妄想性パーソナリティ障害は、他者の動機を敵意や有害性のあるものと解釈する、他者に対する根拠のない不信や疑いの広汎なパターンを特徴とします。
妄想性パーソナリティ障害の患者は、他者が自分を搾取したり、欺いたり、害を与えたりしようと計画しているのではないかと疑っているため、侮辱、軽蔑、脅しがみられないか常に警戒しています。
妄想性パーソナリティ障害の診断は、生活の多くの側面での不信や疑いなどの、特定の症状に基づいて下されます。
有効な治療法はありませんが、認知行動療法が試みられることがあり、薬により一部の症状が軽減する場合があります。
パーソナリティ障害(人格障害とも呼ばれます)とは、本人に重大な苦痛をもたらすか、日常生活に支障をきたしている思考、知覚、反応、対人関係のパターンが長期的かつ全般的にみられる人に対して用いられる用語です。
妄想性パーソナリティ障害の患者は他者を信用せず、自分の感じ方に何の根拠もない、または不十分な根拠しかない場合でも、他者が自分に害をなそうとしている、または自分を欺こうとしていると考えます。
妄想性パーソナリティ障害は米国の一般集団の約2~4%以上にみられます。この病気は男性により多いと考えられています。一部の証拠から、妄想性パーソナリティ障害が家族内で受け継がれることが示唆されています。小児期に情緒的、身体的虐待を受けたり、犯罪の被害にあったりしたことがこの障害の発症に関わっている可能性があります。
他の病気もしばしば認められます。例えば、妄想性パーソナリティ障害患者には以下の病気の1つ以上もみられる場合があります。
統合失調症または統合失調症に類似する病気のいずれか
別のパーソナリティ障害(境界性など)
妄想性パーソナリティ障害の症状
妄想性パーソナリティ障害の患者は、他者が自分を搾取したり、欺いたり、害を与えたりしようと計画しているのではないかと疑っています。患者は、いかなるときでも、理由もなく自分が攻撃されるかもしれないと感じています。証拠がほとんどないかまったくない場合でも、自分の疑念や考えを主張し続けます。
敵意と感じる体験の解釈
しばしば、妄想性パーソナリティ障害の患者は、他者が自分を大きく取り返しのつかないほど傷つけたと考えています。患者は侮辱、軽蔑、脅し、および不忠がみられないか警戒しており、発言や行動に隠れた意味がないか探ります。自分の疑念を裏付ける証拠を探そうとして他者を詳細に吟味します。例えば、手伝いの申し出を、自分が一人で仕事をすることができないことをほのめかしていると誤解することがあります。なんらかの形で侮辱された、または傷つけられたと考えると、患者は自分を傷つけた相手を許しません。傷つけられたと感じて反応し、反撃したり、怒ったりする傾向があります。他者を信用しないため、自分のことは自分で行い、物事をコントロールしていなければならないと感じています。
人間関係に及ぼす影響
妄想性パーソナリティ障害の患者は、他者に秘密を打ち明けたり、他者と親密な関係を築いたりすることをためらいますが、それは情報が自分に不利な形で使われるのではないかと心配するためです。患者は友人の誠実さや配偶者またはパートナーの貞節を疑います。極端に嫉妬深い場合があり、自分の嫉妬を正当化するために、配偶者またはパートナーの活動や動機について絶えず問いただすことがあります。
このため、妄想性パーソナリティ障害の患者は付き合いづらい場合があります。他者が患者に対し否定的に反応すると、その反応を自分がもともと感じていた疑念を裏付けるものととらえます。
妄想性パーソナリティ障害の診断
具体的な診断基準に基づく医師による評価
パーソナリティ障害の診断は、通常は米国精神医学会が発行している精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)第5版(DSM-5)に基づいて下されます。
妄想性パーソナリティ障害の診断を下すには、以下の4つ以上に示されるように、他者に対する持続的な不信や猜疑心が認められる必要があります。
他者が自分を利用している、傷つけている、または裏切っていると、十分な理由もなく疑っている。
友人や同僚の信頼性について根拠のない疑いにとらわれている。
情報が自分に不利に使われるのではないかと考え、他者に秘密を打ち明けたがらない。
悪意のない言葉や出来事に、誹謗、敵意、または脅迫的意味が隠されていると誤解する。
侮辱、中傷、または軽蔑されたと考える場合は、恨みを抱く。
すぐに自分の性格や評判が批判されたと考え、性急に怒りをもって反応したり、反撃したりする。
疑うべき十分な理由もなく、自分の配偶者またはパートナーが浮気をしているのではないかと繰り返し疑う。
また、症状は成人期早期までに始まっている必要があります。
妄想性パーソナリティ障害の治療
認知行動療法
妄想性パーソナリティ障害の一般的治療は、すべてのパーソナリティ障害に対するものと同じです。
妄想性パーソナリティ障害の患者は非常に疑い深く、不信感が強いことから、医師が患者と協力的で互いを尊重し合う関係を築くことがしばしば困難になります。協力関係を築き、患者が治療に参加するのを促す一助として、医師はしばしばなんらかの妥当性のある疑念を認めようとします。
妄想性パーソナリティ障害に有効な治療法はありません。しかし、患者に協力する意思があるなら、認知行動療法が有用となることがあります。
特定の症状を治療するために、抗うつ薬や新しい(第2世代)抗精神病薬などの薬が処方されることがあります。第2世代抗精神病薬は不安や妄想を軽減するのに役立つことがあります。