生理的pHおよび生理的緩衝物質の概要

生理的pH(「pH」は「水素の力」を表す)は,体内の酸と塩基のバランスを定量化する方法です。pHは水素イオンの濃度に依存し,次の式で表すことができます:pH =log[H+]。

ヒトの組織や器官中の細胞や酵素は,水素イオンの濃度が40 x 10^-9Eq/L,すなわち40nEq/Lのときに最もよく働きます。この数値に小さな変化が起こるだけで重大な影響が生じますが,このような小さな数値を扱うのは煩雑であるため,この濃度を対数関数に変換してpHとして表しています。この場合,水素イオン濃度40 × 10^-9Eq/LはpH7.4と表すことができます。この対数関数を使用する際には,2つの重要な点を覚えておく必要があります。第一に,対数の前には負の符号があるため,水素濃度が増加するにつれてpHは低下します。第二に,対数関数であるため,pHと水素イオン濃度は直線関係にありません。例えば,pHが7.4から7.6に上昇することは,水素濃度が15nEq/L減少することを意味します。それに対して,pHが7.4から7.2に低下することは,水素濃度が23nEq/L増加することを意味します。水素イオン濃度とpHの関係を示すグラフが直線ではなく曲線になっているのはこのためです。簡単に言うと,体のpHが7.4未満に低下するとアシデミアとみなされ,7.4を超えるとアルカレミアとみなされます。この対数関係のために,pH < 7.4の酸性領域でのpHの変化は,pH > 7.4のアルカリ性領域で同じ変化が起こった場合に比べて,大きな水素濃度の変化を表します。

pHを7.37~7.42に維持することは,人体にとって極めて重要です。これができるのは,緩衝物質のおかげです。日常用語での「緩衝」とは,保護用のクッションや盾のような役割を果たすものを意味しますが,生理的緩衝物質についても同様で,生理的緩衝物質とはpHの急激な上昇または低下を防ぐものを意味します。生体が緩衝物質を必要とする理由は,酸(すなわち水素イオンを容易に放出する分子)が常に生体によって生成されているためです。これらの余分な水素イオンはpHを酸性領域にシフトさせるので,身体には全体のpHを大きく変化させることなくこれらの水素イオンを処理する方法が必要になります。その役割を担うのが緩衝物質で,緩衝物質にはこれらの余分な水素イオンを取り込む能力が備わっており,それによりpHの過度の低下が防止されています。緩衝物質は通常,弱酸とその共役塩基,または弱塩基とその共役酸です。

体内で最も重要な緩衝物質は,弱酸性の炭酸(H2CO3)とその共役塩基である重炭酸イオン(HCO3-)です。炭酸は,炭酸脱水酵素という酵素の助けを借りて二酸化炭素が水と結合することで生成されます。弱酸である炭酸(H2CO3)は容易に水素イオン(H+)と重炭酸イオン(HCO3-)に解離します。当然,これらの反応は可逆的で,逆方向にも起こり得ます。

炭酸は実は非常に弱い酸であるため,水素イオン濃度が低くなると,水素イオンが放出され,方程式は右に移動し,重炭酸イオンと水素イオンの生成が増大します。一方,周囲に水素イオンが多く存在する場合,重炭酸イオンはその1つに結合して炭酸となり,炭酸は方程式を反対方向に進んで水と二酸化炭素になります。二酸化炭素は肺から吐き出すことができます。

正常量のH+イオンを含み,pHが正常な生理的範囲内にある細胞外液を想像してみましょう。そこに強塩基である水酸化ナトリウム(NaOH)をいくらか加えます。強塩基であるとは,水酸化ナトリウムが水中でナトリウムイオン(Na+)と水酸化物イオン(OH-)に完全に解離することを意味します。水酸化物イオン(OH-)が水素イオン(H+)と結合して水を生成し,その結果,液体はより塩基側に傾きますが,これは水素イオン(H+)が減少することでpHが大幅に上昇するためです。しかし,周囲に大量のCO2がある場合には,CO2は水と反応してさらなる炭酸(H2CO3)を生成し,炭酸は重炭酸イオンと水素イオンに解離して,水素イオン(H+)を急速に補充するため,pHは緩衝されて正常範囲に保たれます。

反対に,HClを液体に投入する場合を想像してみましょう。塩酸は強酸であり,完全に解離して水素イオン(H+)とたくさんの塩化物イオン(Cl-)になるはずです。緩衝物質がないと,H+が増えてpHが低下し,細胞外液は酸性になります。しかし新たに生じた水素イオン(H+)は,重炭酸イオン(HCO3-)に直ちに捕捉され,炭酸(H2CO3)に変換された後,二酸化炭素(CO2)とH2Oに解離します。ここでも,この緩衝物質によりpHが正常化されます。

幸いにも,炭酸は体内に豊富に存在する二酸化炭素(CO2)とH2Oから生成されるため,炭酸の供給はふんだんにあります。最後の重要な点として,二酸化炭素(CO2)が多すぎる場合は肺から排出され,重炭酸イオン(HCO3-)が多すぎる場合は腎臓から排出されます。

重炭酸による緩衝系とは別に,リン酸による緩衝系もあります。これも,弱酸性のリン酸二水素イオン(H2PO4-)とその共役塩基であるリン酸水素イオン(HPO42-)から成ります。リン酸二水素イオンは2つの水素をもっており,いつでもそのうちの1つを放出して,水素が1つのリン酸水素イオンHPO42-に変換されることができます。

さて,細胞外液(特に血漿)もまたアルブミンのようなタンパク質で満ちており,これらのタンパク質はもう1つの非常に重要な緩衝系として働きます。というのも,タンパク質を構成するアミノ酸の中には表面にカルボキシル基(-COOH)をもつものがあり,これが弱酸として作用し,pHが上昇し始めると水素イオン(H+)を放出できるほか,また別のアミノ酸は表面にアミン基(NH2)をもち,これが弱塩基として作用し,水素イオンに結合してpHの低下を阻止するからです。

言い換えると,1分子のタンパク質が,pHの変化に応じて酸としても塩基としても機能できるということです。しかし,重炭酸による緩衝系とは異なり,ヒトの血漿中には限られた数のタンパク質しか存在しないため,その緩衝能には限界があります。

ここまでは細胞外液について検討してきましたが,細胞内でもpHの均衡を維持する必要があります。細胞はタンパク質で満ちていますが,これらは細胞内で最も重要な緩衝物質です。その一例が赤血球内のヘモグロビンです。ヘモグロビンは,水素イオン(H+)(ヘモグロビン自体と結合する)またはO2(ヘム基の鉄と結合する)のいずれかに可逆的に結合することができ,興味深いことに,これらのうちの一方が結合すると,他方は放出されます。ここで,赤血球が様々な組織の毛細血管にあるとき,O2濃度は低く,CO2濃度は高くなっています。CO2は赤血球内に拡散し,そこで炭酸脱水酵素がH2OとCO2を結合させて炭酸(H2CO3)を生成し,これがH+とHCO3-に解離します。周囲には大量のCO2が存在するため,反応はH+とHCO3-が増える方向に進み,やがて水素イオンが蓄積することでpHが低下する可能性があります。水素イオン濃度の急激な上昇を防ぐため,脱酸素化されたヘモグロビンはそれぞれ水素イオンと結合します。一方,重炭酸イオン(HCO3-)は,塩化物イオン(Cl-)と交換されて血漿中に移動します。この交換は塩素移動(クロライドシフト)と呼ばれ,これにより正電荷と負電荷の均衡が保たれます。

一方,赤血球が肺の毛細血管に入ると,そこでは二酸化炭素濃度が低くO2濃度が高いので,このプロセスは逆になります。酸素はヘモグロビンに結合し,水素イオン(H+)が放出されます。重炭酸イオンは再び赤血球に入り,水素イオンと結合して炭酸を形成し,炭酸はH2OとCO2に解離し,CO2は肺から吐き出されます。

細胞内液にはATPやグルコース-6-リン酸のような大量の有機リン酸も含まれており,これらも細胞内の緩衝物質として働きます。これらの有機分子のリン酸基は,過剰な水素イオン(H+)の供給源または吸収源として働きます。

以上のように,pHの生理的範囲は7.37~7.42です。身体は緩衝系を利用してpHをこの範囲内に維持しています。緩衝物質は,弱酸とその共役塩基または弱塩基とその共役酸のペアであり,これらの体内での生理的役割はpHの変化に抵抗することです。細胞外液の最も重要な緩衝物質は重炭酸,リン酸,および血漿タンパク質であり,細胞内の最も重要な緩衝物質はヘモグロビンのようなタンパク質とATPのような有機リン酸です。

Physiologic pH and Buffers (Acid-Base Physiology) (https://www.youtube.com/watch?v=6EnIPG3WRRo&index=9&list=PLY33uf2n4e6PT53f0Z5LmFHo7Vb0ljn5b) by Osmosis (https://open.osmosis.org/) is licensed under CC-BY-SA 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/).

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