心不全に対する薬物療法

執筆者:Nowell M. Fine, MD, SM, Libin Cardiovascular Institute, Cumming School of Medicine, University of Calgary
レビュー/改訂 2022年 9月
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    心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。心不全の薬物療法には以下のものがあります。

    • 症状を緩和する薬剤:利尿薬、血管拡張薬、またはジゴキシン

    • 余命を延長する薬剤:アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ベータ遮断薬、アルドステロン拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、またはアンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬(ARNI)、ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬、洞結節阻害薬

    どの種類の薬剤を使うかは、心不全の種類によって異なります。収縮性心不全(駆出率が低下した心不全、HFrEF)では、すべてのクラスの薬剤が役立ちます。拡張性心不全(駆出率が保持された心不全、HFpEF)では、一般的にACE阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬、ベータ遮断薬、およびSGLT2阻害薬のみが使用されます。駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)では、ARNIとSGLT2阻害薬が役に立つことがあります。

    薬を定期的に服用し、薬がなくなっていないか確認しておくことが重要です。

    アルドステロン拮抗薬

    アルドステロンというホルモンにより、腎臓は塩分と水分を保持します。そのため、アルドステロン拮抗薬(遮断薬)は、ACE阻害薬がアルドステロンの作用を間接的に阻害するのとは異なり、直接的に遮断し、水分貯留の制限を促します。この種の薬剤は、心不全患者の生存率を高め、入院期間を短縮します。

    アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬

    アンジオテンシンIIは、アルドステロンとバソプレシンの放出を誘発するホルモンで、アルドステロンとバソプレシンはどちらも腎臓に塩分と水分を保持させる作用があります。そのためACE阻害薬は水分貯留を制限する働きをもち、収縮性心不全の治療で主な薬剤の1つとして使用されています。ACE阻害薬は症状を軽減し、入院期間を短縮するだけではなく、余命を延長させます。ACE阻害薬は、どちらも正常な血圧の上昇を助けるホルモンであるアンジオテンシンIIとアルドステロンの血中濃度を低下させます(図「血圧の制御:レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系」を参照)。これによってACE阻害薬は動脈と静脈を拡張させ、腎臓の水分排泄を促進し、心臓にかかる負担を減らします。また、心臓と血管の壁に直接有益な作用をもたらす可能性もあります。

    アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)

    アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)には、ACE阻害薬と似た作用があります。ARBは、副作用であるせきのためにACE阻害薬に耐えられない一部の患者で、ACE阻害薬の代わりに使用されます。この副作用はARBでは起こりにくいためです。

    アンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬

    アンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬(ARNI)は、心不全治療薬の新しい組合せで、ARBと新しいクラスの薬剤であるネプリライシン阻害薬から構成されます。ネプリライシンは、ナトリウムを排出するよう体に信号を送る特定の物質(ペプチド)の分解に関与する酵素です。このようなペプチドの分解を抑制することで、これらの薬剤は血圧を低下させ、ナトリウムの排泄を増加させ、心臓の負担を軽減します。これらの薬剤には、収縮性心不全の患者においてACE阻害薬やARBを単独で使用する場合より余命を延長する効果があります。

    ベータ遮断薬

    ベータ遮断薬は、しばしばACE阻害薬との併用で心不全の治療に使用され、心不全の治療におけるもう1つの主要な薬剤です。この種の薬剤は心臓への負担を増やすノルアドレナリンというホルモンの作用を阻害し、心機能を長期にわたって改善し、余命を延ばす効果があることから、収縮性心不全の治療に不可欠となっています。ベータ遮断薬は最初に心臓の収縮力を低下させるため、通常は他の薬で心不全を安定させた後に投与します。

    ジゴキシン

    ジゴキシンは、最も古くから使用されている心不全の治療薬の1つで、心拍出力を強め、速すぎる心拍を遅くします。ジゴキシンは、収縮性心不全の患者の症状を和らげますが、これまで見てきた他の心不全治療薬と異なり、余命を延ばす効果はありません。

    利尿薬

    塩分制限だけでは水分貯留が軽減しない場合、しばしば利尿薬が処方されます。この種の薬は、作られる尿の量を増やすことで腎臓からの塩分と水分の除去を助け、体全体の水分を減少させます。

    フロセミドやトラセミド、ブメタニドなどのループ利尿薬は、心不全に対して最もよく使用される利尿薬です。これらの利尿薬は通常、長期にわたって服用されますが、緊急時には静脈内投与すると非常に効果的です。ループ利尿薬は中等度から重度の心不全に適しています。

    より効果が穏やかで、血圧を下げる作用もあるサイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロチアジドなど)は、心不全に加えて高血圧がみられる人などに処方されます。

    ループ利尿薬とサイアザイド系利尿薬には、尿中にカリウムを排出させる作用があり、低カリウム血症を引き起こすことがあります。そのため、カリウムの濃度を上昇させる利尿薬(カリウム保持性利尿薬)や、カリウムのサプリメントと併用することがあります。心不全のすべての人にとって、スピロノラクトンは望ましいカリウム保持性利尿薬であり、腎機能がひどく低下しない限り使用できます。この薬は心不全患者の延命に役立ちます。

    利尿薬の服用は尿失禁を悪化させる可能性がありますが、通常は、トイレが利用できないときやトイレへのアクセスが不便なときに失禁のリスクが生じることがないように、利尿薬を使用するタイミングを調整することが可能です。

    洞結節阻害薬

    洞結節は、心拍を起こす刺激を発し、心拍数を決める心臓の部位です。イバブラジンは、洞結節のペースを遅らせる作用をもった初めての薬剤です。心臓の働きを遅らせると、心臓の負担が減り、特定の心不全患者の入院頻度を減らせる可能性があります。

    ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬

    ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬は、糖尿病の治療に使用されます。血液中に含まれる糖(グルコース)の値を下げるだけでなく、心筋や血管にも有益な作用があります。このクラスの薬剤の1つであるダパグリフロジンは、収縮性心不全の患者で心不全症状を軽減し、生活の質を改善することが示されました。このクラスの別の薬剤であるエンパグリフロジンは、拡張性心不全による入院を減少させることが示されました。

    血管拡張薬

    血管拡張薬(血管を拡張させる薬)は、心臓が血液を送り出しやすくする作用があります。ヒドララジン、硝酸イソソルビド、ニトログリセリンのパッチ剤やスプレー剤などの血管拡張薬は、ACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬と比べると効果が低いため、あまり使用されません。ただし、ACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬が効かない人や使えない人では、血管拡張薬で効果が得られる場合もあります。症状が進行した一部の人では、これらの薬をACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬と併用することで、生活の質や余命が改善することがあります。

    その他の心不全治療薬

    ときに上記以外の薬剤が役立つこともあります。

    不整脈に対しては抗不整脈薬(表「不整脈の治療に用いられる主な薬剤」を参照)が投与されることがあります。

    ジゴキシン以外にも心臓の拍出力を増加させる薬が試されてきましたが、これまでに有用性が実証されたものはなく、一部では死亡のリスクが上昇しました。

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