肝吸虫症は,肝臓に寄生する吸虫である,肝吸虫(Clonorchis sinensis)による感染症である。通常は,加熱調理が不十分な淡水魚を摂取することで感染する。大半の感染は無症状であるが,そうでない場合には右上腹部痛,消化不良,疲労,下痢などがみられる。診断は便中または十二指腸内容物中に虫卵を同定することによる。治療はプラジカンテルまたはアルベンダゾールによる。
吸虫は種によって様々な部位(例,血管,消化管,肺,肝臓)に寄生する扁形動物である。
肝吸虫(Clonorchis)は,東アジア(中国,韓国,ベトナム北部,台湾,およびロシア南部)で流行しており,他の地域でも移民や流行地域からの魚またはときにエビを生または加熱調理が不十分な状態で摂食している人に感染が起こる。肝吸虫(C. sinensis)の感染者数は増加しており,1990年代には推定700万人であったのが,2010年代には世界全体で1500万~2000万人まで増えている(1, 2)。
世界保健機関(World Health Organization :WHO)および米国疾病予防管理センター(Center for Disease Control and Prevention:CDC)の肝吸虫症に関する健康情報も参照のこと。
参考文献
1.Fürst T, Keiser J, Utzinger J: Global burden of human food-borne trematodiasis: a systematic review and meta-analysis. Lancet Infect Dis 12(3):210-221, 2012.doi:10.1016/S1473-3099(11)70294-8
2.Tang ZL, Huang Y, Yu XB: Current status and perspectives of Clonorchis sinensis and clonorchiasis: epidemiology, pathogenesis, omics, prevention and control. Infect Dis Poverty 5(1):71, 2016.Published 2016 Jul 6.doi:10.1186/s40249-016-0166-1
肝吸虫症の病態生理
Image from the Centers for Disease Control and Prevention, Global Health, Division of Parasitic Diseases and Malaria.
肝吸虫(C. sinensis)の成虫はヒトの胆管内に生息する。虫卵は便中に排出されて巻貝に摂取される。感染した巻貝から放出されたセルカリア(自由遊泳性の幼虫)が様々な淡水魚および淡水エビに感染する。ヒトは被嚢化したメタセルカリア(休止期または成熟期)を含む魚やまれに淡水エビを生,加熱調理不十分,乾燥,塩漬け,または酢漬けの状態で摂食することにより感染する。メタセルカリアは十二指腸で脱嚢後,ファーター膨大部を通って総胆管に侵入し,より細い肝内胆管(ときに胆嚢管および膵管)へ移行し,そこで成熟して約1カ月で成虫となる。成虫は25年以上生息することがあり,最大で体長約10~25mm,体幅3~5mmまで成長する。例えば,ベトナム戦争に従軍した米国退役軍人の一部に戦争終結から50年後に検査を行った研究では,肝吸虫への曝露を示す血清学的所見が認められたが,便検査で肝吸虫の寄生が検出された退役軍人はいなかった(1)。
病態生理に関する参考文献
1.Psevdos G, Ford FM, Hong S-T: Screening US Vietnam veterans for liver fluke exposure 5 decades after the end of the war.Infectious Diseases in Clinical Practice 26(4):208–210, 2018.doi: 10.1097/IPC.0000000000000611
肝吸虫症の症状と徴候
少数寄生は通常は無症状である;典型的には感染虫体数が多く,感染期間が長い患者で症状が出現する。急性期には,感染量が多いと,発熱,悪寒,心窩部痛,圧痛を伴う肝腫大,軽度の黄疸,および好酸球増多が起こりうる。後に下痢が生じることがある。症状は通常,2~4週間にわたり持続する。
多数寄生で生じる慢性胆管炎から,肝実質の萎縮,および門脈線維症に進行することがある。多量の吸虫が胆道系を閉塞すると,黄疸が生じうる。
その他の合併症としては,化膿性胆管炎,胆石症,膵炎などのほか,経過後期の胆管癌(1)がある。胆管癌を発症したベトナム帰還兵は,東南アジアでの勤務中に肝吸虫(Clonorchis sinensis)またはタイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini)に感染した可能性がある(2)。東南アジアの一部地域では胆管癌のリスクが高く,40~65歳の男性で死亡率が高くなっている。
症状と徴候に関する参考文献
1.Xia J, Jiang SC, Peng HJ: Association between liver fluke infection and hepatobiliary pathological changes: A systematic review and meta-analysis.PLoS One 10 (7):e0132673, 2015.doi: 10.1371/journal.pone.0132673
2.Psevdos G, Ford FM, Hong S-T: Screening US Vietnam veterans for liver fluke exposure 5 decades after the end of the war.Infectious Diseases in Clinical Practice 26(4):208–210, 2018.doi: 10.1097/IPC.0000000000000611
肝吸虫症の診断
便の鏡検
肝吸虫症の診断は,便中または十二指腸内容物中から虫卵を検出することによる。典型的には,感染後わずか3~4週間で便中に虫卵が検出されるようになる。虫卵はOpisthorchis属のものとの鑑別が困難である。胆道閉塞時には便中に虫卵を検出できない。ときに,手術標本中に吸虫の成虫が同定されることで,あるいは経皮経肝胆道造影を施行することによって診断が確定する。
他の検査では診断に至らないが,異常を認めることがあり,アルカリホスファターゼおよびビリルビンが高値になることがある。循環血中の好酸球数および血清IgEの高値もよくみられる。好酸球増多で肝吸虫感染症を急性ウイルス性肝炎と鑑別することができる。
腹部単純X線でときに肝内石灰化を認める。肝臓の超音波検査,CT,MRI,内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP),または胆道造影で,不規則な胆管および瘢痕化の所見を認めることがある。
流行地域の高リスク患者(男性,50歳以上)を対象とした胆管周囲の線維化に対する超音波スクリーニングにより,胆管癌の早期発見とそれによる生存率の改善が可能となる(1)。
診断に関する参考文献
1.Chamadol N, Khuntikeo N, Thinkhamrop B, et al: Association between periductal fibrosis and bile duct dilatation among a population at high risk of cholangiocarcinoma: a cross-sectional study of cholangiocarcinoma screening in Northeast Thailand [published correction appears in BMJ Open 9(5):e023217corr1, 2019]. BMJ Open 9(3):e023217, 2019.Published 2019 Mar 20.doi:10.1136/bmjopen-2018-023217
肝吸虫症の治療
プラジカンテルまたはアルベンダゾール
肝吸虫症の治療は以下のいずれかによる:
プラジカンテル25mg/kg,経口,1日3回,2日間
アルベンダゾール10mg/kg,経口,1日1回,7日間
胆道閉塞に対して手術が必要になる場合もある。
予防としては,流行地域で捕れた淡水魚および淡水エビは完全に加熱調理するとともに,生,酢漬け,ワイン漬けの状態で摂取しないようにする。流行地域では,プラジカンテルによる集団治療で肝吸虫症の疾病負担が軽減された(1)。感染者の家族には,便の鏡検と好酸球増多を検出するための血算による感染症の評価を行うべきである。
治療に関する参考文献
1.Choi MH, Park SK, Li Z, et al: Effect of control strategies on prevalence, incidence and re-infection of clonorchiasis in endemic areas of China. PLoS Negl Trop Dis 4(2):e601, 2010.doi:10.1371/journal.pntd.0000601