膀胱癌

執筆者:Thenappan Chandrasekar, MD, University of California, Davis
レビュー/改訂 2022年 1月
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膀胱癌は通常,移行上皮癌(尿路上皮癌)である。通常は血尿(最も多い)または頻尿や尿意切迫などの刺激性の排尿症状がみられ,続いて尿路閉塞により疼痛が生じる可能性がある。診断は膀胱鏡検査および生検による。治療は,高周波治療,経尿道的切除術,膀胱内注入,根治的手術,化学療法,外照射療法,またはこれらの組合せによる。

米国では,毎年約83,730例の膀胱癌が新たに発生し,約17,200例が死亡している(2021年の推定値)(1)。膀胱癌は男性では4番目に頻度の高いがんであるが,女性での頻度はそれほど高くなく,発生率の男女比は約3:1である。膀胱癌は黒人と比較して白人でより多くみられ,発生率は年齢とともに上昇する。

危険因子としては以下のものがある:

  • 喫煙(最も頻度が高い危険因子で,新規症例の50%以上の原因)

  • フェナセチンの過剰使用(鎮痛薬乱用)

  • シクロホスファミドの長期使用

  • 慢性的な刺激(例,住血吸虫症,長期カテーテル留置,または膀胱結石に起因するもの)

  • 炭化水素,トリプトファン代謝物,工業化学薬品への曝露,特に芳香族アミン(染色工業で使用されるナフチルアミンなどのアニリン色素)およびゴム,電線,ペンキ,繊維工業で使用される化学薬品への曝露

膀胱癌には以下の組織型がある:

  • 移行上皮癌(尿路上皮癌):膀胱癌の90%超を占める。大半は乳頭癌であり,表在性かつ高分化型で,外側に増殖する傾向がある;無茎性腫瘍はより潜行性で,早期に浸潤し,転移を起こす傾向がある。

  • 扁平上皮癌:比較的頻度が低く,通常は膀胱の寄生虫感染または慢性的な粘膜刺激がある患者で発生する。

  • 腺癌:原発腫瘍として発生する場合もあれば,まれに腸管に生じた癌からの転移である場合がある。転移を除外すべきである。

40%を超える患者では,膀胱内の同一または別の部位で再発がみられ,特に腫瘍が大型または低分化型であるか,複数ある場合にその傾向が強くなる。膀胱癌は,リンパ節,肺,肝,および骨に転移する傾向がある。変異型の腫瘍遺伝子p53の発現が,進行と化学療法への抵抗性の両方に関連する場合がある。

膀胱の上皮内癌は,悪性度は高いが非浸潤性であり,通常は多巣性で,再発しやすい傾向がある。

総論の参考文献

  1. 1.American Cancer Society: Key statistics for bladder cancer.

膀胱癌の症状と徴候

大半の患者は原因不明の血尿(肉眼的または顕微鏡的)を呈する。一部の患者は貧血を呈し,血尿は評価中に検出される。刺激性の排尿症状(排尿困難,灼熱感,頻尿)および膿尿も,受診時に一般的に認められる。骨盤痛は進行がんで起こり,骨盤内腫瘤が触知可能なことがある。

膀胱癌の診断

  • 膀胱鏡検査および生検

  • 尿細胞診

膀胱癌は臨床的に疑われる。血尿がみられる場合は,精査はリスクで層別化にて行い,診断目的の膀胱鏡検査と画像検査(CT尿路造影または腎超音波検査[1])を併用する。尿細胞診も行うべきであり,これにより悪性細胞を検出できることがある。診断および臨床病期診断のために,異常のある領域の膀胱鏡検査および生検か腫瘍の切除が必要である。尿中抗原検査が利用可能であるが,診断でのルーチンな施行は推奨されない。尿中抗原検査は,がんが疑われるが細胞診が陰性の場合に施行される。

アミノレブリン酸ヘキシルエステルの膀胱内注入後に青色光を用いて行う膀胱鏡検査により,膀胱癌の最初の検出率だけでなく,無再発生存期間も改善できる可能性がある。検出率が高まれば,将来の再発が減少し,治療に反応しない特定の腫瘍をより早期に認識しやすくなる(それにより一部の患者で不必要な治療が回避される)ことにより,臨床的な予後が改善すると予想される。

膀胱癌の70~80%を占める筋層非浸潤性膀胱癌(上皮内癌,Ta,T1)の腫瘍では,生検と膀胱鏡検査(および同時に行う完全切除)の併用で十分な病期診断が可能である。しかしながら,生検にて表在性の扁平な腫瘍よりも浸潤度が高いことが判明した場合は,筋層を含めるように注意した再切除を行うべきである。排尿筋の浸潤が判明した場合(T2以上)は,腫瘍の進展範囲を判定し転移を評価するために,血液検査,腹部および骨盤CT,ならびに胸部X線を施行する。局所の病期診断にはMRIを考慮してもよい。浸潤性の腫瘍がある患者には,膀胱鏡検査および生検のための麻酔時に併せて双合診(男性では直腸診,女性では直腸内診)を行う。標準のTNM(tumor, node, metastasis)病期分類システムが用いられる(膀胱癌のAJCC/TNM分類の表および膀胱癌のTNM分類の定義の表を参照)。

表&コラム
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診断に関する参考文献

  1. 1.Barocas DA, Boorjian SA, Alvarez RD, et al: AUA/SUFU Guideline.J Urol 204(4):778-786, 2020.doi: 10.1097/JU.0000000000001297

膀胱癌の予後

筋層非浸潤性膀胱癌(Ta,Tis,またはT1)は局所再発率が高いが,一部の患者はより進行する。低悪性度腫瘍やTa腫瘍が死に至ることはまれである。高悪性度腫瘍およびT1腫瘍は筋層浸潤性膀胱癌に進行することがある。上皮内癌(Tis)は乳頭癌と比較して悪性度が高い場合があり,悪性度の高い腫瘍として治療すべきである。膀胱筋層浸潤がある患者では,5年生存率は約50%であるが,化学療法感受性の患者ではネオアジュバント化学療法によりこの結果が改善する。一般に,進行性または転移性の浸潤性膀胱癌患者の予後は不良である。膀胱の扁平上皮癌または腺癌についても,これらのがんが通常は高度に浸潤性で,しばしば進行期で検出されることから,予後不良である。

膀胱癌の治療

  • 経尿道的切除と膀胱内注入による免疫療法または化学療法(筋層非浸潤性膀胱癌が対象)

  • 膀胱摘除術または放射線療法と化学療法の併用(浸潤がんが対象)

表在がん

筋層非浸潤性膀胱癌は経尿道的切除または高周波治療により完全に除去すべきである。手術直後に化学療法薬(マイトマイシンCおよびゲムシタビン)を注入することで,再発が減少することが示されている。外来で膀胱内注入を繰り返すことでも,再発が減少する可能性がある。上皮内癌および他の高悪性度の筋層非浸潤性尿路上皮癌は,経尿道的切除術後のBCG(カルメット-ゲラン桿菌)注入で治療する(1)。注入は,1~3年かけて週1回から月1回までの間隔で行うことができる。BCGに耐えられない患者および膀胱癌が再発または進行した患者に対する選択肢としては,膀胱内注入による化学療法(ゲムシタビン/ドセタキセル),ペムブロリズマブの静注,早期の膀胱摘除術,臨床試験への登録などがある。

浸潤がん

筋層に浸潤した(すなわちT2以上)腫瘍には,通常は根治的膀胱摘除術(膀胱および周辺組織の切除)と尿路変向術の同時施行が必要であり,膀胱部分切除術が可能な患者は5%未満である。適格な患者では,膀胱摘除術施行前にシスプラチンベースのレジメンで行うネオアジュバント化学療法が標準治療とみなされている。病期診断に加えて想定される治療効果のために手術時のリンパ節郭清が必要となるが,その対象範囲について議論がある。

膀胱摘除術後に施行する従来法の尿路変向術では,尿を回腸導管を通して腹部のストーマに導き,体外の集尿袋に集める。自然排尿型代用膀胱造設術や導尿型代用膀胱造設術などの代替選択肢が一般的になりつつあり,これらは多くの患者に適切である。どちらの術式でも,体内リザーバーは腸管から作製される。自然排尿型代用膀胱造設術のリザーバーは尿道に接続される。リザーバーを空にするには,患者が骨盤底筋を弛めると同時に腹圧を上昇させることで,尿が尿道経由でほぼ自然に排出される。大半の患者が日中の尿禁制を維持できるが,夜間にはある程度の失禁が起こることがある。導尿型代用膀胱造設術では,リザーバーは禁制腹部ストーマに接続される。患者は1日を通して定期的な間隔で自己導尿を行い,リザーバーを空にする。

化学療法と放射線療法を組み合わせた膀胱温存プロトコルは,高齢患者やより侵襲的な手術を拒否する患者などの一部の患者では適切な場合がある。これらのプロトコルで得られる5年生存率は36~74%であり,10~20%の患者では救済療法としての膀胱摘除術が必要になる。

進行または再発について患者を3~6カ月毎にモニタリングすべきである。

転移例および再発例

転移がある場合は,一般にシスプラチンベースの化学療法が必要であり,しばしば効果的であるが,リンパ節転移のみである場合を除き,治癒はまれである。この後には,維持療法としてアベルマブによる免疫療法を行うことができる。多剤併用化学療法は,転移性疾患を有する患者を延命する場合がある。シスプラチンに不適格な患者とシスプラチンベースの化学療法施行後に進行した患者に対しては,ペムブロリズマブやアテゾリズマブなどのPD-1およびPD-L1阻害薬を用いる新しい免疫療法が利用可能である。現在では,化学療法が不成功に終わったFGFR3およびFGFR2変異陽性患者に対して,初の分子標的薬であるエルダフィチニブを使用することができる。

再発例の治療は,再発時の臨床病期および部位と前治療に依存する。表在性腫瘍に対する経尿道的切除術後の再発は,通常は再切除または高周波療法で治療される。高悪性度表在性膀胱癌の再発例には,早期の膀胱摘除術が推奨される。

治療に関する参考文献

  1. 1.Lenis AT, Lec PM, Chamie K, et al: Bladder cancer: A review. JAMA 324(19):1980–1991, 2020.doi:10.1001/jama.2020.17598

要点

  • 膀胱癌のリスクは喫煙,フェナセチンまたはシクロホスファミドの使用,慢性的刺激,特定の化学物質への曝露により上昇する。

  • 移行上皮癌(尿路上皮癌)は膀胱癌の90%超を占める。

  • 原因不明の血尿またはその他の泌尿器症状を呈する患者(特に中年男性または高齢男性)では,膀胱癌を疑う。

  • 膀胱癌の診断は膀胱鏡下での生検にて行い,さらに,筋層浸潤がみられる場合は病期診断のため画像検査を施行する。

  • 表在がんは経尿道的切除術または高周波療法によって切除し,その後,薬剤を膀胱に反復注入する。

  • がんが筋層に浸潤している場合は,シスプラチンベースのネオアジュバント化学療法とその後の根治的膀胱摘除術および尿路変向術,または頻度は低いが放射線療法と化学療法の併用で治療する。

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