進行性多巣性白質脳症は、JC(John Cunningham)ウイルスが原因で起こる、まれな脳の感染症です。
この病気に特にかかりやすいのは免疫機能が低下している人です。
動きがぎこちなくなったり、話すのが難しくなったり、部分的な失明が生じたりすることがあり、精神機能が急速に低下します。
通常は9カ月以内に死に至ります。
頭部の画像検査と腰椎穿刺が行われます。
免疫系の働きを弱めている病気の治療が、余命の延長に役立つことがあります。
(脳の感染症の概要も参照のこと。)
進行性多巣性白質脳症の原因はJCウイルスの感染です。多くの場合、JCウイルスの感染は小児期に起こります。ほとんどの成人はJCウイルスに感染していますが、この病気を発症しません。
JCウイルスは、免疫系の機能低下などがきっかけで再び活性化して増殖できるようになるまで、不活性状態のままでいると考えられています。したがって、この病気は主に、白血病、リンパ腫、エイズなどの病気や、免疫系の働きを抑える薬(免疫抑制薬)または免疫系の働きを調整する薬(免疫調節薬)によって免疫機能が低下している人に起こります。そのような薬としては、移植した臓器の拒絶を抑えるために用いられるものや、全身性エリテマトーデスや多発性硬化症などの自己免疫疾患やがんを治療するために用いられるものがあります。具体的には、モノクローナル抗体であるナタリズマブやリツキシマブ、がん細胞を標的とする特定の抗体に抗がん剤を結合させたブレンツキシマブ ベドチンなどがあります。
PMLの症状
JCウイルスは、再活性化するまで、症状を引き起こさないと考えられています。
進行性多巣性白質脳症の症状は、徐々に現れることがあり、通常は進行性に悪化していきます。現れる症状は、脳のどの部分が侵されたかによって異なります。
最初の症状は、ぎこちなさ、筋力低下、発話や思考の困難などです。病気が進行するにつれて、多くの人が認知症を発症して話すことができなくなります。視力が損なわれることもあります。進行性多巣性白質脳症の患者は、やがて寝たきりになります。まれに頭痛やけいれん発作が(主にエイズの人で)起こります。
一般的には発症後1~9カ月以内に死に至りますが、それ以上(約2年)生存する例も少数ながらあります。
免疫系を抑制する薬(ナタリズマブなど)の服用中に進行性多巣性白質脳症を発症した人は、薬を中止すれば回復することがあります。しかし、多くの患者では感染症に関連した問題が持続します。
PMLの診断
MRI検査
腰椎穿刺
免疫機能が低下している人に、原因不明で次第に悪化する症状がみられる場合は、進行性多巣性白質脳症が疑われます。
頭部のMRI検査が行われます。通常はMRI検査により、この病気を示唆する異常を検出できます。
腰椎穿刺を行い、髄液(脳と脊髄を覆う組織の間を流れる体液)のサンプルを採取します。髄液中のJCウイルスのDNAを検出するために、遺伝子のコピーを大量に増幅するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査が行われます。
PMLの治療
免疫系の機能低下が原因であれば、原因の治療
進行性多巣性白質脳症に効果的であることが証明されている治療法はありません。しかし、免疫機能を低下させている病気を治療すれば、生存期間が長くなります。例えば、原因がエイズの場合は、抗レトロウイルス療法が用いられます。
免疫抑制薬または免疫機能に影響を与えるその他の薬(ナタリズマブなど)を服用している場合は、薬の使用を中止すると、進行性多病巣性白質脳症が沈静化することがあります。その場合、血漿交換により、血液中から薬を除去することがあり、特に薬がナタリズマブ(多発性硬化症の治療に用いられる)の場合はこの方法が行われます。
抗レトロウイルス療法による治療を受けている人または免疫抑制薬の投与を中止した人に、免疫再構築症候群(IRIS)が起こることがあります。この病気が起こると、回復途中の免疫系がJCウイルスを激しく攻撃するため、症状が一時的に悪化することがあります。コルチコステロイドが症状の緩和に役立つことがあります。
ペムブロリズマブとニボルマブ(免疫チェックポイント阻害薬)は、進行性多巣性白質脳症の症状を軽減し、進行を遅らせるのに役立つ可能性がありますが、こうした効果は証明されているわけではありません。