肝細胞癌

執筆者:Danielle Tholey, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2023年 5月
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肝細胞癌(HCC)は,通常は肝硬変患者に発生し,B型およびC型肝炎ウイルスの感染率が高い地域でよくみられる。症状と徴候は通常,非特異的である。診断はα-フェトプロテイン(AFP)値と画像検査のほか,ときに肝生検に基づく。高リスク患者には,定期的なAFPの測定および超音波検査によるスクリーニングがときに推奨される。がんが進行した場合または肝合成能が低下した場合の予後は不良であるが,肝臓に限局した小さな腫瘍であれば,アブレーション治療で症状を緩和でき,外科的切除または肝移植ではときに治癒が得られる。

肝細胞癌は最も頻度の高い原発性肝癌である。2023年の米国では,肝内胆管癌を含む原発性肝癌による新規症例数が約41,210例,死亡数が約29,380例になると予想されている。それらの肝癌の約4分の3がHCCである。肝癌は女性より男性に2倍多くみられる。しかしながら,米国以外,特に東アジアやサハラ以南アフリカではさらに頻度が高く,一般にその発生率はB型慢性肝炎の有病率と相関する。

肝細胞癌の病因

通常,肝細胞癌は肝硬変の合併症である。

HBVの存在は,HBVキャリアにおけるHCCの発生リスクを100倍以上に高めている。HBV-DNAが宿主のゲノムに組み込まれると,たとえ慢性肝炎や肝硬変がなくとも,悪性化が進行する可能性がある。

肝細胞癌を引き起こすその他の疾患としては,C型肝炎ウイルス(HCV)慢性感染症による肝硬変,ヘモクロマトーシスアルコール性肝硬変などがある。HBV感染症と同様に,非肝硬変性非アルコール性脂肪肝炎の患者でもHCCが発生する可能性がある。他の病態による肝硬変の患者でもリスクが高い。

環境発がん物質が何らかの役割を果たす場合もあり,例えば,亜熱帯地域でHCCの発生率が高いことには,真菌のアフラトキシンに汚染された食物の摂取が寄与していると考えられている。

肝細胞癌の症状と徴候

最も一般的な状況では,患者は無症状で,ルーチンのスクリーニングで腫瘍が診断される。進行したHCC患者は腹痛,体重減少,右上腹部腫瘤,原因不明の健康状態の悪化などを訴えて受診することがある。発熱がみられる場合もある。少数の患者では,腫瘍の出血による血性腹水,ショック,または腹膜炎がHCCの初発症状となる場合もある。ときに,肝臓の摩擦音または血管雑音が聴取される。

ときに,低血糖,赤血球増多,高カルシウム血症,高脂血症など,全身性の代謝性合併症を来す。これらの合併症は臨床的に顕在化することもある。

肝細胞癌の診断

  • α-フェトプロテイン(AFP)の測定

  • 画像検査(CT,超音波検査,またはMRI)

以下の場合,肝細胞癌(HCC)を疑う:

  • 肝臓が大きくなったように感じる。

  • 慢性肝疾患が代償不全となったが,原因を説明できない。

  • 他の理由で行われた画像検査において,右上腹部に腫瘤が検出される(特に肝硬変がある場合)。

ただし,スクリーニングプログラムにより,多くの肝細胞癌を症状の出現前に発見することが可能になっている。

診断はAFPの測定と画像検査に基づく。成人では,AFP値の上昇は肝細胞の脱分化を意味し,HCCを示唆している場合が最も多く,HCCを有する患者の40~65%でAFPが高値(> 400ng/mL[400μg/L])となる。それ以外でのAFP高値は,はるかに頻度の低い腫瘍である精巣の奇形癌を除いて,まれである。これより低値では特異度が低く,肝細胞の再生(例,肝炎)でも認められる。AFP-L3(AFP分画)やdes-γ-carboxyprothrombinなどの他の血液検査が,肝細胞癌の早期発見に使用するためのマーカーとして研究されている。

最初の画像検査は,各施設での選択と設備に応じて造影CT,超音波検査,またはMRIとなる。肝細胞癌のX線診断には,造影の3番目の相(遅延相)の画像が必須であるため,造影検査は3相のプロトコルとしてオーダーしなければならない。肝動脈造影は,判断の難しい症例で役立つほか,アブレーション治療や外科手術を計画している際に血管解剖の概況を把握するために用いることもできる。

LI-RADS(Liver Imaging Reporting and Data System)として知られるX線診断基準は,HCCを高感度で診断するために用いられ,動脈の濃染の存在,病変周囲の偽被膜,遅延相の画像でみられる造影剤のウォッシュアウト,前回の撮影からの病変の増大など,重要なX線所見が採用されている(1)。

画像検査で特徴的所見を認め,かつAFP値が上昇していれば,診断は明白である。ただし,まれに確定診断に肝生検(しばしば超音波またはCTガイド下で行われる)が適応となる。

病期分類

HCCと診断した場合,病期診断の評価として通常,胸部単純CTに加えて,血栓症を除外するためにMRIまたは造影CTによる門脈の画像検査(未施行の場合)を行う。著明なアルカリホスファターゼまたはAFP高値がみられる場合や,Milan基準から大きく外れた腫瘍がある場合には,骨転移を除外するためにしばしば骨シンチグラフィーが行われる。

HCCの病期診断には様々な分類法を用いることができるが,普遍的に採用されているものはない。その1つであるTNM分類は,以下のように定義されている(肝細胞癌の病期分類の表を参照):

  • T:原発腫瘍がいくつあり,どの程度の大きさで,隣接臓器にがんが浸潤しているか

  • N:がんが周囲のリンパ節に転移しているかどうか

  • M:がんが他の臓器に転移しているかどうか

T,N,Mの後ろに数字(0~4)を添えて,重症度を示す。

表&コラム
表&コラム

その他のスコア分類システムとして,奥田分類やBarcelona-Clinic Liver Cancer病期分類などがある。これらの分類法には,腫瘍の大きさ,局所進展,および転移に加えて,肝疾患の重症度に関する情報が組み込まれている。

スクリーニング

スクリーニングプログラムを通じて,より多くの肝細胞癌が検出されるようになってきている。肝硬変患者のスクリーニングは合理的であるが,この措置については議論があり,死亡率の低下は示されていない。一般的なスクリーニング方法の1つは,6~12カ月毎の超音波検査である。しかしながら,肥満患者では,超音波検査の感度に限界があるため,スクリーニングとして超音波検査とMRIまたはCTの交互併用を考慮すべきである。長期にわたるB型肝炎の患者には,たとえ肝硬変がなくとも,多くの専門家がスクリーニングを勧めている。現在では,非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者が非肝硬変性HCC症例の半数を占めると認識されている(2)。しかしながら,このような認識にもかかわらず,そのような患者に対するスクリーニングはいまだ推奨されていない。

診断に関する参考文献

  1. 1.Mitchell DG, Bruix J, Sherman M, et al: LI-RADS (liver imaging reporting and data system): Summary, discussion, and consensus of the LI-RADS Management Working Group and future directions.Hepatology 61(3):1056-1065.2015.doi: 10.1002/hep.27304

  2. 2.Galle PR, Forner A, Llovet JM, et al: EASL clinical practice guidelines: Management of hepatocellular carcinoma.J Hepatol 69:182-236, 2018.

肝細胞癌の治療

  • 腫瘍がMilan基準(腫瘍が1つで5cm未満または腫瘍が3つ以下で3cm未満かつ血管浸潤なし,かつαフェトプロテイン値が500μg/L未満)に該当している場合は移植。

肝細胞癌(HCC)の治療方針は,その病期(1)と基礎にある肝疾患の重症度に依存する。

腫瘍が1つで5cm未満または腫瘍が3つ以下で全て3cm以下であり,いずれも肝臓に限局していて微小血管浸潤がなく,かつAFP値が500μg/L未満である場合は,肝移植を行うことで,良性疾患に対して肝移植が行われる場合と同等の良好な予後が期待できると考えられている。肝移植で治癒に至る可能性もある。これらのMilan基準は,肝移植の適切な候補となる肝細胞癌患者を同定するために用いられる(2)。American Association for the Study of Liver Diseases(AASLD)の2018 年版ガイドラインでも,肝移植患者の選択にMilan基準が採用されている(3)。

腫瘍が1つのみで腫瘍径が5cm未満であり,門脈圧亢進症がない選択された患者では,外科的切除により治癒が得られる可能性があり,その場合の5年生存率は60~80%である。

アブレーション治療(例,肝動脈化学塞栓療法[TACE],イットリウム90マイクロスフェアによる塞栓術[選択的内照射療法すなわちSIRT],薬剤溶出性ビーズによる動脈塞栓術,ラジオ波焼灼術)は症状を緩和し,腫瘍の増殖を遅らせるが,これらは肝移植の待機中に用いられる。2cm未満の小さな腫瘍は,ラジオ波焼灼術(RFA)で治癒が得られる可能性がある。

腫瘍が大きい(5cmを超える)場合,多発性の場合,門脈浸潤がある場合,または転移性(III期以上)の場合には,移植はその時点で選択すべき治療とはならない。しかしながら,肝臓に対する治療法(例,肝動脈化学塞栓療法[TACE]および全身化学療法)を併用することで,一部の患者ではMilan基準までのダウンステージングが得られる可能性があり,そうなれば肝移植の再検討の対象となりうる。進行HCCの管理については,集学的腫瘍委員会(multidisciplinary tumor board)で協議するのが最善である。進行HCCに対する全身療法では従来,ソラフェニブが使用されてきたが,これは予後をわずかに改善するのみで,生存期間の中央値はプラセボの7.9カ月に対して10.7カ月である(4)。いくつかの新しい化学療法薬はソラフェニブと比較して生存期間を延長するか,有害作用が少なく,そのような薬剤としてはレンバチニブやレゴラフェニブなどのほか,アテゾリズマブ+ベバシズマブやトレメリムマブ+デュルバルマブなどの免疫療法薬がある。無増悪生存率はレンバチニブの方がソラフェニブより高く,一次治療での代替の選択肢となっている。

免疫療法を含めた全身療法は急速に進歩しており,HCCの予後改善に有望であることが示されている。アテゾリズマブとベバシズマブは,全身療法を受けたことがない進行HCC患者において多剤併用療法として使用することができる。アテゾリズマブは,ヒト化モノクローナル抗体の免疫チェックポイント(PD-L1)阻害薬であるのに対し,ベバシズマブは血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とするモノクローナル抗体である。これら2つの薬剤がHCCの一次治療で選択すべき全身療法であることを裏付けるエビデンスが増えてきている(5, 6)。一次治療で全身化学療法を受けた患者6290人を比較した大規模なメタアナリシスにより,ベバシズマブ/アテゾリズマブの投与を受けた患者ではソラフェニブ,レンバチニブ,またはニボルマブと比べて全生存期間が良好であったことが明らかにされた(6)。有害事象は治療群間で類似していた。American Society of Clinical Oncologyの2020年版ガイドラインでは,Child-Pugh分類クラスAの肝疾患を有するEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)PS 0~1の患者に対する一次治療として,アテゾリズマブとベバシズマブの併用が推奨されている(7)。

アテゾリズマブとベバシズマブの併用では出血のリスクが高くなるため,治療開始に先立ち静脈瘤結紮術を行うべきである。移植後にHCCが再発した患者では,宿主の免疫系が刺激されて拒絶反応の発生率上昇につながる可能性があるため,免疫療法は推奨されない(8)。新しいレジメンでは,抗CTLA-4(cytotoxic T lymphocyte-associated antigen 4)抗体であるトレメリムマブをデュルバルマブ(抗PD-L 1抗体)と併用する。Himalaya試験では,トレメリムマブとデュルバルマブの併用により,過去の一次治療としてのソラフェニブ単剤療法との比較でより大きな生存期間の改善が得られた(9)。この併用療法は現在,切除不能のHCC患者に選択可能となっているほか,Child-Pugh分類クラスAの肝硬変があってPS(performance status)が極めて良好であるがベバシズマブの投与を受けられない患者に対する代替の選択肢として,しばしば用いられている。

治療に関する参考文献

  1. 1.Bruix J, Reig M, Sherman M: Evidence-based diagnosis, staging, and treatment of patients with hepatocellular carcinoma.Gastroenterology 50(4):835-853, 2016.doi: 10.1053/j.gastro.2015.12.041

  2. 2.Mazzaferro V, Regalia E, Dorci R, et al: Liver transplantation for the treatment of small hepatocellular carcinomas in patients with cirrhosis.N Engl J Med 334 (11): 693-700, 1996.doi: 10.1056/NEJM199603143341104

  3. 3.Marrero JA, Kulik LM, Sirlin CB, et al: Diagnosis, staging, and management of hepatocellular carcinoma: 2018 practice guidance by the AASLD.Hepatology 68 (2):723-750, 2018.doi: 10.1002/hep.29913

  4. 4. Llovet JM, Ricci S, Mazzaferro V, et al: Sorafenib in advanced hepatocellular carcinoma.N Engl J Med 359:378–390, 2018.doi: 10.1056/NEJMoa0708857

  5. 5.Finn RF, Qin S, Ikeda M, et al: Atezolizumab plus bevacizumab in unresectable hepatocellular carcinoma.N Engl J Med 382:1894-1905, 2020.doi: 10.1056/NEJMoa1915745

  6. 6.Sonbol MB, Riaz IB, Naqvi SAA, et al: Systemic therapy and sequencing options in advanced hepatocellular carcinoma: A systematic review and network meta-analysis.JAMA Oncol 6(12):e204930. doi: 10.1001/jamaoncol.2020.4930

  7. 7.Gordan JD, Kennedy EB, Abou-Alfa GK, et al: Systemic therapy for advanced hepatocellular carcinoma: ASCO guideline.J Clin Oncol 38(36):4317-4345, 2020. doi: 10.1200/JCO.20.02672

  8. 8.Kumar V, Shinagare AB, Rennke HG, et al: The safety and efficacy of checkpoint inhibitors in transplant recipients: A case series and systematic review of literature.Oncologist 25(6):505-514, 2020. doi: 10.1634/theoncologist.2019-0659

  9. 9.Abou-Alfa GK, Lau G, Kudo, et al: Tremelimumab plus durvalumab in unresectable hepatocellular carcinoma.NEJM Evid 1(8) DOI:https://doi.org/10.1056/EVIDoa2200015.Published June 6, 2022.

肝細胞癌の予防

HBVに対するワクチンの使用は,最終的に肝細胞癌の発生率を低下させ,特に流行地域では効果が大きい。肝硬変(原因は問わない)の発生予防(例,C型慢性肝炎の治療ヘモクロマトーシスの早期発見,メタボリックシンドロームの予防および管理,またはアルコール依存症の管理など)にも大きな効果がある。

要点

  • 肝細胞癌は通常,肝硬変の合併症として発生し,世界的にはB型肝炎の有病率が高い地域で最も頻度が高い。

  • 身体診察や画像検査で肝臓の腫大を認めた場合,または慢性肝疾患に原因不明の悪化がみられた場合,本症を考慮する。

  • 肝細胞癌の診断は,AFP値と肝臓の画像検査結果に基づいて行い,胸部単純CT,門脈画像検査,ときに骨シンチグラフィーを用いて病期を診断する。

  • 腫瘍がMilan基準を満たしている場合は,肝移植を考慮する。

  • 予防には,B型肝炎ワクチンの使用と肝硬変を引き起こす病態の管理が含まれる。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Association for the Study of Liver Diseases (AASLD) Guidelines for the Treatment of Hepatocellular Carcinoma: The latest guiding principles and objectives for the treatment of hepatocellular carcinoma.

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