インフルエンザは,発熱,鼻感冒,咳嗽,頭痛,および倦怠感を引き起こすウイルス性呼吸器感染症である。季節的な流行の際には特に高リスク患者(例,施設入所者,低年齢児と高齢者,心肺機能不全患者,または妊娠後期の妊婦)の間で死亡も起こりうる;パンデミックの間は,健康な若年患者でさえ死に至る可能性がある。診断は通常,臨床的に,また地域の疫学的パターンに基づいて行う。インフルエンザワクチンは禁忌のない6カ月以上の全ての人に毎年接種すべきである。抗ウイルス治療は罹病期間をおよそ1日短縮することから,高リスクの患者には特に考慮すべきである。
インフルエンザは,インフルエンザウイルスによって引き起こされる疾患を示すが,この用語は他のウイルス性呼吸器病原体によって引き起こされる類似の疾患にも誤って使用されがちである。インフルエンザウイルスは,その核タンパク質および基質タンパク質によってA型,B型,C型に分類される。C型インフルエンザウイルスの感染については,典型的なインフルエンザ疾患を引き起こさないことから,ここでは考察しない。
インフルエンザ抗原
ヘマグルチニン(H)は,インフルエンザウイルスの表面上に発現している糖タンパク質で,ウイルスはHを介して細胞のシアル酸に結合し,宿主の細胞膜と融合する。別の表面糖タンパク質であるノイラミニダーゼ(NA)は,酵素作用によってシアル酸を取り除き,感染した宿主細胞からのウイルスの放出を促進する。18種のH型と11種のNA型があり,したがって198種の組合せが可能であるが,そのうちヒトの病原体となるのは数種のみである。
抗原連続変異(antigenic drift)とは,既存のHおよびNA抗原の組合せに比較的小さな進行性突然変異が発生する現象であり,その結果として新種のウイルス株が頻出する。それらの新種株に対しては以前の株に対して産生された抗体による保護効果が低下するため,それらの新種株が季節的流行を引き起こすことがある。
抗原不連続変異(antigenic shift)とは,Hおよび/またはNA抗原の新しい組合せが発生する比較的まれな現象であり,これはウイルスゲノムのサブユニットが再集合することに起因する。他の株に対する抗体(予防接種または自然感染によるもの)は,新種株に対しほとんどないし全く保護作用を示さないため,抗原不連続変異はパンデミックを引き起こすことがある。
インフルエンザの疫学
インフルエンザは温帯地域において毎年秋から冬にかけて,広い範囲に散発性症例を引き起こす(季節的流行)。
季節性の流行はA型およびB型インフルエンザウイルスの両者によって引き起こされる。1968年以来,季節性インフルエンザの大部分がH3N2(A型インフルエンザウイルス)によって引き起こされている。B型インフルエンザウイルスは,より軽度な疾患を起こすが,そのシーズンの優勢なウイルスとして,あるいはA型インフルエンザとの共感染により,中等症または重症疾患の流行を引き起こすことがしばしばある。
大半のインフルエンザの流行は,1つの優勢な血清型によって引き起こされるが,1つの地域で異なるインフルエンザウイルスが連続して現れる場合や,同時に,ある地域ではあるウイルスが優勢で,他の地域では別のウイルスが優勢といった現れ方をする場合もある。
米国における季節性インフルエンザの週間サーベイランスレポートが米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)のFluViewに公開されている。
パンデミックの頻度ははるかに低い。重大なインフルエンザパンデミックはこれまで6回発生しており,基本的には推定発生地に因んだ名称が与えられている:
1889年:ロシアインフルエンザ(H2N2)
1900年:旧香港インフルエンザ(H3N8)
1918年:スペインインフルエンザ(H1N1)
1957年:アジアインフルエンザ(H2N2)
1968年:香港インフルエンザ(H3N2)
2009年:豚インフルエンザ(インフルエンザA[H1N1]pdm09型)
2009-2010年,H1N1インフルエンザパンデミックが発生し,そのウイルスは70を超える国々と米国の全50州に拡大した。死亡者の大半はメキシコで発生した。ウイルスは当初,豚インフルエンザウイルスと呼ばれたが,実際にはブタ,トリ,ヒトのインフルエンザウイルスが遺伝学的に混合したものである。この感染は豚肉の摂取により起こるものではなく,極まれではあるが,感染したブタとの接触によって起こる。その後,パンデミックに名称をつけるため,またこのウイルスを季節性H1N1株および1918年のパンデミックH1N1株と区別するため,同ウイルスの名称はインフルエンザA(H1N1)pdm09型に統一された。2009年以降,インフルエンザA(H1N1)pdm09型は季節性インフルエンザとして流行している。
インフルエンザウイルスは以下によって広がる:
空中の飛沫
ヒトとヒトの接触
汚染された物体との接触
空気中の飛沫による拡散が最も重要な機序と考えられる。
高リスク群
インフルエンザの症状と徴候
インフルエンザの潜伏期間は1~4日であるが,平均は約48時間である。軽症例では,感冒に類似する症状が多い(例,咽頭痛,鼻漏);軽度の結膜炎も起こりうる。
成人における典型的なインフルエンザは,突然発症する悪寒,発熱,極度の疲労,咳嗽,ならびに全身の疼痛(特に背部および下肢)を特徴とする。頭痛が顕著で,しばしば羞明および眼球後部の疼きを伴う。呼吸器症状は最初軽度で,ヒリヒリする咽頭痛,胸骨下の胸やけ,乾性咳嗽,およびときに鼻感冒を伴うことがある。その後は下気道疾患が優勢になっていき,咳嗽が続き,かすれてきて痰を伴うようになる。
消化管症状がみられることもあり,2009年のパンデミックH1N1株でこの症状がよくみられるようである。小児では顕著な悪心,嘔吐,または腹痛がみられることがあり,乳児は敗血症様症候群を呈しうる。
2~3日経過すると急性症状は急速に治まるが,発熱は最大5日間程持続することがある。咳嗽,筋力低下,発汗,および疲労が数日間,ときに数週間持続することがある。
合併症
インフルエンザの診断
臨床的評価
ときに迅速抗原検査または従来の逆転写PCR(RT-PCR)検査
重度の呼吸器症状を有する患者に対し,パルスオキシメトリーおよび胸部X線
コミュニティ内でインフルエンザの存在が判明していて,患者に典型的な症候群がみられる場合,インフルエンザの診断は一般に臨床的に行われる。
分子生物学的な迅速診断検査(抗原検出検査)が多数あり,その大半が高い特異度を有するものの,感度のばらつきが大きく,通常は患者の管理にほとんど寄与しない。診断検査は,その結果が臨床判断を左右するときにのみ実施すべきである。
RT-PCR(逆転写PCR)検査は感度および特異度が高く,インフルエンザの型および亜型を識別できる。この検査がすぐに利用できる場合,適切な抗ウイルス療法の選択のため結果が参考にされることがある。入院患者でインフルエンザが疑われる場合にも,通常抗ウイルス治療が必要であるためこの検査を行うべきである。また,こうした検査により抗菌薬の不必要な使用を回避できるほか,特定のインフルエンザウイルスを同定することは感染制御に重要となりうる。また,呼吸器疾患のアウトブレイクがインフルエンザによるものかどうかを判断するのにも,これらの検査が有用である。
鼻咽頭拭い液または鼻腔吸引液の細胞培養には数日かかるため,患者管理に関する決定には有用でない。
患者に下気道症候がある場合(例,呼吸困難,肺の診察時のラ音),低酸素血症を検出するためにパルスオキシメトリー,また肺炎を検出するために胸部X線を実施すべきである。原発性インフルエンザ肺炎は,限局性もしくはびまん性の間質浸潤影または急性呼吸窮迫症候群として現れる。二次性の細菌性肺炎は,肺葉または肺区域に起こる可能性がより高い。
インフルエンザの予後
大部分の患者は完治するが,完全な回復にはしばしば1~2週間を要する。しかしながら,インフルエンザとインフルエンザ関連肺炎は高リスク患者における罹病または死亡の重要な原因となっている。これらの患者には抗ウイルス治療を迅速に施すことで,下気道疾患および入院の発生を低下させることができる。適切な抗菌治療により,二次性の細菌性肺炎による死亡率が低下する。
全体として,致死率は低い(例,1%未満)ものの,発生率が高いため死亡者の総数は相当のものとなる可能性がある。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)は,2010年から2020年までの米国における季節性インフルエンザによる入院件数を年間140,000~710,000件,死亡例数を年間12,000~52,000例と推定している(1)。入院率および死亡率は65歳以上の患者で最も高い。典型的な季節性インフルエンザ流行時には,死亡例の約80%が65歳以上の患者で発生すると推定されているが,2009年のH1N1パンデミックの最初の12カ月間には,H1N1関連死の80%が65歳未満の患者で発生したと推定された(2, 3)。
予後に関する参考文献
1.CDC: Disease Burden of Flu.Accessed 04/13/2022.
2.Dawood FS, Iuliano AD, Reed C, et al: Estimated global mortality associated with the first 12 months of 2009 pandemic influenza A H1N1 virus circulation: A modelling study.Lancet Infect Dis12 (9):687–695, 2012.doi: 10.1016/S1473-3099(12)70121-4
3.CDC:2009 H1N1 Pandemic (H1N1pdm09 virus).Accessed 04/13/2022.
インフルエンザの治療
対症療法
ときに抗ウイルス薬
大半のインフルエンザ患者に対し,安静,水分補給,および必要に応じた解熱薬投与などの対症療法を行うが,18歳未満の患者ではアスピリンの使用を避ける。細菌感染症の併発には適切な抗菌薬が必要である。
インフルエンザ治療薬
発症後1~2日以内に抗ウイルス薬を投与すると,発熱期間,症状の重症度,および正常の活動に戻るまでの時間が減少する。抗ウイルス薬による治療は,インフルエンザ様症状を発症している高リスク患者(全ての入院患者を含む)に推奨される;これは早期治療がこれらの患者の合併症を予防しうることを示唆するデータに基づいて推奨されている。
インフルエンザ治療薬としては以下のものがある:
オセルタミビル,ザナミビル,およびペラミビル(ノイラミニダーゼ阻害薬)
バロキサビル(エンドヌクレアーゼ阻害薬)
ノイラミニダーゼ阻害薬は,感染細胞からのインフルエンザウイルスの放出を妨げることにより,ウイルスの拡散を阻害する。
エンドヌクレアーゼ阻害薬のバロキサビルは,ウイルスRNAの転写を阻害することにより,ウイルスの複製を妨げる。A型およびB型インフルエンザに対して活性があり,ノイラミニダーゼ阻害薬への耐性が発生した場合に,重要な新規の治療選択肢となる可能性がある。
ザナミビルは,吸入器を用いて2パフ(10mg)を1日2回投与するが,成人と7歳以上の小児に使用できる。ザナミビルはときに気管支攣縮を引き起こすため,反応性気道疾患のある患者に使用すべきではなく,また,吸入器を使用できない患者もいる。
オセルタミビルは,12歳以上の患者には75mgを1日2回経口投与するが,1歳前後の小児には減量して投与してもよい。オセルタミビルは,ときに悪心および嘔吐を引き起こす。小児では,オセルタミビルが中耳炎の発生率を抑えうる;しかしながら,インフルエンザの治療により合併症を予防できることを明確に示すデータはこのほかに存在しない。
ペラミビルは,静注で単回投与する薬剤であり,経口薬や吸入薬に耐えられない2歳以上の患者に使用できる。B型インフルエンザに対するこの薬剤の使用を検討した研究は少ない。
バロキサビルは,12歳以上の体重40~80kgの患者には40mgを経口で単回投与し,体重80kg以上の患者には80mgを経口で単回投与する。発症後48時間以内で,他の点では健康で合併症の発生リスクが高い12歳以上の合併症のないインフルエンザ患者に使用することができる(1, 2)。
アダマンタン系薬剤(アマンタジンおよびリマンタジン[rimantadine])は,かつて使用されていたが,現在および近年流行しているインフルエンザウイルスの99%以上がアダマンタン系薬剤に対する耐性を獲得しているため,現在では治療目的の使用は推奨されていない。アダマンタン系薬剤は,M2イオンチャネルを遮断することで,細胞内でのウイルス脱殻を妨げる。これらの薬剤はA型インフルエンザウイルスのみに効果的である(B型インフルエンザウイルスにはM2タンパク質がない)。
治療に関する参考文献
1.Hayden FG, Sugaya N, Hirotsu N, et al: Baloxavir marboxil for uncomplicated influenza in adults and adolescents.N Engl J Med 379:913-923, 2018.doi:10.1056/NEJMoa1716197
2.Ison MG, Portsmouth S, Yoshida Y, et al: Early treatment with baloxavir marboxil in high-risk adolescent and adult outpatients with uncomplicated influenza (CAPSTONE-2): a randomised, placebo-controlled, phase 3 trial.Lancet Infect Dis 20(10):1204-1214, 2020.doi: 10.1016/S1473-3099(20)30004-9.Epub 2020 Jun 8.PMID: 32526195.
インフルエンザの予防
インフルエンザ感染は以下の対策により大部分は予防できる:
年に1回の予防接種
ときに化学予防(すなわち,抗ウイルス薬による)
現在販売されているインフルエンザワクチンは,季節性となっているA型のH3N2およびパンデミックH1N1インフルエンザとB型インフルエンザに対して予防効果がある。H5N1鳥インフルエンザのワクチンは,H5N1への曝露リスクが高い18歳以上の個人を対象として承認されているが,公衆衛生当局を介してでなければ入手できない。現在,ヒトの疾患に関与することはめったにない他の鳥インフルエンザウイルス(H7N7,H9N2,H7N3,およびH7N9)に対するワクチンはない。
予防は全ての患者に対して適応となるが,高リスク患者および医療従事者では特に重要である。
インフルエンザワクチン
インフルエンザワクチンは毎年,世界保健機関(World Health Organization)および米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)の勧告に基づき,最も流行しているウイルス株(通常はA型インフルエンザの2株とB型インフルエンザの1~2株)がカバーされるように変更されている。ときに,北半球と南半球で若干異なるワクチンが使用されることもある。(インフルエンザワクチンも参照のこと。)
地域社会の流行株と同じHAおよびNAがワクチンに含まれていると,予防接種により健康な成人の感染が70~90%減少する。施設入所している高齢者では,ワクチンの予防効果はより低いが肺炎および死亡の割合が60~80%減少する。65歳以上の成人には高用量のワクチンの処方が推奨される。
ワクチンにより誘導される免疫の強さは,抗原連続変異により低下し,抗原不連続変異が発生すれば消失する。
次の2種類のインフルエンザワクチンがある:
不活化インフルエンザワクチン(IIV)
弱毒生インフルエンザワクチン(LAIV)
IIVは筋肉内注射により投与される。米国ではB型のウイルス株もカバーする4価ワクチンが優勢となったため,3価ワクチンはあまり使用されなくなった。65歳以上の患者には,高用量の4価ワクチンも使用可能である。
有害作用は注射部位に生じる軽度の疼痛に限られるのが通常で,その痛みも数日で軽快する。発熱,筋肉痛,および全身的な影響はまれである。複数回使用バイアルの製剤には,水銀系防腐剤のチメロサールが含まれている。チメロサールと自閉症の関連を疑った社会的懸念には根拠がないということが証明されているが,チメロサールを含有しない単回使用バイアルの製剤が使用可能になっている。
LAIVは両方の鼻孔から1回0.1mLずつ(計0.2mL)経鼻投与する。2~49歳の健常者に使用できる。このワクチンは以下の人には推奨されない:
高リスク患者
妊婦
重度の免疫不全患者(例,造血幹細胞移植を受けた患者)と家庭内で接触する者
アスピリンの長期投与を受けている小児
また,このワクチンは,インフルエンザの薬物治療を中止後48時間経過するまで投与すべきではない。
このワクチンに伴う有害作用は軽度であり,鼻漏が最も多く,軽度の喘鳴がみられることがある。LAIVは5歳未満の反応性気道疾患(例,喘息診断,喘鳴の再発または最近の発症)を有する小児に投与すべきではない。
ワクチンのH1N1成分に十分な有効性が認められなかったため,LAIVは2016~2017年および2017~2018年のインフルエンザシーズンにはいずれの集団にも推奨されなかった。しかし,LAIVワクチンは処方が変更されており,Centers for Disease Control and PreventionのAdvisory Committee on Immunization Practices(ACIP)とAmerican Academy of Pediatrics(AAP)の両者が許容可能なワクチンとして再認定した。
予防接種を受けたことのない8歳未満の小児には,いずれのワクチンの場合も,1カ月の間隔を置いて初回接種と追加接種を行うべきである。
今シーズンのインフルエンザワクチンを網羅したリストは米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)から公開されている。
予防接種の推奨
禁忌のない6カ月以上の全ての人に対し毎年の予防接種が推奨される。
インフルエンザワクチンを毎年受けることで抗体価を維持し,修正されたワクチンにより抗原連続変異に対応できるようになる。冬のインフルエンザの季節(米国においては11月から3月の間)に抗体価が高くなるように,ワクチンは秋に投与するのが最も望ましい。
インフルエンザワクチンは,COVID-19ワクチンと同時に接種することができる。
以下の人では予防接種(IIVおよびLAIVの両方)を回避すべきである:
以前にインフルエンザワクチンに対する重度の反応を経験した
前回のインフルエンザワクチン接種から6週間以内にギラン-バレー症候群(GBS)を発症した(以前にインフルエンザワクチンの接種とは関連がないGBSを発症した患者において,インフルエンザワクチンの接種がGBSの再発リスクを増加させるかは判明していない)
原因にかかわらず,過去6週間以内にGBSを発症した
生後6カ月未満である
いずれのインフルエンザワクチンも,卵アレルギーの既往のある患者に接種できるが,以前にインフルエンザワクチンを接種して重度のアレルギー反応を起こした患者は例外であり,このような患者は予防接種の禁忌である。ただの蕁麻疹よりも重度のアレルギー反応(例,血管性浮腫,呼吸窮迫,繰り返す嘔吐)を起こしたことのある患者は,重度のアレルギー反応を認識して管理することができる臨床医の監督下に限り,入院または外来でワクチン接種を受けることができる。また,卵の成分を含有しないワクチン(成人には組換えIIVおよび4歳以上には細胞培養IIV)も利用できる。
抗ウイルス薬
予防接種がより望ましい予防方法ではあるが,抗ウイルス薬も効果的である。
流行時には患者に抗ウイルス薬の曝露前予防投与が検討されることがある。
過去2週間以内に予防接種を受けたばかりの患者
ワクチン接種の禁忌がある患者
易感染状態にあるため,ワクチン接種に反応しない可能性のある患者
抗ウイルス薬は不活化ワクチンによる免疫力の発達を妨げない。これらの薬剤はワクチン接種の2週間後に中止できる。ワクチンが投与できない場合は,抗ウイルス薬が流行期間中続けられる。
抗ウイルス薬の曝露後予防投与は,典型的には閉鎖環境(例,介護施設,病棟)で症例のクラスターが発生した際に,曝露した可能性がある人々に対して適応となる。こうした薬剤使用は,家庭内接触者やインフルエンザの合併症発生リスクが高いその他の曝露者にも行われることがある。耐性パターンにより投与すべき薬剤が変わる可能性があるが,通常,オセルタミビル75mgが1日1回投与される。
要点
Hおよび/またはNA抗原の軽度の抗原連続変異は,季節性の流行を引き起こすウイルス株を発生させる;HとNA抗原の新しい組合せを生み出すまれな抗原不連続異変は,高い死亡率を伴うパンデミックを引き起こすことがある。
インフルエンザ自体が肺炎を引き起こす可能性もあれば,インフルエンザ患者に二次性の細菌性肺炎が発生することもある。
診断は通常臨床的に行うが,感度および特異度が高いRT-PCR検査を用いることで,インフルエンザの型および亜型を識別できるため,これが抗ウイルス療法の選択に役立つ上,呼吸器疾患のアウトブレイクがインフルエンザに起因するかどうかを特定するのにも有用である。
大半の患者は対症的に治療する。
抗ウイルス薬を早期に投与すると,症状の持続期間および重症度をわずかに減少させられるが,一般的に高リスク患者にのみ使用される;インフルエンザの型および亜型によってそれぞれの薬物に対する耐性が異なる。
ワクチンは生後6カ月以上で禁忌のない全ての人に年1回接種する;易感染性患者(ワクチン接種に反応しない可能性がある)とワクチン接種の禁忌がある患者の予防には抗ウイルス薬を使用できる。