化学療法の副作用

執筆者:Robert Peter Gale, MD, PhD, DSC(hc), Imperial College London
レビュー/改訂 2022年 9月
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化学療法では、がん細胞を死滅させる、またはその増殖を遅らせるために薬剤が投与されます。しかし、化学療法薬は全身に作用するため(例えば、発生の特定の段階にあるすべての細胞に対して作用する)、がん細胞だけでなく健康な細胞も攻撃されます。化学療法を受けている間は健康な細胞も損傷を受けるため、副作用が起こる可能性が高くなります。

化学療法では吐き気、嘔吐、食欲不振、体重減少、疲労や、貧血につながる血球数の減少、感染のリスク増大が起こります。髪の毛が抜けてしまう脱毛もよく起こりますが、その他の副作用は薬の種類によって異なります。

消化管への影響

消化管への影響は非常によくみられ、以下のものがあります。

  • 食欲不振

  • 吐き気や嘔吐

  • 下痢

このような影響は、がんそのものによっても生じることがあります。

食欲不振はよくみられ、体重の減少につながります。理想体重の10%以上の体重減少がみられた人は、体重が維持できたか体重の減少幅が少なかった人ほど、調子はよくありません。医師は、栄養をしっかり取り続けるように促します。食欲を増進させる薬剤はいくつかありますが、このような薬剤を用いることで実際に、減少した体重を元に戻せるかどうか、生活の質を改善できるかどうか、生存期間を延長させることができるかどうかは明らかではありません。

吐き気や嘔吐は生活の質を大きく損ないます。すべてのがん治療薬が吐き気や嘔吐を引き起こすと考えられがちですが、このような症状は特定の薬剤および特定の状況で起こる可能性がより高くなります。吐き気や嘔吐は通常、薬(制吐薬)(特にグラニセトロン、オンダンセトロン、アプレピタント)で予防または軽減できます。これらの薬剤は化学療法の前に使用されることもあれば、化学療法開始後の吐き気や嘔吐の治療のために使用されることもあります。吐き気は、食事の量を減らしたり、食物繊維が多い食品やガスを生じる食品、熱すぎる食べものや冷たすぎる食べものを避けたりすることでも軽減することがあります。一部の州では、化学療法による吐き気や嘔吐の緩和にマリファナが処方できます。

下痢は化学療法薬または分子標的薬による治療後(および放射線療法後)によくみられます。下痢は通常、ロペラミドという薬剤で治療します。

血球数の減少

血球減少症(1種類以上の血球の欠乏)が、血球を作っている骨髄に対する化学療法薬の有害な影響によって生じることがあります。例えば、以下のものが異常に少なくなることがあります。

赤血球は肺から体のすべての細胞に酸素を運んでいます。赤血球が十分になければ、蒼白となったり、疲労や筋力低下が生じたりします。貧血がより重度の場合は、めまい、のどの渇き、発汗、さらには息切れや胸痛が生じることもあります。貧血が重度の場合は、濃厚赤血球を輸血することができます。赤血球の増殖因子であるエリスロポエチンも投与できますが、輸血の方が血栓のリスクが小さいため好まれます。

好中球減少症になると、白血球は感染症に対する防御に必須であるため、感染症の発生リスクが増大します。好中球減少症で、体温が38℃を超えれば緊急事態として治療されます。このような場合、感染症の有無について評価を受ける必要があり、抗菌薬の使用、さらには入院が必要になることもあります。白血球は輸血しても体内での寿命がわずか数時間と短く、生じる副作用が多いため、白血球の輸血はめったに行われません。代わりに、白血球の生産を促すために顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)など特定の物質を投与することが可能です。

血小板は、血液中にある細胞のような小さい粒子で、血管が切れたり破れたりしたときに血液が固まるのを助けます。血小板が十分になければ(血小板減少症)、あざや出血が起こりやすくなる可能性が高まります。血小板減少症が重度の場合は、重度の消化管出血や脳内への出血がみられることがあります。血小板は、出血の治療や予防のために輸血で補うことができます。

口内炎

多くの患者で、口内などの粘膜に炎症や、さらには潰瘍ができます。口内炎は痛みを伴い、ものを食べにくくなることがあります。様々な口腔用の液剤(通常は制酸薬、抗ヒスタミン薬、局所麻酔薬を含む)によって、不快感が軽減できます。まれに、胃や小腸に栄養チューブを直接入れて栄養補給を行う必要があり、静脈から栄養補給を行うことさえあります。

うつ病

うつ病は、がん自体だけでなくがん治療に起因する場合もあります。

臓器障害とその他のがん

化学療法薬は、ときに肺や心臓、肝臓などの臓器に損傷を与えることがあります。例えば、トポイソメラーゼ阻害薬の一種であるアントラサイクリン系薬剤(ドキソルビシンなど)が大量に投与されると、心臓に障害が現れます。

化学療法、特にアルキル化薬による治療を受けた人では、その数年後に白血病を発症するリスクが高くなることがあります。いくつかの薬(特にアルキル化薬)を用いた治療を受けると、一部の女性とほとんどの男性が不妊症になります。

腫瘍崩壊症候群とサイトカイン放出症候群

腫瘍崩壊症候群は、がん細胞が破壊されると血液中にその内容物が放出されることがあるために、化学療法の後に発生することがあります。このような内容物は、腎臓や心臓に損傷を与える可能性があります。腫瘍崩壊症候群は、急性白血病非ホジキンリンパ腫で主にみられますが、他の種類のがんでも治療後に発生することがあります。ときに、化学療法の前や治療中にアロプリノールを投与することで腫瘍崩壊症候群を予防できることがあります。これらの有毒な物質が腎臓から速やかに排出されるように、輸液を行う場合もあります。

サイトカイン放出症候群は、腫瘍崩壊症候群と関連がありますが別のものです。サイトカイン放出症候群は、多数の白血球が活性化してサイトカインという炎症性物質を放出すると起こります。これは、細胞をベースとした治療(CAR-T細胞を用いる治療など)や一部のモノクローナル抗体でよくみられる合併症です。症状は発熱、疲労、食欲不振、筋肉や関節の痛み、吐き気、嘔吐、下痢、発疹、速い呼吸、頭痛、錯乱、幻覚などです。一般的に、軽症のサイトカイン放出症候群に対する治療は支持療法で、発熱、筋肉の痛み、疲労などの症状を緩和します。より重症のサイトカイン放出症候群の患者に対しては、酸素療法、血圧を上げるための輸液や薬、炎症を軽減する薬が必要になることがあります。

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