筋萎縮性側索硬化症(ALS)とその他の運動ニューロン疾患(MND)

(ルー・ゲーリッグ病;Lou Gehrig病;Lou Gehrig's病)

執筆者:Michael Rubin, MDCM, New York Presbyterian Hospital-Cornell Medical Center
レビュー/改訂 2022年 4月
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やさしくわかる病気事典

運動ニューロン疾患は、筋肉の運動を開始させる神経細胞が進行性に変性することを特徴とします。結果として、それらの神経に刺激されていた筋肉の状態が悪くなり、筋力が低下し、正常に機能しなくなります。

  • 筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリッグ病)は、最も一般的な運動ニューロン疾患です。

  • 典型的には、筋力の低下と筋肉の萎縮が起こり、動きが固く、ぎこちなくなり、体を動かすのが困難になっていきます。

  • 医師は主に診察結果からこの病気を疑い、筋電図検査、神経伝導検査、MRI検査、血液検査の結果を参考にして診断を確定します。

  • 根治的な治療法はありませんが、薬で症状を軽くすることができます。

末梢神経系の概要も参照のこと。)

運動ニューロン疾患には、末梢神経系(脳と脊髄以外の神経)だけでなく、中枢神経系(脳と脊髄)が関与する場合もあります。

筋肉が正常に機能するためには、筋肉の組織だけでなく、脳と筋肉をつなぐ神経も正常でなければなりません。筋肉の運動は、脳の前方(運動皮質)と脊髄にある神経細胞(ニューロン)によって開始されます。運動皮質の神経細胞は、脊髄にある筋肉の運動を促す神経(運動神経といいます)の細胞とつながっています。運動ニューロン疾患では、それらの神経細胞が進行性に衰えていき、その細胞と筋肉をつないでいる末梢神経が変性します。その結果、筋肉自体に問題がなくても、筋力の低下や萎縮が起こり、完全に麻痺することもあります。

脳を使って筋肉を動かす

筋肉の動きは通常、脳と筋肉の間で神経を介して信号が伝達されることによって起こります。筋肉を動かそう(例えば、本を手に取る)と意識的に決めたときなどは、筋肉を動かすための刺激が脳から発せられます。

あるいは、筋肉を動かす刺激が感覚に端を発する場合もあります。例えば、痛みや温度変化は、皮膚の中にある神経の特殊な末端部分(感覚受容器)によって感知されます。この感覚情報は脳に送られ、脳はそれにどう反応するかを指示する司令を筋肉に送ります。このタイプの情報交換には、2つの複雑な神経伝達経路が関わっています。

  • 脳に向かう感覚神経の伝達経路

  • 筋肉に向かう運動神経の伝達経路

  1. 皮膚の感覚受容器は、痛みや温度変化を感知すると信号を発する(この信号は最終的に脳に届く)。

  2. その信号はまず、1本の感覚神経に沿って脊髄まで伝わる。

  3. ここで信号は、感覚神経と脊髄の神経細胞との間のシナプス(2つの神経細胞同士の接合部)を通過する。

  4. 信号は、その脊髄の神経細胞から脊髄の反対側に送られる。

  5. 信号は脊髄に沿って脳に向かって上っていき、脳幹を通過して、脳の深部にある感覚情報処理の中枢である視床に到達する。

  6. 信号は、視床のシナプスを通過して、大脳の感覚皮質(感覚受容器からの情報を受け取って解釈する領域)につながる神経線維に伝わる。

  7. 感覚皮質が信号を受け取る。その結果、この人が何らかの動作を起こそうと決めた場合は、運動皮質(随意運動を計画、制御、実行する領域)から新たな信号が発せられる。

  8. この信号を伝える神経は脳の底部で体の反対側に移る。

  9. そして信号は脊髄に沿って下行していく。

  10. 信号は続いて、脊髄内で、脊髄の神経線維と運動神経との間にあるシナプスを通過する。

  11. 脊髄から出た信号は運動神経に沿って進んでいく。

  12. 信号は神経筋接合部(神経が筋肉と接続している部分)で運動神経から筋肉の運動終板にある受容器まで進み、そこで信号が筋肉を刺激することにより、実際に筋肉が収縮する。

強い感覚が突然生じた場合(とがった石を踏んだとき、とても熱いコーヒーを口にしたときなど)には、信号が脊髄に伝わり、脳を介することなく直接、運動神経に戻ることがあります。これにより筋肉が瞬時に反応して、痛みを引き起こしているものから直ちに離れることができます。この反応を脊髄反射といいます。

運動ニューロン疾患には以下のような様々な種類があります。

運動ニューロン疾患は男性に多くみられ、通常は50代から70代で発症します。通常は原因不明です。約5~7%の患者は遺伝性の運動ニューロン疾患で、その家族にも同じ疾患をもつ人がいます。

神経系の中で最初に侵される部分は様々です。例えば、口とのどの筋肉が最初に侵される運動ニューロン疾患もあれば、手足の筋肉が最初に侵されたり、最も強く侵されたりするものもあります。

麻痺が長く続くと、筋肉が短縮して元に戻らなくなること(拘縮)があります。

症状

筋力が低下しますが、痛みや感覚の変化はみられません。抑うつがよくみられます。

筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリッグ病)

この進行性の疾患は筋力低下で始まりますが、その部位は手の筋肉であることが多く、やや少ないものの、足または口とのどの筋肉のこともあります。筋力低下の進行は体の左右どちらか一方でひどくなることがあり、通常は腕または脚を上向きに広がっていきます。筋肉(通常は手と足)は萎縮し始めます。強い痛みを伴う筋肉のけいれんもよくみられ、筋力低下より前に起こることもありますが、感覚の変化は起こりません。体重が減少し、異常な疲労感を覚えるようになります。

時間の経過とともに筋力の低下が進みます。

筋萎縮性側索硬化症が脳の運動神経に影響を及ぼすと、典型的には筋肉の緊張が高まり、筋肉が硬くこわばる傾向があり、筋れん縮に至ります(けい縮といいます)。動きは硬くぎこちなくなります。脊髄の運動神経が影響を受けると、筋肉の緊張が低下し、四肢がだらんと垂れ下がって見えることもあります。運動神経と筋肉のつながりが失われると、筋肉が意図せずひきつるようになります(線維束性収縮と呼ばれます)。

顔の表情をコントロールすることが困難になることがあります。のどの筋肉が衰えると、話し方が不明瞭になったり、ものを飲み込みにくくなったり(嚥下困難)します。ものが飲み込みにくいため、ときによだれが垂れたり、液体でむせやすくなったりします。食べものや唾液を肺に吸い込む(誤嚥する)と、肺炎のリスクが高まります(誤嚥性肺炎といいます)。通常は鼻声になりますが、声がれがみられることもあります。

病気が進行すると、情動反応をコントロールできなくなる場合もあり、不適切な場面で笑ったり泣いたりしてしまうことがあります。

最終的に呼吸を行う筋肉の力が低下して呼吸困難が起こり、一部の人では人工呼吸器が必要になります。

筋萎縮性側索硬化症の進行の速さは様々です。

  • 約50%の患者は最初の症状の出現から3年以内に死亡します。

  • 約20%の患者は5年間生存します。

  • 約10%の患者は10年間以上生存します。

  • 診断後30年以上生存する人もわずかにいます。

原発性側索硬化症と進行性仮性球麻痺

これらの運動ニューロン疾患は、筋萎縮性側索硬化症のまれな変異型で、ゆっくり進行します。

  • 原発性側索硬化症では主に腕と脚が侵されます。

  • 進行性仮性球麻痺では主に顔面、あご、のどの筋肉が侵されます。

どちらの病気でも、筋力が低下し、筋肉が非常に硬くこわばりますが(けい縮)、筋肉のひきつり(線維束性収縮)や萎縮は起こりせん。

感情が変化しやすくなる場合もあり、進行性仮性球麻痺では、理由なく幸福感と悲しみとが素早く切り替わることがあります。不適切な感情の爆発(例えば、突然笑い出したり、泣き出したりする)もよくみられます。

通常は、数年間にわたる進行を経て、全身の身体障害に至ります。

進行性筋萎縮症

進行性筋萎縮症はどの年齢層でも発生します。脳の運動神経が侵されないことを除けば、筋萎縮性側索硬化症と似ています。また、進行はより遅く、けい縮は起こらないものの、筋力が低下して、力が入らなくなり(弛緩)、筋肉が萎縮します。最初期の症状として、筋線維の不随意な収縮やひきつり(線維束性収縮)がみられます。

通常はまず手に症状が現れ、次に腕、肩、脚に広がります。最終的には全身に影響が出ます。

多くの人は25年以上生存します。

進行性球麻痺

進行性球麻痺は、ものをかんだり、飲み込んだり、言葉を話したりするのに使う筋肉を制御する神経が侵されるため、それらの動作が次第に困難になる病気です。鼻声になることがあります。感情が変化しやすくなる人もいます。

ものがうまく飲み込めなくなるため、食べものや唾液がしばしば肺に吸い込まれて、むせたりのどに詰まったりするため、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。

症状が現れてから1~3年後に死に至ることが多く、死因の多くは肺炎です。

診断

  • 医師による評価

  • MRI検査、筋電図検査、神経伝導検査などの検査

  • 血液検査、ときに尿検査、腰椎穿刺

成人に痛みや感覚消失を伴わない進行性の筋力低下がある場合は、運動ニューロン疾患が疑われます。医師は以下の点について尋ねます。

  • 体のどの部位に症状があるか

  • 症状はいつから始まったか

  • 最初に現れた症状は何か

  • 時間の経過とともに症状に変化があったか

これらの情報は症状の原因を探る手がかりになります。

筋力低下の原因には様々なものがあります。可能性を絞りこむために、次のような診断検査が行われます。

  • 筋電図検査(筋肉の電気的な活動を記録する検査)は、神経、神経筋接合部、筋肉のいずれに問題があるかを判断するのに役立ちます。

  • 神経が信号を伝える速度を測定するため、神経伝導検査を行うこともあります。運動ニューロン疾患では、信号が伝わる速さは末期になるまで変わりません。そのため、信号の伝達が予想より遅い場合には、別の病気が原因の症状である可能性があります。

  • 脳のMRI検査のほか、ときに脊髄のMRI検査を行い、同様の症状を引き起こす他の病気の可能性を否定します。

  • 筋力低下の原因になりうる別の病気を調べるため、さらに他の検査を行う場合もあります。

他の病気に対する検査として、医師は以下の検査を行うことがあります。

  • 感染症や代謝疾患の有無を確認するための血液検査

  • 重金属(鉛や水銀など)にさらされたことがある人では、重金属を検出するための尿検査

  • 髄液(脳と脊髄の周囲を流れている液体)に炎症の徴候がないかを確認するための腰椎穿刺

  • 遺伝性ニューロパチーなどの遺伝性疾患の有無を確認するための遺伝子検査

時間が経つにつれ、運動ニューロン疾患は非常に特徴的な症状を引き起こす傾向があるため、検査をしなくても診断が明らかになることがあります。

治療

  • 理学療法

  • 症状を緩和する薬剤

運動ニューロン疾患に対する特別な治療法はなく治癒することはありません。ですが、安全かつ効果的な治療法を探す研究が続けられています。

複数の分野の医療従事者で構成されるチームがケアにあたることは、患者が身体障害の進行に対処する上での助けとなります。理学療法は、筋力と関節の柔軟性を維持し、筋肉の短縮(拘縮)を防ぐのに役立ちます。ものを飲み込むのが困難になった場合は、食事の際にのどを詰まらせないよう、看護師やその他の介護者が十分注意して介助する必要があります。場合によっては、腹壁から胃に挿入したチューブ(胃瘻チューブ)を介して栄養を投与する必要が生じます。

以下の薬剤は症状の緩和に役立ちます。

  • バクロフェンはけい縮を軽減するのに役立ちます。

  • フェニトイン、キニーネはけいれんを軽減するのに役立ちます。

  • 抗コリン作用の1つに唾液の生産の減少があるため、グリコピロニウムなどの抗コリン作用がある薬剤は、よだれを軽減するために使用されることがあります。

  • アミトリプチリンやフルボキサミン(どちらも抗うつ薬)は、感情が変化しやすい場合や、抑うつがある場合に役立ちます。デキストロメトルファン(せき止め薬)とキニジンを組み合わせた薬剤は、感情のゆれのコントロールに役立つことがあります。

筋萎縮性側索硬化症では、神経細胞を保護する働きがある薬剤であるリルゾールにより、数カ月余命を延長できる可能性があります。リルゾールは経口投与します。新薬のエダラボンは、筋萎縮性側索硬化症の人の機能低下をある程度遅らせる可能性があります。

病気の進行に伴って痛みが発生した場合は(例えば、同じ姿勢で長時間座っていると痛くなることがあります)、弱い鎮静薬であるベンゾジアゼピン系薬剤が使用されることがあります。

嚥下を改善する手術は、進行性球麻痺の患者のごく一部にしか役立ちません。

筋萎縮性側索硬化症と進行性球麻痺は、進行性の治癒不可能な病気であるため、これらの病気になった場合は、終末期にどのような医療を望むかを記した事前指示書を作成しておくことが推奨されます。

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