肺胞タンパク症は、肺にある空気の袋(肺胞)がタンパク質と脂肪を豊富に含む液体で詰まってしまう、まれな病気です。
一般に、20~50歳の肺疾患にかかったことのない人に発生します。
症状として呼吸困難やせきがみられます。
CT検査とともに、気管支鏡検査で採取した肺の液体サンプルの検査を行うことで、診断が下されます。
症状が重い場合は、片肺ずつ洗浄します。
肺胞タンパク症の原因は不明な場合がほとんどですが、最新の研究によれば、あるタンパク質に対する抗体の生産に関係するとされており、そのタンパク質は、サーファクタント(正常な肺で生産される物質)の生産や分解に関与すると考えられています。無機物のほこりなどの有害物質への曝露、ニューモシスチス・イロベチイによる感染症、特定のがん、免疫抑制薬などと、肺胞タンパク質症の発症が関連していることもあります。まれですが、この病気が新生児にみられることもあります。
肺にタンパク質がたまって、肺胞や細い気道(細気管支)が詰まります。まれに、肺組織が瘢痕化することもあります。病気が進行することも、病状が変化しないことも、自然治癒することもあります。
肺胞タンパク質症の症状
肺胞が詰まると、肺から血液への酸素運搬が著しく阻害されます。そのため、肺胞タンパク質症の患者のほとんどは、運動時に息切れを起こします。安静時でも激しい呼吸困難に陥る人もいます。肺機能の低下によって、重度の身体障害をきたすことがよくあります。ほとんどの患者にせきがみられ、多くの場合たんはからみませんが、ときにはゼリー状のかたまりを吐き出すこともあります。
他の症状として、疲労、体重減少、微熱などがみられることがあります。肺の感染症が起こると、感染によって息切れの症状が急速に悪化し発熱が生じることがあります。
肺胞タンパク質症の診断
胸部CT検査
気管支肺胞洗浄
胸部X線検査やCT検査などのほか、肺の機能を調べる検査が行われます。胸部X線検査では、肺胞が詰まっているのが分かります。CT検査では、肺胞の詰まりや、肺胞タンパク質症を示す他の変化がみられます。
肺機能検査では、肺に吸い込める空気の量が異常に少ないことが明らかになります。血液検査では、酸素レベルの低下がみられ、初めは運動時だけですが、やがて安静時にもみられるようになります。肺からの二酸化炭素の排出が阻害される場合もあります。
血液検査では、肺胞タンパク質症や他の病気でみられる異常が認められます。例えば、乳酸脱水素酵素(LDH)、赤血球、血清サーファクタントタンパク質、ガンマグロブリンなど、一部の物質の濃度がしばしば高くなります。
医師は肺胞タンパク質症の診断を確定するために、肺胞から採取した液体サンプルを調べます。サンプルを採取するには、気管支鏡を用い、肺の一部を生理食塩水で洗浄(気管支肺胞洗浄)した後、その洗浄液を回収します。洗浄液にはタンパク質や脂肪が豊富に含まれているため、しばしば不透明または乳白色となります。気管支鏡検査の際に肺から組織片を採取して、顕微鏡で調べる検査(肺生検)を行うこともあります。場合によっては、これより大きな組織片が必要になり、外科手術を行って採取しなければならないこともあります。
肺胞タンパク質症の治療
肺洗浄
症状がほとんどみられないか、まったくない場合、治療は必要ありません。
生活に支障をきたすような症状がある場合は、気管支鏡検査の際や、口から気管に通した特殊なチューブを片方の肺に挿入する方法により、肺胞中のタンパク質や脂肪を豊富に含んだ液体を生理食塩水で洗い流します。この処置は肺洗浄と呼ばれます。肺のごく一部を洗浄するだけでよいこともありますが、症状が重く、血液中の酸素レベルが非常に低い場合は、患者に全身麻酔を行って、片方の肺全体を洗浄する必要があります。その約3~5日後に再び全身麻酔を行って、もう一方の肺を洗浄します。1回の洗浄で十分な場合もありますが、長年にわたって6~12カ月おきに洗浄が必要な場合もあります。
白血球の生産を促す物質である、遺伝子組換え顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子が、吸入または皮下注射により投与されることがあります。
プレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)などのコルチコステロイドは効果がないことが多く、逆に感染症のリスクを高めることになります。細菌感染症があれば、抗菌薬(一般に経口薬)による治療が行われます。
肺胞タンパク質症では、生涯にわたって息切れが続くこともありますが、定期的に肺洗浄を行っている限り、死に至ることはまれです。