機能性消化管疾患

執筆者:Stephanie M. Moleski, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2021年 4月
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しばしば,消化管の愁訴があるのに客観的に測定可能な器質的・生理学的異常が(広範な評価を行っても)検出されないことがある。そのような患者は機能性疾患を有しているとされ,消化器専門医への紹介の30~50%を占めている。

機能性疾患では,上部消化管症状のみがみられる場合,下部消化管症状のみがみられる場合,これら両方がみられる場合がある。(過敏性腸症候群およびAmerican College of GastroenterologyのMonograph on management of irritable bowel syndromeも参照のこと。)

機能性消化管疾患は,腸と脳の相互作用の疾患である。そのような患者は,内臓過敏症,すなわち他の人は苦痛と感じない感覚(例,消化管内腔拡張,蠕動)によって不快感がもたらされる痛覚障害を有することが一部のエビデンスから示唆されている。機能性疾患は,内臓過敏症だけでなく,運動障害,微生物叢の変化,粘膜および免疫機能,ならびに中枢神経系での情報処理に関連した症状によって分類されている(1)。

一部の患者では,不安(空気嚥下症の有無にかかわらず),変換症身体症状症,または病気不安症(かつての心気症)などの精神的な病態が消化管症状に関連している。心理学の理論によれば,機能性疾患の一部の症状によって特定の心理的要求が満たされる場合がある。例えば,一部の慢性疾患患者は病気であるという事実から副次的な利益を得ている。そのような患者では,症状の治療の成功が他の症状の出現につながることがある。

多くの一般医および消化器専門医は,機能性消化管疾患の愁訴について理解や治療は困難であると考えており,こうした不確かさゆえに,苛立ちを覚えたり,批判的な態度をとったりすることがある。医師患者間の効果的なやりとりにより,患者の受診行動は減少する。医師は患者の症状を認めて,共感を示すべきである。不安症状や受診行動の促進につながる可能性があるため,説明のつかない症状を訴え続ける患者に再検査や多数の薬剤の試用を指示することは控えるべきである(2)。症状が重篤な疾患を示唆するものでない場合は,新たな診断または治療計画に乗り出すよりも,むしろ様子をみるべきである。その間に,新たな情報によって評価や管理の方向性が定まる可能性がある。ときに,器質的疾患(例,消化性潰瘍,食道炎)のある患者で機能性の愁訴がみられる場合もあるが,そのような症状は,たとえ器質的疾患に対処しても軽快しない可能性がある。一部の患者では,検査(例,CT)により症状と関係のない異常が偶然同定される可能性もある。

消化管疾患の患者の評価も参照のこと。)

総論の参考文献

  1. 1.Drossman DA: Functional gastrointestinal disorders: History, pathophysiology, clinical features, and Rome IV.Gastroenterology 150:1262–1279, 2016.doi: 10.1053/j.gastro.2016.02.032

  2. 2.Drossman DA: 2012 David Sun Lecture: Helping your patient by helping yourself: How to improve the patient-physician relationship by optimizing communication skills.Am J Gastroenterol 108:521–528, 2013.doi: 10.1038/ajg.2013.56

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American College of Gastroenterology: Monograph on management of irritable bowel syndrome

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