低体温症(危険なほど体温が低下した状態)は、寒冷な環境にさらされることによって発生したり悪化したりするため、寒冷障害と呼ばれることが多くあります。
非常に寒い環境に身を置いたり、特定の病気があったり、動くことができない状況にある場合、低体温症による害が生じるリスクが高くなります。
最初はふるえが起こりますが、その後、錯乱状態となり、意識を失います。
体温が下がりきってしまう前に、体を温めて濡れた衣類を乾かすことができれば、回復します。
体温が低くなりすぎたら、温めた酸素の吸入や、温めた液体の静脈内投与またはカテーテル経由での膀胱、胃、腹腔、胸腔への投与などを行って、体を温めます。また、体の外側からも熱を与えます。
低体温症により、米国では毎年約600人が死亡していますが、かなり過少報告されており、また低体温症のほとんどは偶発的なものですが、まれに殺人または自殺によるものである場合があります。また、心疾患、血管疾患、神経疾患がある人では低体温症によって死亡のリスクが高まります。
低体温症は、体から失われる熱量が、運動をすることで生産される熱量や外部から得られる熱(日光や暖炉などの熱)を上回った結果として起こります。冷たい地面に座わる、横たわる、水に浸かる、風にあたるといった条件が加わると、熱放散が増えます。非常に冷たい水に急に浸かると、5分から15分で致死的な低体温症が起こる可能性があります。しかしながら、主に乳児や幼児など、少数ではありますが、1時間もの間、氷混じりの水に完全に沈んだ状態で生存したケースもあります。これはショックによってすべての身体機能が停止し、結果的に体が保護されたためです(冷水でおぼれたときの影響を参照)。やや冷たい程度の水でも、長時間入っていると低体温症が起こる可能性があります。
低体温症になるリスクは、例えば脳卒中やけいれん発作を起こしたり、中毒などによって意識不明になったり、低血糖や外傷などの理由で、寒い場所に横たわって動かずにいる場合に最も高くなります。体を動かして熱を生産することができず、また寒い場所から移動することもできないからです。このようなケースでは、周囲の気温が13~16℃程度でも低体温症になるリスクがあります。
乳幼児や高齢者では、とりわけ低体温症になるリスクが高くなります。このような年齢層では、若い成人ほど寒さへの適応力がないことに加え、体を暖かく保つための対策を他者に依存しているからです。非常に高齢の人では、寒い部屋で何時間もじっと座っていると、屋内で低体温症になることがあります。また乳児も体から熱が急速に失われるため、低体温症になりやすい傾向があります。体の広範囲に及ぶ感染や甲状腺機能低下症などの疾患によって、低体温症が引き起こされたり、悪化したりすることがあります。
低体温症の症状
低体温症の初期症状には、体が激しくふるえる(シバリング)、歯がカチカチ鳴るなどがあります。体温がさらに低下すると以下のような症状がみられます。
ふるえ(シバリング)が止まる。
動作が遅く、ぎこちなくなる。
反応までの時間が長くなる。
思考がぼんやりする。
判断力が損なわれる。
これらの症状は極めてゆっくり現れるため、本人も周囲の人も、何が起こっているのかなかなか気がつきません。転んだり、ふらふらとさまよったり、休もうとして横になったりすることもあります。
ふるえ(シバリング)が止まったら、動作がますます鈍くなり、昏睡状態に陥ります。心拍や呼吸が遅く弱くなります。心拍と呼吸が非常に遅くなると、たとえ心臓が非常にゆっくりと拍動していたとしても、患者には生存の徴候(心拍動や呼吸努力がみられない)がないようにみえることがあります。最終的には心臓が停止します。
体温が低くなるほど、死亡のリスクは増大します。体温が約31℃°を下回ると死に至るおそれがありますが、死亡例の大半は体温が約28℃を下回った場合です。
高齢者での重要事項:寒さへの適応
加齢により、寒さに適応する能力が損なわれます。加齢に伴って、ふるえ(シバリング)による熱生産量が減少したり、体の表面の血液を中心部に効率よく戻せなくなります。また、皮下脂肪が減ると、熱放散を防ぐ遮蔽効果が弱まります。
ふるえ(シバリング)による熱生産や血液を体中心部へ戻す効率は、病気(例えば心疾患や血管疾患など、高齢者でみられる頻度が高い病気)によっても低下し、低体温症を回避できる力が弱まります。また、体の熱産生は、甲状腺機能低下症など、高齢者によくみられる一部の病気によっても減少します。脳卒中や関節炎などの病気や、けがであまり動き回ることができない人も低体温のリスクがありますが、この理由は運動量が減少することで熱を生産するための筋肉の活動が低下するためです。アルコールや、抗うつ薬などの特定の薬も、同様にリスクを高めます。
ほとんどの場合、低体温症は予防可能です。高齢者は以下のことに注意するとよいでしょう。
温かい環境を保ちましょう。高齢者は、暖房費を節約するために室温を低めに設定することがありますが、室温は20℃以上に設定すべきです。特に、寝室を暖かくしておくことが重要です。米国ではFuel Assistance Program(燃料支援プログラム)やHome Winterization Program(家庭の冬支度プログラム)などを利用すれば、暖房費を抑えることができるかもしれません。
衣類を重ね着しましょう。ウールの衣類や、ポリプロピレンなどの合成繊維で作られた衣類は、濡れても保温効果があるため、特に有用です。頭部からも熱が多く奪われるため、帽子をかぶることも重要です。手や足の指も保護する必要があります。
温かい食べものや飲みものをとるようにしましょう。食べものは燃焼のための燃料となり、温かい飲みものによって体が直接温まり、また脱水が予防できます。
アルコール飲料は控えましょう。アルコールは皮膚の血管を広げるため、一時的に体が温まったように感じますが、実際にはより多くの熱を放散させます。
特に寒いとき、定期的に運動をしましょう。運動することで、体の熱生産量が増加します。
低体温症の診断
体温の測定
ときに、他の疾患を調べるための検査
体温が35℃以下に低下した場合に低体温症と診断され、体温の測定には通常、直腸用の体温計を用います。従来型の体温計では、34℃未満の体温を測ることができません。したがって、重度の低体温症では電子体温計が必要になります。
低体温症が感染症や甲状腺機能低下症などの病気によって引き起こされたかどうかを見極めるために、血液検査などが行われます。患者に生存の徴候がみられない場合、心臓超音波検査を行い、心臓がまだ拍動しているかどうかを確かめることがあります。
低体温症の治療
濡れた衣服を脱がせ、暖かい毛布でくるむなどして、体を乾かし外部から温めます。
温めた酸素や温めた輸液を投与し、体を内部から温めます。
病院外での治療
低体温症の初期であれば、乾いた温かい衣類に着替えさせ、毛布でくるみ熱い飲みものを飲ませることで回復します。意識不明で発見された場合は、体温がそれ以上低下することを防ぐため、可能であれば濡れた衣類をそっと脱がせて、乾いた温かい毛布にくるみ、救急車の手配をして、暖かい場所で待つようにします。
何らかの生存の徴候がみられる場合(検知するのは非常に難しい可能性があります)は、病院以外での心肺蘇生(特にバイスタンダーによるもの)は推奨されていません。特に訓練を受けていない人にとって、かすかな呼吸や脈拍を検知するのは困難です。脈が触れず、鼓動が聞こえなくても、心臓は動いていることがあります。また、重度の低体温症の人を突然揺さぶると、致死的になりうる不整脈を誘発する可能性があるため、そっと扱う必要があります。
病院内での治療
病院では、温めた酸素の吸入や、温めた液体の静脈内投与またはカテーテル経由での膀胱、胃、腹腔、胸腔への投与などを行って、体を温めます。さらに血液透析装置(血液を体外に取り出し、加温装置の付いたフィルターを通過させて体内に戻す)や人工心肺装置(血液を体外に取り出して温め、酸素を加えて体内に戻す)を使って温めることもあります。
患者の呼吸を助けるために、医師が合成樹脂製の呼吸用チューブを口から気管に挿入し(気管挿管)、人工呼吸器を用いることがあります。心臓が停止している場合は、心肺蘇生を行います。
低体温症で病院に運ばれ、搬送時には生命の徴候がみられなかった人でも回復した事例があるため、医師は患者の体が温まるまで、または心拍やその他の生存の徴候がみられないことが確認されるまでは、蘇生のための医療行為を続けます。