Whipple病

(Whipple病;intestinal lipodystrophy)

執筆者:Zubair Malik, MD, Lewis Katz School of Medicine at Temple University
レビュー/改訂 2023年 3月
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Whipple病は,細菌の一種であるTropheryma whippleiによって引き起こされる,まれな全身性疾患である。主症状は関節炎,体重減少,腹痛,および下痢である。診断は小腸生検による。治療は,まずセフトリアキソンまたはペニシリンを投与し,続いてトリメトプリム/スルファメトキサゾールを少なくとも1年は投与する。

Whipple病は大半が30~60歳の白人男性に発生する。多くの部位(例,心臓,肺,脳,漿膜腔,関節,眼,消化管)が侵されるが,小腸粘膜はほぼ常に侵される。患者では細胞性免疫に軽微な異常が認められることがあり,これがT. whippleiによる感染の素因となる。

Whipple病とHLA-B27遺伝子の間に関連があると想定されているが,これは実証されていない。

Whipple病の症状と徴候

臨床像は侵される器官系によって異なる。Whipple病の4つの主症状は以下のものである:

  • 関節痛

  • 下痢

  • 腹痛

  • 体重減少

通常,初期症状は関節痛と発熱である。

腸管症状(例,水様性下痢,脂肪便,腹痛,食欲不振,体重減少)は通常,時間が経過してから,ときに最初の愁訴から数年後に出現する。腸管の肉眼的出血または潜血が発生することがある。臨床経過後期に診断された患者では,重度の吸収不良が認められることがある。

その他の所見としては,皮膚の色素沈着増加,貧血,リンパ節腫脹,慢性咳嗽,漿膜炎,末梢浮腫,中枢神経系症状などがある。

Whipple病の診断

  • 小腸生検と内視鏡検査

著明な消化管症状がない患者では,Whipple病が見逃されることがある。

関節炎のある中年の白人男性で腹痛,下痢,体重減少,または他の吸収不良症状がみられる場合は,Whipple病を疑うべきである。これらの患者では小腸生検と上部消化管内視鏡検査を施行すべきであり,腸病変の存在は診断に至る特異的な所見である。最も重度かつ一貫した変化は,上部小腸でみられる。光学顕微鏡検査では,PAS(過ヨウ素酸シッフ)染色陽性のマクロファージによる絨毛構造の変形を認める。粘膜固有層およびマクロファージ中に抗酸染色陰性のグラム陽性桿菌(T. whipplei)が認められる。T. whippleiは認めないものの,臨床所見から依然としてWhipple病が疑われる場合は,PCR検査と免疫組織化学検査を行うべきである。

Whipple病は,同様の組織学的所見がみられるMycobacterium avium-intracellulare(MAI)による腸管感染症と鑑別すべきである。ただし,MAIは抗酸染色陽性である。

Whipple病の治療

  • 抗菌薬

  • 晩期再発の可能性

無治療では,進行して死に至る。

多くの抗菌薬で治癒が得られる(例,トリメトプリム/スルファメトキサゾールペニシリン,セファロスポリン系)。Whipple病の治療はセフトリアキソン(2g/日,静注)またはベンジルペニシリン(150万~600万単位,静注,6時間毎)で開始し,2~4週間投与する。このレジメンに続いてトリメトプリム/スルファメトキサゾール(160/800mg,1日2回,1年間),またはドキシサイクリン(100mg,1日2回,1年間)とヒドロキシクロロキン(200mg,1日3回,1年間)の併用を長期コースで経口投与する。サルファ剤アレルギーのある患者は,経口ペニシリンVKまたはアンピシリンで代用してもよい。速やかな臨床改善が得られ,発熱および関節痛は数日で消失する。腸管症状は通常,1~4週間で軽減する。

治療に対する反応を確認するために,便,唾液,またはその他の組織でPCR検査を行うことができる。しかしながら,PCR検査と合わせて1年後に再生検を行い,鏡検で桿菌(治療成功後数年にわたり残存することのあるマクロファージではない)の有無を確認することを推奨している専門家もいる。

再発はよくみられ,数年後に起こることがある。再発が疑われる場合は,遊離桿菌の存在を確認するために(侵されている器官系とは関係なく)小腸生検またはPCR検査を施行すべきである。

要点

  • 細菌の一種であるT. whippleiの感染症では,消化管を含む多くの臓器が侵される。

  • 小腸粘膜が侵されると吸収不良が生じる。

  • 関節炎のある中年の白人男性で腹痛,下痢,体重減少,またはその他の吸収不良症状がみられる場合は,Whipple病を疑う。

  • 内視鏡下小腸生検が必要である。

  • 長期の抗菌薬治療が必要であり,再発がよくみられる。

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