吸収不良の概要

執筆者:Atenodoro R. Ruiz, Jr., MD, The Medical City, Pasig City, Philippines
レビュー/改訂 2021年 2月
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やさしくわかる病気事典

吸収不良症候群とは、食べたものに含まれる栄養素が様々な理由により小腸で適切に吸収されない状態のことをいいます。

  • ある種の病気、感染症、手術でも吸収不良が起こることがあります。

  • 吸収不良によって、下痢、体重減少、極度の悪臭がする大量の便がみられます。

  • 診断は、典型的な症状と、便検査の結果、ときに小腸粘膜の生検結果に基づいて下されます。

  • 治療法は原因によって異なります。

吸収不良の原因

正常であれば、食べたものは消化され、主に小腸で栄養素(タンパク質、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラル)が血流に吸収されます。

以下の病気で吸収不良になることがあります。

  • 食べたものの消化を妨げる病気

  • 栄養素の吸収を妨げる病気

消化の問題

食べものの消化は以下の要因によって影響を受けます。

  • 食べたものが消化酵素や胃酸と十分に混じり合うのを妨げる病気

  • 消化酵素の生産不足

  • 胆汁の生産量の減少

  • 胃酸の過剰な分泌

  • 小腸での望ましくない細菌の増殖

混合が不十分になる状態は、手術で胃を部分切除した人に起こることがあります。

ある種の病気では、食べたものを分解するのに必要な消化酵素の量や種類を体が十分に生産できません。例えば、吸収不良の一般的な原因は、一部の膵臓の病気により、膵臓で分泌される消化酵素の量が不足する場合や、ラクターゼ欠乏症により、小腸で分泌される消化酵素の量が不足する場合です。

胆汁の分泌量の低下、胃酸の過剰、小腸内での常在菌以外の細菌の過剰増殖(小腸内細菌異常増殖症を参照)でも消化が妨げられることがあります。

吸収の問題

血流中への栄養素の吸収は以下の要因によって影響を受けます。

  • 小腸の粘膜を傷つける病気

  • 手術による小腸の大部分の切除

  • 腸からのリンパ液の流れに影響を及ぼす病気

正常な小腸粘膜は、絨毛(じゅうもう)と呼ばれる小さな突起と微絨毛と呼ばれるさらに小さな突起で構成されており、そのような突起は栄養素の吸収のために巨大な表面積をつくり出しています。細菌、ウイルス、寄生虫による感染症セリアック病クローン病などの病気では、いずれも腸の粘膜が傷つけられることがあります。

小腸の大部分を手術で切除すると、吸収を行う表面積が大きく減少します(短腸症候群を参照)。

腸のリンパ管の奇形(腸リンパ管拡張症を参照)、リンパ腫(リンパ系のがん)によるリンパ管の閉鎖、または一部の心臓の病気によるリンパ液の血流への流入障害など、腸から血流へのリンパ液の流れ(脂肪が血流に入るために必須の経路)に影響を与える病気も吸収を低下させます。

吸収不良の症状

吸収不良の症状は、吸収されない栄養素が消化管を通過する量が増加することや、吸収が不十分であるために生じる栄養欠乏が原因となって発生します。

吸収不良で最もよくみられる症状は以下のものです。

  • 慢性下痢

消化管で脂肪が十分に吸収されないと、便に過剰な脂肪が含まれるようになり、さらに便は色が薄く、柔らかく、量が多く、脂っぽくなり、異常な悪臭を放ちます(このような便は脂肪便と呼ばれます)。この脂肪便は便器の中で浮いたり、便器の壁に付着し、流そうとしても流れにくいことがあります。ある種の糖類の吸収が不十分だと、激しい下痢や腹部膨満、鼓腸が起こります。

吸収不良はすべての栄養素の欠乏症、またはタンパク質、脂肪、糖類、ビタミン、ミネラルの選択的な欠乏症を引き起こします。吸収不良になると、食物を十分に摂取していても、通常は体重が減少したり、体重の維持が困難になったりします。女性では生理が止まることがあります。症状は、具体的に何が欠乏しているかによって異なります。例えば、タンパク質が欠乏すると、全身のいたるところでみられるむくみや水分の貯留(浮腫)、皮膚の乾燥、脱毛が起こることがあります。貧血(ビタミン欠乏症または鉄欠乏症により発生)によって、疲労や筋力低下が生じることがあります。

吸収不良の診断

  • 医師による病歴と症状の評価

  • 診断を確定するための検査(血液検査や便検査など)

  • 原因を診断するための検査(生検や画像検査など)

慢性の下痢、体重減少、貧血と、栄養の欠乏を示すその他の徴候がみられれば、吸収不良が疑われます。高齢者の吸収不良は、小児ほどはっきりせず、しばしば発見が難しくなります。

以下の臨床検査が診断の確定に役立ちます。

  • 便中の脂肪を測定する検査

  • 便の肉眼での検査

  • 血液検査

便検査では、3日間にわたって採取した便に含まれる脂肪の量を直接測定し、これは脂肪の吸収不良を診断する上で最も確実で、吸収不良を引き起こす病気のほぼすべてで脂肪の吸収不良がみられます。1日の便中に7グラムを超える脂肪が含まれているのが、吸収不良の特徴です。ほかにも便中の脂肪量を測定する検査法として、3日間の便採取を必要としないものもいくつかあります。

便のサンプルは顕微鏡で調べるだけでなく、肉眼でも観察します。未消化の食物の断片がみられる場合は、食べたものが小腸を通過するスピードが速すぎることを意味している可能性があります。黄疸がある人で、便に過剰な脂肪が含まれている場合は、胆汁の生産や分泌が低下していることを示しています。ときには顕微鏡による観察で寄生虫やその卵が見つかり、寄生虫感染症による吸収不良が疑われることもあります。

血液検査や他の検査が、乳糖やビタミンB12など特定の物質の吸収不良を発見するために行われることがあります。

吸収不良を引き起こす病気があることが確認されたら、原因を診断するために以下の検査が行われます。

  • 生検

  • 画像検査

  • 膵機能検査

生検は、小腸の粘膜の異常を発見するために必要になることがあります。その場合は、内視鏡(ライトとカメラを搭載した観察用の柔軟な管状の機器で先端まで小さなハサミが挿入できる)を口から小腸まで挿入して、組織を採取します。

ビデオカプセル内視鏡検査CT検査バリウムX線検査などの画像検査が行われることがあります。

膵機能検査は、膵臓の消化酵素の分泌が不十分なために吸収不良が起きていると考えられる場合に行われます。しかし、このような検査の中には、複雑で時間がかかり、体に負担をかけるものがあります。ある検査法では、口から小腸までチューブを挿入し、膵臓の酵素が含まれている腸液を採取して酵素量を測定します。別の検査法では、消化に膵臓の酵素を必要とする物質を飲んでもらいます。その後、消化による産物が尿に含まれる量を測定します。最近では、便中に含まれる特定の膵臓の酵素の量をより簡単かつ容易に測定する検査が行われています。

その他の診断検査(消化管内細菌の培養、特定の血液検査、呼気試験)も行われることがあります。

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