緊急時の最優先事項は命を救うことです。意識がなく反応のない人は死が近い可能性があるため、救助者は状況を評価し、必要に応じて治療を開始し、次のABC:気道(Airway)、呼吸(Breathing)、循環(Circulation)を維持する必要があります。これらのどれか1つにでも問題がある場合、すぐに対処しなければ患者は死に至ります。気道とは、肺に空気を送る通路のことで、食べものの欠片が詰まったり吸い込まれたりすることでふさがることがあります。肺気腫や喘息などの病気が原因で、呼吸が困難になることがあります。血液の循環は心臓の拍動と心臓の筋肉による血液の拍出によって維持されているため、心停止になると循環も止まります。必要に応じて、救助者は直ちに以下の処置を開始する必要があります。
次に優先すべきことは、救急サービス(日本の場合は119番)に電話をして救急車を呼ぶことです。米国で救急車を呼ぶには、911に電話します(日本では119番に電話します)。電話がつながれば、患者の状態と、けがまたは病気がどのようにして起こったのかをできるだけ詳しく説明する必要があります。電話を切ってくださいと言われるまで、電話を切ってはなりません。その場に複数の人(救助者)がいる場合は、1人が救急車を呼び、その間にもう1人が評価と救命処置を始めます。
電話で救急隊の出動を要請した後、救助者は必要に応じて以下の薬を投与することができます。
ハチ刺され後などの重度のアレルギー反応(アナフィラキシー)に対して、アドレナリンの筋肉内注射
オピオイド薬の過剰摂取後に呼吸が停止したか停止しかけた場合には、ナロキソンの点鼻または筋肉内注射
けが人が大勢いる場合は、最も重傷の人から手当てを行います。優先順位の判定は、けが人1人当たり1分以内で行います。救助者は一人ひとりについて、以下のうちどの状況に該当するかを判断していきます。
生命を脅かす状態
急を要するが生命を脅かすものではない状態
急を要さない状態
誰が最も急を要するかの判定は難しいこともあります。というのも、痛みのために叫んでいる人よりも、呼吸ができなかったり昏睡状態にあったりして静かな人の方が重傷の場合があるからです。呼吸困難や大量出血は生命を脅かしますが、手または足の骨折の場合は、どれほど痛くても治療を先に延ばすことがほとんどの場合可能です。
重傷者が多数いるにもかかわらず、救助者の人数や必要な物資が限られている場合は、救助者は助かる見込みがあると判断した人のみに治療を施さざるを得ない場合もあります。
錯乱もしくは意識がないため、または状態が悪いために自らの医療情報を伝えられない人については、別の方法で情報を得る必要があります。例えば、意識を失った人のそばに空になった薬の容器があった場合は、それを救急隊員に渡します。近くにいた人、家族、救助にあたった人が、本人が倒れたときの詳細な情報を救急隊員に伝えることも治療に欠かせません。
緊急の治療を必要としない人には、治療を待つ間、励ましたり、毛布をかけて安静と体温を保ったりするなどの簡単な処置を施します。
血液感染症の拡大を防ぐために、救助者は、すべての人の血液や体液は感染性があるとみなす感染予防の考え方に従って、以下の普遍的な予防策を講じて自分自身を守る必要があります。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症やB型およびC型肝炎(肝炎の概要を参照)などの重篤な感染症は、血液や特定の体液を介して感染するおそれがあります。可能であれば、救助者は感染予防に最適なゴム製またはニトリル製の手袋を装着するようにします。手袋がない場合は、ビニール袋でも役立ちます。例えば、食品用のビニール袋など、水を通さない袋に手を入れます。体液や血液が飛び散る可能性がある場合は、フェイスマスクと安全眼鏡(またはフェイスシールド)、保護ガウン、キャップも着用する必要があります。
応急処置が完了したら、救助者は皮膚から汚染物質を洗い流す必要があります。例えば、できるだけ早く、石けん水か漂白剤を薄めたもの(水約1リットルに対して漂白剤大さじ1杯[約15ミリリットル]を溶かしたもの)で、爪の間までしっかり手を洗います。いずれもすぐに用意できない場合は、アルコール系の消毒液を使う方法もあります。