男性性機能は主に以下の4つの要素で構成される:
性欲
勃起
射精
オルガスム
性機能障害とは,これら要素のいずれかの問題により,性交に関与する関心または能力が阻害された状態である。多くの薬剤と多数の身体および精神疾患が性機能を障害する。
性欲
性欲は性機能のうち意識が関与する要素である。性欲減退は,性的興味の欠如として,あるいは性的思考(自然に生じるものや性的刺激に対する反応)の頻度および強度の低下として顕在化する。性欲はテストステロン濃度の影響を敏感に受けるほか,一般的な栄養,健康,および薬剤からも強く影響を受ける。
性欲減退を来す可能性が特に高い病態として,性腺機能低下症,慢性腎臓病,うつ病などがあり,男性の糖尿病患者は最大25%が性腺機能低下症の定義を満たす可能性がある。
性欲減退を引き起こす可能性がある薬剤としては,弱いアンドロゲン受容体拮抗薬(例,スピロノラクトン,シメチジン),前立腺癌の治療に使用される黄体形成ホルモン放出ホルモン作動薬(例,リュープロレリン,ゴセレリン,ブセレリン)および拮抗薬(例,デガレリクス),前立腺癌の治療に使用される抗アンドロゲン薬(例,フルタミド,ビカルタミド),前立腺肥大症の治療に使用される5α還元酵素阻害薬(例,フィナステリド,デュタステリド),一部の降圧薬,ほぼ全ての中枢神経系作用薬(例,選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI],三環系抗うつ薬,抗精神病薬)などがある。SSRIまたは三環系抗うつ薬による性欲減退は,ときにブプロピオンまたはトラゾドンの追加により可逆的となる。
勃起
勃起は特定の心理的および/または触覚刺激に対する神経血管性反応である。より高次の皮質入力と仙髄の副交感神経反射弓が勃起反応を調整する。神経出力は,前立腺の後外側面を横断する海綿体神経を介して伝達される。これらの非アドレナリン非コリン作動性神経は陰茎の血管構造に終止しており,そこで一酸化窒素を放出する。一酸化窒素が陰茎動脈の平滑筋細胞内に拡散して,サイクリックグアノシン一リン酸(cGMP)の産生を増加させる結果,動脈が弛緩して,より多くの血液が陰茎海綿体に流入するようになる。海綿体が血液で充満するにつれ,海綿体の内圧が上昇することで,周囲の細静脈が圧迫されるため,静脈の閉塞と静脈流出量の減少がもたらされる。流入血液量の増加と流出血液量の減少によって海綿体内圧がさらに上昇することで,最終的に勃起が成立する。勃起能力には多くの因子が影響を及ぼす(勃起障害を参照)。
射精およびオルガスム
射精は交感神経系によって制御されている。男性付属器(例,陰茎,精巣,会陰,前立腺,精嚢)におけるαアドレナリン受容体の神経刺激により,精巣上体,精管,精嚢,および前立腺が収縮する結果,精液が後部尿道まで送られる。その後,骨盤底筋の律動的な収縮により,蓄積された精液が律動的に射出される。これと同時に,膀胱頸部が閉鎖することで,膀胱への逆行性射精が防止される。選択的セロトニン再取り込み阻害薬とα遮断薬は,これらの部位での受容体阻害により,射精を遅延または阻害する可能性がある。
オルガスムとは,一般的には射精と同時に脳に生じる快感のことである。無オルガスム症(anorgasmia)は,陰茎感覚の低下(例,神経障害によるもの)に起因する身体的現象の場合と,精神疾患または向精神薬に起因する神経心理学的現象の場合がある。
射精障害
射精障害とは,精液量が減少しているか,精液が射出されない状態である。射精障害は逆行性射精が原因の場合があるが,これは糖尿病の男性でみられるほか,膀胱頸部手術または経尿道的前立腺切除術の合併症として発生することもある。また射精障害は交感神経遮断が原因の場合もあり,これは手術由来(例,後腹膜リンパ節郭清術)か薬剤由来(例,グアネチジン,フェントラミン,フェノキシベンザミン[phenoxybenzamine],チオリダジン)のいずれかである。前立腺全摘除術(前立腺に加えて精嚢および所属リンパ節も除去する)では,精嚢および前立腺の除去により精液産生が止まるため,射精は一切みられなくなる。
早漏
早漏は,男性またはそのパートナーが望むよりも早く射精が起き,そのことでカップルに苦痛が生じている状態と定義されている。通常は疾患ではなく,性的経験の不足,不安,その他の心理学的因子が原因である。表面麻酔薬,セックスセラピー,三環系抗うつ薬,および選択的セロトニン再取り込み阻害薬でうまく治療することができる。