片頭痛

執筆者:Stephen D. Silberstein, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2021年 7月
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やさしくわかる病気事典

片頭痛は、典型的には中等度から重度の脈打つような痛みやズキズキする痛みす。頭の片側に生じることもあれば、両側に生じることもあります。しばしば身体活動、光、音、匂いなどによって悪化し、吐き気や嘔吐を伴ったり、音、光、匂いに過敏になったりします。

  • 片頭痛は、睡眠不足、天候の変化、空腹、感覚への過度の刺激、ストレス、その他の要因が引き金となって発生します。

  • 身体活動、光、音、または匂いによって悪化することがあります。

  • 医師は典型的な症状に基づいて診断します。

  • 片頭痛には根治的な治療法がありませんが、片頭痛が始まるのを止めたり、痛みを軽減したり、発作の数や頻度を減らすために薬剤が使用されます。

頭痛の概要も参照のこと。)

片頭痛は、中等度から重度の反復性頭痛の最も一般的な原因です。

片頭痛はどの年齢でも起こりますが、多くは思春期または若年成人期に発生します。ほとんどの人では、片頭痛が周期的に起こります(月に15日未満)。多くの場合、50歳を過ぎると、頭痛がずっと軽くなったり、まったく起こらなくなったりします。片頭痛は男性より女性に3倍多くみられます。米国では毎年、女性の約18%、男性の約6%が片頭痛を経験しています。

片頭痛は慢性化することがあり、これは月に15日以上頭痛がみられる場合です。慢性の片頭痛は、多くの場合、片頭痛の治療薬を過剰に使用する人でみられます。

片頭痛は家族性に発生する傾向があります。片頭痛患者の半数以上では、近親者に片頭痛の人がいます。

片頭痛の原因

片頭痛は、他の人よりも神経系が敏感な人、すなわち脳の神経細胞が刺激されやすく電気的な活動が生じやすい人に起こります。脳全体に電気的な活動が広がると、視覚、感覚、バランス維持、筋肉の協調運動、発話などの様々な機能に、一時的な障害が起こります。このような障害により、頭痛の前に様々な症状(前兆)が引き起こされます。頭痛は第5脳神経(三叉神経)が刺激されたときに起こります。第5脳神経は、眼、頭皮、前頭部、上まぶた、口、顎から脳に向かって信号(痛みに関する信号を含みます)を送ります。この神経が刺激を受けると、痛みを伴う炎症を引き起こす物質が脳血管と脳を覆う組織層(髄膜)に放出されます。この炎症によって、ズキズキする頭痛、吐き気、嘔吐、光や音に対する過敏性を説明することができます。

主要な女性ホルモンであるエストロゲンは、片頭痛の引き金になると考えられており、女性に片頭痛が多いのもこれが理由かもしれません。片頭痛はおそらく、エストロゲンの濃度の上昇または変動が引き金となって発生すると考えられています。エストロゲン濃度が上昇する思春期には、男子よりも女子にはるかに多く片頭痛が起こります。月経の前後あるいは最中に片頭痛が起こる女性もいます。エストロゲンの濃度が比較的安定している妊娠の第2および第3トリメスター【訳注:それぞれ日本でいう妊娠中期および妊娠後期にほぼ相当】には、片頭痛の頻度と重症度が下がり、エストロゲン濃度が急速に低下する産後は、片頭痛が悪化する傾向があります。(エストロゲンの濃度が変動する閉経期に近づくと、片頭痛のコントロールは特に難しくなります。

経口避妊薬(エストロゲンが含まれます)とエストロゲン療法は、片頭痛を悪化させることがあり、前兆を伴う片頭痛がある女性では脳卒中のリスクを高める可能性があります。

このほかに、以下のようなものが引き金となって片頭痛が起こることがあります。

  • 睡眠不足(不眠症を含む)

  • 天候の変化(特に気圧の変化)

  • 赤ワイン

  • 特定の食べもの

  • 空腹(食事を抜いたときなど)

  • 感覚への過度の刺激(チカチカする光や強い匂いなど)

  • ストレス

様々な食べものに片頭痛との関連が報告されていますが、それらが必ずしも片頭痛の引き金になるかどうかは分かりません。そのような食べものとしては、以下のものがあります。

  • 熟成チーズ、大豆製品、ソラマメ、サラミ、魚の燻製または干物、一部のナッツなど、チラミンを含む食べもの

  • ホットドッグやランチョンミートなど、硝酸を含む食べもの

  • うま味調味料、ブイヨン、調味料、香辛料など、グルタミン酸ナトリウムを含む食べもの

  • カフェイン(チョコレートに含まれるものを含む)

どの食べものが片頭痛の引き金になるかは、人によって異なります。

頭部外傷、首の痛み、顎関節の病気(顎関節疾患)が片頭痛の引き金となったり片頭痛を悪化させたりすることがあります。

家族性片麻痺性片頭痛は、まれな片頭痛のタイプであり、体の片側の筋力低下を引き起こします。1番、2番、または19番染色体の遺伝子異常が関連しています。また、より多くみられる種類の片頭痛においても、遺伝子の役割が研究されています。

一部の家系では、家族の間でも片頭痛の症状が異なります。頭痛が主な症状である人もいれば、回転性めまい(めまいの一種)または体の片側の筋力低下が主な症状である人もおり、また頭痛はなく、片頭痛の前兆だけがみられるという人もいます。これらの所見は、片頭痛が単なる頭痛性疾患ではない可能性を示唆しています。

片頭痛の症状

片頭痛では、脈打つような痛みやズキズキする痛みが通常は頭の片側に起こりますが、両側に起こることもあります。痛みの程度は中等度のこともありますが、多くの場合は、何もできなくなるほど強い痛みが起こります。身体活動、明るい光、大きな音、特定の匂いによって頭痛が悪化することがあります。このように感覚が過敏になるため、多くの人は暗く静かな部屋に引きこもって頭痛がひくまで横になりたがります。ほとんどの場合、睡眠中は片頭痛が治まります。

頭痛は吐き気を伴うことが多く、ときに実際に嘔吐したり、光、音、匂いに敏感になったりします。発作中は集中力が低下します。

発作の頻度や重症度は様々です。多くの人が複数の種類の頭痛を有し、なかには吐き気や光への過敏性を伴わない軽度の発作もあります。それらの発作は緊張型頭痛に似ていますが、軽い片頭痛の一種です。

片頭痛発作は通常、数時間から数日(典型的には4時間から数日)続きます。重度の発作が起きると何もできなくなり、家庭や職場での生活に支障をきたします。

しばしば、片頭痛の前に予兆が生じることがあります。予兆とは、もうすぐ発作が始まることを警告するような感覚のことです。具体的な感覚としては、気分の変動、首の痛み、食物への渇望、食欲の減退、吐き気などがあります。

片頭痛患者の約25%では、発作の前に前兆がみられます。前兆としては、視覚、感覚、バランス維持、筋肉の協調運動、発話などに一時的な障害がみられます。ギザギザに走る光、チカチカする光、または閃光が見えたり、視野に盲点ができ、その周囲がチラチラ光って見えたりします。それほど多くはありませんが、ピリピリ感、平衡感覚の消失、腕や脚の脱力、発話困難などの症状が生じることもあります。前兆は数分から1時間程度続き、頭痛が始まってもなお継続することがあります。前兆が起こっても、頭痛が軽度で済むか、まったく生じないという人もいます。

通常、加齢に伴い片頭痛は軽くなります。しかし、高齢者では、頭痛を伴わない視力に関わる前兆がより多くみられます。

知っていますか?

  • 片頭痛は、ときに視覚障害やバランス障害などの症状だけを引き起こし、頭痛を伴わないことがあります。

  • あまりに頻繁に痛み止めを使用すると、片頭痛が悪化することがあります。

片頭痛の診断

  • 医師による評価

  • ときにCTまたはMRI検査

症状が典型的で、身体診察(神経学的診察を含みます)の結果が正常である場合は、片頭痛と診断されます。

片頭痛の診断を確定できる検査や方法はありません。

特定の所見は、重篤な病気が原因と考えられる頭痛を示唆する警戒すべき徴候となります。このような所見としては以下のものがあります。

  • 数秒以内に最も激しくなる突然の頭痛(雷鳴頭痛)

  • 50歳を過ぎてから始まった頭痛

  • 数週間またはそれ以上かけて、強度または頻度が増大する頭痛

  • がんの既往がある人または免疫機能が(病気または薬剤により)低下している人にみられる頭痛

  • 発熱、項部硬直、または錯乱を伴う激しい頭痛

  • 感覚または視覚の異常、筋力低下、協調運動障害、眠気または錯乱など、脳疾患を示唆する問題が持続する

  • 確立された頭痛のパターンの明らかな変化

頭痛が最近起こるようになった場合や特定の警戒すべき徴候がある場合は、他の病気の可能性を否定するために、しばしば頭部のMRI検査が行われ、ときに腰椎穿刺が行われます。

片頭痛と分かっている患者に、いつもの片頭痛に似た頭痛が生じた場合、検査が行われることはほとんどありません。しかし、いつもと異なる頭痛があり、特に警戒すべき徴候がみられる場合は、医師による診察のほか、しばしば検査が必要になります。

片頭痛の予防

治療を行っても片頭痛が頻発するか生活に支障が出る場合は、薬剤を毎日使用して発作を予防することが役に立ちます(表「片頭痛の治療に用いられる主な薬剤」を参照)。予防薬の使用は、痛み止めやその他の片頭痛薬の使用回数を減らすのに役立つため、薬物乱用頭痛の回避にも有用です。

予防薬は、薬剤の副作用と以下のような他の病気の有無を考慮して選択されます。

  • プロプラノロールなどのベータ遮断薬がしばしば使用され、特に不安や冠動脈疾患がある人でよく用いられます。

  • 抗てんかん薬のトピラマートは、体重の減量を促進する可能性があるため、過体重の人に処方されることがあります。

  • 抗てんかん薬のジバルプロエックス(divalproex)は、気分を安定させるのに役立ち、片頭痛によって日常生活が困難になっている場合に有用です。

  • 抑うつまたは不眠がある患者には、アミトリプチリンが処方されることがあります。

  • 他の薬剤が有効でない場合は、A型ボツリヌス毒素(神経活動を遮断するために使用される薬)か新しい薬剤(ジバルプロエックス[divalproex]やモノクローナル抗体など)が使用されることがあります。

  • 他の薬剤で効果が得られない場合は、モノクローナル抗体(エレヌマブ、フレマネズマブ、ガルカネズマブなど)が使用されることがあります。

モノクローナル抗体は、注射により投与され、片頭痛を誘発する物質の作用を阻害します。

ほかに片頭痛の予防に使用できる薬剤として、カルシウム拮抗薬があります。

また、体の特定の部位に装着して特定の神経を刺激する機器も、片頭痛発作の予防に役立つ可能性があります。そのような機器のうちの1つは、額に装着して使用され、片頭痛の頻度を減らすことができます。別の機器は後頭部に装着して使用され、片頭痛が始まればそれを軽減でき、片頭痛の予防にも役立つ可能性があります。これらの機器には重大な副作用はありません。

片頭痛の治療

  • 行動療法、ヨガ、リラクゼーション法

  • 片頭痛の開始時に頭痛を止めたり進行を予防したりする薬

  • 痛みや吐き気を抑える薬

  • 片頭痛の予防薬

片頭痛を完治させることはできませんが、コントロールすることは可能です。

医師は頭痛の日記をつけることを推奨します。そこには、発作の回数と発生時刻、頭痛の引き金と考えられる要因、および治療に対する反応を記録します。このような情報があれば、頭痛の誘因を特定して、それを排除できる可能性があります。それにより、患者は頭痛の誘因を回避することで治療に参加でき、医師は治療の計画や調整がやりやすくなります。

行動療法(リラクゼーション、バイオフィードバック法、ストレス管理)も片頭痛発作のコントロールに用いられます。ストレスが引き金になっている場合や、片頭痛をコントロールするために薬剤を使用しすぎている場合は、特に有用です。リラクゼーション法はストレスのコントロール、筋肉の緊張の緩和、および脳波の活動を変化させるのに役立ちます。

ヨガは片頭痛の強さを軽減し頻度を減らす可能性があります。ヨガは、筋肉を強化してストレッチする姿勢と、深呼吸、瞑想、リラクゼーションを組み合わせたものです。

薬剤

片頭痛用の薬としては、始まりかけた片頭痛を止めるものや進行を止めるもの、痛みをコントロールするもの、片頭痛を予防するものなどがあります。

軽度から中等度の片頭痛には、痛み止め(鎮痛薬)が痛みのコントロールに役立ちます。しばしば、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)やアセトアミノフェンが使用されます。これらの鎮痛薬は、発作時に必要に応じて、トリプタン系薬剤と併用したりトリプタン系薬剤の代わりに使用したりします。ときおり発生する軽度の片頭痛には、カフェイン、オピオイド、またはブタルビタール(butalbital、バルビツール酸系薬剤の一種)を含有する鎮痛薬が役立つ可能性があります。しかしながら、鎮痛薬、カフェイン(鎮痛薬やカフェイン入り飲料に含まれています)、トリプタン系薬剤を過剰摂取すると、片頭痛が日常化してひどくなる可能性もあります。これは薬物乱用頭痛と呼ばれ、これらの薬剤を月に15日以上、3カ月以上にわたって使用した場合に起こります。

片頭痛がひどいときやひどくなりそうな場合は、片頭痛を止める薬が使用されます。それらの薬剤は、片頭痛が始まる予感を覚えたらすぐに服用します。具体的には以下のものがあります。

  • 通常はトリプタン系薬剤(5-ヒドロキシトリプタミン[5-HT]作動薬やセロトニン作動薬とも呼ばれます)が使用されます。トリプタン系薬剤は、片頭痛を誘発する物質が神経から放出されるのを阻止します。片頭痛が始まってすぐに使用すると、最も効果的です。経口、鼻腔スプレー、または皮下注射で投与されます。

  • ジタン系薬剤は、頭痛を止めることができる新しいクラスの薬剤です。トリプタン系薬剤と同様の作用がありますが、心臓に関わる副作用(血圧や心拍数の変化など)はより少ない可能性があります。現在使用されている唯一のジタン系薬剤は、ラスミジタンの内服薬です。ラスミジタンは24時間以内に1回以上服用してはいけません。

  • ゲパント系薬剤は、頭痛を止められるもう1つの新しいクラスの薬剤です。ゲパント系薬剤は、片頭痛を誘発する血液中のタンパク質を阻害します。このクラスの薬剤(リメゲパント[rimegepant] やウブロゲパント[ubrogepant])はいずれも経口薬です。

  • ジヒドロエルゴタミンは、強い持続性の片頭痛を止めるために使用される薬剤で、静脈内、皮下注射、または鼻腔スプレーで投与されます。この薬剤は通常、プロクロルペラジンなどの静脈内に投与する吐き気止め(制吐薬)と一緒に使用されます。

  • 特定の制吐薬(プロクロルペラジンやメトクロプラミドなど)は、軽度から中等度の片頭痛の緩和に用いられることがあります。プロクロルペラジン(経口薬または坐薬)は、トリプタン系薬剤やジヒドロエルゴタミンの副作用に耐えられない人において、片頭痛を止めるために用いられることもあります。

トリプタン系薬剤やジヒドロエルゴタミンは血管を狭める(収縮させる)ことがあるため、狭心症または冠動脈疾患のある場合や、コントロール不良の高血圧がある場合には、推奨されません。高齢者や冠動脈疾患の危険因子をもつ人がこれらの薬剤を使用する必要がある場合は、注意深いモニタリングが必要です。しかし、これらの病気のいずれかがある人でも、ラスミジタン、リメゲパント(rimegepant)、ウブロゲパント(ubrogepant)は服用できます。

片頭痛に吐き気が伴うことが多い場合は、症状が現れたときに制吐薬とトリプタン系薬剤を併用すると効果的です。軽度から中等度の片頭痛は、制吐薬(プロクロルペラジンやメトクロプラミドなど)だけで進行が止まることもあります。

重度の片頭痛があり、他の治療で効果がない場合は、最後の手段としてオピオイド鎮痛薬を使用することがあります。

片頭痛が重度の場合、静脈内に輸液を投与すると、頭痛が軽減し、気分が改善することがあり、嘔吐のため脱水状態に陥っている人には特に有効です。

その他の薬剤が片頭痛を予防するために使用されており、片頭痛の頻度や症状の重症度を軽減することができます。具体的には以下のものがあります。

  • 抗てんかん薬

  • ベータ遮断薬

  • カルシウム拮抗薬

  • モノクローナル抗体(エレヌマブ、フレマネズマブ、ガルカネズマブ)

  • 三環系抗うつ薬

A型ボツリヌス毒素(頭皮、額、首に注射する)またはモノクローナル抗体は、慢性片頭痛の治療に用いることができます。

片頭痛の予防薬を使用し忘れたり、用量を減らしたり、投与時刻が遅れたりすると、片頭痛が起こったり悪化したりします。

体の特定の部位に装着して特定の神経を刺激する機器が、片頭痛発作の治療に加えて、予防にも役立つ可能性があります。そのような機器のうちの1つは、額に装着して使用され、片頭痛の頻度を減らすことができます。別の機器は後頭部に装着して使用され、片頭痛が始まった際にそれを軽減できます。アームバンドを使用して皮膚の神経を刺激する機器は、片頭痛を軽減することができます。これらの機器には重大な副作用はありません。

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