その他の原発性脱髄疾患

執筆者:Michael C. Levin, MD, College of Medicine, University of Saskatchewan
レビュー/改訂 2021年 3月
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脱髄を引き起こす原因不明の病気は、原発性脱髄疾患と呼ばれます。脱髄とは、神経を包んでいる髄鞘という組織が破壊される現象です。

神経線維しんけいせんい絶縁ぜつえんする組織そしき

のう内外ないがいのほとんどの神経線維しんけいせんいは、脂肪しぼう(リポタンパクしつ)でできたなんそうもの組織そしき(ミエリンといいます)につつまれています。それらのそうつくられた組織そしき髄鞘ずいしょうといいます。髄鞘ずいしょう電気でんきケーブルをつつんでいる絶縁体ぜつえんたいのような役割やくわりたしていて、このはたらきによって、神経しんけい信号しんごう電気でんきインパルス)が神経線維しんけいせんい沿ってはやくかつ正確せいかくつたえられます。髄鞘ずいしょう損傷そんしょうすると(脱髄だつずいといいます)、信号しんごう神経しんけい正常せいじょうつたわらなくなります。

ときに、ウイルスへの感染後あるいはウイルスに対するワクチンの接種後に原発性脱髄疾患が発生することがあります。おそらく、ウイルスもしくは別の物質が何らかの形で免疫系を刺激することで、免疫系が自己の組織を攻撃するようになる現象(自己免疫反応)が関与していると考えられています。自己免疫反応の結果として炎症が起こり、髄鞘とその下の神経線維が損傷を受けます。

多発性硬化症は最も一般的な原発性脱髄疾患です。

急性散在性脳脊髄炎

脳と脊髄の神経に炎症が起きて脱髄が起こるまれな病気です。急性散在性脳脊髄炎は、成人より小児に多くみられます。

急性散在性脳脊髄炎は通常、ウイルス感染の後に起こります。急性散在性脳脊髄炎は、ウイルスが引き金となって起きた免疫反応により自己の組織が攻撃されることによると考えられています。米国では、特定の型のインフルエンザA型肝炎B型肝炎エンテロウイルス感染症エプスタイン-バーウイルス感染症ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症などが主な原因です。小児に対する予防接種が普及する以前は、麻疹(はしか)水痘風疹も一般的な原因でした。

典型的には、ウイルス感染による病気が始まってから1~3週間後に炎症が発生します。

急性散在性脳脊髄炎の症状

急性散在性脳脊髄炎の症状は急速に現れます。まず、発熱、頭痛、吐き気、嘔吐、疲労感が現れます。重症の場合、けいれん発作や昏睡を引き起こす可能性があります。

片眼または両眼の視力が障害されます。筋力が低下したり、協調運動障害が起きたりして、歩行が困難になることがあります。麻痺が起こることもあります。体の一部で感覚が失われ、しびれを感じることがあります。精神機能(思考、判断、学習など)に影響が現れることもあります。

大半の人は数日以内に回復し、6カ月以内にほとんどの人が完全またはほぼ完全に回復します。残りの人では、障害が一生残ることがあります。筋力低下が持続し、体の各領域でしびれが残る可能性があります。視力や精神機能は回復しないことがあります。

急性散在性脳脊髄炎の診断

  • 医師による評価

急性散在性脳脊髄炎の診断は、症状と身体診察の結果に基づいて下せることがあります。MRI検査を行うこともあります。

髄膜炎または脳の感染症(脳炎)が疑われる場合には、腰椎穿刺を行います。同様の症状を引き起こす他の病気がないか確認するために、血液検査を行うこともあります。

急性散在性脳脊髄炎の治療

  • コルチコステロイド

  • 免疫グロブリン製剤または血漿交換

急性散在性脳脊髄炎はコルチコステロイドの静脈内投与で治療できます。

免疫グロブリン製剤や血漿交換が効果的な場合もあります。これらの治療法には、コルチコステロイドを併用することもあります。免疫グロブリン製剤は、免疫機能が正常な人の血液から抽出された抗体でできています。血漿交換では、血液を体外に抜き出して、異常な抗体を取り除いてから体内に戻します。

副腎白質ジストロフィーと副腎脊髄ニューロパチー

副腎白質ジストロフィー副腎脊髄ニューロパチーは、まれな遺伝性代謝疾患です。これらの病気では、脂肪がうまく分解されません。こうして脂肪が主に脳、脊髄、副腎に蓄積します。脳では、蓄積した脂肪が神経の脱髄を引き起こします。

副腎白質ジストロフィーは男児(通常は4~8歳)が発症する病気です。青年期または若年成人期に発症して、ゆっくり進行する比較的軽症のタイプもあります。

副腎脊髄ニューロパチーは軽症の病型です。20代または30代の男性で発症します。

これらの病気では、広範囲の神経で脱髄が起こり、副腎機能障害が生じます。その結果、男児に行動面の問題や聴覚および視覚の異常が生じます。最終的には、精神機能の低下や、けい縮(協調のとれていない筋肉の不随意な収縮)、失明が起こります。副腎白質ジストロフィーの男児の中には、完全な身体障害をきたし、診断から2~3年後に死亡することもあります。副腎脊髄ニューロパチーの成人ではまず、脚の筋力低下とこわばりに気づくか、尿失禁また便失禁がみられるようなるか、勃起障害が起こります。

副腎白質ジストロフィーまたは副腎脊髄ニューロパチーの診断は、遺伝子検査によって確定されます。

どちらの病気についても、根治的な治療法は知られていません。オレイン酸トリグリセリドとエルカ酸トリグリセリドを成分とするサプリメント(「ロレンツォオイル」という名称で知られています)が役立つ可能性がありますが、さらなる研究が必要です。

病変が(脳ではなく)副腎にある場合、副腎ホルモンによる治療で命を救える可能性があります。現在では多くの専門家が、重篤な症状が出る前に早期の幹細胞移植を行うことを推奨しています。

レーベル遺伝性視神経症

レーベル遺伝性視神経症は、脱髄によって視力障害が起きる病気です。

レーベル遺伝性視神経症は、男性により多くみられます。通常、15~35歳の間に症状が始まります。この病気は母親を介して遺伝し、異常な遺伝子はミトコンドリア(細胞にエネルギーを供給する小器官)内にあると考えられています。

片眼または両眼で視野がかすむことがあります。ただし、片方の眼に症状が起きると、もう片方の眼でも数週間または数カ月以内に症状が現れ始めます。やがて見え方の鮮明さ(視力)と色覚が低下します。

患者の中には、心臓の異常または筋肉の症状(不随意な筋収縮、筋力低下、筋肉のけいれんなど)をもつ人もおり、筋肉の症状は多発性硬化症に似ています。

医師は多くの場合、患者の症状と身体診察の結果に基づいて、レーベル遺伝性視神経症を診断することができます。検査により、この病気を引き起こす一部の異常遺伝子を特定できます。心電図検査を行って、心臓に異常がないか確認します。

レーベル遺伝性視神経症に対して確立された治療法はありません。ただし、イデベノンとユビキノンという薬剤がレーベル遺伝性視神経症患者の視力を改善する可能性を示唆した科学的証拠があります。しかし、これらの薬剤も視神経にすでに生じている損傷を元に戻すことはできません。遺伝子治療の研究が行われています。正常な遺伝子を眼に注入する方法が検討されています。

飲酒量の制限と禁煙が助けになる可能性があります。アルコールとタバコは、レーベル遺伝性視神経症を引き起こす異常遺伝子が存在するミトコンドリアに影響を及ぼす可能性があります。

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