹時脂質プロファイル

  • 血漿血糖値および糖化ヘモグロビン(HbA1C)値

1つの部位(例,末梢動脈)で異常が明らかになった患者では,他の部位(例,冠動脈および頸動脈)にも異常がないか評価すべきである。

プラークの形態および特徴を評価できる非侵襲的な画像検査として以下のものがある:

  • 3次元血管超音波検査:頸動脈とその他の動脈のプラークを評価する目的で用いることができる

  • CT血管造影:冠動脈の有意な病変を同定する目的で臨床的に用いられる

  • MRアンギオグラフィー:太い動脈(例,大動脈)の画像評価のためにときに用いられる

カテーテルを用いる侵襲的検査も用いられている。具体的には以下のものがある:

  • 血管内超音波検査では,カテーテルの先端に取り付けた超音波プローブを用いて,動脈の内腔および壁の画像を描出する

  • 血管内視鏡検査では,特殊な光ファイバーカテーテルを用いて動脈の表面を直接視覚化する

  • プラークサーモグラフィ(plaque thermography)では,活動性の炎症が起きているプラークの温度上昇を検出する

  • 光干渉断層撮影では,赤外線レーザー光を用いて画像を描出する

  • エラストグラフィーでは,脂質に富む軟らかいプラークを同定する

免疫シンチグラフィーは,脆弱なプラークに集積する放射性トレーサーを使用する非侵襲的な代替検査法である。血管構造のPET検査は,脆弱なプラークを評価するための新たなアプローチである。

全てのアテローム性プラークに同様のリスクがあるわけではないことから,特に破綻しやすいプラークを同定する方法として様々な画像技術(例,PET)が研究されているが,いずれも臨床導入には至っていない。

空腹時の脂質プロファイルと血漿血糖値およびヘモグロビンA1C値の測定に加えて,一部の医師は血清中の炎症性マーカーを測定する。高感度C反応性タンパク(CRP) ≥ 3.1mg/L(29.5nmol/L)は,心血管イベントを強く予測する所見である。

無症状の患者(スクリーニング)

アテローム性動脈硬化の危険因子があるものの,虚血の症候がみられない患者では,脂質プロファイル以外の追加検査の役割は不明である。内膜内側厚を測定するための頸動脈超音波検査やアテローム性プラークを検出できる他の検査法など,複数の画像検査法が研究されているが,それらは危険因子の評価や確立された予測ツールを上回るほどには虚血イベントの予測を改善できておらず,推奨されていない。ただし冠動脈カルシウムに対する(すなわちカルシウムスコアを得るために行うための)CT撮影は例外で,これについてはリスクの再分類に関してより頑健なエビデンスが得られており,リスク推定の精緻化および特定の患者(例,中程度のリスクを有する患者,若年での心血管疾患の家族歴がある患者)に対するスタチン療法の判断に有用となる可能性がある。

大半のガイドラインでは,以下のいずれかの特徴がみられる患者に対して脂質プロファイルによるスクリーニングが推奨されている:

  • 40歳以上の男性

  • 40歳以上の閉経後女性

  • 家族性高コレステロール血症または若年での心血管疾患(発症年齢が男性の第1度近親者で55歳未満,女性の第1度近親者で65歳未満)の家族歴

  • 2型糖尿病

  • 高血圧

  • メタボリックシンドローム

  • 慢性腎臓病(推算糸球体濾過量[eGFR]60mL/min/1.73m2以下またはアルブミン/クレアチニン比[ACR]3mg/mmol以上)

  • 現在の喫煙

  • 炎症を引き起こす慢性の病態

  • HIV感染症

  • 妊娠高血圧症候群(例,妊娠高血圧腎症または子癇)の既往

American Heart Association(AHA)では現在,動脈硬化性心血管疾患の生涯および10年リスクを推定する目的で,プールしたコホートのリスク評価式(Downloadable AHA Risk Calculatorを参照)の利用を推奨している。この計算ツールは,従来のリスク計算ツール(例,Framinghamスコア)に取って代わっている。この新たなリスク計算式は,性別,年齢,人種,総コレステロール値,LDLコレステロール値,収縮期血圧(および血圧治療を受けているかどうか),糖尿病,および喫煙状況に基づいている(1)。European Cardiovascular Society(ESC)およびEuropean Atherosclerosis Societyの2016年版ガイドラインでは,最初の致死的動脈硬化イベントの10年リスクを推定するにあたり,年齢,性別,喫煙歴,収縮期血圧,および総コレステロール値に基づいてリスクを計算するSystemic Coronary Risk Estimation(SCORE)の使用を提唱している(2)。中リスクと判定された患者には,分類の精緻化に役立てるためにリポタンパク質(a)の測定が提唱されている(3,4)。

アルブミン尿(24時間当たりのアルブミン値が30mgを上回る)は,腎疾患およびその進行のマーカーであるとともに,心血管系および心血管系以外の疾患発生率および死亡率の強い予測因子であるが,アルブミン尿とアテローム性動脈硬化の直接的な関係は確立されていない。

診断に関する参考文献

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アテローム性動脈硬化の治療

  • 生活習慣の改善(食事,喫煙,運動)

  • 診断された危険因子に対する薬物療法

  • 抗血小板薬

  • スタチン系薬剤,ときにアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,β遮断薬

治療では,既存プラークの進行を遅らせ,退縮を促すために,危険因子を積極的に是正する。LDLコレステロール値を特定の目標値より低く抑えるという方針は,もはや推奨されておらず,現在では「低ければ低いほどよい」というアプローチが妥当とされている。

生活習慣の改善には,食習慣の改善,禁煙,および定期的な運動などがある。脂質異常症,高血圧,および糖尿病を治療するための薬剤がしばしば必要となる。以上の生活習慣の改善と薬剤投与は,直接的または間接的に内皮機能を改善し,炎症を軽減し,臨床転帰を改善する。スタチン系薬剤は,たとえ血清コレステロール値が正常かわずかに高い場合でも,アテローム性動脈硬化に関連する疾患発生率および死亡率を低減できる。抗血小板薬は全てのアテローム性動脈硬化患者に役立つ。冠動脈疾患の患者では,ACE阻害薬およびβ遮断薬でさらなる改善が得られる可能性がある。

食事

いくつかの変更が有益である:

  • 飽和脂肪の摂取量を減らす

  • トランス脂肪を摂取しない

  • 精製炭水化物の摂取量を減らす

  • 果物および野菜の摂取量を増やす

  • 食物繊維の摂取量を増やす

  • 飲酒は適度に抑える(飲酒の習慣がある場合)

飽和脂肪と精製および加工炭水化物を大幅に減らし,繊維質を含む炭水化物(例,果物,野菜)を増やすことが推奨される。こうした食習慣の変更は,脂質コントロールと減量を達成する上での前提条件であり,全ての患者で不可欠である。体重を正常範囲内に維持するために,カロリー摂取量を制限するべきである。

脂肪摂取量を少量減らしても,アテローム性動脈硬化は軽減も安定化もしないようである。効果的な変化を得るには,脂肪摂取量を1日20gに制限し,内訳をω-6脂肪酸(リノール酸)とω-3脂肪酸(エイコサペンタエン酸,ドコサヘキサエン酸)の比率を等しくした多価不飽和脂肪6~10g,飽和脂肪2g以下,残りを一価不飽和脂肪とする必要がある。アテロームを非常に生成しやすいトランス脂肪の摂取は避けるべきである。

食事中の飽和脂肪の減少を補うために炭水化物を増加させると,血漿トリグリセリド値が上昇し,HDL値が低下する。したがって,いかなるカロリー欠乏も単純炭水化物を増やすのではなく,タンパク質と不飽和脂肪により補うべきである。糖の摂取量は心血管リスクと直接的に関連付けられてはいないが,脂肪および精製糖の過剰な摂取は特に糖尿病のリスクを有する人は避けるべきである。代わりに,複合炭水化物(例,野菜,全粒穀類)の摂取が推奨される。

果物および野菜(1日5サービング)は冠動脈のアテローム性動脈硬化のリスクを減少させるようであるが,この効果がフィトケミカルによるものか,あるいは,飽和脂肪摂取量の比例的な減少や繊維およびビタミン摂取量の比例的な増加によるものかは不明である。フラボノイドと呼ばれるフィトケミカル(赤および紫ブドウ,赤ワイン,紅茶,黒ビールに含まれる)は特に予防効果が高いとみられており,赤ワインで高濃度であることから,アメリカ人よりタバコ消費が多く脂肪摂取量も多いフランス人で冠動脈のアテローム性動脈硬化の発生率が低い理由を一部説明できる可能性がある。しかしながら,フラボノイドが豊富な食物の摂取や食物の代わりとしての栄養補助食品の使用によってアテローム性動脈硬化が予防されることを示唆する臨床データはない。

繊維摂取量の増加は総コレステロール値を低下させ,血糖値およびインスリン値に有益な効果をもたらす可能性がある。水溶性繊維(例,オートブラン,豆,大豆製品,オオバコ)5~10g以上を毎日摂取することが推奨され,この量によりLDLが約5%低下する。不溶性繊維(例,セルロース,リグニン)はコレステロールに影響を及ぼさないようであるが,他の健康上の効果(例,おそらくは排便刺激あるいは食品中の発がん物質との接触時間の減少による結腸癌のリスク低下)をもたらす可能性がある。しかしながら,過剰な繊維はある種のミネラルおよびビタミンの吸収を妨げる。一般に,フィトケミカルおよびビタミンを多く含む食物は繊維も豊富である。

アルコールはHDL値を上昇させるほか,十分には解明されていないが抗血栓,抗酸化,および抗炎症の特性をもつ。これらの効果はワイン,ビール,蒸留酒のいずれでも同じと考えられており,中等量の摂取で生じる;エタノール約30mL(典型的なアルコール飲料の約2サービングに含まれる量)の週5~6回の飲酒は冠動脈のアテローム性動脈硬化に対する予防となる。しかしながら,高用量でのアルコール摂取は重大な健康上の問題を引き起こしうる。したがって,アルコールと全死亡率との関係はJ型曲線を示し,死亡率は1週間の飲酒量が男性では14ドリンク未満,女性では9ドリンク未満の場合に最も低くなる【訳注:1ドリンクはエタノール量14g】。飲酒量がこれより多い患者は,飲酒量を減らすべきである。一方,飲酒の習慣がない個人に対して,見かけの予防効果に基づき飲酒の開始を勧めるには躊躇がある。

ビタミン,フィトケミカル,および微量ミネラルの栄養補助食品の使用がアテローム性動脈硬化のリスクを低下させるというエビデンスはほとんどない。1つの例外は魚油の栄養補助食品である。代替医療や健康食品の人気はますます高まっており,一部は血圧またはコレステロールにわずかな影響を及ぼす可能性があるが,それらの投与は常に安全または効果的であるとは確認されておらず,有効性の証明された薬剤と負の相互作用を示す可能性がある。細胞の基礎的な機能に必要とされるコエンザイムQ10は,年齢とともに濃度が低下する傾向にあり,特定の心疾患やその他の慢性疾患を有する患者で減少している可能性があることから,コエンザイムQ10のサプリメントが使用または推奨されているが,この治療による便益については依然として議論がある。

運動

定期的な運動(例,30~45分のウォーキング,ランニング,水泳,またはサイクリングを1週間に3~5回)は,虚血イベントの既往の有無にかかわらず,一部の危険因子(高血圧,脂質異常症,糖尿病)および冠動脈疾患(例,心筋梗塞)の発生率とアテローム性動脈硬化による死亡率を抑制する。この関連性が因果関係であるのか,あるいは健康的な人ほど定期的に運動する可能性が高いことを示しているに過ぎないのかは不明である。

運動の至適な強度,時間,頻度,および種類は確立されていないが,大半のエビデンスでは,有酸素運動量とリスクは直線的な逆相関を示すことが示唆されている。定期的なウォーキングにより,末梢血管疾患の患者では痛みを感じずに歩行できる距離が延長する。

有酸素運動を含めた運動プログラムは,アテローム性動脈硬化の予防と減量の促進において明確な役割を担う。高齢者,アテローム性動脈硬化の危険因子を有する者,および虚血イベントが最近みられた者は,運動プログラムを新たに開始する前に医師による評価を受けるべきである。評価には病歴,身体診察,および危険因子管理の判定が含まれる。

抗血小板薬

大半の合併症がプラークの亀裂または破綻による血小板の活性化と血栓形成が原因で生じることから,経口抗血小板薬の使用が不可欠である。以下のものが使用される:

  • アスピリン

  • クロピドグレル,プラスグレル,チカグレロルなどのチエノピリジン系薬剤

アスピリンが最も広く使用されているが,便益が確認されているにもかかわらず,いまだ十分には使用されていない。冠動脈のアテローム性動脈硬化の二次予防に適応があるほか,非常に高リスクの患者(例,アテローム性動脈硬化の有無にかかわらず糖尿病を有する患者,出血リスクが禁忌となるほどではなく10年以内に心イベントが発生するリスクが20%以上の患者,出血リスクが低く10年以内に心イベントが発生するリスクが10~20%と中程度の患者)では一次予防として考慮してもよい。最近のエビデンスからは,一次予防へのアスピリン使用の総合的な有益性は,とりわけ低リスク患者では疑わしいこと,また,症例毎にアスピリンのリスクとベネフィットを考慮した(70歳以上の患者と出血リスクの高い患者では有害となる可能性がある),患者の希望に基づく慎重な患者選択が必要であることが示唆されている。

至適な用量および投与期間は不明であるが,アスピリン81~325mg,経口,1日1回の無期限の投与が一次および二次予防で一般的に用いられている。しかしながら,81mgが好まれており,これは特にアスピリンを他の抗血栓薬と併用する場合,出血リスクがこの用量で最小化されると考えられるためである。二次予防のためにアスピリンを服用している患者の約10~20%で,虚血イベントが再発する。その理由としてはアスピリン耐性が考えられ,トロンボキサン抑制の欠如を検出する測定法(尿中11-デヒドロトロンボキサンB2値の上昇により示す)が臨床用に研究されている。

一部のエビデンスから,イブプロフェンはアスピリンの抗血栓作用に干渉する可能性のあることが示唆されているため,予防のためにアスピリンを服用している患者には他の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が推奨される。しかしながら,シクロオキシゲナーゼ2(COX-2)選択的阻害薬を含む全てのNSAIDにより,薬剤ごとに程度の差はあるものの心血管リスクが上昇すると考えられる。

クロピドグレル(通常は75mg,経口,1日1回)は,アスピリン服用患者で虚血イベントが再発した場合およびアスピリンに耐えられない患者における,アスピリンの代替薬である。クロピドグレルアスピリンの併用は急性ST上昇型および非ST上昇型心筋梗塞の治療に効果的であり,この併用投与は経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行後の虚血イベントの再発リスクを低下させる目的でも,術後12カ月間にわたって行われる。クロピドグレルに対する耐性も発生する。プラスグレルおよびチカグレロルは,クロピドグレルより新しい薬剤であり,一部の患者集団では冠動脈疾患の予防にさらに効果的である。

チクロピジンは,使用者の1%で重度の好中球減少症を引き起こし,重度の消化器系有害作用を有するため,もはや広くは用いられていない。

スタチン系薬剤

スタチン系薬剤は,第一にLDLコレステロール値を低下させる。そのほかに有益となる可能性がある効果としては,内皮での一酸化窒素産生の促進,アテローム性プラークの安定化,動脈壁への脂質蓄積の低減,プラークの退縮などがある。スタチン系薬剤は,以下のいずれかの条件に該当する4つの患者集団(1)に対する予防療法として推奨されている:

  • 症状のある動脈硬化性心血管疾患

  • LDLコレステロール値 ≥ 190mg/dL(≥ 4.92mmol/L)

  • 40~75歳で糖尿病があり,かつLDLコレステロール値70~189mg/dL(1.81~4.90mmol/L)

  • 年齢40~75歳でLDLコレステロール値70~189mg/dL,かつ動脈硬化性心血管疾患の推定10年リスク ≥ 7.5%

若年での動脈硬化性心血管疾患の家族歴(すなわち,発症年齢が男性は55歳未満,女性は65歳未満の第1度近親者),高感度C反応性タンパク(CRP)値 ≥ 2mg/L(19.05nmol/L),冠動脈石灰化スコア ≥ 300 Agatston unit(または同年齢層の ≥ 75パーセンタイル),足関節上腕血圧比 < 0.9,透析または腎移植で治療されていない慢性腎臓病など,他の危険因子がある患者についても,スタチン系薬剤の使用を支持するデータが得られている。

スタチン系による治療の強度は高,中,低に分類され,治療群および年齢に基づいた用量が処方される(ASCVD予防のためのスタチン系薬剤の表を参照)。LDLコレステロール値に具体的な目標値を設定する方法は,現在では脂質低下療法の指針として推奨されていない。代わりに,LDLコレステロール値が治療強度から期待される水準まで低下したかどうか(例えば,高強度の治療を受けている患者であればLDLコレステロール値が50%以上低下するはずである)によって,治療に対する反応を判定する。

その他の薬剤

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬,エゼチミブ,およびPCSK9(プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)阻害薬は,血圧,脂質,および血糖値に対する作用とは別に,アテローム性動脈硬化のリスク軽減につながる抗炎症作用も有している。第Xa因子阻害薬であるリバーロキサバンも,その機序は不明であるが,心血管イベントのリスクを低下させる。

ACE阻害薬およびアンジオテンシンII受容体拮抗薬は,アンジオテンシンが内皮の機能障害および炎症の一因となる機序を阻害する。

エゼチミブも,NPCL1(Niemann-Pick C1-like 1)タンパク質の阻害により小腸からのコレステロールの取り込みを遮断することで,LDLコレステロール値を低下させる。エゼチミブ(標準のスタチン療法に追加)について,心血管イベントの既往がありLDLコレステロール値が70mg/dL(1.8mmol/L)を上回る患者で心血管イベントを減少させる効果が示されている。

PCSK9阻害薬は,LDL受容体へのPCSK9の結合を阻止するモノクローナル抗体であり,LDL受容体の形質膜への再利用の増加をもたらし,肝臓への血漿LDLコレステロールのさらなる排出につながる。LDLコレステロールの値は40~70%低下する。長期の臨床試験により,アテローム性動脈硬化症と心血管イベントの減少が示されている。この種の薬剤は,家族性高コレステロール血症の患者,スタチン系薬剤による薬物療法を最大限行ってもLDL値が目標値に達しない心血管イベントの既往がある患者,および脂質低下に必要でありながらもスタチン不耐症が客観的に証明された患者において最も有用である。

安定しているアテローム性動脈硬化性血管疾患の患者において,アスピリン100mg,1日1回の投与に,第Xa因子阻害薬であるリバーロキサバン2.5mg,経口,1日2回を追加すると,心血管イベント(心血管死亡,脳卒中,または心筋梗塞)のリスクが低下する。大出血のリスクは,アスピリン単剤の患者よりもリバーロキサバンとアスピリンを併用した患者の方が高かった(2)。

重要なω-3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸を高度に精製したエイコサペンタエン酸エチルは,トリグリセリドが高値で心血管疾患の既往がある患者において,スタチン系薬剤に追加することで心血管イベントを減少させることが示されている。その機序には複数の因子が関与しているとみられる(例,炎症の軽減,血小板反応性の低下,直接的な抗動脈硬化作用)。

チアゾリジン系薬剤により炎症促進遺伝子の発現をコントロールできる可能性があるが,研究によると,チアゾリジン系薬剤は冠動脈イベントのリスクを上昇させることが示唆されている。

高ホモシステイン血症の治療として葉酸0.8mg,経口,1日2回の投与が以前から行われてきたが,急性冠動脈イベントのリスクは低下しないようである。ビタミンB6およびB12もホモシステイン値を低下させるが,これらの単独使用や葉酸との併用を正当化するデータは今のところない。

肺炎クラミジア(C. pneumoniae)の慢性潜在性感染に対する治療として(ひいては炎症を抑制し,理論的には動脈硬化症の経過および発症を変化させるために)投与されるマクロライド系およびその他の抗菌薬については,有用であるとは示されていない。

新しい薬剤クラスであるRNA療法は,mRNAレベルで(しばしば肝細胞内で)重要なタンパク質の産生を阻害する。その例としてインクリシラン(PCSK9阻害薬),ペラカルセン(pelacarsen)(LPA阻害薬),オルパシラン(olpasiran)(LPA阻害薬),およびボラネソルセン(volanesorsen)(apoC3阻害薬)があり,これらは現在,心血管疾患の予防に関するランダム化試験で評価されている。

治療に関する参考文献

  1. 1.Grundy SM, Stone NJ, Bailey AL, et al: 2018 AHA/ACC/AACVPR/AAPA/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA Guideline on the Management of Blood Cholesterol: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines.Circulation 139(25):e1082–e143, 2019.

  2. 2.Eikelboom JW, Connolly SJ, Bosch J, et al: Rivaroxaban with or without aspirin in stable cardiovascular disease.N Engl J Med 377:1319–1330, 2017.doi: 10.1056/NEJMoa1709118

要点

  • アテローム性動脈硬化の危険因子としては,脂質異常症,糖尿病,高血圧,肥満,座位時間の長い生活習慣,喫煙,家族歴,心理社会的因子などがある。

  • 不安定プラークはしばしば50%未満の狭窄を引き起こすが,大きな安定したプラークと比べて破綻して急性血栓症や塞栓現象を引き起こす可能性が高い。

  • 無症状の患者で虚血イベントの発生を予測する上では,アテローム性動脈硬化を検出するための画像検査は,危険因子を評価する標準的方法と比較して大きく役立つわけではないと考えられる。

  • 禁煙,運動,飽和脂肪,精製炭水化物が少なく食物繊維を多く含む食事とおそらくはω-3脂肪酸の摂取および適量の飲酒は,予防および治療に有用である。

  • 抗血小板薬と患者因子に応じてスタチン系薬剤および/またはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬も役立つ。

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