薬の吸収とは、投与後に薬が血液中に移動することです。
(薬の投与と薬物動態に関する序も参照のこと。)
吸収は、どれほど速くどれだけの量の薬が、対象とする標的部位に届くかを意味する生物学的利用能(バイオアベイラビリティ)に影響します。吸収(そしてその結果としての生物学的利用能)に影響する要因としては、以下のものがあります。
薬を設計し製造する方法
薬の物理的および化学的な性質
薬に含まれるその他の成分
薬を服用する人の生理的特性
薬の保管方法
製剤とは、錠剤、カプセル、坐薬、経皮的パッチ剤、溶液など、薬の実際の剤形のことです。製剤は薬(有効成分)と添加物(不活性成分)から成ります。有効成分は、望ましい作用(血圧を低下させるなど)を発揮させるために必要とされる化学物質(薬)です。添加物(希釈剤、安定剤、崩壊剤、滑沢剤などの不活性成分)と混ぜ合わせて飲み込みやすくしたり、消化管で薬が崩壊するのを助けたりします。例えば、錠剤を作るためには、有効成分と不活性成分の混合物を小さな粒子にして圧縮し錠剤の形にします。添加物の種類や量、圧縮の程度によって、錠剤の崩壊速度や薬の吸収速度が変わります。製薬会社はこうした様々な変数を調整して吸収を最適化します。
同じ有効成分を含む製剤でも、不活性成分が異なることがあるため、製品によって薬の吸収性に差が生じることがあります。したがって薬の効果は、たとえ同じ投与量でも、製剤によって異なる可能性があります。同じ有効成分を含むだけでなく、同じ時点でほぼ同じ血中濃度となる製剤は、生物学的に同等性があるとみなされます(ジェネリック医薬品の生物学的同等性と互換性を参照)。生物学的同等性があれば、治療的同等性も保証されることになり(つまり同じ治療効果を発揮する)、生物学的に同等な製剤は互換性があるものとして扱われます。
錠剤
錠剤からの薬物放出が速すぎると、薬の血中濃度が高くなりすぎて過剰反応を引き起こすことがあります。また薬物放出が遅すぎると、薬の大半は吸収されずに便として排泄され、血中濃度が低くなりすぎてしまいます。製薬会社では薬が望ましい速度で放出されるように錠剤を作製しています。
カプセル
カプセルとは薬と添加物をゼラチンシェルで包んだものです。このシェルは濡れると膨張して中身を放出します。通常これは直ちに起こります。薬の粒子の大きさと添加物の性質は、薬の溶解速度や吸収速度に影響します。固体の粒子を詰めたカプセルよりも、液体を詰めたカプセルの方が、薬が速く吸収される傾向があります。
腸溶コーティング
経口で投与する薬が胃の内壁を傷つけたり胃の酸性環境で分解されたりする場合には、小腸に届くまで溶けない物質の膜でその薬の錠剤やカプセルを覆うことがあります。このような保護被膜を、腸溶コーティングといいます。このコーティングが溶けるには、酸性度の低い小腸内の環境に到達するか、小腸の消化酵素に触れる必要があります。ただし、このコーティングは意図通り常に溶けるとは限りません。特に高齢者では、錠剤やカプセルがそのまま通過して便の中に排泄される可能性があります。
放出制御製剤
製剤の中には、有効成分をゆっくりと、あるいは長時間(通常12時間以上)で少量ずつ繰り返し放出するように、特別に設計されるものがあります。このような剤形は、放出調節製剤、放出制御製剤、持続放出製剤、または徐放製剤と呼ばれます。
生物学的利用能を低下させる要因
いくつかの要因が経口投与される薬の吸収および生物学的利用能に影響することがあります。生理的特性には以下のものがあります。
胃が空になるのにどれくらいかかるか
胃の酸性度(pH)はどれぐらいか
薬がどれほど速く消化管を通過するか
その他の要因には、患者の年齢、性別、身体活動の程度、ストレスの程度などがあります。
食べものや他の薬、消化器疾患が薬の吸収や生物学的利用能に影響することがあります。例えば、繊維分を多く含む食べものやカルシウムサプリメントが薬と結合し、その吸収を妨げることがあります。下剤を使ったり、下痢が起こったりすると、消化管内を物質が通過する速度が上がり、薬の吸収が低下することもあります。胃や結腸など消化管の一部を手術で切除した場合も、薬の吸収に影響を与えることがあります。
製剤の保管場所や保管期間が、薬の生物学的利用能に影響を与えることがあります。保管方法が不適切だったり保管期間が長すぎたりすると、製剤によっては成分が変性して効果を失ったり、有害物質に変わったりします。製剤の中には冷蔵庫の中や冷所、湿気の少ない場所、あるいは暗所で保管しなければならないものがあります。指示に従った保管と使用期限を常に厳格に守る(遵守する)必要があります。