ネフロン癆と常染色体顕性(優性)尿細管間質性腎疾患(ADTKD)

執筆者:Enrica Fung, MD, MPH, Loma Linda University School of Medicine
レビュー/改訂 2023年 4月
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ネフロン癆と常染色体顕性(優性)尿細管間質性腎疾患(ADTKD)は,腎髄質または皮髄境界に限局した嚢胞形成を引き起こし,最終的に末期腎不全(ESKD)を来す遺伝性疾患である。

嚢胞性腎疾患の概要も参照のこと。)

ネフロン癆と常染色体顕性(優性)尿細管間質性腎疾患(ADTKD)は,共通する特徴が多くあることから,同じ疾患群に分類されている。病理学的には,これらの疾患は腎髄質または皮髄境界に限局した嚢胞形成を引き起こす可能性があるほか,尿細管萎縮,尿細管基底膜の崩壊,および間質線維化の3主徴をもたらす。嚢胞が存在する場合と存在しない場合があるが,ある場合は尿細管の拡張により生じたものである。これらの疾患はおそらく類似の機序を共有しているが,十分に検討されていない。両疾患の特徴としては以下のものがある:

  • バソプレシン(ADH)抵抗性の尿濃縮能の欠損であり,多尿および多飲をもたらす

  • 重度のナトリウム喪失では補充が必要になる

  • 貧血

  • 代謝性アシドーシス

  • 軽度のタンパク尿を示す傾向と良性の尿沈渣所見

  • 最終的にESKD

ネフロン癆と髄質嚢胞腎の重要な相違点としては,遺伝パターンや慢性腎臓病の発症年齢などがある。

ネフロン癆

遺伝形式は常染色体潜性(劣性)である。ネフロン癆は,小児および若年成人(20歳未満)において腎不全を伴う慢性腎臓病の最大15%を占める。3つの病型がある:

  • 乳児型,発症年齢の中央値は1歳

  • 若年型,発症年齢の中央値は13歳

  • 青年型,発症年齢の中央値は19歳

これまでにネフロン癆の患者で11の遺伝子変異が同定されている。NPHP1遺伝子の変異が最も一般的であり,約30~60%の患者で同定される。ネフロン癆患者の約10%では他の臨床像もみられ,具体的には網膜色素変性,肝線維症,知的障害,その他の神経因性異常などがある。

末期腎不全(ESKD)がしばしば小児期に発生し,発育不全および骨疾患を引き起こす。しかしながら,多くの患者では,これらの障害は多年にわたって緩徐に進行し,十分に代償されているため,有意な尿毒症症状が出現するまで異常として認識されない。ときに高血圧が発生する。

ネフロン癆の診断

  • 画像検査,遺伝子検査,またはその両方

以下のものがみられる小児では,特に尿沈渣所見が良性の場合,本疾患を疑うべきである:

  • 多飲および多尿

  • 進行性の腎機能低下,特に高血圧を伴わない場合

  • 腎以外の付随所見

  • 腎不全の程度と不釣り合いな貧血

タンパク尿は通常みられない。診断は画像検査により確定されるが,嚢胞はしばしば疾患の末期にのみ発生する。超音波検査,CT,またはMRIにより,平滑な輪郭をした正常大または小さな腎臓,皮髄境界の消失,および皮質髄質境界部の多発性嚢胞を認める場合がある。水腎症は典型的にはみられない。遺伝子検査が利用できる。

ネフロン癆の治療

  • 支持療法

早期での治療は,高血圧,電解質異常および酸塩基平衡障害,ならびに貧血の管理である。発育不全がみられる小児は,栄養剤および成長ホルモン療法に反応する場合がある。最終的には全ての患者が慢性腎臓病を来し,透析または移植が必要となる。

常染色体顕性(優性)尿細管間質性腎疾患(ADTKD)

常染色体顕性(優性)尿細管間質性腎疾患(以前は髄質嚢胞腎として知られていた)は,一群のまれな遺伝性疾患である。Kidney Disease Improving Global Outcomes(KDIGO)のコンセンサスレポート(1)では,現在4つ知られている原因遺伝子に基づき,これらの疾患を分類することが提唱されている(常染色体顕性[優性]尿細管間質性腎疾患:遺伝子に基づく分類の表を参照)。

表&コラム
表&コラム

これらの疾患に共通する病理組織学的変化として以下のものがある:

  • 間質の線維化

  • 尿細管の萎縮

  • 尿細管基底膜の肥厚

  • ときに尿細管拡張の結果としての嚢胞形成

  • 蛍光抗体法で補体および免疫グロブリンの染色を認めない

常染色体顕性(優性)尿細管間質性腎疾患は30歳代から70歳代で発症する。約15%の患者は家族歴がなく,散発的な新規変異が示唆される。高血圧がよくみられるが,通常は重度にはならず,典型的には腎機能障害の発症に先行することはない。高尿酸血症および痛風がよくみられ,これらは有意な腎機能不全の発症に先行することがある。典型的には30~50歳で末期腎不全(ESKD)に進行する。以下がみられる患者では,特に尿沈渣所見が良性の場合,ADTKDを疑うべきである:

  • 多飲および多尿

  • 若年での痛風

  • 痛風および慢性腎臓病の家族歴

タンパク尿はないか軽度である。画像検査の結果は,ネフロン癆と多くの類似点がみられるが,腎髄質嚢胞はときに視認できるのみである。遺伝子検査により診断を確定できる。家系内の少なくとも1人の罹患者で腎生検が必要になる場合がある。

治療は一般にネフロン癆の治療と同様である。痛風のコントロールにアロプリノールが役立つ可能性がある。

治療に関する参考文献

  1. 1.Eckardt K-U, Alper SL, Antignac C, et al: Autosomal dominant tubulointerstitial kidney disease: Diagnosis, classification, and management—A KDIGO consensus report.Kidney Int 88(4):676-683, 2015.doi: 10.1038/ki.2015.28

要点

  • ネフロン癆と常染色体顕性(優性)尿細管間質性腎疾患は,尿濃縮能の低下(多飲および多尿を伴う),ナトリウム喪失,貧血,およびESKDを引き起こす。

  • ネフロン癆は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)疾患で,小児期にESKDを引き起こすのに対し,ADTKDは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患で,30~50歳でESKDを引き起こす。

  • 腎臓の画像検査を施行し,可能な場合は遺伝子検査を行う。

  • 合併疾患を治療し,腎疾患に対して支持療法を行う。

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