胃炎は,Helicobacter pylori感染や薬物(非ステロイド系抗炎症薬[NSAID],アルコール),ストレス,自己免疫疾患(萎縮性胃炎),いくつかの比較的まれな疾患など,いくつかの病態によって引き起こされる胃粘膜の炎症である。
メネトリエ病
このまれな特発性疾患は30~60歳の成人が罹患し,男性でより多くみられる。胃皺襞の有意な肥厚が胃体部で発生するが,前庭部では認められない。腺萎縮および著明な小窩過形成が起こり,しばしば粘液腺化生および粘膜肥厚を伴い,炎症はほとんどない。消化管からのタンパク質の喪失(タンパク漏出性胃腸症)に起因する低アルブミン血症(最も一貫性のある検査室異常所見)が認められることがある。疾患が進行するにつれて,胃酸およびペプシンの分泌が減少し,低酸症が起こる。
メネトリエ病の症状は非特異的であり,一般的には心窩部痛,悪心,体重減少,浮腫,下痢などがみられる。
メネトリエ病の診断は,内視鏡検査と深部粘膜生検または腹腔鏡下胃全層生検による。
鑑別診断としては以下のものもある:
リンパ腫(多発性胃潰瘍が生じることがある)
粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫(単クローン性Bリンパ球の広範な浸潤がみられる)
ガストリノーマ(ゾリンジャー-エリソン症候群)(胃皺襞の肥厚を伴う)
クロンカイト-カナダ症候群(粘膜ポリープによるタンパク漏出性胃腸症とともに下痢がみられる)
抗コリン薬,胃酸分泌抑制薬,コルチコステロイドなど,様々な治療薬がこれまで使用されているが,十分な有効性が証明されているものはない。重度の低アルブミン血症の場合には,胃部分切除術または胃全摘術を要することがある。
好酸球性胃炎
前庭部で粘膜,粘膜下層,筋層への広範な好酸球浸潤がしばしば発生する。通常は特発性であるが,線虫寄生によって起こることもある。
好酸球性胃炎の症状としては,悪心,嘔吐,早期満腹感などがある。
好酸球性胃炎の診断は,病変部の内視鏡下生検による。
特発性の症例では,コルチコステロイドによる治療が成功することもあるが,幽門閉塞が起きた場合は外科手術が必要になる可能性がある。
粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫
このまれな病態は,胃粘膜への大量のリンパ球浸潤を特徴とし,メネトリエ病に大まかに類似することがあるが,組織学的検査で鑑別できる。
胃に限局するMALTリンパ腫では,Helicobacter pylori感染症の治療により治癒を得られる可能性がある。
全身性疾患に起因する胃炎
物理的要因に起因する胃炎
放射線被曝と腐食剤(特に酸性化合物)の摂取は胃炎の原因となる可能性がある。全身被曝量が6Gyを超える放射線曝露(急性放射線症候群を参照)は著明な深在性胃炎の原因となり,通常は胃体部より前庭部が侵されやすい。放射線胃炎の合併症として幽門狭窄および穿孔の可能性がある。
感染性胃炎(septic gastritis)
H. pylori感染症を除けば,細菌の胃への侵襲はまれであり,主に虚血,腐食剤摂取,または放射線曝露に続いて発生する。X線像では,ガスにより粘膜の輪郭が描出される。急性腹症として発症することがあり,死亡率は非常に高い。しばしば外科手術を要する。
衰弱した患者と易感染性患者では,サイトメガロウイルス感染症,カンジダ症,ヒストプラズマ症,またはムコール症によるウイルス性または真菌性胃炎が生じることがあり,滲出性胃炎,食道炎,または十二指腸炎がある患者では,これらの診断を考慮すべきである。