ライム病の概要

ライム病は世界中にみられる感染症です。米国では,大半の症例がBorrelia burgdorferiという細菌によって引き起こされています。この細菌の近縁種であるBorrelia gariniiBorrelia afzeliiは,欧州とアジアでライム病を引き起こしています。さらに新しい細菌の発見が現在も続いています。実際,2015年にはMayo Clinicの研究者がライム病を引き起こす新たな細菌株を発見して,Borrelia mayoniiと命名することにしました。

これらのBorrelia属細菌(ボレリア)は,いずれもスピロヘータの一種ですが,このことは,これらの細菌が他の細菌とは異なり,細長いらせん状の形状をしていて,回転したりねじれたりすることで動き回るということを意味します。

ライム病は人獣共通感染症に分類されていますが,この事実は,ライム病が自然の病原体保有生物として存在する動物からヒトに伝播することを意味し,病原体保有生物とは,典型的にはその動物では重篤な疾患が発生しないということを意味します。ボレリアはまた,ネズミ,トカゲ,鳥などの小動物を含む幅広い動物に感染することができます。

この細菌が動物からヒトに直接伝播した事例の報告はなく,動物からヒトに伝播するには,その過程を媒介する何らかの中間生物(すなわち媒介生物)が必要と考えられています。

媒介生物は地域によって異なります。例えば,米国の北東部では,一般的にはシカダニとして知られているIxodes scapularisというマダニを介して伝播します。一方,北米大陸西部とユーラシア大陸においては,ヒツジマダニ,シュルツェマダニ,western black-legged tickなど,マダニ(Ixodes)属の他種のマダニがライム病のボレリアを伝播しています。

マダニが生きていくには血液が必要です。その血液は,マダニ自身で作り出せるものではありません。蚊やヒル,吸血鬼などの好ましくない生物と同様に,マダニもまた宿主から血液を吸い取る必要があるのです。文字通り血を吸うわけですから,血液感染する疾患を広める生物になりうるのは明らかです。また,マダニは生きていく上で幼虫,若虫,成虫という段階を経ていく必要があります。これはヒトの小児,青年,成人とあまり変わりません。

幼虫期のシカダニはより小さな動物を好むため,その幼虫はネズミのような動物から吸血している間に細菌を獲得する可能性が最も高いです。シカダニの幼虫は若虫期に脱皮した後,より広範囲の動物から吸血するようになりますが,このことは,幼虫が獲得した細菌が新たな病原体保有生物に伝播される可能性があることを意味します。再び脱皮して成虫になると,大半がシカから吸血するようになりますが,実際のところ,シカはボレリアにとって最良の宿主ではありません。つまり,シカダニは成虫より幼虫と若虫の方がボレリアをより適した宿主に伝播するため,この細菌にとっては,これら2つの段階が非常に重要ということになります。

若虫期と成虫期のどちらのシカダニも,好ましい対象ではないものの,何も知らない人間から吸血することがあります。マダニに咬まれた経験がある人なら,おそらくは,咬まれたときはまず付着しているマダニを取り除きたいと考えることでしょう。シカダニ(特に若虫期のシカダニ)の厄介な点は,あまりの小ささゆえに気づかない場合があるということです。そうなると,マダニは長時間にわたり吸血することができ,感染症の伝播を許すことになります。ボレリアは吸血時にマダニの唾液を介して伝播されますが,マダニの腸管から唾液を介してヒトの体内に移行するまでには,典型的にはマダニが36~48時間付着している必要があります。

ボレリアがヒトに感染すると,3つの段階を経ながら疾患を引き起こします。ライム病の限局期は,通常は最初の感染から数日から数週間後に相当します。菌がその最初の感染部位から拡大するにつれて,発赤と炎症も広がっていきます。ときに,最初の刺咬部位と発疹の外縁の間の部分から菌が排除されることで,ライム病早期の古典的徴候である牛眼状の発疹(遊走性紅斑としても知られます)が形成されることがあります。さらに,この段階では漠然としたインフルエンザ様症状がみられることもあります。

次の段階は播種期と呼ばれ,通常は数週間から数カ月後に,細菌が血流を介して心臓,脳,関節などに広がり始めます。一般に,これらの様々な組織に実際に侵入する細菌は比較的少数ですが,その免疫反応は通常かなり重度になり,それらの組織は戦場と化し,細菌を死滅させるための反応によって組織が損傷していきます。

ほかのパターンの遊走性紅斑は,最初の刺咬とは無関係の部位に突然出現します。この場合,ライム病は真に重篤となる可能性があります。この細菌が心臓組織に感染すると,心炎という状態になります。心臓組織の炎症はあらゆる心機能に影響を及ぼす可能性がありますが,それは臨床的には房室ブロックとして生じることが多く,その場合は,心臓の上側から下側に向かう電気信号の伝達が妨げられることで,心拍のタイミングが変化してしまいます。

ライム病はまた,顔面筋を支配する神経の周辺に腫脹を引き起こすことも知られており,それにより顔面筋を絞扼して顔面神経麻痺を引き起こし,その場合は顔面筋の筋力低下や麻痺が起こり,笑ったり眼を閉じたりするのが難しくなることがあります。ライム病では,こうした状態がしばしば顔面の両側にみられます。

病態が関節に波及すると,膝関節,手関節,および足関節で関節炎が生じることがあります。ライム病は脳の髄膜にも広がることがあり,その場合は髄膜炎のほか,ときに重度の項部硬直や頭痛もみられます。

当然のことながら,全身の様々な部位の炎症によって発熱,疲労,その他のインフルエンザ様症状が生じる可能性もあり,これは限局期にみられるものとよく似ています。

ライム病が進行して(一般的には感染から1年が経過するまでに)晩期になると,単一または数個の関節の慢性関節炎が主な症状になり,特に膝関節がよく侵されます。

ライム病の診断は通常,ボレリアのタンパク質に対する抗体を調べることで下されます。ここで厄介になるのは,ときに抗体の交差反応がみられることです。つまり,腸管内に生息する正常な細菌に対して作られた抗体が,構造の似ているボレリアのタンパク質と交差反応を起こすことがあるのです。

実際にボレリアに感染している人と感染していない人を見分けるために,より特異的な診断を可能にし,偽陽性の判定を排除するのに必要な抗体の種類の数を定めた基準が設けられています。

ライム病の治療では抗菌薬が第1選択の治療法であり,早期のうちに投与すれば,原因菌の根絶に大きな効果が得られますが,どの抗菌薬を投与するかは多くの場合,病期や患者の年齢などに依存します。

抗菌薬による治療を受けている患者はヤーリッシュ-ヘルクスハイマー反応を起こす可能性があるため,モニタリングも重要で,この反応では,スピロヘータが破壊されて一度に多くの抗原が放出されることにより,極めて強い免疫原性が生じ,それに対する反応として発熱,発汗,および筋肉痛が生じます。

最終的に,患者がライム病の治療を受ければ,非常に良好な経過をたどります。数週間から数カ月間にわたって疲労,筋肉痛,関節痛などの症状が持続する場合がありますが,それらの症状はいずれ消失し,Borrelia属細菌が体内に残り続けることとは実際には無関係です。実際,この細菌が治療後も体内で慢性的に残り続けることを示す証拠はなく,ライム病の治療として抗菌薬やその他の薬剤を長期にわたり使用する理由もありません。

予防の点では,雑木林や落ち葉や背の高い草のある場所で作業や探検をする人が,シカダニに咬まれてライム病に感染するリスクが最も高くなります。とはいえ,帽子や長袖のシャツを着用したり,マダニによるライム病の伝播が知られている地域では虫除けスプレーを使用したりするなど,予防措置を講じることが全ての人にとって重要です。

Lyme Disease (https://www.youtube.com/watch?v=rOQvpcpxbCs) by Osmosis (https://open.osmosis.org/) is licensed under CC-BY-SA 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/).

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