甲状腺機能亢進症は,甲状腺ホルモンの過剰産生である。診断は甲状腺機能の検査(例,血清遊離サイロキシン,甲状腺刺激ホルモン)による。治療は,チアマゾール,およびときに放射性ヨウ素や手術による。
(甲状腺機能の概要も参照のこと。)
病因
乳児では甲状腺機能亢進症はまれであるが,生命を脅かす危険性がある。バセドウ病に罹患している女性またはバセドウ病の既往がある女性の胎児に発生する。バセドウ病の患者では,甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に対する母体由来の自己抗体が,甲状腺TSH受容体に結合することによって甲状腺ホルモン産生を過剰に刺激する。これらの抗体は,胎盤を通過して胎児の甲状腺の機能亢進をもたらし(子宮内バセドウ病),胎児の過活動または頻脈による胎児死亡や早産を引き起こすことがある。出生後乳児は抗体を排除するため,新生児バセドウ病は通常は一過性である。しかしながら,排除速度には幅があるため,新生児バセドウ病の持続時間も一定ではない。
小児および青年では,バセドウ病が甲状腺機能亢進症の原因の90%以上を占める。バセドウ病の発生率は思春期に上昇し,症例の80%は11歳以降に発生する。主な機序は,TSH受容体を刺激する抗体によるものである。TSH受容体を遮断する抗体もみられ,この刺激と遮断のバランスがバセドウ病の重症度を決定する。バセドウ病の小児の多くは,自己免疫性甲状腺疾患または他の自己免疫疾患の家族歴を有する。21トリソミーの小児は,バセドウ病の発生リスクが高い。
小児および青年の甲状腺機能亢進症の比較的まれな原因としては,自律機能性の中毒性結節,最終的には甲状腺機能低下となる橋本病の初期段階での一過性甲状腺機能低下症(ハシトキシコーシス),薬物有害作用(例,アミオダロン誘発性甲状腺機能亢進症)などがある。ときに,一過性甲状腺機能亢進症は,細菌感染症(急性甲状腺炎)およびウイルス感染症(亜急性甲状腺炎)などの感染症によって起こりうる;細菌性の原因としては,黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus),表皮ブドウ球菌(S. epidermis),化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes),肺炎球菌(S. pneumoniae),大腸菌(Escherichia coli),Clostridium septicumなどがある。小児で急性甲状腺炎になりやすい素因としては,先天異常(例,持続的梨状窩瘻)および易感染状態などがある。
症状と徴候
胎児では,甲状腺機能亢進症はまれである。甲状腺機能亢進症がある場合,その徴候(例,子宮内発育不良,胎児頻脈[160/分を超える],甲状腺腫)は第2トリメスターという早い段階で認められることがある。胎児の甲状腺機能亢進症は切迫早産の原因となることがある。胎児に甲状腺中毒症が認められた場合,母親は抗甲状腺薬で治療できる。胎児の甲状腺機能亢進症が新生児期まで発見されなかった場合,患児は重症となる可能性があり,頭蓋縫合早期癒合症,知的障害,発育不全,および低身長などを示す。死亡率は10~15%に達することもある。
乳児の甲状腺機能亢進症の症状および徴候としては,易刺激性,哺乳困難,高血圧,頻脈,眼球突出,甲状腺腫( see page 先天性甲状腺腫),前頭部突出,小頭症などがある。その他の早期所見は発育不良,嘔吐,下痢である。罹患した乳児はほぼ常に6カ月以内に回復する;経過がそれ以上長引くことはまれである。発症および症状の重症度は,母親が抗甲状腺薬を服用しているかによっても異なる。母親が薬剤を服用してない場合,乳児は出生時甲状腺機能亢進症を呈する;薬剤を服用している場合は,生後約3~7日目に薬剤が代謝されるまで児は甲状腺機能亢進症とはならない。バセドウ病の母親から生まれた小児の95%以上が生後1カ月以内に症状を呈する;ただし,まれに発症が2カ月目にずれこむこともある。
小児および青年では,後天性のバセドウ病の症状として,睡眠障害,多動,情緒不安定,顕著な注意低下および成績低下,耐暑性低下(heat intolerance),発汗,疲労,体重減少,排便数増加,振戦,動悸などがみられる。徴候としては,びまん性甲状腺腫,頻脈,高血圧などがある。バセドウ眼症は最大3分の1の患児に発生する。眼所見は成人ほど顕著ではないが,眼瞼遅滞(eyelid lag),または眼が赤いあるいは目立つことがあり,ときに眼球突出を伴う。小児および青年では,成長の加速や骨年齢の上昇など成長の変化がみられることがある。思春期の発来および経過は,一部の女児にみられる希発月経または無月経を除いて,通常は甲状腺機能亢進症の影響を受けない。
急性甲状腺炎はいかなる年齢でも起こる可能性があり,甲状腺機能亢進症の症状,甲状腺の圧痛,および発熱が突然発現する。急性甲状腺炎患者の約10%は甲状腺機能亢進症を有する。多くは左方移動を伴う白血球増多を有する。亜急性甲状腺炎ではこのような症状がみられるが重症度は下がり,ウイルス性疾患が先行している場合がある;発熱は数週間続くこともある。
甲状腺クリーゼは,甲状腺機能亢進症の小児でまれにみられる重度合併症であり,極度の頻脈,高体温,高血圧,うっ血性心不全,およびせん妄が現れ,昏睡および死亡に至ることがある。
診断
甲状腺機能検査
ときに甲状腺の超音波検査および核医学検査
乳児では,母親に活動性のバセドウ病またはバセドウ病の既往があり母親の抗TSH受容体刺激抗体(甲状腺刺激免疫グロブリン[thyroid-stimulating immunoglobulins:TSI]またはTSH受容体抗体[TSH receptor antibodies:TRAb])価が高い場合に甲状腺機能亢進症を疑う。
乳児における甲状腺機能亢進症は,血清遊離サイロキシン(T4),トリヨードサイロニン(T3),およびTSHを測定することによって確定される。TSIは刺激抗体のみを測定する機能的アッセイであり,この抗体は典型的にはバセドウ病の確定で最初に測定される。TRAbは,TSH受容体に対する刺激抗体と遮断抗体の両方を測定する競合アッセイであるが,2種類の抗体を区別できない。TRAbは,甲状腺中毒症の症状と徴候を有するがTSI陰性の患者で測定されることがある。バセドウ病の母親から生まれた新生児は甲状腺機能亢進症のリスクがあるが,甲状腺機能亢進症の症状は非特異的な場合があるため,生後3~5日および生後10~14日の時点で遊離T4およびTSH値を測定して新生児のモニタリングを行うべきである。血液生化学検査で異常が認められない場合,生後2~3カ月までは症状をフォローし,発症が遅い少数の乳児を特定すべきである(1,2)。
より年長の小児および青年における診断は,成人の場合と同様であり,甲状腺機能検査(甲状腺機能亢進症の診断を参照)およびTSIの測定も含まれる。甲状腺中毒症の症状および徴候を有する患者でTSIが陽性であれば,バセドウ病の診断が確定する。甲状腺機能低下症の評価とは対照的に,T3の評価が不可欠であるが,これはバセドウ病の初期にはT4の上昇前にT3が上昇することがあるためである。自己免疫性甲状腺炎で起こりうる甲状腺機能亢進期(ハシトキシコーシス)の評価には,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体や抗サイログロブリン抗体など,他の抗甲状腺抗体の測定が役立つ可能性がある。一般的なOTC医薬品であるビオチンは,甲状腺検査の妨げとなる可能性があるため,臨床検査を行う前の少なくとも2日間は摂取を中止すべきである。最も多いのは,ビオチンがT4およびT3の見かけ上の高値とTSHの見かけ上の低値をもたらすことであり,甲状腺機能亢進症の不適切な診断につながる可能性がある。
比較的年長の甲状腺機能亢進症の患児に,甲状腺非対称,TSI陰性,または触知可能な甲状腺結節があれば,甲状腺超音波検査が行われることが多い。超音波検査またはCTは,膿瘍の位置確認や先天異常の同定にも役立つ。TSI値が上昇していない場合は,自律性機能性甲状腺結節または甲状腺分化癌を除外するために,核医学検査(過テクネチウム酸ナトリウム[99mTc]またはヨウ素123のいずれか)も行うことができる。核医学検査を行うと,バセドウ病では甲状腺全体にびまん性の集積がみられるが,自律性結節のある部位では集積が亢進し,その他の部位では集積が低下または欠如する。
甲状腺結節が認められた場合は,穿刺吸引細胞診(fine-needle aspiration:FNA)を検討すべきである。FNAは,急性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎の鑑別にも役立ち,またこの検査で採取した組織検体で細菌の感受性検査を行えば,適切な抗菌薬の選択に役立てることができる。
診断に関する参考文献
1.van der Kaay DC, Wasserman JD, Palmert MR: Management of neonates born to mothers with Graves’ disease.Pediatrics 137(4):e20151878, 2016.doi: 10.1542/peds.2015-1878
2.Samuels SL, Namoc SM, Bauer AJ: Neonatal thyrotoxicosis.Clin Perinatol 45(1):31–40, 2018.doi: 10.1016/j.clp.2017.10.001
治療
抗甲状腺薬
ときに放射性ヨウ素または手術
乳児には抗甲状腺薬を投与するが,典型的にはチアマゾール0.17~0.33mg/kgの1日3回経口投与を,ときにβ遮断薬(例,プロプラノロール0.8mg/kgの1日3回経口投与,アテノロール0.5~1.2mg/kgの1日1~2回経口投与)と併用し症状を治療する。別の抗甲状腺薬であるプロピルチオウラシルは,ときに重度の肝不全を引き起こすことがわかっており,もはや第1選択薬ではないが,甲状腺クリーゼなどの特別な状況で使用されることもある。ルゴール液(ヨウ化カリウム)1滴(0.05mL),経口,1日3回を加えることができ,その初回投与はチアマゾールの初回投与から1時間後に行われ,特にチアマゾールおよびβ遮断薬による治療に抵抗性を示す症例でよく使用される。ヒドロコルチゾン0.8~3.3mg/kg,経口,1日3回,またはプレドニゾロン1mg/kg,経口,1日2回もしくは2mg/kg,1日1回を検討してもよい(特に重症[critically ill]の乳児)。甲状腺機能亢進症の治療は綿密にモニタリングしなければならず,疾患が治癒したら速やかに中止しなければならない。抗甲状腺薬の投与を受けている乳児では,医原性甲状腺機能低下症を回避するための注意が必要である。(妊娠中のバセドウ病の治療については, see page バセドウ病。)
11歳以上の小児および青年(11歳以上)の治療は,成人の甲状腺機能亢進症の治療と同様であり,抗甲状腺薬を投与するほか,ときに根治療法として放射性ヨウ素を用いた甲状腺アブレーションまたは手術による甲状腺除去を行うことがある。高血圧および頻脈のコントロールにアテノロールやプロプラノロールなどのβ遮断薬が用いられることがある。チアマゾールの重篤な有害作用として無顆粒球症などがあり,チアマゾールを服用している患者が発熱性疾患を発症した場合は,血算と白血球分画を行うべきである。これは通常,チアマゾールによる治療の初期や,高用量を投与したときに起こり,もし検出されれば,抗甲状腺薬の継続は禁忌となる。
抗甲状腺薬で治療中の小児には,甲状腺機能検査による定期的なモニタリングを行うべきであり,典型的には安定したレジメンが得られるまで4~6週間毎に,その後は3~4カ月毎に行う。低用量のチアマゾールのみで患者が甲状腺機能を正常に維持できる場合および/またはTSIが陰性の場合,抗甲状腺薬を中止することがある。抗甲状腺薬を中止する場合は,甲状腺機能検査を定期的に繰り返すべきである(4~6週間後に1回,その後1年間にわたり3~4カ月毎)。抗甲状腺薬による治療を受ける小児は35%の確率で寛解する(抗甲状腺薬中止後12カ月以上再発がないことと定義される)が,これは成人の確率(50%)より低い。
18~24カ月の抗甲状腺薬療法により寛解しなかった患児,薬物有害作用がみられた患児,または遵守が達成されなかった患児には根治療法が必要である。寛解の可能性が低くなる特徴には,発症時年齢の低さ(例,思春期に比べ思春期前),初診時の甲状腺ホルモン値の高さ,甲状腺の大きさ(年齢相応の正常値より2.5倍),およびTSH受容体抗体価上昇の持続などがある。放射性ヨウ素および手術は,いずれも甲状腺機能低下の誘導を目標とする根治療法の確実な選択肢である。しかし,放射性ヨウ素は通常,10歳未満の小児には用いられず,甲状腺が大きい場合は効果的ではないことが多い。したがって,このような因子のある小児および青年には手術が望ましい。根治療法に続いて,レボチロキシン投与を開始する。体重増加または思春期発来の状況に基づいて用量の調節が必要になることがある。
自律機能性の中毒性結節が発見された場合,外科的切除が小児および青年で推奨される。
急性甲状腺炎の治療には,抗菌薬(一般的にはアモキシシリン/クラブラン酸またはペニシリンアレルギー例にはセファロスポリン系薬剤)の経口または静脈内投与があるが,理想的には穿刺吸引で得られた検体の抗菌薬感受性に基づいて薬剤を選択すべきである。外科的治療が必要になることがある(例,膿瘍の排液または瘻孔の修復)。亜急性甲状腺炎は自然治癒し,非ステロイド系抗炎症薬が疼痛コントロールのため投与される。抗甲状腺薬は適応とならないが,症状がある場合にはβ遮断薬を使用できる。
要点
乳児の甲状腺機能亢進症は,バセドウ病の妊婦から胎盤を介して移行する甲状腺刺激抗体により起こる。
より年長の小児および青年の甲状腺機能亢進症は,通常バセドウ病により引き起こされる。
甲状腺機能亢進症には,頻脈,高血圧,体重減少,易刺激性,集中力および成績の低下,睡眠障害など多数の臨床像がある。
診断は,血清遊離サイロキシン(T4),トリヨードサイロニン(T3),および甲状腺刺激ホルモン(TSH)による;甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)はバセドウ病の診断確定に利用できる。
甲状腺に著明で触知可能な異常がある場合,超音波検査を行う。
チアマゾールにより治療し,症状はβ遮断薬により治療する;新生児期外の後天性の症例のうち抗甲状腺薬で寛解するのは約35%のみであり,放射性ヨウ素または手術を用いた根治療法が必要となりうる。