切断後には、70％以上の患者が残存肢（断端）に痛みを感じ、それによって機能が重度に制限され、生活の質が損なわれ、リハビリテーションが著しく遅れる可能性があります。一部の原因は危険な場合があるため、残存肢の痛みは積極的に評価して治療する必要があります。幻肢感覚は痛みを伴わない望ましい感覚で、腕や脚の位置の感覚を改善する可能性があるものであり、幻肢痛とは異なります。（義肢の概要も参照のこと。）
原因
残存肢の痛みの原因には以下のものがあります。
手術後の痛み
深部組織感染症（例えば、骨の感染症）
皮膚の破れを伴うことも伴わないこともある圧迫点
神経組織の過剰な増殖（神経腫）
神経の損傷（神経障害）
骨棘
腕や脚への血流不足（虚血）
幻肢痛
残存肢の痛みがある人は、まず感染症と皮膚の破れの徴候がないか確認する必要があります。感染症の可能性が高いと考えられる場合は、医師に相談する必要があります。明らかな感染症の徴候がない場合でも、痛みがひどい場合や突然発生した場合、発熱がある場合は、これらの症状も感染症の存在を意味していることがあるため、医師に相談する必要があります。患部は洗浄するか溶液で洗い流します。壊死した皮膚を取り除き、包帯を巻きます。抗菌薬や、ときには手術が必要になることもあります。
一般的に、手術による傷の痛みは、通常は3～6カ月かけて、組織が治癒するにつれて消えていきます。それ以降も続く痛みには、感染症や準備的な義肢の適合不良など、多くの原因があります。治療は原因に対して行われ、義肢の修正、傷が治癒するまでの義肢の使用中断、鎮痛薬の使用なども行われることがあります。
神経の損傷による痛み（神経障害性疼痛）がよくみられます。神経障害性疼痛は、通常は突然の鋭い痛みや焼けつくような痛みと表現され、典型的には切断後7日以内に発生します。自然に治まることもありますが、多くの場合、長期間持続します。激しい痛みが持続することもあれば、断続的に生じることもあります。神経の損傷は、けがによって起こることもあれば、切断時に神経が切断されて起こることもあります。神経障害性疼痛の治療法としては、心理学的治療、理学療法、抗うつ薬、抗てんかん薬などがあります。
痛みを伴う神経腫（神経組織の良性の異常増殖）は、（手術や外傷によって）切断されたあらゆる神経に発生する可能性があり、電気的、電撃的、ピリピリする、鋭く刺すような感覚や、ヒリヒリする感覚を伴う痛みを引き起こすことがあります。典型的には幻肢痛を伴いませんが、伴う場合もあります。神経腫によるその他の症状としては、刺激なしで起こったり残存肢の筋肉の収縮時に起こったりする異常な不快感や、皮膚を軽く触ると生じる不快な感覚（異常感覚）などがあります。義肢の装着や筋肉の収縮による神経腫への刺激が長引くほど、神経腫が治まるまでの時間が長くなります。ときに、神経腫の診断を確定するために、MRI検査や超音波検査が行われることもあります。重度の神経腫には手術が必要になることがあります。
血行不良（末梢動脈疾患）のために切断が必要になった患者では、断端の血行が悪いことがあり、そのために診断が困難になることがあります。
痛みの原因となる病気がない場合は、マッサージや軽くたたくことに残存肢を高く上げることを組み合わると、痛みの緩和に役立つことがあります。これで効果がない場合は、弱い鎮痛薬（イブプロフェンやアセトアミノフェンなど）を使用することがあります。痛みが持続する場合は、疼痛管理の専門家の助けが得られるでしょう。
ときには、別の腕や脚、股関節、脊椎、肩、首に痛みを感じることがあります。こうした痛みは、義肢を装着していることにより、歩き方や体の支え方が変わったり、動きを繰り返すようになったことが原因かもしれません。定期的に特定のストレッチ運動や筋力強化の運動を行うことが、この種の痛みの予防や緩和に役立ちます。理学療法士は適切な運動プログラムを作成する手助けができます。
幻肢痛
大半の患者が、どこかの時点で、まるで切断された腕や脚にあるかのような痛み（幻肢痛）を感じます。幻肢痛は現実の痛みではなく、切断された腕や脚の位置に痛みを感じるものです。幻肢痛は通常、切断後数日以内に始まりますが、数カ月から数年遅れることもあります。幻肢痛は、ピリピリする、電撃的な、刺すような、ズキズキする、焼けつくような、うずく、締め付ける、万力で締められるといった感覚を伴うことがあります。
多くの場合、切断直後に悪化し、時間とともに弱まっていきます。多くの人は、夜間などの義肢を装着していないときに幻肢痛を多く経験します。手術時に脊椎麻酔と全身麻酔の両方が使用された場合、この痛みが生じるリスクが低減します。
経皮的電気神経刺激（TENS）、鍼治療、脊髄刺激療法によって痛みが和らぐことがあります。
幻肢感覚
大半の患者が、切断された部位がまだ存在するように感じる幻肢感覚を経験します。幻肢感覚は幻肢痛とは異なります。幻肢感覚は、脚を切断した人が夜間にトイレに行く時に顕著な問題となることがあります。自分の脚がまだあると思い込み、歩こうとして転倒したり残存肢にけがをしたりします。就寝中はけがを予防するために保護具を装着することができます。
