人工呼吸器関連肺炎

執筆者:Sanjay Sethi, MD, University at Buffalo, Jacobs School of Medicine and Biomedical Sciences
レビュー/改訂 2022年 9月
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人工呼吸器関連肺炎(VAP)は,気管挿管から48時間以上経過した後に発生する。最も頻度の高い病原体は,グラム陰性桿菌および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)であり,抗菌薬耐性菌が重要な懸念事項である。人工換気下の患者において,肺炎は通常,発熱,白血球数の増加,酸素化能の低下,気管分泌物(膿性の場合がある)の増加として現れる。診断は,臨床像と胸部X線所見から疑われ,血液培養で気道分泌物から検出されたものと同じ病原体が同定されるか,または気管支鏡で下気道から採取した検体の定量的なグラム染色および培養により確定されることがある。治療は抗菌薬による。全体的な予後は不良であり,一部は併存症によるものである。

肺炎の概要も参照のこと。)

人工呼吸器関連肺炎は,気管挿管から48時間以上経過した後に発生する肺炎である。これは,院内肺炎のサブセットであり,院内肺炎には機械的人工換気を受けていない入院患者における肺炎が含まれる。VAPは他の形態の院内肺炎と比べ,耐性の強い病原体がしばしば関与しており,転帰が不良である。

人工呼吸器関連肺炎の病因

人工呼吸器関連肺炎の最も一般的な原因は,重篤な病状の患者における中咽頭および上気道に定着している細菌の微小吸引である。

危険因子

気管挿管は人工呼吸器関連肺炎の主な危険因子である。気管挿管によって,気道防御機構が侵害され,咳嗽および粘膜線毛クリアランスが障害され,気管内チューブの拡張させたカフ上に貯留する細菌を含んだ分泌物の微小吸引が起こりやすくなる。加えて,細菌が気管内チューブの表面および内部にバイオフィルムを形成し,これにより抗菌薬や宿主防御から細菌が保護される。VAPのリスクは挿管後最初の10日間が最も高い。人工呼吸器関連肺炎は,機械的人工換気下の患者の9~27%に発生する。

病原体

病原体および抗菌薬耐性のパターンは,施設によって著しく異なり,また施設内においても短期間で(例,月毎に)変化しうる。地域のアンチバイオグラムを施設レベルで定期的に更新することは,適切な経験的抗菌薬療法の決定に不可欠である。一般的に最も重要な病原体は以下のものである:

  • 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa

  • メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus

  • メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S. aureus)(MRSA)

その他の重要な病原体には,グラム陰性腸内細菌(主に,Enterobacter属,肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae),大腸菌(Escherichia coli),Serratia marcescensProteus属,およびAcinetobacter属)などがある。

肺炎が入院後4~7日以内に発現した場合は,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(S. aureus),肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae),およびインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)が最も高頻度に関与する一方,挿管または入院の期間が長くなるにつれて,緑膿菌(P. aeruginosa),MRSA,およびグラム陰性腸内菌の頻度が高くなる。

VAPにおいて,先行する静注抗菌薬療法(過去90日以内)は,抗菌薬耐性菌,特にMRSAおよびPseudomonas感染の可能性を著しく増大させる(1)。耐性菌による感染は,死亡率および罹病率を著しく高める。VAPに特異的な抗菌薬耐性菌へのその他の危険因子としては以下のものがある:

  • VAPに伴う敗血症性ショック

  • VAPに先行する急性呼吸窮迫症候群(ARDS)

  • VAP発生前に5日間以上入院している

  • VAPの発症に先行する急性の腎代替療法

コルチコステロイドの大量投与は,LegionellaおよびPseudomonasによる感染のリスクを増大させる。嚢胞性線維症気管支拡張症などの慢性化膿性肺疾患は,抗菌薬耐性株を含むグラム陰性病原体のリスクを高める。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Kalil AC, Metersky ML, Klompas M, et al: Management of adults with hospital-acquired and ventilator-associated pneumonia: 2016 clinical practice guidelines by the Infectious Diseases Society of America and the American Thoracic Society.Clin Infect Dis 63(5):e61–111, 2016.

人工呼吸器関連肺炎の症状と徴候

機械的人工換気下の重症(critically ill)の患者における肺炎では,発熱および呼吸数もしくは心拍数の増加または呼吸パラメータの変化(膿性分泌物の増加や低酸素血症の悪化など)が典型的にみられる。

人工呼吸器関連肺炎の診断

  • 胸部X線および臨床基準(精度は限られている)

  • ときに気管支鏡検査,血液培養

診断は不完全である。実際には,新たな症候(例,発熱,分泌物の増加,低酸素血症の悪化)または白血球増多の評価のために撮影した胸部X線において,新たな浸潤影が出現していることを根拠として人工呼吸器関連肺炎が疑われる場合が多い。しかしながら,症状,徴候,X線所見のいずれも診断において感度および特異度が高くはなく,全てが,無気肺,肺塞栓症,または肺水腫によって引き起こされる可能性があり,また,急性呼吸窮迫症候群の臨床所見の一部であることもある。

気管から吸引した検体のグラム染色および半定量培養は,感染症を確実に同定できるわけではないが,VAPの治療の指針を立てる上で推奨される。定量培養のための気管支鏡による下気道分泌物採取では,定着と感染を鑑別できるより信頼性の高い検体が得られる。気管支鏡による検体から得られた情報により抗菌薬の使用が抑えられ,広域からより狭域スペクトルへ抗菌薬を切り替える際にもこの情報は役に立つ。しかしながら,この検査により転帰が改善することは示されていない。

気管支肺胞洗浄液または血清中の炎症メディエーターの測定は,抗菌薬の開始を決定する上で信頼に足る基準であることは証明されていない。肺炎および原因微生物の両方を確実に同定する唯一の所見は,胸水(胸水のある患者において胸腔穿刺により得られたもの)の培養で呼吸器系の病原体が陽性であることである。

血液培養も,呼吸器系の病原体が同定された場合は比較的特異度が高いが,感度は低い。

人工呼吸器関連肺炎の予後

効果的な抗菌薬が利用可能であるにもかかわらず,人工呼吸器関連肺炎における死亡率は高い。しかしながら,死亡の全てが肺炎自体に起因するわけではなく,死亡の多くは患者の基礎疾患に関連する。初期の抗菌薬療法が適切であれば,明らかに予後は改善する。抗菌薬耐性菌による感染は予後を悪化させる。

人工呼吸器関連肺炎の治療

  • 経験的に選択され,耐性微生物に対して有効な抗菌薬の投与

人工呼吸器関連肺炎が疑われる場合,治療は以下の点に基づき経験的に選択された抗菌薬により行う:

  • 地域の感受性パターン

  • 患者の抗菌薬耐性菌に対する危険因子

Infectious Diseases Society of America and the American Thoracic Societyの2007年のガイドラインでは,抗菌薬耐性病原体への感染リスクのある集団を定義する際,非常に広範な基準が用いられたが,その結果,VAP患者の大多数がMRSAおよび耐性緑膿菌(Pseudomonas)に対する広域抗菌薬を必要とすることになった。現行の2016年の推奨(1)では,可能であれば経験的に投与する抗菌薬のスペクトルを狭めるよう強調されている。抗菌薬耐性微生物の危険因子および死亡率を高める危険因子(肺炎に対する機械的人工換気または敗血症性ショック)のないVAPに対する経験的治療において,MRSAの出現率が(黄色ブドウ球菌[S. aureus]分離株の内)10~20%未満かつ一般的に使用される経験的な抗シュードモナス抗菌薬に対する緑膿菌(P. aeruginosa)の耐性率が10%未満の施設では,以下の内いずれかを使用できる。

  • ピペラシリン/タゾバクタム

  • セフェピム

  • レボフロキサシン

  • イミペネム

  • メロペネム

用量は腎機能によって異なる(よく処方される抗菌薬の常用量の表を参照)。

MRSAの出現率が10~20%を超える環境では,バンコマイシンまたはリネゾリドを追加すべきである。死亡リスクの高い患者もしくは抗菌薬耐性微生物の危険因子をもつ患者,または信頼できる地域のアンチバイオグラムがない場合は,Pseudomonasに有効な2剤およびMRSAに有効な1剤を組み合わせた3剤併用療法などが推奨される:

  • 抗シュードモナスセファロスポリン系(セフェピムまたはセフタジジム)または抗シュードモナスカルバペネム系(イミペネム,メロペネム)またはβ-ラクタム系/β-ラクタマーゼ阻害薬(ピペラシリン/タゾバクタム)

  • 抗シュードモナスフルオロキノロン系(シプロフロキサシンまたはレボフロキサシン)またはアミノグリコシド系(アミカシン,ゲンタマイシン,トブラマイシン)

  • リネゾリドまたはバンコマイシン

抗菌薬の無差別な使用が抗菌薬耐性発生の主な寄与因子である一方で,初期の経験的抗菌薬療法を適切に行うことが,良好な転帰を決める主要因子でもある。それゆえ,治療はまず広域スペクトルの薬剤で開始した後,臨床反応と培養および抗菌薬感受性試験の結果に基づいて可能な限りスペクトルを狭めたレジメンに変更する。

治療に関する参考文献

  1. 1.Kalil AC, Metersky ML, Klompas M, et al: Management of adults with hospital-acquired and ventilator-associated pneumonia: 2016 clinical practice guidelines by the Infectious Diseases Society of America and the American Thoracic Society.Clin Infect Dis 63(5):e61–111, 2016.

人工呼吸器関連肺炎の予防

人工呼吸器関連肺炎の予防に役立つ対策がいくつかある。半座位または座位は臥位に比べて誤嚥および肺炎のリスクが減少し,最も簡単かつ効果的な予防法である。持続陽圧呼吸療法(CPAP)または二相性陽圧換気(BPAP)を用いた非侵襲的換気は,気管挿管に伴って起こる気道防御機構の侵害を防ぎ,これにより一部の患者において挿管の必要性がなくなるほか,人工呼吸器関連肺炎の発生率低下とも関連している。

専用に設計された気管内チューブを吸引装置に接続し,声門下分泌物を連続的に吸引すると,微小誤嚥のリスクおよびVAPの発生率が減少するが,全体的な臨床転帰は変わらない。銀でコーティングされた気管内チューブは,バイオフィルム形成を減少させ,VAPの発生率を低下させるが,全体的な臨床転帰は変わらない。

中咽頭の選択的除菌(局所ゲンタマイシン,コリスチン,クロルヘキシジン,バンコマイシンクリーム,またはこれらの併用),または消化管全体の選択的除菌(ポリミキシン,アミノグリコシド系またはキノロン系,およびナイスタチンまたはアムホテリシンBのいずれかを用いる)は議論の分かれるところであり,その理由は耐性株に関する懸念,および除菌によりVAP発生リスクは減少するものの,死亡率の減少が示されていないことによる。

サーベイランス培養,および人工呼吸器回路または気管内チューブのルーチンの交換によりVAPが減少することは示されていない。

要点

  • 人工呼吸器関連肺炎(VAP)は,気管挿管から48時間以上経過した後に発生する肺炎である。

  • 可能性のある病原体は市中肺炎の起炎病原体とは異なり,抗菌薬耐性菌に有効な抗菌薬の経験的投与が初期治療で必要となることが多い。

  • 診断は難しく,可能性のある病原体が胸水または血液から培養されることが最も特異的な所見である。

  • 治療開始から2~3日後に患者を再評価し,得られている培養および臨床データに基づいて抗菌薬を変更する。

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