骨壊死

(阻血性骨壊死、無菌性壊死、虚血性骨壊死)

執筆者:Stuart B. Goodman, MD, PhD, Stanford University
レビュー/改訂 2021年 9月
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やさしくわかる病気事典

骨壊死は、血液の供給が妨げられることで骨の一部が死んでしまった状態です。

  • 骨壊死は、けがが原因で起こることもあれば、自然に起こることもあります。

  • 典型的な症状としては、痛み、関節可動域の制限、足の引きずり(脚に発生した場合)などがあります。

  • 診断は、症状、骨壊死のリスク、X線検査およびMRI検査の結果に基づいて下されます。

  • 喫煙をやめ、過度の飲酒を控え、コルチコステロイドの使用回数を最小限に抑えるか用量を減らせば、骨壊死が起きるリスクは低下します。

  • 安静や理学療法、鎮痛薬など、手術以外の方法で症状が軽減しない場合には、様々な手術を行うことができます。

米国では毎年、約20,000人が骨壊死を発症しています。股関節に発生することが最も多く、次いで膝関節と肩関節によく起こります。手首や足首にはあまり起こりません。骨壊死が肩関節など頻度の低い部位だけに起きることはまれで、そのような部位に骨壊死が起きた場合は、同時に股関節にも起きるのが一般的です。ただし、顎骨壊死は顎の骨だけに骨壊死が起こる病気です。

骨壊死の原因

骨壊死は、1つの特定の病気を表す用語ではなく、特定の(限局した)1つまたは複数の領域に限定して骨の壊死がみられる状態を表します。骨壊死は、大きく次の2つに分けられます。

  • 外傷性(けがの後に起こるもの)

  • 非外傷性

外傷性骨壊死が最も多くみられる骨壊死です。外傷性骨壊死の最も一般的な原因は転位骨折です。転位骨折では、折れた骨が2つ以上の部分に分かれて移動するため、折れた部分の端同士がそろわなくなります。骨壊死を引き起こす種類の転位骨折は、股関節に起こることが最も多く(股関節の骨折を参照)、高齢者に最もよくみられます。

外傷性骨壊死の他の原因としては脱臼があります。脱臼では関節の骨の端同士が完全に分離します。股関節の脱臼でも同じことが起こります。

転位骨折や脱臼によって、太ももの骨の上端(大腿骨頭、股関節の一部)に血液を供給する血管が損傷することがあり、結果的にこの部分の骨の壊死が起こることがあります。このような骨の壊死が体の別の部位で起こることはそれほど多くありません。

骨壊死の主な危険因子

外傷性骨壊死

  • 骨折および脱臼(関節の骨の端同士が完全に分離したとき)

非外傷性骨壊死

非外傷性骨壊死は直接の外傷や損傷なしに起こるものです。このタイプは、骨の特定の領域に血液を供給する細い血管を閉塞させる病気や状態が原因で起こります。骨壊死が最も起こりやすい部位は、大腿骨頭(股関節の一部)、膝関節、肩関節の上腕骨頭などです。男性と30~50歳の人で起こることが多く、しばしば両側の股関節や両側の肩関節に起こります。最も一般的な原因は以下のものです。

  • コルチコステロイド(高用量、長期間、または両方)

  • 長期的な過度の飲酒(1日3ドリンク以上を数年間)

その他の原因もいくつか特定されていますが、はるかに低い頻度でしかみられません。そうした原因としては、一部の血液凝固疾患、鎌状赤血球症、肝疾患、腫瘍、ゴーシェ病、放射線療法、減圧症(ダイバーが浮上するのが速すぎると起こる)などがあります。高用量のコルチコステロイドで治療されるいくつかの病気(全身性エリテマトーデスなど)や、コルチコステロイドの使用それ自体も、骨壊死の原因になることがあります。これらの場合、原因がその病気そのものか、コルチコステロイドであるかが明らかにならないことがあります。

骨壊死が起きた人の約20%では、原因が分かりません。

ある骨に非外傷性骨壊死が起きた場合、体の反対側の同じ骨にも、たとえ症状はなくとも、骨壊死が起きている可能性があります。例えば、片側の股関節に骨壊死があれば、60%の頻度で反対側の股関節にも骨壊死があります。

特発性膝骨壊死は、骨壊死の特定の危険因子がない高齢女性(ときに男性)に起こることがあります。特発性膝骨壊死は他の種類の骨壊死とは異なります。特発性膝骨壊死は脆弱性骨折が原因で発生すると考えられています。脆弱性骨折は、直接的な外傷がない状態で起こり、骨粗しょう症に侵されている骨に正常な摩耗が生じることによって引き起こされます。ただし、膝の骨壊死は外傷や骨壊死の非外傷性の危険因子によっても起こりえます。

骨壊死の症状

骨壊死が進行するにつれて、小さな骨折が次々と起こることがあり、特に股関節など体重を支える骨にみられます。結果として、血液供給が途絶えて数週間ないし数カ月後に、通常は骨がつぶれてしまいます。ほとんどの場合、骨がつぶれ始めると徐々に痛みが発生します。しかし、ときには痛みが突然現れることがあり、それは骨の患部やその周辺にかかる圧力の増加に関連していることがあります。痛みの始まり方にかかわらず、患部の骨を動かすと痛みが強くなり、安静にすると一般に痛みが和らぎます。患者は痛みを最小限に抑えようとして関節を動かさなくなります。

脚の骨が侵されると、立っていたり歩いたりすると痛みが強くなり、足を引きずるようになります。

股関節の骨壊死では、痛みは通常、鼠径部に現れ、太ももや殿部に広がることもあります。

特発性膝骨壊死では、急激な痛みが膝の内側部分に沿って生じます。この領域に圧痛があることもあり、膝関節が過剰な体液で腫れることがよくあります。膝を曲げると痛み、足を引きずるようになることがあります。

肩関節の骨壊死では、股関節や膝関節に起こる骨壊死より症状が少ないことが多いです。しかし、松葉杖で体重を支える人にとっては、大きな問題になる可能性があります。

変形性関節症(関節の表面を覆っている軟骨が損傷して起こる病気)は、多くの場合は骨の大部分がつぶれた後に、時間が経つにつれて起こります。

骨壊死発生の危険因子の多くは全身に影響を与えるため(例えば、コルチコステロイドの慢性使用、過度の飲酒、鎌状赤血球症)、骨壊死は複数の骨に起こることがあります。鎌状赤血球症では、骨壊死が様々な長管骨に発生することがあり、鎌状赤血球症の疼痛発作に類似することもあります。

骨壊死の診断

  • X線検査

  • MRI検査

骨壊死は当初は痛みがない場合が多いため、最初期の段階では診断できないことがあります。骨折した後に十分な改善が認められない場合、医師は骨壊死を疑います。股関節、膝関節、または肩関節に原因不明の痛みが起きている患者でも疑われ、特に骨壊死の危険因子がある場合は強く疑われます。

骨壊死は、最も初期の段階でない限り、通常は患部のX線検査で明らかになります。ただし、X線写真が正常に見えても、通常はMRI検査が行われます。これは、普通のX線検査で検出できる変化が起きる前の早期の骨壊死を検出するにはMRIが最良の検査であるからです。X線検査とMRI検査では、骨がつぶれているかどうかと、壊死の進行度、変形性関節症の有無についても分かります。片側の股関節に非外傷性骨壊死が発見された場合、X線検査またはMRI検査でもう一方の股関節も検査します。

基礎疾患(血液凝固疾患など)を発見するために血液検査を行うこともあります。

骨壊死の予防

コルチコステロイドが原因で骨壊死が発生するリスクを最小限に抑えるため、コルチコステロイドは不可欠な場合にだけ使用され、必要最低限の用量で、できるだけ短い期間に限定して処方されます。

減圧症による骨壊死を予防するために、潜水時や高圧環境下で働くときには減圧についての公認の規定に従うべきです(減圧症の予防安全なダイビングのための予防措置と潜水障害の予防を参照)。

喫煙と過度の飲酒は避けるべきです。

リスクが高い人の骨壊死の予防を目的として、様々な薬(血栓を予防する薬、血管を拡張させる薬、脂質濃度を下げる薬など)の評価が行われています。

骨壊死の治療

  • 症状を緩和するための手術以外の方法

  • 手術

  • 人工股関節置換術

骨壊死の中には、手術以外の方法だけで症状を軽減できるものがあります。手術による治療が必要になる場合もあります。

手術以外の方法

骨壊死による症状を治療するために、手術以外の方法がいくつかあります。抗炎症薬や他の鎮痛薬を服用したり、運動や負荷(骨壊死のある股関節や膝関節で体重を支えるなど)を最小限にしたり、理学療法を受けたりすることが、症状を和らげる方法ですが、これらを行っても骨壊死を治癒させたり、経過を変えたりすることはできません。しかし、肩関節や膝関節、特発性膝骨壊死、股関節の小さな領域の骨壊死(治療なしでも自然に治癒することがあります)の治療にはこれらの方法で十分な場合があります。骨壊死は、初期の段階で診断され、壊死が起こっている部位が小さくかつ主な荷重をうける骨に発生していなければ、治療をしなくても治癒することがあります。

特発性膝骨壊死は通常、手術なしで治療し、痛みは通常、消失します。

手術

骨壊死の進行を遅らせたり場合により予防したりすることのできる手術法が、いくつかあります。それらの手術は、関節を温存する目的で行われるもので、まだ骨がつぶれるまでは進行していない早期の骨壊死(特に股関節のもの)に対して最も効果的です。骨がつぶれている場合は、痛みを軽減し、機能を改善するために、ある種の人工関節置換術を行うことがあります。

骨内の減圧術(core decompression)は最も単純かつ最もよく行われる手術で、骨の中の圧力を減らす試みとして、1カ所または多数の小さな溝や穴(穿孔)をドリルで患部に作ります。骨内の減圧術で痛みが軽減され、治癒が促されることがよくあります。この方法によって、65%の患者で人工股関節全置換術が必要になるのを遅らせるか防ぐことができます。若い患者の場合は、すでに骨がわずかにつぶれていても、骨内の減圧術を行うことがあります。この手術法は比較的単純で、合併症の発生率が低いですが、約4~6週間にわたり松葉杖、歩行器、またはステッキを使用する必要があります。全体として大半の人で満足のいく結果や良好な結果が得られます。しかし、特定のケースでは結果の予測が難しくなることがあります。約20~35%の人では、人工股関節全置換術が必要になります。

骨内の減圧術では、開けた小さな穴の中に患者自身の骨細胞を注入する場合があります。このような追加の処置により、大腿骨頭(股関節の一部)の治癒が促される可能性があります。

骨移植(ある場所から別の場所への骨の移植)も手術法の1つです。股関節の骨壊死に対し、この方法では骨の死んだ領域を除去して、体の別の部位から取った正常な骨で置き換えることがあります。この移植骨は、骨の弱くなった部分を補強するとともに、患部において生きた骨が新たに形成されるように体に刺激を与えます。

骨切り術も、骨壊死のある関節を温存するための手術法の1つです。この方法は特に股関節で用いられ、骨がすでにある程度つぶれていて、骨内の減圧術やその他の方法が適さない若い患者に向いていると考えられます。通常、骨壊死は、大腿骨頭の体重の負荷のかかる部分にみられます。骨切り術では、骨の位置を変え、体重を大腿骨頭のつぶれた部分ではなく正常な部分で支えるようにします。

しかし、骨移植と骨切り術は難しい方法であり、米国ではあまり行われていません。股関節または膝関節の骨壊死に対して行われた場合、術後は最長6カ月にわたり松葉杖を使用する必要があります。最もよい結果を得るために、これらの手術は、手術の経験と設備がある限られた施設でのみ行われています。

人工関節全置換術は、骨壊死により関節の大部分がつぶれてしまい、変形性関節症が起きている場合に、痛みを和らげ、運動能力を回復させることができる、効果的な方法です。股関節または膝関節の人工関節全置換術では、約95%の人で有益な効果が得られます。最近の技術と機器をもってすれば、3カ月以内に日常生活の大半を再開することができ、ほとんどの人工関節は15~20年以上耐用できるはずです。

骨壊死がある若い患者では、人工関節全置換術を再度行わなければならなくなる場合や(再置換術)、人工関節全置換術の実施時期を遅らせる必要がある場合があります。しかし、最近の機器では、再置換術が行われることは以前よりはるかに少なくなっています。今では人工関節全置換術が大きな成功を収めているため、関節の一部を置換したり、表面の軟骨を取り除いてそれぞれの骨の端にキャップをしたりするなどの他の処置を行う必要性は、はるかに少なくなっています。

ときには、膝関節または肩関節に手術以外の治療では軽減できない進行した骨壊死があり、痛みが極めて強い場合に、部分置換術または全置換術が必要になることがあります。

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